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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ストレス発散のために幼馴染NTRゲーを制作したが、気付けばその世界に転生しており、ゲーム最強の間男さんになっていて寝取られないことに慟哭してたら主人公である俺が現れたりと、なんかカオスすぎる件

 寝取られにかかせない三パクというものをご存じだろうか。


 ひとつは脅迫。これは寝取られの導入で間男さんがヒロインに迫るために必要不可欠な行為だ。これをせずにただヒロインを襲うようではただのレ〇プに過ぎない。そんな理性のない獣のような行いは、紳士たる間男さんは決してしないし、これによって読者に間男さんは理知的で優れた竿役だと読者に知らしめることが出来るのである。

 

 ふたつめは圧迫。間男さんに脅されたヒロインが自分の身体を差し出すか否かについて葛藤するシーンのことを指す。勿論間男さんはその持ち前の話術を駆使し、ヒロインに考える間を与えず寝取ることに成功するのだが、このシーンがあることによってヒロインは寝取られることに罪悪感を覚えているということを読者に知らせる大事な展開でもある。

 

 最後はわんぱく。これは間男さんが女を寝取ることに積極的な性格であることを指している。自分に自信のない陰キャでは絶対に出来ない行為をいともたやすく行ってしまうことで読者に羨望を抱かせ、同時に好感も持たせることが出来る。まさに一石二鳥といえるだろう。俺もそんな間男さんが大好きであり、いつでも彼らに屈服する準備を日ごろから整えている。


 他にもヒロインが主人公に「貴方より間男さんのほうがずっとしゅごいのおおおお♡♡♡」と完堕ち報告をする告白も入れて四ハクと言われるケースもあるが、これはシチュエーションとして採用されない場合も多い。

 まぁ主人公が気付かないうちにヒロインが間男さんに染められていくというシチュエーションも大好物なので個人的には何も問題ないのだが。


 ちなみにこれらは全てさっき俺が考えたことである。まぁそれくらい俺、杉原学(すぎはらまなぶ)は寝取られが好きだということだ。

 いや、好きなんてもんじゃない。

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらないのだ。

 きっと、俺という人間に刻まれた、魂の性癖だったのだろう。人生の初期に己の性癖を知ることが出来た俺は、この世の誰よりも幸運な男に違いなかった。


 そんな全身寝取られ人間である俺だったが、現在は高校生ながら週刊誌にラブコメ漫画を連載している漫画家である。

 漫画を描き始めたきっかけは理想のNTR漫画を描くためだったが、紆余曲折ありラブコメを描くことになったというわけだ。

 一応自分で選んだことだからそのこと自体は仕方ないと割り切っているのだが、それでもストレスはどうしても溜まる。

 どうにか創作でこのストレスを発散出来ないものか……しばしの間悩んだのだが、どうにも解決策が浮かばない。


「仕方ない。ここは寝取られもののエロゲーでもして気分転換を……ハッ!」


 そこで俺の脳内に一筋の電流が走った。

 そうだ、エロゲーだ。漫画がダメなら自分でゲームを作って発散してしまえばいいんだ!


「よっしゃ! ヤぁってやるぜ!」


 単純明快。だが俺にとっては大事な答えを得た結果、早速エロゲー制作に取り掛かるのだった。

 

   ♢  ♢  ♢


「よし、完成だ……!」


 そうして制作に取り掛かること一ヵ月。

 俺は自作のNTRエロゲーを完成させていた。

 

「思っていたよりストレス溜まってたんだなぁ。我ながらこのスピードで作ったのはドン引きだわ」


 別に本格的なエロゲーを作りたいわけじゃないし、そもそも今回が初挑戦だったから市販されているツールを購入しての制作だったが、思った以上に力が入ってしまった。

 BGMはフリー音源がメインだが、効果音やアイテムには拘ったし、なにより力を入れたのはCGと立ち絵である。

 延べ100枚を超えるCGと総勢30人の間男さんという、NTRゲーとしては破格といえる豪華すぎるラインナップ。

 キャラデザから何まで全て描き起こしてしまったのだから、我ながら馬鹿としかいいようがない。


(まぁ完全に趣味で作ったゲームだし許されるだろう、うん)


