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第三十八話

 戦車長クルツ中尉はキューポラから最低限顔だけを出して周囲の戦況を窺っていた。位置としては帝国軍の呼称するところの第四防衛線である。地形は前方百五十メートルの左右に高さ五メートルほどの木が生え茂る丘。そこから帝国兵が我に対峙している。前方の丘に蟠踞する帝国兵は過日の帝国兵と違い、潤沢な銃弾を浴びせかけてくる。ガンガンと銃弾が戦車の追加装甲で跳ねる。

 友軍歩兵は敵の銃撃に前進の機会を掴めないでいた。今こそ装甲を活かして前進する時。

 突然、前方六〇メートルでバックブラストが吹き上がり、戦車の前方に弾頭が着弾した。

 「クソッタレ!」

 クルツは短く毒付いた。

 「左だ!バズーカ!二人いる!」

 車体の機銃を操作する無線手が叫んだ。バズーカ、の言葉に砲手は即座に反応。無線手が機銃を撃ち込むところに榴弾を叩き込んだ。念には念をで二発。機銃弾も優に百発を超える弾数を撃った。茂みのために敵の姿はみえないが、おそらく生きてないだろう。

 「砲手!見方は横九十度から後ろにしかいない。前で動く奴は全部敵だ。片っ端から撃ちまくれ!操縦手、ゆっくり前へ」

 四百馬力のエンジンが高らかなエンジン音を伴い駆動する。砲手は前方の発砲炎が見えるところ全てに射撃する。

 砲手が撃つ。砲尾が後退し閉鎖機が開放され空薬莢が自動で排出される。バスケットに空薬莢が落ち他の空薬莢とぶつかりカーンと甲高い金属音を立てた。その音が鳴る時には良く訓練された装填手は次弾の装填を終えている。

 「装填良し!」

 報告を上げ、安全ボタンを押し安全装置を解除。

 短時間に繰り返される射撃に砲身が熱され、熱気を帯びていた。

 榴弾を用いての地ならしが終わると歩兵が前進。味方誤射を避けるためクルツは支持を出す。

 「砲手、主砲射撃中止。移行は機銃で対処しろ。味方に注意」

 見方が丘の麓に取り付き、銃火を交えつつ登り始めた。反撃の銃火も少なかった。

皮肉なことに、クルツにとっては敵が健康な今の方が相手にしやすかった。というのも、自殺前提の攻撃が無いからだ。

 普通、伏撃を仕掛ける時は退路も考慮して伏撃陣地を選定する。しかし死兵と化した帝国兵は攻撃さえできれば良いからしばしば想定外のところから攻撃を仕掛けてきた。

 先日は人一人が隠れられる個人掩体からバズーカによる攻撃を受けた。射手は後方爆風で死亡していた。腹部に銃創があり、もう長くない命だからこそ採った戦法だと推測された。苦痛から逃れることの可能な自殺と敵への攻撃を両立させたわけだ。

 このような事例を経験したからこそ、正規軍同士の戦理に則った戦い方の方が楽だった。

 むろん比較して楽というだけで、厳しい戦いであるのは変わらない。帝国兵は粘り強い。それがクルツだけでなく戦友一同の偽らざる感想だった。降伏する帝国兵はいない。唯一、敵の軍医が負傷者の救命のために降伏したことがあるだけだった。その負傷者は、戦友の軍医に依れば「端的に言って、大半の兵は負傷の度合いが深刻で治療の施しようがない。その他の兵は後方に移送するまで体力が持たない。必要なのは薬ではなく弾丸」とのことだった。


×××


 一日後、帝国軍は徐々にトロン港に押し込められつつあった。前線は港からおおよそ三キロメートルに位置している。国防軍は港に突進する態勢を整えつつ、しかし実行には移さないでいた。沖には帝国軍艦艇が控えており、突入すれば艦砲射撃に甚大な被害を受ける。これ以上前進すれば地形による援護を受けられず、艦砲射撃の射線に晒される。

 加えて、帝国兵の大部分は既に沖の艦船に収容されたと推測されていた。ために突入をしたとして、損害に見合う戦果を挙げられるとは思われていなかった。以上の理由から、港への突撃は発起されていなかったし、される予定もなかった。

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