表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

第三十話

深夜、スリン島帝国軍支配地域の滑走路。

 その機能を喪失して久しかった小型の飛行場が日没後よりにわかな熱気に包まれていた。滑走路上から残骸が撤去され、爆撃により生じたクレーターが埋められ、鉄板を被せられる。

 格納庫では残存する全てである戦闘機五機に給油と爆弾とロケット弾の兵装搭載が行われていた。搭載されている兵器が統一されていないのは在庫が無いからだ。元々小規模ゆえに在庫は豊富ではなかったが、陸軍が地雷に転用するからと多数を持ち出していた。

 この日の前日、帝国軍救援艦隊から一機の艦攻が増槽を装備し燃料を満載し飛び立った。当該機は一通の命令書を携え片道飛行で滑走路を目指した。

 敵機とレーダーを避けるため長時間の低空飛行を強いられたが無事到達した。予め予期されていたが滑走路は使用不可能だった。そこで滑走路に命令文書の収まった缶と僅かばかりの食料を投下した。その後パイロットは海岸に向かい不時着水するとスリン島に上陸した。

 その命令文書は在スリン島帝国軍航空機隊にスリン島に所在の国防軍航空基地(元帝国軍航空基地)を空母航空隊に先立って襲撃、特に滑走路を破壊することによって爾後空母航空隊の攻撃を援護することであった。

 この命令、実のところ軍組織としては宜しくないものであった。というのも、スリン島に所在する航空隊はランド少将の指揮下であって、帝国軍艦隊の指揮下にはないからだ。それでも艦隊は命令を発出した。最大の理由は、艦隊も、そして帝国本土の参謀本部もランド少将との連絡が不通になっていたからだ。艦隊も参謀本部も、おそらく斬首作戦によってランド少将は戦死したのだろうと判断した。斬首作戦の前例もあった。

 こうした事情があり、滑走路の指揮官である中佐は横紙破りじゃないかと大変困惑した。それでもこの中佐は命令に従うことに決めた。この中佐の決断も、ランド少将司令部との連絡が不通になっていたことが大きい。

 中佐が命令を示達。もう活躍の場は無いと思っていたパイロットは久方ぶりの機会に目を爛々と輝かせながら傾聴した。

 具体的な作戦としては、警戒が薄いであろうこの滑走路から離陸、敵飛行場に奇襲を掛け、特に滑走路を叩く。そして敵が滑走路が使用不可能に陥っている間に空母から航空隊が殺到、飛行場の戦力を撃滅する。

 いよいよ夜が明ける。払暁。溌剌とした表情のパイロットは勇んで乗機に駆け乗った。一人は昨夜、遺書を取り出し余白に血書で『勝利!』と大書した。

 戦闘機はパイロット達の興奮を表すかのように高らかにエンジンを鳴らすと軽快に大地を蹴った。燃料が最低限しか残っていないため編隊は組まずに飛行場へ向かう。

 飛ぶのは最短距離。幸いにして途中に戦闘空域はないから、対地攻撃をしている敵機に発見されて通報されるおそれも無いだろう。ただ敵航空基地上空には哨戒機が存在しているはずだ。低空飛行で極力被発見を避けるが、それ以外は気を揉むことしかできなかった。

 結論を先取して述べれば発見されることはなかった。理由としては単発機の下方視界が悪いからだ。エンジン、胴体、主翼とパイロットの視界は制限を受ける。

 そうして五機の編隊は国防軍航空基地へと突入した。

 

 航空基地は帝国軍救援艦隊が近接中との報に接し、警戒を保ちつつもどこか弛緩した空気が流れているのを否めなかった。何せ制空権は敢然に我のもの。中には帝国軍が使用可能な滑走路など存在しないと考えている者も存在した。

 一人のレーダー員が近接する機影五を捉えた。まずこのレーダー員が考えたのは対地攻撃を終え帰投中の友軍機かということである。だがそれにしては様子がおかしい。まず高度が低すぎる。基地からの距離を考えれば着陸前だとしても高度を下げ過ぎている。滑走路の向きと異なるのも違和感を覚えたし、編隊を組まず一直線になっているのも変だ。

