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理系令嬢、没落公爵家を科学で救う  作者: 此花サギリ


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第54話 禁断の秘薬と策略の行方

王都の片隅、薄暗い路地にひっそりと佇むアイテムショップ。その看板には小さく「魔法道具・秘薬取り扱い」と書かれていた。キャサリン・フラン男爵令嬢は、普段の冷静な微笑みを崩さずに扉を押し開ける。


「……これで、王太子殿下の心も、少しは揺さぶれるかしら」


店内には数々の瓶や小箱が並んでおり、微かな光が棚の中で揺らめく。キャサリンは手早く棚を見渡し、目的の秘薬を探す。名前を見ただけで効果が分かるわけではないが、彼女は前世の知識と観察力を駆使し、目当ての“恋の秘薬”を見つけ出した。


「これね……ふふ、これで王太子殿下に、私の存在を強く意識させられるわ」


小さな瓶を手に取り、慎重に包み込む。側近たちはいないが、この作戦には十分な自信があった。王太子に差し入れをすることで、心理的に少しでも影響を与えられると考えたのだ。


だが、王太子の手元に届ける前に、キャサリンはあるリスクを完全には計算していなかった。宮廷に届けるには必ず王立鑑定局での鑑定を受ける必要がある。王太子に差し入れる前に、秘薬はすぐに鑑定に回されることとなった。


「……まさか、鑑定なんて……」


キャサリンの表情に、わずかに焦燥が浮かぶ。心理戦で心を操る自信はあったが、道具や薬の力に頼る戦略は、思わぬ障壁に直面する。


鑑定局で、王立の魔法士たちが秘薬の成分を解析する。キャサリンは微笑を浮かべながらも、心臓がわずかに早鐘を打つのを感じた。結果が出るまでの間、時間の流れが異様に長く感じられる。


「……お願い、うまくいって……」


しかし、結果はキャサリンの思惑とは真逆だった。鑑定士の一人が慎重に報告を口にする。


「この薬は、恋愛効果を持つと思われますが、依存性の強い成分を含んでいます。長期的に使用すると心身に悪影響を及ぼす危険性があります」


キャサリンの微笑みは一瞬で凍りつく。依存性のある薬だと判明した瞬間、彼女の戦略は脆くも崩れ去った。心理戦の道具として考えていた恋の秘薬が、逆に王太子の信頼や安全を脅かす危険物と化したのだ。


「……これは……まずい……」


心中で焦燥と苛立ちが渦巻く。キャサリンの計算では、王太子に微妙な心理的影響を与えつつ、側近たちをも間接的に揺さぶるはずだった。しかし、現実は逆だ。依存性のある薬を届ければ、宮廷内で問題視され、側近たちや王太子からの信頼を失う可能性が高い。


キャサリンは深呼吸をして冷静さを取り戻す。焦りで動けばすぐに弱みを見せることになる。学園や宮廷での心理戦の経験を思い出し、次の手を考える。


「……このままでは、私の計画は台無し……でも、引くわけにはいかない……」


彼女は策略家としての勘を研ぎ澄ます。心理戦を続けるには、薬に頼らず、直接の影響力や側近たちの心理を揺さぶるしかない。依存性のある薬の失敗は、逆に別の戦略のきっかけとして利用できるかもしれない、と頭を切り替える。


外の夕暮れがサロンに差し込む中、キャサリンは窓辺に立ち、王都の景色を見つめる。側近たちを奪い、王太子を揺さぶる計画は一度大きく揺らいだが、焦燥と苛立ちは、新たな戦略を生む火種でもあった。


「……次は、もっと巧妙に、もっと……絶対に負けない」


キャサリンの瞳に再び光が宿る。依存性のある秘薬に頼れないことは痛手だが、心理戦の本質は変わらない。王太子、マリアンヌ、そして学園全体――この舞台で、キャサリンは再び自らの策略を巡らせ、次なる行動を準備するのだった。



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