最終話
帝国本土、ラジオから帝国軍の代表的な行進曲が吹奏楽の勇壮な演奏で流れ始めた。ラジオからこの局が流れる時は帝国軍の発表があることを知っている帝国人民は街頭で、職場で住宅で耳を傾けた。
『帝国軍総合参謀本部発表!スリン島に作戦展開中の帝国軍部隊は連合皇国国防軍と激戦敢闘、赫々たる戦果を挙げり!その目的を達成せるにより同島を撤し他に転進せしめられたり!』
スリン島の戦局に関する放送から一週間後、ランド陸軍少将(死後二階級特進により陸軍大将)の戦死を伝える放送が行われた。
悲愴な調べを奏でる音楽がラジオから流れる。帝国軍葬送曲。葬送と名の付く通り、軍人の、死に際して演奏される曲である。広く一般に知られているわけではないが、その物悲しい調べを聞けば大方を察することができた。
『帝国陸軍スリン島最高指揮官ランド陸軍少将は同島にて作戦全般を指導中、敵と交戦、壮烈なる戦死を遂げたり。鬼神も慟哭する最後であったと伝わっております。
総統閣下御臨席の元、ランド陸軍大将の厳かなる葬儀は執り行われました。武人、これに勝る栄誉無しとしながらも軍楽隊の悲愴な調べは葬場に響くのでした』
スリン島を巡る戦いの結果、帝国は石油供給源の二割強を喪失した。戦前からの備蓄があるとはいえ大きな痛手だった。また戦艦八隻、空母九隻を筆頭に相当数の海上戦力を失い、主として帝国海軍の激甚な消耗のためにしばらくは両軍ともに海戦は小康状態となった。
後世ではスリン島救援作戦に伴った甚大な損害のために戦略上実施する必要性があったのか多くの議論が交わされることになる。
最後にスリン島戦役後の帝国について。戦争継続の要衝となるスリン島を喪失したことは前述のように非常な痛手だった。だが当然ながらその事実は『我軍民の戦意を失墜させかねない』、つまり士気の面から戦争継続に悪い影響を及ぼすということで発表されなかった。ラジオはただ『我が戦争完遂に何ら影響するところ無し!』と叫び、スリン島帝国軍部隊の奮戦が英雄的な脚色と共に発表された。
帝国軍のプロパガンダ部門はスリン島戦役の映画を製作、劇中歌のスリン島守備隊の歌は愛国歌集の一つとして頻繁にメディアで流れるようになった。
両軍共おおきな損害を負ったが、しかし戦争は終わりの気配を寸毫たりとも見せない。たった一度の激戦で戦争の勝敗が決まる時代はとうの昔に過ぎたからだ。この後も帝国と連合皇国は軍人、民間人、つまりは国家をすり潰しながら総力戦を戦い抜いていくことになる。
完