 そんな誰に向けてのものかも分からない言い訳を内心しつつ、俺はパソコンの画面へ目を向ける。

 そこには今回俺が作成したキャラの中でも、殊更力を入れた間男さんの姿があった。


「ふふっ、ボブカッコいいよボブ。まさに俺の理想の間男さんだぜ」


 コイツの名前は鈴木ボブ。アフリカンハーフのガチムチマッチョな間男さんだ。

 2メートル10センチの恵まれた体格に高校生とは思えない厚みのある肉体。趣味は他人の女を寝取り、自分のモノにすること。

 他人の女でないと興奮出来ない性癖を持ち、自分のモノにしてはあっさりと捨てて次の女を寝取りにかかる最強の寝取り・モンスター。それがボブだ。

 チャラ男さんが話術とコミュ力を駆使して女を寝取る智謀謀略に長けた柔の間男さんだとしたら、ボブは最強の肉体を駆使し、有無を言わせぬ圧倒的な暴力で女を寝取る剛の間男さんと言えるだろう。


 更に実家は資産家であり、主人公たちが通う学園でも莫大な権力を保持しているという、肉体以外の要素にも恵まれた、まさに生まれついての圧倒的強者。

 当然ながら学園では誰もボブに逆らうことは出来ず、頻繁に他人の彼女を寝取りまくり、欲望の限りを尽くすゲームでも最強の存在だ。

 そのステータスは体力・精力ともに999とカンストしており、他の間男さんを圧倒していることへの説得力を持たせるものになっている。


 体力がたったの5でゴミな主人公とは男としての格が違うのだ。誰もボブに勝つことなんて出来やしない。当然主人公もなすすべもなく自身の彼女をあっけなくボブに奪われ、絶望するシナリオとなっている。

 作成しているとき最も力を入れたキャラであり、俺の理想を詰め込んだ間男さんでもあるボブには思い入れもひとしおであり、思わずうっとりとした目で見つめてしまうのも仕方ないと言えるだろう。


「ああ、やっぱりいいなぁボブは。俺もこんな間男さんに、彼女を寝取られてみたいなぁ」


 勿論現実では彼女などいたこともないから不可能なのだが。

 それもあって、ゲームに必要以上に力を入れてしまったのもある。


「まぁ流石にゲームの主人公の名前から設定まで俺にしてしまったのはちょっとやりすぎ感はあるが……ヒロインも燐子だし」

 

 自分が主人公かつヒロインが幼馴染とは流石に願望丸出しすぎて我ながら引くものがある。

 ま、まああくまで自分が楽しむ用のゲームだし、多少はね?

 今のところ販売する予定はないので音声も入ってないし、あくまで個人で楽しむ用のプロトタイプといったところだ。

 今後ブラッシュアップして改良をしていく余地は十分あるが、今はただ完成させることが出来た充実感が大きい。


「ふぁ~あ。なんか気が抜けたのか眠くなってきたし、プレイするのは明日にするかな……いや、でもせめて1ルートくらいはこう、りゃくを……」


 急激な眠気に襲われ目をこするも、どうにも抗えそうにない。

 寝取られを思う存分堪能して眠りにつけないのは心残りではあったが、明日は学校も休みだしこれはこれで悪くないか。

 徹夜で朝までプレイするのもいいが、朝からやるNTRゲーもそれはそれで味わい深いものがあるからな。

 ああ、でもやっぱり……。


「俺も、寝取られたい、なぁ……」


 言い終わるかどうかの間に、俺の意識は一気に暗闇へと引きずり込まれるのだった。


 ♢  ♢  ♢

 

