ツチノコ捕獲作戦
ある日の午後、僕は森の中を歩いていた。気晴らしに散歩していたつもりが、いつの間にか迷い込んでしまったようだ。
どうやら噂に聞くツチノコの神域とやらに足を踏み入れたらしい。耳にしたことはあったけど、まさか本当にこのような場所があるとは思ってもみなかった。
捕蛇に興味のなかった僕がどうやって帰ろうかと考えていたその時、背後から「待て、待てぇ!」という声が響いた。振り返ると、一人の女の子が駆け寄ってきて虫取り網を振り下ろしてきていた。
「ツチノコ確保ー!」
「待て待て! 僕はツチノコじゃない! 人間だ!」
「嘘! 太くて短くて大きいのに!」
「標準的な人間だよ! 誤解を招くような言い方をしないで!」
驚きと興奮を隠せない彼女を僕は必死に説得した。
「言われてみれば確かに人間に見えるかも……?」
「どこから見てもまごう事無き人間だよ! 君はツチノコを探してるのか?」
僕が訊くと、彼女はにっこり笑いながらうなずいた。
「もちろん! ここへ来た目的なんてそれしかないでしょ?」
「じゃあ、一緒に探そうか」
「そうね。ツチノコなんて簡単に捕まえられると思ってたんだけど、どうやら話はそんなに甘くないらしい。一緒に捕まえてこの町の英雄になりましょう!」
そうして、僕と彼女は一緒に森の奥へと歩みを進めた。
二人で道なき道を進み、しばらく経った頃、突然彼女が足を止めた。
「あっ! あそこにいるわ! 今度こそツチノコよ!」
彼女の指差す先に、確かにツチノコらしき姿が見えた。ひょうたん型の体が、苔むした岩の間から顔を出している。
心臓が跳ね上がる。あの幻の生き物を僕達は今目の前にしているのだ。僕は急いで手を伸ばし、彼女と一緒に捕まえようとした。だが、ツチノコはすばしっこく、すぐに岩の隙間に消えてしまう。
「あー!」
彼女が声を上げる。
「待て! ここは道具を使うんだ!」
僕は彼女に叫び、たまたま持っていたロープを使って挑戦する。
だが、ツチノコは素早く逃げてしまった。
「くっ、もう少しだったのに! やっぱりツチノコは人の手には負えないと言うの!?」
彼女は悔しそうに地面を蹴った。僕も同じ気持ちだったが、ここで諦めるわけにはいかない。
「大丈夫、次こそ捕まえるよ!」
僕が励ますと、彼女は少し驚いた顔をした。すぐに顔を赤らめて、恥ずかしそうに目を逸らす。
「う、うん! ありがとう」
彼女は照れながらも、僕を捕まえた虫取り網を構えた。
その後、僕たちは何度も挑戦を繰り返し、ついに捕まえることができた。ツチノコは予想以上に頑丈で、魔法を放ってきたりもしたが、ようやく捕まえることに成功した。
「やった!」
僕たちはお互いに高くジャンプして喜んだ。
おとなしくしたツチノコをしっかりと保護ケースに入れて、僕たちは笑顔で山を下りた。その時、彼女がふと僕に言った。
「ありがとう、あなたがいなかったら、ここまで来られなかったかも」
僕は少し照れながら、彼女に答える。
「いや、こちらこそ。君がいなかったら、たまたま迷い込んだ山でツチノコを捕まえる事は無かったよ」
そして僕と彼女は、無事にツチノコを町へ持ち帰り、英雄になった。そして、何よりもその冒険を通して、僕と彼女はすっかり友達になっていた。
あの夏の季節が、僕達にとって一番輝いて見えた瞬間だった。