表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/89

第八十話 穴の向こうにある塔

穴の縁までたどり着いた瞬間、四人は同時に足を止め、闇の底を覗き込んだ。


「下、真っ暗じゃねえか!!」


アデルが顔をしかめ、足元に転がっていた石を拾い上げる。

それを指先で弾くように放り投げた。


カチンッ――。


乾いた音が、ほんの少しだけ遅れて響く。


「そこまで深くない、かもしれんな……」


ルインが耳を澄ましながら呟く。


「この中、飛び込むか?」


「わたし、飛び込む勇気まだないんだけど……」


リノアが顔を引きつらせて後ずさる。


「この下、魔物でもいるんですかね……?」


ゼーラは縁から少し離れ、谷底から吹き上がってくる冷たい風に身を竦めた。時折、下からふっと風が吹き上がり、四人の頬を撫でていく。


「オレ行くわ!」


アデルが急に立ち上がり、拳を握る。


「この下に塔があるはずだぁ!!」


「そんなわけないじゃん!!」


リノアが即座にツッコミを入れる。


「なんで下に塔なんてあるのよ!!」


「そうだぞ、アデル」


ルインも眉をひそめる。


「魔物の巣かもしれないしな……」 


「うるせぇな!! おまえらはよ!!」


アデルは苛立ったように両手を広げた。


「塔がこの樹海で見れたか? 見れてねえよな!? 見れてねえなら――下にあんだよぉ!!」


「理屈が雑!!」


リノアが叫ぶより先に、アデルの身体は――もう、穴の中に消えていた。 


「ちょっと!! アデル!!」


リノアの心臓が跳ね上がる。考えるより先に、体が動いていた。 


「アデル!! 待って!!」


リノアも勢いのまま穴に飛び込む。 


「私も行きます!」


ゼーラが慌てて続く。


「ええ……ちょっと、俺、心の準備が……!」


ルインは顔を引きつらせながら縁に立つ。


「アデル、谷怖がってたのになんで穴いけんだよ!! くっそーーー!!」


最後は半ば自棄になって、穴に身を投げた。


重力が、一気に四人の身体を引きずり落とす。


視界がブレる中、アデルの声が響いた。


「リノア!! 下に魔法撃てぇ!!」 


「わかった!!」


リノアは胸の前で指を組み、落下の恐怖を振り払うように叫んだ。


「アネマァアア!!!」 


瞬間、足元から強烈な風圧が吹き上がった。


四人の落下速度がぐっと鈍り、ふわりと空中で浮くような感覚に変わる。

同時に、下の方がぼんやりと明るくなった。


「下に……発光石があります!!」


ゼーラが目を凝らして叫ぶ。


床一面に散らばった発光石が、乳白色の光で空間を照らしていた。

 