「ん……朝、か」


 窓の外から差し込む光を感じ、俺はゆっくりと机から起き上がる。

 どうやら寝落ちしてしまったようだが、そのこと自体は別にいい。ゲームは完成させたし、このままプレイ出来る態勢は整っているのだからなにも問題は……。


「あれ……?」


 ここでふと、なにかがおかしいことに気付く。

 目の前にあるはずのパソコンがないのだ。いや、それどころか、ここは自分の部屋ですらない。

 視線の先にあるのは黒板で、周りを見渡せばたくさんの椅子と机が並んでいる。

 明らかに学校の教室ではあるのだが、それはそれとしてまた別の違和感がある。俺が通う学校のそれとは、明らかに異なっていたからだ。

 違うといえば、身体だってそうだ。俺はこんなに座ったとき視線が高かったか?

 見れば肌だって浅黒いし、丸太のような腕の太さだ。女子に押し倒されたらそのままなすすべもなく蹂躙されてしまう、貧弱もやしっ子な俺の腕とは明らかに違う。


「まさか、これは……」


 俗に言う転生ってやつか? 今の俺は明らかに別人になっている。

 じゃあ一体どの世界に転生を……そこまで考え、俺はようやく気付く。この教室が、俺が作っていた寝取られゲーの背景にそっくりであるということに。


「ってことは、ここは俺が作ったゲームの世界なのか!? つまり、寝取られゲーの世界に転生したってこと!? いやったあああああああああああああああ!!!!!」


 思わず椅子から立ち上がり、歓喜の雄たけびをあげてしまう。

 それほど俺は嬉しかったのだ。苦節17年。一度も寝取られることがなかったばかりか彼女すらいなかったこの俺に、まさかこんな幸運が訪れるとは。

 これも全て俺の日頃の行いの賜物だろう。ああ、寝取られが好きで本当に良かった……寝取られ大好き人間であることを、改めて誇りに思う。

 さあ、そうと分かれば話は早い。早速寝取れるべく、行動、を……。


「って、今の俺ボブじゃねぇか!!!!!」


 俺はまたも気付いてしまう。今の自分がこのゲームにおいて最強の間男さんとなっていたことに。

 

「なんだよこれえええええええええ!!! 寝取られゲーに転生して間男さんになるとか聞いてないよおおおおおおおお!!! 普通主人公になるだろうがよおおおおおおおお!!! ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺は涙を流して慟哭する。

 理想の世界に転生出来たと思っただけに、その落差は半端ない。

 

「一体誰がこんなひどい仕打ちを……! 神か、寝取られの神の仕業なのか!? クソがぁっ!!!」


 誰がこんなことをしたのか心当たりがあった俺は、即座にあるやつのことを思い浮かべる。

 そいつは寝取られの神といって、俺のことを寵愛しているらしいのだが、同時に俺が他の神に寝取られていることに興奮を覚える生粋の変態だ。


 大方、俺をこの世界に送り込むことで『杉原くん、私に幻滅しちゃったかな? 間男さんなんて一番なりたくない存在だもんね。これで寝取りに目覚めちゃったらどうしよう!? んひぃっ! 寝取られの神なのに、私杉原くんに寝取られちゃうううううううう♡♡♡ ついでに寝取りの神にも杉原くんが寝取られちゃうのおおおおおおお♡♡♡ んほおおおおおおおおおおお♡♡♡』と、身体をビクンビクンさせて興奮しているのだろう。

 まったくもって救いがたいし、度し難い。あんな変態の望むような展開なんぞ死んでもゴメンだ!


