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第十四話

ランド少将戦死の夜が明けた。まだ夜闇の明けきらない薄明の内からスリン島帝国軍支配地域の上空を攻撃機のシュトゥルムが護衛の戦闘機を伴って飛んでいた。

 最初、それを見た帝国軍の誰もがいつもの航空偵察だと思った。ところが前線上空を緩やかに旋回しながら飛び続けている。いつまでも上空に留まっているのを見た幾人かの帝国兵は悪い予感に襲われた。

 弾着観測機。文字通り砲弾の弾着を観測し、適宜諸元を修正し砲火力を誘導する。単機にも関わらず、爆撃機より遥かに強大な火力を長時間に亘って呼び込む、地上の将兵からすればこの上なく忌々しい存在である。

 そしてこの時戦線上空に滞空しているシュトゥルムは国防海軍機だった。つまりこれから行われる砲撃は国防陸軍砲兵隊によるものではなく、陸軍とは比絶するほどの威力を誇る海軍の艦砲による。一二〇ミリクラスを超える砲が重砲と呼称される陸軍と違い、海軍ではそのクラスの砲など豆鉄砲と同義である。運搬する母体が違うのだから当然そうもなる。

 陸軍の砲兵ではなく、海軍が艦砲射撃を実施するのはスリン島の道路事情のためである。帝国軍支配地域及びその周辺地域は深い森林の広がり、ために幹線道路の数も幅も限られる。そのため、戦車や歩兵などの部隊の前線への展開を優先した結果、砲兵などの後方支援兵科の進出が困難だった。以上を鑑み、国防軍司令部は攻勢最初の砲撃は海軍に託すことにしたのだ。

 攻勢開始に先立つ攻撃準備射撃の艦砲射撃に参加する国防海軍の艦艇は堂々たる威容を誇った。四五口径四六〇ミリ砲三連装砲塔三基を主武装とする最新鋭の戦艦二隻を筆頭にさらに戦艦二隻、重巡洋艦四隻。これの外郭には対潜、対空警戒のための駆逐艦八隻が位置している。

 前線への火力支援には過剰と表現して差支えない火力である。

 砲撃のため艦隊は速力を十ノットに落とした。

 「対地戦闘、右砲戦用意!」

 艦隊司令が戦闘用意を下令。既に合戦準備が下令されている艦隊では、通常時には艦尾に掲揚されている国防海軍旗がメインマストの頂上に掲揚され、頼もしく海風にたなびいている。

 各艦の砲塔が重々しく旋回する。司令が座乗する最新鋭艦も一基二,五○○トンある砲塔三基が旋回、砲身重量約一六五トン、砲身長二,〇七〇センチメートルの砲身三門を振り上げた。睥睨するはスリン島所在の帝国軍。

 「攻撃始め!」

 作戦開始の所定の時刻、司令は裂帛の気合と共に令した。

 「主砲、撃ちー方始め!」

 司令の号令を艦長が受け継ぎ、主砲が職掌の砲雷長が復唱。主砲が鋼鉄の唸りを上げ、全長一,九五五ミリ、重量およそ一,五○○キログラムの主砲弾が初速七八〇メートル毎秒で撃ち出された。

 前線の帝国兵は空中を飛翔する巨弾が空気を引き裂く不気味なうねりを聞いた。実戦経験のある将兵は、陸軍が運用する砲とは明らかに砲弾の質量が異質であるのがすぐに分かった。

 「伏せろ!」

 「隠れろ!」

 階級、所属に一切の関係なく最前線の帝国兵は叫んだ。

 落達した砲弾は深々と地面に突き刺さり、炸裂すると人の背丈の数倍の高さがあり、胴体の数倍の幅を持つ大木でさえ高々と宙に放り上げた。いかなる防衛陣地も艦砲の前では等しく無力だった。

 そも、現在地の帝国軍防衛陣地は決して頑強ではなかった。元々スリン島内で敗戦を続ける中で現在地にまで押し込まれている。スリン島に国防軍が攻撃を仕掛けてくる以前、現在地はは戦場として想定されていなかった。ために防衛陣地の造成が開始されたのはスリン島の戦いが始まって相当経ってからだった。資機材に乏しく、コンクリート製のトーチカなどは皆無で、精々が木材で造成された簡易トーチカと塹壕しかなかった。

 そんな代物が絶大無比な威力を誇る艦砲射撃に耐えられるはずがない。退避壕に避難していた兵は、一度退避壕に直撃弾を受けると跡形も無く吹き飛ばされた。至近弾であっても壕が崩壊し埋め立てられた。簡易トーチカもやはり、あっけなく破壊された。

 退避壕、あるいは個人用掩体に隠れている帝国兵は信じがたいほどの炸裂の轟音、揺れに心を擦り減らされた。ただただ当たらないでくれと無心に祈っていた。そして次の瞬間にはあっさりと殺された。前線の空には砲弾の炸裂により大木、土、そして帝国軍将兵の人体だったもの、装備が舞い上げられた。

 砲弾に内蔵されている炸薬の生み出す黒煙、茶色い土煙が空高くまでもうもうと立ち昇る。

 元から心許ない陣地であったが、今や完全に破壊され、その機能を喪失した。

 戦死したランド少将以下司令部の予測ではあと一週間だったが、そもそも帝国軍は情報収集手段が非常に限られていた。本土から飛来する四発爆撃機による高高度偵察か、あるいは副次的なものだが潜水艦の接敵率を参考にしていた。ただしどちらも相当に問題があり、まずしばしば爆撃機は撃墜され未帰還になった。また写真は解像度が荒く、港湾など開けた土地はともかく、森林内にどの程度的が存在するのか、どの程度物資が集積されているのか読み解くのは困難だった。また潜水艦も爆撃機と同様しばしば撃沈されていた。そのためランド少将以下が参照した情報そのものがかなりの程度、確度が怪しかった。

 ともかくも、帝国軍の予想を裏切る形で国防軍の攻勢は開始された。


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