「うううう!! 地面までまだか!?」


アデルが空中でばたつく。


「もう一回いく!! アネマ!!」


リノアは再び風を放つ。

第二波の風が四人の体を下からしっかりと受け止め、そのまま優しく地面へと押し下ろした。


ふわり――。


四人は、ごとりと軽い衝撃を残して、無事に着地する。


「リノア!! よくやったぜぇ!!」


アデルが満面の笑みで親指を立てる。


「リノアさん!! 流石です!!」


ゼーラも胸を撫で下ろした。


「た、助かった……胸がキュッてなってた……」


ルインも息を吐き、天井を見上げる。


見渡せば、そこは発光石の光で、薄闇の洞窟とは思えないほど明るかった。

淡い光が岩肌に反射し、どこか幻想的な雰囲気を作り出している。 


「ねえ! みんな!!」


リノアが壁の方を指差す。


「壁に穴が空いてるよ!! しかも――めちゃくちゃ沢山ある!!」 


見れば、洞窟の壁という壁に、無数の丸い穴が開いていた。

大小様々なその穴は、まるで巨大な蜂の巣のようだ。


「……何か、通った跡なのか?」


ルインが穴の縁をしゃがんで眺める。


「魔物、ですかね……?」


ゼーラは少し顔を引きつらせながら壁を見上げた。


三人がどの穴に入るか悩んでいると――


アデルだけが、迷いなく一つの穴へ向かって歩き出していた。 


「ちょっと!! アデル!!」


リノアが慌てて呼び止める。


「その穴なの?」 


「何がだぁ??」


アデルは振り返りもせずに答える。


「何がだぁ??じゃなくて!! なんでその穴に決めたの?」 


「そんなの決まってるだろぉ!!」


アデルは胸を張り、人差し指でその穴をぐさっと指した。


「なんとなくだぁ!!」


「もう!! 考えなさすぎ!!」


リノアは両手を広げて天井を仰ぐ。 


「でも、どうしますか?」


ゼーラは他の穴を見回しながら言う。


「どれか一つに絞りませんと、ここにずっといるわけにもいかないですし……」


「おい!! なんだあの光!!」


ルインが急に声をあげた。


洞窟の奥のほう――薄暗い通路の向こうから、ふわふわと小さな光が近づいてきていた。 


「……あの光、俺達の方へ向かってきてるぞ!!」 


「敵なら、一撃でぶっ飛ばす!!」


アデルが腕を回し、構えを取る。


四人はそれぞれ構え、戦闘態勢に入る。

 

だが、近づいてくるその光の輪郭が、徐々に“人の形”を帯び始めて――


「おい、てめぇは……」


アデルが目を凝らし、眉をひそめたかと思うと―― 


「あれ?? やっぱり人ですよねっ――って、え、え……えええええええ!!!アデルーーー!!!」


叫びが洞窟に響く。


「ユーリじゃん!! えええ!! ユーリじゃん!!!!」


「ユーリさん!!! まさか、こんな場所でお会いするなんて……」


「ユーリかよ!! 後、プクプクもいるじゃん」 


光の正体は、発光石を握りしめた青年――冒険家のユーリだった。

そして、丸っこい生き物・プク(プクプク)がユーリの隣で浮いていた。


「アデルゥウウウウウウウウ!!!」


ユーリが目をキラキラさせながら叫ぶ。


「そしてリノアさん!! ゼーラさん!! ルインさん!!!!

わぁああああ!! お久しぶりですぅうう!!」


一気に駆け寄ろうとしたユーリは――


見事に、足元の小石につまづいた。


「ぉべっ――」


盛大に転びかけ、ギリギリのところで踏ん張る。 


「おまえ……変わらずだな……」


アデルが呆れたように吐き出す。 


「アデルうるさい……僕だって、ちょっとは筋肉ついたし!!」 


「けっ!! まだもやしだわ!!」 


「もやしじゃない!!」


プク太も「プクプクー!!」とアデルに向かって抗議するように鳴く。 


ルインが小さく笑いながら、ユーリに問いかけた。


「おいユーリ、そんなことより、なんでこんな場所にいるんだ?」 


「あ、えーとですね……」


ユーリは発光石を持ち直しながら、洞窟の天井を見上げる。


「穴があったんですよ……それで中に入ったら、巨大ヤスデの巣みたいで……大変でした!」 


「ここは、ヤスデの巣なんですか? それと“大変”って……襲われたんですか!?」


ゼーラが目を丸くする。


「ゼーラさん違います!」


ユーリは両手をぶんぶん振る。


「説得ですね! ヤスデが邪魔で道通れない所があったので、通してもらうように説得してたんです!」 


「……あー、ユーリさん魔物と話せるんでしたね」


ゼーラが苦笑まじりに納得する。


「でも、みなさんはどうでしたか?」


ユーリは四人を順に見つめる。


「久しぶりにお会いしましたけど、ここまでの旅は……」 


その問いに、四人の表情が、揃って暗く沈んだ。


誰も、すぐには言葉を返せない。 


ユーリはその空気を感じ取り、慌てて話題を変える。


「あ、あの……なぜ皆さんは、この穴の中へ?」 


「わたし達はね……」


リノアがアデルを半眼で睨みながら言う。


「アデルが、“塔は下にある”って言って先に降りちゃったから、仕方なくわたし達も降りちゃったの!!」

 