「クソッ! どうにかして元の世界に戻らないと……このまま間男さんとして人生を送るなんてゴメンだぞ」


 そのためにはやはり主人公に接触する必要があるだろう。そう思った時、


「お! いたいた、ボブじゃん! 元気してるー?」


「!?」


 俺は思わず目を見開く。突然開かれた教室のドア。その先にいたのは俺だったのだ。


「よぅ、俺のこと知ってるかな? 俺、杉原学って言うんだ。実はボブくんとお友達になりたくてさ。早速だけど、今から俺の家に遊びに来ない? 実は俺の隣の家に、君好みの可愛い幼馴染の彼女がいて……」


「うおおおおおおおお! 俺ぇぇぇぇぇぇ! 助けてくれえええええええええ!!!」


「え、ちょっ、えええ!?」


 この場に差した一筋の光明に、俺は思わず俺のことを抱きしめるのだった。


  ♢  ♢  ♢


「ははぁ、なるほど。この世界に転生したけど、その相手がよりによってボブだったと。なんだそれは。たまげたなぁ……」


 あれからしばしの時が経ち、俺たちは学校の中庭にいた。

 教室では誰か来るかもしれないし、流石に場所を変えようということでここに来たのだ。

 途中でもうひとりの俺が買ってきてくれたジュースを飲みつつ、一通り話し終えると、この世界の主人公杉原学——もうひとりの俺はうんうんと頷いていた。


「よし、事情は分かった。災難だったな、同情するぜ」


「信じて、くれるのか。こんな与太話にも近いことを……」


 正直信じてもらえるとは思ってなかった。いくら自分自身とはいえ、転生なんて荒唐無稽な話だと考えていたからだ。

 そんな俺の考えをもうひとりの俺は読み取ったのか、フッと笑うと、


「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。お前がボブじゃないことくらいすぐに分かったさ。今のお前は、寝取って欲しさを隠せない草食男子の目をしている。常に女を寝取ることに飢えた陽キャさんのそれじゃねぇ。最強の寝取りモンスターがそんな目をしているはずがないし、信じないほうがおかしいってもんさ」


「もうひとりの俺……!」


 俺は歓喜に打ち震える。

 コイツもやはり俺なのだ。寝取られることに全てを賭けている。そんな俺が、間男さんではないことに気付かないはずがなかった。


「分かってくれたんだな……! じゃあ早速だが頼みがある! 俺と一緒に、元の世界に戻るための方法を考え……」


「というわけで、サクッと燐子の寝取り頼むわ。いやー、俺相手だし、話が早くて助かったわー」


 そのまま協力を持ち掛けようとしたのだが、何故かもうひとりの俺が突然、とんでもないことを言い出した。


「は? え? え???」


「ボブの身体があれば楽勝だろ? いや大丈夫大丈夫。俺は一切抵抗なんてしないからさ。出来れば俺の前で寝取って欲しいな♪ あ、ついでに色々と注文したいシチュエーションあるんだけど、聞いてもらってもいい?」


「はあああああああああああああああああ!!??」


 とんでもない戯言を抜かし始めたもうひとりの俺に、俺は思わずブチギレる。


「お前、なに言ってんだ!? 俺が寝取られ大好きで寝取られる側に回るなんて絶対ゴメンだって知ってんだろ!?」


「いや、知ってるけどさぁ。ここって寝取られゲーの世界じゃん? んで、主人公はこの俺。つまり俺が燐子を寝取られればゲームクリアだ。そうなればお前も元の世界に戻れるだろうし、そのためには事情をよく知ってるお前が俺から燐子を寝取るのが一番手っ取り早いってわけ。簡単な理屈だろ?」


 ヘラヘラと笑いながら話すもうひとりの俺。

 寝取られるのが待ちきれないといった様子だ。明らかにウキウキを隠せていない。


「き、貴様ぁ……!」


「おいおい、怒ったって無駄だぜぇ? 今のお前はボブだ。お前が生み出した、最強の寝取り・モンスター。絶対寝取られない存在であるお前が、大量の間男さんに囲まれた俺を羨んだところで今更俺に取って代われるはずもないんだからなぁ!」


 俺は怒りに打ち震える。

 コイツはやはり俺だ。寝取られることに全てを賭けている。そんな俺が、自分であろうと間男さんに寝取られるチャンスを逃すはずが絶対にない……!