 基地の防空を司る司令官は無線による応答が無いことも踏まえ、迷わず空襲警報発令した。

 上空を哨戒中の機は管制官の誘導に従い邀撃を目指し、対空火器の兵員は突然のことにコーヒーなどの嗜好品をブチ撒けるハメになった。死ぬよりマシだと考えるほかなかった。

 「中止!中止!対空砲の射程内だ!」

 邀撃機は間に合わず、誤射を避けるために迎撃は取り止められた。

 先頭の機が基地上空に飛び込んだ。対空火器はまだ射撃に至っていない。基地は三本の滑走路が三角形を成している。各機はそれぞれ攻撃する滑走路を割り当てられていた。

 先頭の機が爆弾を投下したタイミングで対空火器が射撃を開始した。十三.二ミリ機銃、二〇、三〇ミリ機関砲、そして近接信管を備えた砲弾を発射する四〇ミリ機関砲が火を噴く。

 猛烈な砲火が編隊に指向される。対空火器は空の一点を狙った。編隊は一列縦隊だったから、一点を狙えば後続機が自分から砲火に飛び込んで来るからだ。四機目は瞬く間に火達磨となって撃墜された。

 その様子を目の当たりにした五機目のパイロットは針路を変え、必死の思いで高度を下げるべく努めた。けれど即座の撃墜こそ免れたものの、酷い衝撃に襲われ機の状態を確認すると右翼から出火していた。敵弾は相当至近距離で炸裂したらしく、破片が機体の様々な箇所に食い込み、操縦性が低下している。墜落は時間の問題だった。落下傘で脱出するには高度が低すぎ、不時着するには機が不安定に過ぎる。待ち構えているのはただ死のみ。

 生還は望むべくもない。ならば一人でも、一機でも多くの敵を道連れに自爆する。視線を巡らせると滑走路脇に並んで駐機されている攻撃機シュトゥルムが目に留まった。

 抱えていた爆弾を何とか滑走路に投げると機首をそちらへ向けた。機体は既に水平を保つことが不可能になり、右に八十度まで傾いていた。

 「うわああぁぁぁ!」

 死への恐怖、生への執着。様々な感情がないまぜになった絶叫とともにシュトゥルムの群れへと体当たりした。

 駐機していたシュトゥルムは近接航空支援に備えて大量の爆弾、ロケット弾、機銃、機関砲弾、そして燃料を搭載していた。たちまちシュトゥルムは誘爆し巨大な炎の塊と黒煙が出現した。破片、衝撃波、爆風が周囲の施設や駐機していた機体へ暴威を振るう。

 編隊は二機を失ったが当初の目的を完遂した。さらにシュトゥルムへの体当たりは容易には回復できない混乱と破壊をもたらした。空母航空隊への時間稼ぎには十分過ぎる戦果だった。

 基地上空で哨戒任務に就いていた二機のパイロットが無線で交信していた。

 「少尉、あいつらを追いましょう!」

 部下の曹長が敵愾心に燃えて主張する。眼下には離脱していく敵機が映っていた。

 「いや、このまま待機する。どうにも嫌な感じがする」

 「はあ、嫌な感じですか」 

 「うん」

 ペアの上官である少尉の胸の内にあるのは帝国軍艦隊が近接中という事実だった。この事実が無ければ少尉は今しがたの攻撃を乾坤一擲、一矢報いるための捨て身の攻撃と判断して追撃を掛け自分と部下の撃墜スコアを伸ばしていた。だが少尉には計画的な攻撃に思えた。実際、敵機は滑走路を狙って攻撃した。もし捨て身の攻撃ならより損害の大きくなる機体や格納庫などの施設を狙うだろう。滑走路は時間があれば簡単に復旧可能。何かしらの作戦と連動していると考えた方がよい。

 そして後続の攻撃があるとすれば現状間違いなく空母からの航空攻撃だ。となればここで離脱していく敵機を追撃するのは戦理に適わない。新たに爆弾を抱えて来襲する敵機をこそ攻撃すべきだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