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第六十二話 再生の代価

「おい……そこ、どけやぁああ!!」


 アデルは叫ぶなり、リノアの前に立ちはだかる赤いヒトガタへ真っ直ぐ突っ込んだ。


「ルーナ・カルキブス(三日月蹴り)!!」


 三日月を描くような鋭い回し蹴りが、赤い樹の巨人——

赤樹胎(せきじゅたい)の頭部めがけてうなりをあげる。


 だが。


 バシィッ。


 赤樹胎は、その蹴りをまるで“当たり前”のように、片手でがっちり受け止めた。


「っ……!」


 アデルの足が止まる。

 瞬間、顔を歪める暇も惜しんで、そのまま両手を使った連撃に移る。


「くたばれやぁああ!!」


 拳、肘、膝、さらに再度の蹴り。

 矢継ぎ早に叩き込まれるアデルのコンビネーションが、赤樹胎の胴体・首・顔へと雨あられのように飛ぶ。


 ——が、全部、止まる。


 赤樹胎は、一歩も退かない。

 太い腕とツタの防御だけで、アデルのすべての打撃を受けきった。


「な……だと……」


 愕然とした次の瞬間、初めて“攻守”が逆転する。


 ズドンッ。


 赤樹胎の長い脚が、地面を抉りながら振り上げられ——アデルのガードの上から叩きつけられた。


「——っぐぅ!!」


 腕で受けたにもかかわらず、その一撃だけで身体が宙に浮き、地面を何度も転がる。


「なんだ……コイツ……一撃が……重い……」


 左腕がビリビリと痺れ、触れただけで骨ごと軋むような痛みが走る。


 追撃は止まらない。

 今度は赤樹胎が前へ出て、無表情のまま、執拗なラッシュを始めた。


「くそっ……重てえ……!」


 拳、蹴り、ツタの鞭。

 ひとつひとつがさっきと同じ“質量”を伴って襲いかかる。受ければ骨がきしみ、避けても風圧で体勢が崩れる。


 赤樹胎の腕が大きく振りかぶられた瞬間、アデルはほんの僅かな隙を見逃さない。


「——そこだ!

 インド・ラプト(関節粉砕)!!」


 伸びきった腕の肘を狙い、カウンター気味に拳を叩き込む。

 バキ、と嫌な音を立てて、赤樹胎の腕が“逆方向”に折れ曲がった。


「よし——」


 だが。


 ミチミチミチ……。


 折れたはずの腕は、何事もなかったかのように元の位置へと戻っていく。


「すぐ元通りになんのかよぉお!!」


 折った手応えは確かにあった。それでも、目の前の樹の怪物は、痛みのひとつも見せず、ただ淡々と再び構えを取るだけだった。


 目の前には、まだ膜の向こう側で眠り続けるリノアがいる。

 そこまでの距離は、たった数十メートル。

 しかし、その数十メートルを塞ぐ“壁”が、あまりにも分厚い。


「だったら——ぶち抜くだけだ!!

 プグヌス・ディレクトゥス(直進する拳)!!」


 一直線に叩き込まれる渾身のストレート。

 しかし赤樹胎は、まるで煩わしい虫でも払うかのように、左腕でその拳を軽く弾き飛ばした。


 アデルの身体が半回転しそうになる。

 だが——それすらも利用する。


「オレの攻撃は、まだ終わってねえ!!

 ヴェルソ・プグヌス(裏拳)!!」


 回転の遠心力を乗せた裏拳が、唸りを上げて側頭部を狙う。


 ガキィン!


 しかしそれすらも、右腕のガードに阻まれる。

 そして防御の勢いに乗せて、そのままカウンターの前蹴りがきた。


「かっ——は……ッ!」


 胸にめり込む衝撃。

 肺の空気が一瞬で絞り出され、アデルの身体は無様に宙を舞い、そのまま地面をゴロゴロと転がった。


「……て、めえ……」


 立ち上がろうとするが、膝が笑う。

 赤樹胎は一歩、また一歩と近づいてくる。

 蹴り、拳。

 今度はアデルが、防ぐだけで手一杯だった。


 ガードも崩され、最後は巨体に軽々と掴まれて——


 ドゴォッ!