 それが分かっていても、クソ腹立つ! 自分自身にすら寝取られをさせようとするなんて、コイツ絶対まともじゃねぇ!


「テメェェェェェ! ふざけんじゃねぇぞ! なに自分だけ楽しもうとしてやがるんだ! そんなこと絶対許さんからな!!!」


「フー、だから無駄なんだって。いくらお前が怒ったところで、俺はどうあがいても寝取られる運命なわけ。お前以外にも間男さんはたくさんいるんだからな? それはお前が一番よくわかってるだろ?」


「ぐ、ぐぬぬぬ……」


 激昂する俺を意にも介さず、見下した目を向けてくるもうひとりの俺。

 寝取られる俺と寝取られないお前では、格が違うとでも言いたげだ。

 悔しさから歯ぎしりしていると、もうひとりの俺は小さく笑い、


「ククク、ようやく身の程が分かったようだな。お前が寝取るつもりがないというなら、俺は別の間男さんのところに行ってくるぜ。寝取られが俺を待っているからな! ヒャーハッハッハ!」


 まるで悪役のような笑い声をあげながら、もうひとりの俺が去っていく。

 しかもスキップまでしてやがる。ふざけんなよお前……!


「許さん……絶対に許さんぞ……! 誰かが寝取るのはいい。だが、自分が寝取られるのは許せない……!」


 その快感は俺のものだ。絶対に俺だけにいい思いはさせてなるものかよ……!

 こみ上げてくる怒りを背に受け、もうひとりの俺――いや、やつはもう袂を分かった別人だ――俺・オルタの野望を阻止すべく、俺はその場から駆け出すのだった。


  ♢  ♢  ♢


「おかしい……これはどういうことだ……?」


 俺・オルタは狼狽していた。

 人気のない道に立ち尽くし、何故こうなったかを考えているようだ。


「ここにも間男さんがいないなんて……さっきからずっと街を駆け回って間男さんのいるはずの場所を巡っているのに、どういうことなんだ……?」


 この手のゲームには攻略スポットというものがある。

 特定の場所を訪れたらイベントが発生し、フラグが立つようになっているのだが、どういうわけかその場所に来てもイベントが起こらないどころか、人の気配すらないのだ。

 間男さんがいないのでは、当然寝取られだってされない。

 イベント進行すらしない事態に焦る俺・オルタの姿に満足しながら、俺はゆっくり歩を進めて声をかける。


「よお、お探しのものはこいつらかい?」


「!? お前……!?」


 驚きに目を見開く俺・オルタに向かって、俺は両肩に抱えていた大量の間男さんを放り投げる。

 ドササッ!と重い落下音とともに地面に転がる間男さんの群れ。そのいずれもが、俺が作り、始末した間男さんだ。


「クククッ、お前が間男さんの居場所を知っているのなら、当然俺だって知っている。まして身体能力は俺の方が遥かに上だ。お前が間男さんとイベントを起こす前に潰すなんて、ワケがないことだよなぁ?」


 自分で丹精込めて作ったキャラを始末するのは心が痛んだが、俺・オルタに寝取られを満喫させないためだと思えばどうということはない。

 ニヤリと笑みを浮かべる俺を驚愕の顔で見ていたもう俺・オルタだったが、やがて憤怒の表情を浮かべると、射殺すような目を向けてくる。


「もうひとりの俺……お前、一体どういうつまりだ!? 俺が寝取られないと、お前はずっとボブのままだ! 元の世界にだって帰れないんだぞ!?」


 フン、そんなことは百も承知だ。俺・オルタに言われるまでもなく理解している。


「分かっているさ……だがな、それでも俺はお前だけが寝取られを満喫するのは許せねえ! 俺が寝取り役になんてなってるのに、なんでお前が寝取られて幸せになろうとしてんだ! そんなの納得出来っかよ! 寝取られるのは俺の方だ!」


