第3話 幼き令嬢の市場奮闘
城下町の市場は、春の朝の光に包まれ、活気であふれていた。七歳の私、マリアンヌ・フォン・ルーベルは、小さな籠に入れた発酵野菜を抱えて歩く。昨日の販売実験は成功し、少し自信をつけた。だが、今日の目標はより大きな成果――少しずつ市場での存在感を高め、家計を助けることだ。
「さあ、今日も頑張るぞ」
私は小さな声で自分を鼓舞し、販売台を整える。瓶詰めを丁寧に並べ、香りを確かめる。発酵は順調だ。味も改善点を少し修正したおかげで、昨日より美味しくなっている。
しかし、市場の商人たちは黙って見ているわけではなかった。昨日まで子供が売っていると馬鹿にしていた商人が、今日は競争相手として睨みをきかせている。
「子供が、商売なんて……」
小さな嘲笑が耳に届く。だが、私は負けない。前世知識と理論があれば、誰にも負けない自信がある。
まずは値段戦略だ。価格を少し下げつつも、利益率が確保できる計算をする。塩分や糖度、発酵期間の調整で品質を保ち、量産も視野に入れる。七歳ながら、私は冷静に数字と品質のバランスを計算する。
販売が始まると、子供ながらの声で呼びかける。
「発酵野菜、美味しいですよ! 日持ちするし、安全です!」
最初の客は、近所の主婦だった。少し不安そうに味見をすると、目を見開いた。
「……これは、美味しい……! 子供が作ったの?」
「はい! 私が考えて作りました!」
小さな成功に胸が躍る。しかし、油断は禁物だった。市場の中で、貴族の令嬢が私を見下ろしている。
「え、あの子がルーベル家の娘……?」
その令嬢は、豪華な服と宝石を身に着け、周囲に従者を連れていた。ゲーム内ではヒロインのライバルとして描かれる悪役令嬢――私はまだ七歳だが、すでに「悪役」の烙印を押されている。
令嬢は不敵な笑みを浮かべ、声をかけてきた。
「フフフ、こんな子供が商売を? しかも、ルーベル家の娘だなんて……没落しかけの家の子にしては大胆ね」
私は眉をひそめる。言葉は鋭いが、事実は変わらない。発酵野菜は売れているし、利益も出ている。
「家を助けるためにやっているの。悪い?」
「……ふふ、面白いじゃない。ちょっと見守ってあげるわ」
令嬢は去っていったが、その存在は私にプレッシャーを与えた。市場での信頼を得るには、貴族の視線も気にせねばならない。
その後、トラブルが起きた。隣の商人が私の瓶を指さし、声高に言い放つ。
「子供が高い値段で売ってるぞ! 規則違反だ!」
市場の規則では、子供だけでの商売は禁止されている。しかし、私は理屈で反論した。
「私が直接作り、責任を持って販売しています。売価も妥当です!」
商人たちは驚き、議論が巻き起こる。私は冷静に、発酵の知識と保存期間の安全性を説明する。商人たちは渋々納得したが、貴族令嬢の視線は変わらず厳しい。
「……こんな小さな子供が、家計を救うなんて」
私は心の中で笑う。前世知識と工夫があれば、たとえ七歳でも家を支えられるのだ。
市場での販売を終えた後、城に戻ると母が迎えてくれた。
「今日も無事に戻ったのね」
「うん、売れたよ! でも、ちょっとトラブルもあった」
私は事細かに状況を報告する。母は少し心配そうだが、私の成長を認める表情を隠せない。
夜、私はノートを広げて今日の出来事をまとめる。
•発酵条件の改善点
•市場での販売戦略
•貴族令嬢との軋轢
•商人とのトラブル対応
全てを記録し、次に生かすためだ。幼少期の小さな挑戦が、後の大きな成果につながる。私は確信していた。
「知識と工夫があれば、運命は変えられる」
幼い私の拳は、小さな決意でぎゅっと握られる。没落しかけの家を救い、悪役令嬢の烙印を乗り越える――そのために、今日も私は行動するのだ。
夜空を見上げ、星を数える。光る一点一つが、未来の希望のように思えた。
「絶対に、家も自分も守ってみせる……!」
そうして、幼きマリアンヌの市場奮闘の日々が静かに始まったのだった。




