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第八十八話 接続の条件

「マナフィールだぁ??」


アデルが眉間にしわを寄せて、舌っ足らずにその単語を繰り返す。


「マナフィール……って?」 


リノアも首をかしげた。

二人の視線が自然とぶつかり合い、そのまま同時にモッカへ向く。


木のメイドは、こてん、と首を傾けてから、いつもの淡々とした声で説明を始めた。


「“マナ共有”です。

 お互いのマナロードを接続し、片方のマナを補う魔法――

 それがマナフィール」


「なんだそりゃ? それ使えれば強くなるのかよ!!」


アデルが、食ってかかるように身を乗り出す。


「もちろんです!!」 


珍しく語尾が強く跳ねた。


木製の顔には表情がないのに、声色だけで“本気”なのが分かる。 


「リノアさんがアデルさんとマナフィールを行えば――

 リノアさんはマナ欠乏症を心配する事なく魔法を撃てます」


「ッ!」


リノアの肩がびくっと揺れる。

あの、頭痛と吐き気で立てなくなった感覚が、一瞬、脳裏をかすめた。


「さらに、マナ総量も必然的に上がります。

 ゆえに、威力の高い魔法も、より安全に撃てるようになるでしょう」 


「そんな事、出来るんだ……」


リノアは、自分の胸元にそっと手を当てた。

マナが、身体を流れるイメージが浮かぶ。

そこに、アデルの膨大なマナが流れ込むとしたら――


鳥肌が立つほどの力になりそうで、同時に少しだけ怖かった。

 

「はい。マナフィールは、グラヴェル様が考案した魔法です」


「おい!!」 


アデルがテーブルを指でどん、と突く。


「オレ魔法使えねえからよ、それ覚えたって意味ねえだろ!!

 どうせリノアしか得しねえじゃねーか!」 


「そんな事はありません」


モッカは、すっとアデルの方を向いた。 


「マナフィールは、体内にあるマナの“流れ”を良くします。

 この世界で名を馳せている人物達は皆、体内のマナ・フロウが優秀です。

 そうする事により、全身にマナが行き渡りやすくなり――

 身体能力が格段に上がるのです」 


「そんな事、今まで聞いた事なかったぞぉ!!」 


「普通は、“感覚”でやっていますからね。

 アデルさんの場合は、魔法を撃てないぶん、マナの流れが悪い。

 例えるなら――泥です」

 


「アデルのマナ泥だって」


即座にリノアがツッコミ半分の感想を漏らす。

 


「うるせぇ!!」



アデルが睨み返すが、泥と言われると否定しきれない。

確かに、体の中で何か重たいものが、うまく動いてくれない感覚は常にあった。


「ですが、マナフィールを行えば――泥は、綺麗な水に変わります」


 

「……ほんとかよ」

 


アデルは、不承不承といった様子で腕を組む。 


「まあいい。で? どうやって使うんだ、その魔法!!」


「アデルさんには使えません」


「はあ? 舐めてんのかぁ!?」



即座に立ち上がるアデルを、モッカがさらりといなす。



「マナロードが“見える”リノアさんが扱う魔法です」


「え! そうなの!!」


リノアの目が一気に輝く。

自分だけに託された“何か”というのは、怖くもあり、嬉しくもある。 


「あっ、言い忘れていました」 


モッカはぽん、と手を打つジェスチャーをした。 


「マナフィールは、“同じ属性同士”でしか扱えません。

 違う属性のマナを強制的に流し込んだ場合――」



一拍置いて。


「体が弾けます♪」

 


「え……」


 


軽いノリの音符が、一気に地の底まで落ちていった気がした。 


「おい!! 楽しそうに言うんじゃねえ!!」


アデルが怒鳴り、ケイラがビクッと肩を震わせる。


「モッカ、誰か失敗した人がいるの?」


リノアが恐る恐る尋ねると、モッカは淡々と頷いた。 


「ええ、いますよ。お二人は既に戦ったじゃないですか? 