 器が小さいと笑いたければ笑え。

 だがそれでも、俺の姿をした俺・オルタより、ボブであっても俺が寝取られたくて仕方ないのだ。


『んほおおおおお♡♡♡ 杉原くん器小さすぎぃ♡♡♡ でもそんなに寝取られを愛してくれてるなんてだいしゅきぃ♡♡♡ オルタくんのほうももうひとりの自分から寝取られたいだなんて、なんて業が深いのおおおおおお♡♡♡ おっほ♡♡♡ 今度はエロゲーの神が杉原くんに目を付けてるぅ♡♡♡ 私また寝取られちゃうううううう♡♡♡』


 ……脳内に突然響いた声は無視することにしよう。罵声を浴びせられるのは大好きだが、変態の戯言に耳を貸したら耳が腐る。


「さあ選べ俺・オルタ! 燐子を俺に差し出したうえで俺から寝取るか! それともこのまま俺に抗い体力をゼロにされるか! バッドエンドでもエンドはエンドだ。この世界から脱出出来る可能性は十分にあるんだぜ?」


「くっ……」


 俺の脅しを受けて悔しそうに歯噛みする俺・オルタ。

 遥か遠き理想郷が現実になろうとしていたところだったのだ。

 それを手放すのは絶対に嫌だ。そう思っているのが手に取るように分かったが、だからといって容赦する俺ではない。

 

「さぁどうす……ゔっ!!!」


 更に追い打ちをかけようとしたのだが、突然の異変が俺を襲う。

 急に下半身がうずいたというか、ムラムラし始めたのだ。  

 なんなら動悸もひどいし、ひどく興奮もしてきている。これは一体……。


「ククク、ようやく媚薬が効いてきたようだな」


 狼狽えていると、俺・オルタの笑い声が聞こえてくる。


「媚薬、だと……!?」


「ああ、そうさ。学校でお前の話を聞く時、ジュースを渡したろ? あれにちょっと盛っていたのさ。遅効性だから時間がかかるとは思っていたが、ベストタイミングだったみたいで安心したぜ」


 コイツ……相手はゲーム最強の寝取り・モンスターだぞ!? 

 その相手にこんなこと……するな、俺なら。うん、間違いなくするわ。だって絶対寝取られたいもん。納得しかない。

 だが事態はこれだけでは終わらなかった。


「学。来たけど、どうしたの? なにか用事?」


「なっ、燐子……どうしてここに……!?」


 俺の幼馴染であり、このゲームのヒロインでもある燐子が姿を見せたのだ。

 よりによって何故こんなタイミングで……!


「クククッ、勿論俺が呼び出した。言ったろ? ベストタイミングだって。発情しているお前は、絶対に燐子を襲って寝取らざるを得ないってことさ! 恨むなら精力999の性欲を恨むがいい!」


「ぐおおお……! き、貴様ぁ……!」


 なんとしてもボブである俺に寝取らせないのか。

 我ながらなんという寝取られへの執念だ。敵ながら感服せざるを得ない。だが……。



「ふざ、けるな……性癖が、性欲如きに負けるかああああああああ!!!!!」


  

 裂帛の気合とともに、俺は立ち上がる。

 寝取るなんて冗談じゃない。俺の性癖は寝取られだ。同じNTRだろうと、寝取りになんか絶対に負けない!


