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第二十五話

 その橋を国防軍が認めたのはヘンダーソンの艦爆が国防海軍空母を攻撃したのと同日である。 第三防衛線と第四防衛線の間に川幅の平均が百メートルの河川が存在する。その川にかかる橋が無傷で残っていたのだ。橋の存在自体は攻勢発起前から承知していたものの、時間稼ぎのためにすでに落とされたものと思われていた。少なくとも国防軍はこの橋が使えない前提で架橋器材を用意していた。

 なぜ無傷で残っていたのか?ランド少将が戦死したために爆破の命令が下令されなかったからだ。この橋の破壊を担当する一個工兵小隊はランド少将の命令か、あるいは命令が無くとも敵が近接してきた時点で橋を爆破するよう命じられていた。

 国防軍は直ちにこの橋の奪取を決めた。いくら架橋器材の用意があるとはいえ、森林地帯ゆえに道幅は狭く、架橋器材を前進させればそれだけ街道を、つまり補給を圧迫しかねない。また架橋作業に掛かる時間も惜しい。

 夕刻、前線に四十人の男が姿を現した。一般の部隊では普及していない突撃銃を狙撃手と機関銃手除く全員が装備している点だけをとっても通常の部隊ではなかった。

 ひさし部分が切り落とされた形状のヘルメット、細かい破片模様の迷彩スモックに右膝部分にポケットを備える灰緑色のズボン、フロントレースのブーツ。

 攻勢発起の前夜、月降る夜にランド少将以下司令部を奇襲、殲滅した特別工兵連隊だった。

 シュタイナ少佐に率いられた四十人は夕刻、黄昏時に行動を開始、無言にも関わらず完璧に統制された動きで森林へと溶け込んでいった。

 部隊は森林の道なき道を踏破し、翌日には橋を窺う位置まで進出した。シュタイナが観察するに、橋の周囲に存在する帝国兵はおよそ六十名。厄介なのは両岸にあって睨みを利かせている二両の中戦車の存在だ。どうやら燃料が無いためにトーチカとして運用されている様子。車体を地中に隠すダックインのための穴を掘るだけの体力は無かったと見えて、履帯が各れっる程度の深さになっている。

 南北の橋の付け根付近の草木は下草まで刈り取られている。隠れて橋に接近されるのを防ぐためだ。ただし敵戦車にファウストを用いて攻撃するためならば十分近づける。

 一番の問題は既に橋に仕掛けてある爆薬だ。後は起爆を待つだけの状態。爆薬は少量でも効果を発揮可能なように橋脚に互い違いの位置に設置されてある。また導火線は複線化されており、また起爆装置も南北両方に存在する。どうやら爆薬を設置した兵は優秀な人物のようだ。

 爆破を阻止するには起爆装置を同時に制圧するか導火線を切断するか。どっちもどっち、もしくは導火線を切断する方が多少は容易いか。

 シュタイナの指揮の下、一個小隊は着々と奇襲の準備を進めた。

 

森林の早い日が暮れて周囲は闇に包まれた。部隊の中から特に泳ぎの達者な二名が選抜されて上流五百メートルから見ずに紛れて橋に取り付いた。あらかじめ導火線を切断してしまおうという算段だ。また十八名が北岸に渡河し奇襲に備える。

 橋にたどり着いた二名は慎重に慎重を期して作業に取り掛かった。鉄が主要な構造材であったから、例えば木がたわんで音を出すというようなことはない。一センチ、また一センチメートルとジリジリと動く。さながらスナイパーが匍匐前進しているみたいだった。

 橋の上の帝国兵の声が聞こえる。もし発見されたらその時点で強襲になり、機関銃を始めとした援護の面々の射撃する銃弾が敵兵を無ころに変える予定だ。

 しかし作業中のために両手の塞がっている自分達は、拳銃を携行しているとはいえ、まず間違いなくその前に一方的に撃たれる。

 一挙手一投足に神経を張り詰める。幸いなことに、爆薬自体は橋に強固に設置されているが、導火線はそんなこともない。複線化されているがそれだけで、切断するだけ。行為自体は単純極まりない。訓練の、空挺降下後百キロメートル徒歩行進、爾後地雷などの障害を処理して戦闘、などのくらべれば遥かに簡単だ。何はともあれ慎重にナイフで切断した。

 爆薬の無力化が終わり、次は襲撃だ。初撃も二人が行う。

 拳銃を抜くと予め拾ってあった拳大の石を橋の反対側の水面に投げた。魚が跳ねるのなんかとは違う、異質で無視できない大きな音を発した。

 「ん?」

 当然の帰結として橋の上の帝国兵は反応して懐中電灯を使って水面を覗き込んだ。橋の周囲にいた帝国兵も釣られて明かりで照らされた水面に注意を払う。

 その瞬間、拳銃片手に欄干を乗り越えた二人が無防備な後頭部に射撃した。

 闇夜の橋の上に煌めく発砲炎、響く九×一九ミリ弾の銃声。それが攻撃開始の合図だった。

 北岸、南岸で展開を済ませていた三十八名による銃撃が一斉に開始された。特に毎秒二〇初の連射速度を誇る機関銃が立っていた帝国兵を薙ぎ倒し、辛うじて初撃を免れた帝国兵を連射力でもってその場に釘付けにした。最初に機関銃の標的にされた帝国兵など、〇.五秒間で七発もの七.九二ミリ弾を受け絶命した。

 銃撃と同時にファウストによる対戦車攻撃も実施された。一両につき二人づつが草むらギリギリから射撃。全弾狙い通り砲塔に命中させた。命中を確認すると手榴弾片手に戦車へ突進した。

 戦車内に生存しているかもしれない搭乗員を殺すため、戦車としての機能を破壊するため僅かにハッチを開け拳銃を内部へ乱射。内部からの反撃を防ぎつつ手榴弾を投げ入れた。

 瞬く間に橋の周辺から帝国兵は駆逐された。橋を渡って南岸にいた二十名が北岸に合流。

 橋近くの森林内に存在したテントから大慌てで出てきた帝国兵との戦闘に突入した。

 交わされる銃火。その銃声の内、帝国軍のものは大変に少ない。前線部隊ではなく、後方の警戒部隊だったために弾薬が極端に少数だった。そのため制圧射撃なんかは豪勢すぎて行えない。照準に敵を収めてもまだ撃たず、確実に当てられると確信した瞬間にだけ射撃、という撃ち方をしていた。

 その微弱な抵抗も素早く側背に迂回してきた隊員数人によって早々に終わりを告げた。

 十分に満たない戦闘の末、シュタイナ少佐は橋を占領した。

 少佐は帝国兵の逆襲に備えて南北に警戒の人員を送り出し、また爆薬の解体にも着手させた。

 時間にして爆薬の解体が終わったころ、北岸の索敵に出されたノード少尉は複数のエンジン音を聴知、地面が微かに揺れていることも感得した。少尉はこの音と地面の揺れ方に覚えがあった。戦車だ。

 少尉は手近の木に登って音のする方を双眼鏡で望見した。己が目に映ったものに少尉は言葉を失った。闇夜、森林とあって全貌は知れないが、最低でも六両の敵中戦車、六百人の歩兵。それがアリがぞろぞろと列を成しているみたいに橋に向かって前進してきている。

 シュタイナ少佐は慌てた様子の報告に驚愕した。現状のスリン島に稼働する帝国軍戦車が六両。明らかに正面戦力である。そんなものがまだ戦線の奥に控えていたとは。もしかしたら自分達がランド少将を殺害したことで指揮系統が崩壊、命令のないために動けなかったのかも。


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