 大岩のように地面へと叩きつけられた。


 視界が揺れ、音が遠のいていく。

 リノアの姿が、ぼやけた光の向こうへ遠ざかって——


 意識が、暗闇へ落ちていく。


ーーーーーー


「カルガル!! しっかりしろ!!

 ヒトガタが次から次に襲ってくるぞ!!」


「ミゾラさん……ミゾラさん……ああ……ああああ……」


 カルガルは、人体樹の表面に半分飲み込まれたミゾラの姿を見て、その場に膝から崩れ落ちていた。

 ダガーを握る指は震え、目は涙で滲み、現実を拒絶するように頭を振り続けている。


 周囲からは、ツタで出来たヒトガタが次々と迫ってくる。


「くそっ……

 ファルクス・レウィス(軽風鎌)!!」


 グリムはシックルに薄く風を纏わせ、振るう速度をさらに上げる。

 斬撃の軌跡が光の線となり、迫ってくるヒトガタの首や関節を次々と断ち切っていく。


 倒しても、倒しても、すぐに次が湧いて出てくる。

 カルガルを(かば)いながらでは、なおさら前へ進むことが出来ない。


「くそ!! アデルが今どうなってるか、見に行く余裕もねえ……!」


 グリムは舌打ちしながらも、せめてカルガルだけは守ろうと刃を振るい続ける。


「カルガル!!

 まだ死んだって決まったわけじゃねえだろ!!

 立ち上がって、確かめてから悲しめよ!!」


「っ……!」


 その言葉が、カルガルの心に刺さる。

 震える膝に力を込め、歯を噛みしめ、ゆっくりと立ち上がる。


「……僕は……っ」


 ダガーを握り直し、眼前の人体樹を睨みつけた。


「うぁああああああ!!!」


 叫びと共に、カルガルはヒトガタの群れの中へ飛び込む。


「カルガル!! 無闇に突っ込むな!!」


 ヒトガタが、一斉にカルガルへ群がる。


「僕に近づくな!!

 ソルマ・テラスピナ(地棘短刃)!!!」


 カルガルがダガーを地面に突き立てる。

 刹那、一定の範囲内の大地がうねり、そこから“短剣のような岩の棘”が一斉に突き出した。


 何体かのヒトガタの脚が貫かれ、バランスを崩して倒れる。


 ——が。


 それでもヒトガタは怯まない。

 脚を貫かれた個体すら、無理やりツタを引き千切って体勢を立て直し、カルガルに向かってくる。


「なんで……

 なんで止まらないんですか……ああああ!!」


 カルガルはダガーを振るい、必死に身を守るが、数が多すぎる。

 ツタの腕が頬を掠め、鋭い棘が肩を突き刺し、腹を抉る。


「っか——……!」


 血が地面に滴る。


「カルガル!!

 ラーミナ・ファルキス(風刃斬)!!」


 グリムの放った巨大な風刃が、カルガルの周囲を薙ぎ払うように走る。

 ヒトガタの群れはまとめて切り刻まれ、ツタと枝と破片だけが残った。


「カルガル!! 大丈夫か!!!」


「グリ……ム、さん……

 僕は……へい、きです……」


 カルガルの腹部には、ヒトガタの棘による深い傷が刻まれ、そこから止めどなく血が溢れている。


「おい!! カルガル!!! しっかりしろ!!」


「グリム……さん……

 アデルさんを……助け……て……」


 そう言い残し、カルガルはぐったりと意識を失った。


「カルガル!!

 くっそ!! アデルは——!」


 グリムが顔を上げると、少し離れた場所でアデルが地面に転がり、微動だにしない姿が目に入る。


 そのすぐそばで——

 赤いヒトガタ、最初の苗木であり、今は赤樹胎となった存在が、腕を槍のように尖らせてアデルの胸を狙っていた。


「させるかよ!!