「戦った……?」 


アデルとリノアは、同時に記憶を探る。


黒い森。

あの大樹。

絡みつく根、雨のように降る葉、ーーー


「聖骸樹姫・セラフィル・ドライアです」 


「「ええええええ!!」」

 


声が揃った。

 


「彼女は、本来は“光”と“風”の微精霊に愛された聖女でした。

 ですが、実験中に“合わない属性”を無理やり取り入れ――」 


そこから先は言わなくても、想像がついた。 


「さあ!」 


モッカが手をぱん、と叩く。


「それでは、リノアさんにマナフィールのやり方を教えます。

 ケイラ、こっちへ」 


「は、はいでっす!」 


ケイラが慌てて椅子から降り、リノアの隣に立つ。

尻尾が緊張でふくらんでいる。


「アデルさんは、とりあえず見学です」


「チッ!」


舌打ちを一つ残して、アデルは椅子にどさっと腰を下ろした。


 


「まずは、マナのコントロールから教えます。

 これが出来ないと、マナフィールはかなり厳しいです」 


モッカは、ケイラの方へ向き直る。

 

「ケイラ。手のひらの上に、マナの球体を作ってみてください」


「はいでっす!」


ケイラはこくりと頷き、両手を前に出す。

ふっと息を整え、目を閉じ――

手のひらの上に、風のマナを集めていく。


揺らぐ空気が、やがて一つの形をとる。

小さな、淡い緑色の球体が、ふよふよと浮かんでいた。 


「とりあえず、まずはこれが綺麗に出来るようになってからですね。

 え……? リノアさん……?」 


モッカがくるりと振り向いた先で。 


「ケイラ、見て! わたしの方が大きいね!」 


リノアの手のひらの上にも、既に丸く整った風の球が浮かんでいた。

サイズはケイラの倍以上。表面も滑らかで、揺れが少ない 


「リノアさん! すごいでっす!!」 


ケイラが目を輝かせる。 


「これは……予想以上ですね」 


モッカは小さく頷き、次の課題を出す。 


「では、次です。

 ケイラ。マナで“細い糸”を作ってくれますか?」 


「はいでっす!」


ケイラは再び目を閉じ、今度は球体をぎゅっと細く伸ばすイメージをする。

手のひらの上に、ほつれそうなほど細い一本の“線”が現れた。

 


「リノアさん。あくまで“糸”はイメージです。

 マナフィールは、“小さな穴に糸を通す”ような行為になりますので、

 まずはマナの糸を作る訓練が必要です」


「わかった!」 


リノアは軽く息を整え、手のひらを見つめる。


風鞭を作る時の感覚を、ぐっと小さく、小さく――

分厚い鞭の一部だけを、引き伸ばして糸にするイメージで 


「マナで糸を作るのは、割と難しいです。

 ケイラも半年かけてやっとできたので……へ? ……」 


モッカの声が途中で途切れた。 


リノアの手のひらの上には、すでに一本の“風の糸”が、ぴんと張られていた。 


「わたし、マナで鞭作って戦うからさ。

 それの小さいの作れば糸になるかなって思ってやったら……出来ちゃった」 


「あなたは、一体……」 


モッカの声色に、珍しく困惑が混じる。


ゴーレムであるはずなのに、明らかに頭を抱えた気配がした。

 


「……ゴホン。では、リノアさんは“形を作る”段階は問題なさそうですので」

 


木の喉を鳴らして気を取り直す。 


「今度は、自分自身の“マナロード”を感じ取れるようになっていただきます」

 


「どうやってやるの?」

 


「ただ、ひたすら集中するだけです。

 グラヴェル様いわく、『慣れればできる』だそうです」 


「慣れればって……全く感じ取れないよー……」


リノアは頬を膨らませる。


身体の中を流れるマナは“なんとなく”分かる気がする。

でも、「どこを通っているか」を輪郭のある線として捉えるのは、別の話だった。

 


「ふふっ。リノアさん、それが出来るまで、次の段階には進めませんよ」 


「えー……」


情けない声を漏らすリノアを横目に、モッカはくるりと向きを変えた。

 


「では次は――アデルさんです」


 


「やっとオレの番だぜぇ!!」


 


アデルが椅子をきしませて勢いよく立ち上がる。


その目は、さっきまでのふてくされた色を少しだけ薄めて、

「今度こそ自分にも出来る何か」を探すように、わずかに期待で光っていた。

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