壱
自分が化け猫として、妖怪としてこの世に生まれたのは主人の巴蔵が亡くなってからだ。主人が亡くなってからどのくらいで化け猫になったのかは分からない。自分を化け猫としてこの世に誕生させてくれた十六夜夜神さんなら分かると思うが…。
「三毛、おいで」
昔、自分は三毛猫だった。なので、よく主人からは三毛と呼ばれていた。
「ほら、魚だよ」
主人はまだ若く、少年の面影を残した笑顔で僕を撫でた。「可愛いなぁ」
目を細めて主人は撫で続ける。優しい手付きで撫でられるのは気持ちよく、喉をゴロゴロと鳴らした。主人は頭から喉元へと手の位置を変えた。やっぱり気持ちよくて、また喉をゴロゴロと鳴らした。
「巴蔵さんは猫が好きね」
近所でも評判の美少女、茶姫が花のような可憐な微笑をして主人の元へやって来た。
「三毛は可愛いわね」
茶姫にも頭を撫でられる。女の人と男の人の手は違って、茶姫の手は柔らかくて主人とはまた別の気持ちよさがあった。喉がゴロゴロと鳴る。
「巴蔵さん、明日三毛も連れてお散歩しませんか?」
「いいね、行こう」
二人と一匹で散歩に行くのは大好き。
僕も「ニャー」と鳴くと、茶姫は笑って「明日、巴蔵さんと来てね」と言った。