「まさか、まだそんな力が残っていたとはな……だが、絶対に寝取ってもらうぞ! 俺の性癖を満たすためにな!」


「黙れ! 寝取られるのは俺の方だ! お前だけにいい思いなんて絶対させねぇ!」


 自分同士で醜い争いを繰り広げる俺✕2。

 絶対負けられない戦いがそこにあるのだ。寝取られで負けるわけには決していかない。


「学。学同士で争いはよくない。仲良くしよ?」


「うるさい! いいからお前は寝取られることにだけ集中……え、ちょっと待て。お前、今なんて言った?」


 燐子の発言に聞き捨てならないものを感じ、俺たちは同時にピタリと動きを止める。


「学同士で争うのはよくないって言った」


「え、お前、俺が学だって分かるのか!? 今の俺、どう見てもボブだぞ!?」


「当然。私が学を見間違えるなんてあり得ない。一目で学だって分かった。これも愛の力、だね」


 そう言って無表情のまま、ポッと頬を赤らめる燐子。

 愛云々はどうでも良かったが、燐子が俺と認識しているなら話は早い。


「よっし燐子! じゃあ早速俺の前でオルタに寝取られてくれ! そうすれば元の世界に戻れるはずだし、俺の欲求も満たせる! ハッピーエンド確定だぜ!」


「はぁっ!? ちょっと待てよ! 寝取られるのは俺の方だぞ!? ゲームの主人公より間男がハッピーになってどうすんだよ! お前が寝取れよお前が!」


「なんだとっ!?」


 再びどちらが寝取られるか争い始める俺たち。

 だが、その争いは長くは続かなかった。


「さっきも言ったけど、ふたりとも争いはよくない。」


「お゛っ!?」


「ゔっ!!!」


 いつの間に近づいてきたのか、燐子が小さく呟くと同時に首筋にプスリと痛みが走り、俺たちは同時に地面に倒れ込む。


「こ、これは……」


「ん。学に呼び出されてここに来る途中拾った時計型麻酔銃。半信半疑だったけど、ちゃんと使えたようでなにより」


 ニッコリ笑みを浮かべる燐子だったが、それは俺が配置していたアイテムだ。

 ヒロインが使える仕様になんてしていないのに、なんで!?


「おまっ、ちゃんとデバッグは!? バグ取りはしたのかよ!?」


「い、いや、テストプレイしようとする前に寝ちゃって……」


「なにやってんだよお前!? ちゃんとしとけよおおおおおおおお!!!」


 ごもっともな指摘を受けて、俺は黙るしかない。

 だって転生なんてするとは思わなかったんだもん……だが後悔してももう遅い。


「ついでにこんなものも拾ってる。アイマスクと耳栓。あと分身マシンとラブホテル転移装置だって。これがあれば私もふたりを同時に愛してあげられるし、純愛ラブラブのハッピーエンド、だね」


「「い、いやああああああああ!!!」」


「大丈夫。私が寝取れから学を寝取る……!」


 にじり寄ってくる寝取られ絶対許さないモンスターを前に、俺たちはただ絹を裂くような叫び声をあげるしかなかったのであった……。




 



 ちなみにその後。


『んほおおおおお♡♡♡ 学くんが寝取れちゃったよおおおおお♡♡♡ 悲しいよおおおおおおお♡♡♡ 次のゲーム早く作ってね♡♡♡ 今度は同人エロゲの神にも寝取られちゃうのおおおおお♡♡♡』


「「しくしくしく……」」


 寝取られの神の絶頂ボイスを耳にしながら朝チュンして裸ワイシャツを着させられた俺たちは、さめざめと泣くことになった。

 このショックから寝取られに必要な三ハクにデバッグも加わったのは、また別の話である。


 ちなみに一応元の世界には戻れたが、穢された記憶は失われず、更に寝取られにハマった俺は漫画だけでなくゲーム創作にもハマったとだけ言っておく。

 あ、ついでに寝取られの神にもゲーム制作は手伝わせた。首輪プレイが好みだったことにだけは握手を交わしたと付け加えておく。

 

 

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― 新着の感想 ―
やべええええw 笑の神来たw
う〜ん…。素晴らしいッ!!(笑) 作者様が書く『絶対にNTRされないヒロイン』が好きです♪ これからも頑張ってください!!
「総勢30人の間男さんという、NTRゲーとしては破格といえる豪華すぎるラインナップ」には噴き出して笑いました。 さすがに何かを間違えている気がしますね。 総勢30人の間男さんが並ぶサンプル画像を見てし…
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