「そうなんですか!!?」


ユーリの目がまん丸になる。


アデル以外の三人は、揃ってこくこくと頷いた。 


「うるせぇな!!」


アデルが口を尖らせる。


「上に塔見えなかったら下だろぉ!!」


「アデルの言う通りだよ!!」


ユーリが慌ててフォローするように言った。


「僕、出口ないか探してる時、塔を見たんだよ!!」 


「えっ!! ユーリほんと??」


リノアが勢いよく顔を上げる。

 

「うん!! リノアさん、本当です!!」


「ほら!! ボッケェ!!」


アデルが鼻で笑う。


「塔、あったじゃねえかよ!! 下によぉ!!」


「アデルのテキトーな発言が、見事当たるとはなー……」


ルインが呆れたように頭をかく。 


「私も、ただ木々が邪魔で塔が見えないだけかと思ってました……」


ゼーラも苦笑する。


アデルは三人の顔を見回し、勝ち誇ったようにニヤニヤした。

 

「それでユーリ、どの穴から行けばいいんだ?」


ルインが本題に戻す。 


「それはですね!」


ユーリが指をさした先――


今まさに、アデルが立っている穴。


「今ちょうどアデルがいる場所の穴から、真っ直ぐ行けば着くはずです!」 


「見やがれボケェ!!」


アデルがドヤ顔で胸を張る。


「オレの読み、当たってたじゃねえか!!」 


リノアとゼーラ、ルインは、揃ってじとっとした目でアデルを見た。 


「ユーリさん、ありがとうございます!!」


ゼーラがぺこりと頭を下げる。


「塔がまさか下にあるとは……驚きでした!」 


「それよりユーリは、この後どうするんだ?」


ルインが問いかける。 


「そのですね……」


ユーリは少し遠慮がちに、リノアの方へ向き直った。


「一個、リノアさんにお願いがあるんです……」 


「え!? わたし!?? なに、ユーリ?」


リノアが首をかしげる。 


「僕を外へ出して欲しいんです……アネマを使って……」 


「え? 別にいいけど……どうやって……?」 


ユーリは、プク太の顔を、両手でそっと掴んだ。


「プク太、お願い!!」


そう言うと――プク太の耳が、ばさっと大きく広がった。 


「これで、下から風を起こしていただければ、上手くいくと思うんです!!」


ユーリはポケットから一枚の紙を取り出す。

 


「あと、これ。近くの塔まで記されている地図です! どうか使ってください!!」 


リノアはその地図を両手で受け取り、大事そうにポケットへしまい込む。


「ありがとう!! ユーリ!!」 


「いえ!! こちらこそ!!」


ユーリは照れくさそうに笑った。


「皆さんに、またお会いできて本当に嬉しいです!! またどこかでお会いしましょう!!」 


「じゃな! ユーリ!!」


アデルが手を振る。 


「はい! またお会いしましょう!」


「ユーリ!! また会った時、飯でも食おうぜぇ!!」 


「ユーリ!! 行くよ!!」


リノアはユーリとプク太の真下へ立ち、深く息を吸い込む。


「アネマ!!」 


風が、縦穴の中を一気に駆け上がる。


プク太の大きく広がった耳が帆のように風を受け、ふわりと浮かび上がった。

ユーリもその背に乗ったまま、ふわふわと上昇していく。


「うわあああ!! 上がってる上がってるぅう!!」


ユーリの声が遠ざかっていく。


小さくなっていく影が、穴の縁に近づき――やがて、外の光の中へ消えた。 


「ユーリ、手振ってんのかぁ?」


アデルが目を細める。


「そう思うけどね!」


リノアも笑いながら、同じように手を振る。 


「まあ、いいや!!」


アデルはくるりと後ろを向き、例の穴の前に立つ。


「塔へ行こうぜぇ!!」


四人は、それぞれ表情を引き締め――

ユーリが教えてくれた、その穴の奥へと、塔を目指して歩き出した。

本日も見てくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