 ラーミナ・ファルキス!!」


 風刃が一直線に赤樹胎へ飛ぶ。

 赤樹胎は槍状に伸ばした左腕を振り上げ、そのまま風刃を真正面から受け止める。


 ズバァッ。


 尖ったその腕は、肘から先ごと斬り飛ばされ、地面に転がった。


 赤樹胎は静かに振り向く。

 その視線の先で、グリムがすでに背後へ回り込み、シックルを振り下ろしていた。


「へえ……今の、気づくのかよ」


 ガキィン!


 赤樹胎は残った右腕で、グリムのシックルをガードする。

 そのとき——


 ドクン……と人体樹の中心が赤く光った。


 同時に、赤樹胎の身体全体が淡い赤色の光に包まれ、斬り落とされた左腕がみるみるうちに再生していく。


「チッ……再生かよ」


 回復を終えた赤樹胎は、一切感情を見せないまま、今度はグリムへ猛攻を仕掛けてくる。


 先程アデルに浴びせたのと同じ、一撃一撃が重く鋭い打撃の連打。

 グリムはその中に踏み込みながら、冷静に目を細める。


「コイツの攻撃は重い……だが——

 パターンが単調だ!!

 アウラ・ファルキス(鎌の風気)!!」


 シックルから微かな風が放たれ、周囲の空気の流れを敏感に拾い始める。

 風が揺れる方向、圧のかかる角度——その全てが、敵の“次の動き”を予告してくる。


「——右!」


 赤樹胎の右腕が振り抜かれる前に、グリムの身体はすでにそこから離れている。

 左ストレート、ローキック、膝蹴り。

 全てをいなし、受け、時に刃で弾きながら、隙が生まれた瞬間に反撃を叩き込む。


「全部、俺がやったみたいに受け流してみろや!!」


 シックルが閃くたび、赤樹胎の腕や首、肩のツタが切断されて飛び散る。

 だが——


 ミチミチミチ……


 人体樹が赤く脈打つたび、赤樹胎の傷は瞬く間に塞がっていく。


「いくら斬っても、すぐ再生しやがる……」


 舌打ちしつつも、グリムは視線を一瞬だけ人体樹の中心へと向けた。


 そこには、膜越しに見える聖女リノアが、苦しげに顔を歪めていた。

 まるで、何かを“搾り取られている”かのように。


「……まさか」


 嫌な想像が、脳裏をよぎる。


「こいつの再生に使ってるマナ……

 聖女から吸い上げてやがるのか……?」


 人体樹が脈動するたび、リノアの表情がさらに歪み、顔色が悪くなっていく気がする。


「……クッソ……

 ア……アニキ……」


 背後で、かすれた声がした。


「アデル!! 無事か!!」


 振り向くと、アデルがふらつきながらも上半身を起こしていた。

 顔は血と泥まみれ、全身傷だらけだが、その目にはまだ光がある。


「オレ……気絶してたのか……」


「アデル。

 俺がこの赤樹胎を止めている間に、聖女を救い出せ」


「アニキ……それはわかってる。

 でもよ——アイツを倒せば早ええだろ。止める必要もねえじゃねえか」


「それがもう、出来ねえ」


「なんでだよぉ!! アニキ!!」


「コイツは、赤樹胎は再生する。その時に使うマナが——聖女から引き出されてる」


「それって……!!」


「ああ。

 俺が下手に攻撃しまくって赤樹胎に回復させちまったら、そのぶん聖女の命が削れる。

 だから俺は、こいつを“殺しきれない”。

 アデル!! お前がなんとしてでも救い出せ!!」


 グリムの叫びが、アデルの胸を直撃する。


「……うぉおおおおおおお!!」


 アデルは喉が裂けそうなほどの咆哮を上げ、全身に残った力を無理やり振り絞る。

 全身ボロボロ、骨も筋肉も限界を超えてきしんでいる。

 それでも——


(リノアを……絶対に……助け出す!!)


 アデルは歯を食いしばり、揺れる視界の中で、人体樹の中心——膜の向こうにいるリノアだけを見据えた。

赤樹胎(セキジュタイ)

人体樹の最初の苗木がマナを注がれ誕生した姿、スピード、パワーも高く、人体樹に危険が迫ると、襲いかかる



本日も見てくださりありがとうございます、いつの間にか六十話声て超えてました!あっという間です!!

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