デバイスダイバー3
古びたPCに潜り、亡き父の設計図を探す依頼。
だが待ち受けていたのは、黒いウイルスの罠だった。
感染しかけたアイボーを救うため、俺は決断する――。
ドキドキの潜行と、ちょっと笑えるラスト。
近未来SF短編シリーズ第3弾。
デバイスダイバー3 ―ウイルスの影―
「うわっ……通路が勝手に閉じていく!?」
黒い壁のようなデータが、目の前でざざざっと覆いかぶさってきた。
「ご主人! これはウイルスです!」
アイボーが慌てて警告アイコンを点滅させる。
「侵入者を飲み込むために擬態したファイルです!」
「ったく、よりによって亡くなった父親のPCにこんな仕掛けかよ……」
依頼は「父の設計図データを取り戻してほしい」というありふれた内容だった。
だが、潜ってみればこの有様だ。
黒い壁は液体のように揺れながら、じわじわと迫ってくる。
逃げ場は――ほとんどない。
「アイボー、解析できるか?」
「頑張ってますけど……あ、やばっ!」
次の瞬間、アイボーのディスプレイが真っ赤になり、顔アイコンがぐるぐる目に変わった。
「感染しました! 体が重いです〜!」
「おいおい、こんなときにポンコツ化するな!」
俺は叫びながら、壁の一部に指を突っ込む。感触は粘つく泥。引き抜けば手のひらに黒いコードがまとわりつき、皮膚感覚をざわざわと蝕んでくる。
「うぅ……ご主人、わたしのデータが削られていく……」
アイボーの声は弱々しい。
「まだ終わっちゃいねぇ」
俺は必死にコードを掴み、逆に壁へと叩きつけた。
黒い波が揺らぐ。だが、すぐに再生して迫ってくる。
「クソッ、埒があかねぇ!」
「ご主人、ちょっと……お願いが……」
アイボーが小さな声でつぶやいた。
「わたしのコアを、この壁に投げ込んでください」
「はぁ!? 自爆しろってのか!」
「そうしないと……このウイルスは消せません……」
俺は一瞬、息を呑んだ。
このポンコツを見捨てれば、俺だけは助かる。
だが……。
「冗談じゃねぇ」
俺はアイボーをぐっと抱き寄せ、逆にウイルスの中心へと突進した。
「お前を道連れにするくらいなら、一緒に切り抜ける!」
黒い渦の中、アイボーの目がぱっと青に変わった。
「ご主人……! 認証完了! 感染の鍵を逆利用します!」
渦の奥から、白い光が一筋走った。
アイボーの内部で再構築が始まり、黒いコードを逆に食らい尽くしていく。
「ウイルス、無力化完了ですっ!」
にっこり顔がぱっと浮かぶ。
壁は砂のように崩れ落ち、代わりに青白いフォルダが現れた。
中には、依頼人の父親が残した設計図データと……一枚の写真。
「……これは?」
そこに写っていたのは、父親と依頼人が肩を並べて笑っている姿だった。
まるで最期に「大事なのは仕事じゃなくてお前だ」と伝えているように。
依頼人にデータを渡すと、彼は目に涙を浮かべて深く頭を下げた。
「ありがとうございます……本当に……」
事務所を出るとき、アイボーが得意げに一回転した。
「ご主人、わたし役に立ちましたよね?」
「まあな。ポンコツのくせに、やるときはやる」
「えへへっ」
俺は思わず笑ってしまった。
今日も命懸けだったが、最後にこうして笑えるなら、それでいい。
「行くぞ、相棒」
「はいっ!」
――デバイスダイバーとアイボーの迷惑な仕事は、まだまだ続いていく。




