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第三十四話

 帝国軍の艦戦が一機、国防軍航空基地の襲撃を終えて艦隊に帰還、着艦しようとしている。

 機体は敵航空基地上空で機体後部下方で対空砲火の至近弾を受けていた。水平尾翼や胴体を破片が襲い、特に水平尾翼が引き裂かれていた。

 破片により胴体に空けられた穴のために空気抵抗が増大、速度が落ちた他、水平尾翼が損傷している影響でピッチング、縦方向の機動が不安定になっていた。

 それでもエンジンや燃料タンク、主翼等に飛行に致命的となる損傷は無かったため母艦の上空まで飛んで帰ってきた。

 そして艦隊の上空を旋回しながら着艦の順番を待っていて、いよいよ彼の番が来た。機体が損傷した状態での着艦は初めてだが操縦に深刻な影響は無い。何回も繰り返してきたプロセスに従い大海に浮かぶ木の葉の様に見える母艦へ向け高度と速度を落としていく。

 ランディングギアを出しフラップも着艦位置まで下げた。甲板の着艦信号士官からもそのままの調子で着艦するように来ている。どうもフラフラするが制御できる範囲内だ。

 甲板にいる着艦信号士官からも何の問題の無いように見えている。

 いよいよ着艦。主翼下のランディングギアと機体後方の尾輪で接地するため最後の瞬間は機体は後ろに傾き甲板や着艦信号士官は見えなくなるからアイランド艦橋に設置された信号を目印に最後の行程をこなす。

 ダァン!と音と共にドシンと衝撃を伴って接地した。アレスティングフックが甲板上のワイヤーを捉え急制動をかけた直後、アレスティングフックが壊れた。バキン、と金属が断裂する音と共に根元からフックが外れた。

 対空砲火の破片はアレスティングフック根元付近の胴体も貫いていて、結果としてフックは無事でありながら総合的な強度を著しく下げていた。

 驚いたのはパイロット、そして甲板にいた全員だ。特に機体後方下部が物理的に見えないパイロットは事態を把握できない。急制動が掛かったと思った次の瞬間には異音がして、そして機体が止まらないのだ。

 混乱し、機体の状況を全く把握できないが少なくとも機体が止まっていないこと、そして飛行甲板上で止まるには速度が出過ぎていることは分かった。

 ならすべき事は明確だ。元より艦載機のパイロットは速度の出過ぎその他何らかの要因で着艦が困難な場合、再加速して上昇、もう一度着艦をやり直すように教育されている。

 パイロットは教育を思い出し手順に従い、スロットルを限界まで倒しエンジンを戦闘時緊急出力までぶん回す。

 エンジンの最大出力で甲板上にけたたましい音を響かせながら再度加速に入る。しかし一度不完全とはいえ急制動を掛けた機体は、止まるには早過ぎ、そして発艦するには遅過ぎた。

 飛行甲板を蹴った戦闘機は、しかし機首が上がらない。速度不足によって翼が十分な揚力を得られていないのだ。

 甲板を蹴った時点でパイロットは空気抵抗にしかならないランディングギアを主翼内に格納する。だが一瞬にして収まるわけではない。

 墜落、と表してあまり差し支え無い。パイロットは精一杯機首を上げようと操縦桿を必死に体に引き寄せる。が、しかしほんのわずか、一瞬機首が上向いただけで、格納途中のランディングギアがまず海面に激突した。そのままランディングギアを支点につんのめるようにエンジンから海面に。

 戦闘機が海面に激突する寸前、甲板を蹴った時、空母の艦長は咄嗟の事態に対応すべく怒鳴る。

 「両舷後進、最大戦速!面舵おもかじ一杯!」

 それでも間に合わない。車と違ってブレーキが無い船は後進することで擬似的にブレーキとする。だが総トン数47,879トンの巨艦が最大速力の34.59ノット(64.06 km/h)で進んでいたのだ。すぐには止まらないし後進もしない。

 しかし約64km/hで前進していたのがいきなり全速力での後進。強力な慣性で、盛大に転んだ者は十人単位でいた。

 さらにすぐに止まることはできないため右に転舵し戦闘機を避けようと努める。

 しかし如何いかな努力とて意味は無かった。ゴオン、とどこか遠く響く様に空母が戦闘機を押し潰した音が聞こえた。

 「そんな……」

 誰かの呟きが目撃した乗組員全員の心境として甲板を漂うように抜けていく。

 やがて空母が後進し戦闘機が海没した地点を甲板上から、対空砲座から大勢の乗組員が不安気な面持ちで見る。誰かがオレンジ色に着色された浮き輪を投げるがパイロットは海面に姿を現さない。

 事実として、パイロットは機体から脱出できなかった。海面に衝突した衝撃で肋骨を骨折したパイロットは負傷に呻く暇も無く空母に追突された。

 空母との衝突で機体はひしゃげながら空母よりさらに下へと押しやられ、そのままパイロットは身動きできないまま機体と共に海底へと沈んでいった。

 駆逐艦が急行し内火艇が海面に降ろされ、何とかパイロットがその姿を現さないかと注視するがついぞそんなことは無かった。

 そして空母は後続の帰還機を収容するため、戦闘機の海没地点を遥か後にしながら前進し始めた。

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