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第二話

数日後の深夜、スリン島の遥か西方海域。国防海軍の潜水艦が帝国軍艦隊を発見した。

 「凄まじい数だな」

 潜望鏡から望見した艦長は驚きと呆れの入り混じった吐息を漏らした。交代して潜望鏡を見た副長は圧倒されたと見えて、声を上擦れせていた。

 帝国軍艦隊は水平線を埋め尽くしていた。月光のおかげもあり、敵艦隊外郭にいる艦影の幾つかを判別できた。雑多な輸送船、それから駆逐艦、それか重巡と思われる艦影も認められた。

 「ほう、護衛が」

 艦長には僅かな驚きがあった。

 全貌は掴めないものの、眼前の敵艦隊は輸送船団とみて間違いない。

 この艦長は、帝国軍の、スリン島への輸送船を沈めて回る作戦に従事していた。そして、帝国軍は基本輸送船に護衛を付けなかった。そして単艦で航行させていた。魚雷の節約のために浮上して、艦首備え付けの八八ミリ砲で砲撃し、撃沈したことが三度もある。

なぜ護衛をつけないのか、単艦で航行させたのか。これは帝国海軍が潜水艦の脅威について、また海上護衛戦についての知見が乏しいことが理由だった。

 前提として、帝国は陸軍国、ランドパワーの国だった。軍隊は陸軍が主体で、言わば陸主海従の軍隊だった。

 複数船舶で船団を組む、護送船団方式を採用していなかったのは、煩雑な事務が多く、また複数船舶の中の、最も遅い船に全体の速力を合わせなければならない。帝国軍は特にこれを嫌った。

 また護衛の駆逐艦の数も足りなかった。駆逐艦はあったが、所属が違い護衛に付けることのできる、十分数がなかった。一種の権限、縄張り争いの結果だった。

  だからこそ、護衛を多く引き連れていることに艦長は驚きを覚えたのだ。もっとも、水平線を埋めつくす程の数を考えればそれも当然の処置だろう。

 「艦長、攻撃しましょう!」

 艦長の見るところ、副長は血気に逸る種類の人間だった。軍人にとって、敢闘精神といのは大切な素養である。一方で無茶無謀に由来する、いわゆる蛮勇とは明確に区別せねばならない。軍人は、同時に冷静沈着でなければならない。

 「副長、今魚雷で攻撃してみろ。私とてそうしたいが、確実に反撃の爆雷が降り注ぐ。そうなったら友軍への報告が遅れる。よって却下だ」

 多少悔しそうに、浅く唇を噛む副長。副長の溜飲を下げるため、艦長はいった。

 「なぁに、どうせ奴らの行先はスリン島さ。ならまた会敵する。その時は戦友と協同して大量の魚雷を見舞ってやればいい」

 副長は一転、闘志に目を輝かせた。

 「群狼戦術ですね?」

  艦長は短く、しかし雄弁に首肯した。

 群狼戦術。複数の潜水艦が連携し協同し、攻撃する戦術である。敵艦隊を取り囲み四方八方から攻撃することで、多くの戦果を見込める。

 かくしてこの潜水艦は雷撃を控え、敵艦隊を見送った後浮上、報告の無線を飛ばした。

 『我、敵大艦隊見ゆ』

 

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