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第六十話 森都アルセディア

二人と一羽は、野宿を繰り返しながら三日間、境風の森を駆け抜けた。

ひたすら木と土と闇だけだった景色に——ようやく、変化が現れる。


「おおお!! 遂に森を抜けたぞぉおお!!」


 視界が一気に開ける。

 鬱蒼とした木々の向こうに、巨大な樹々へ寄り添うように建てられた家々が見えた。

 木の幹をくり抜いた住居、太い枝の上に組まれた橋。森そのものを土台にした都市。


「あれが森都アルセディアかぁ!!」


「やっと、だな」


 グリムも、息を吐きながら小さく頷く。


「とりあえずギルドへ寄るぞ。闇獣について報告しねえといけねえ」


「おお! そうだな!!」


 アデルが元気よく返事をすると、足元のドゥドゥが誇らしげに鳴いた。


「それと、モリハクも休ませてやらねーとな」


「アニキ、“モリハク”ってこのドゥドゥのことか?」


「ああ。森みたいな色で尻尾が白いからな。

 “森”+“白”で、モリハクだ。どうだ、アデル?」


「すっげーかっけえぜ!! よろしくな、モリハク!!」


 ドゥドゥ改めモリハクは「クエッ」と短く鳴き、胸を張るように首を伸ばした。


 そんなモリハクに引かれながら、二人はアルセディア森都へ足を踏み入れる。


 そこは——まさしく“森の中にそのまま都市を建てた”場所だった。

 太い樹々を中心に、幹や枝へ張り付くように家や店が建ち並び、木の橋が空中を何本も走っている。

 地面の道も、土と苔と木の根が入り混じっていて、踏みしめるたびに弾力ある感触が伝わる。


「森の中に、そのまま家建てた感じだな!」


「中々見たことねー光景だよな……」


 獣人族の姿も多い。

 獅子、狐、兎、熊——獣耳や尻尾を揺らしながら、荷物を担ぎ、笑い合い、忙しなく行き交っている。


 しばらく進むと、「冒険者ギルド」と刻まれた木の看板が見えてきた。

 モリハクを入口横のスペースに繋ぎ、二人は重厚な木扉を開けて中へ入る。


 扉が軋む音とともに、ギルド内のざわめきが一瞬だけ弱まる。


「おい、あのグリムって奴、ボロボロだぞ」


「あの討伐依頼、完了したってことか……? 前に挑んだ連中、二十人殺されたんだぞ、あの闇獣に」


「っつっても、本当に“闇獣”なのかは知らねえけどな」


 カウンターへ向かうグリムに、周囲の冒険者の視線が集まる。

 ひそひそ声が耳に障るように届き、アデルの眉がピクリと動いた。


「おい、アニキ、あいつら——」


「アデル」


 短い呼びかけに、アデルは振り返る。

 グリムは横目だけで周囲を流し見し、低く言った。


「ほっとけ」


 いつになく静かな声だった。

 アデルはぐっと喉の奥で罵声を飲み込み、舌打ち一つだけして我慢する。


 グリムは受付カウンターへ歩み寄った。

 受付嬢が顔を上げ、グリムの姿を認めると、わずかに表情を強張らせ、それでもすぐに笑顔を作る。


「グリムさん、おかえりなさいませ」


「すまん。闇獣ドンテン——討伐失敗だ」


 一瞬、ギルド内の空気が固まる。


「わ、分かりました。クエスト失敗ですね。あの……本当に、闇獣だったのですか?」


 受付嬢の声に、わずかな緊張が滲む。

 それは“報告の真偽”ではなく、“そこに現れた存在”への恐怖に近かった。


「ああ。俺がドンテンと会った時には、すでに三つある目のうち、一つが潰されていた」


 グリムは隣の少年へ顎で合図する。


「こいつ、アデルが最初にドンテンと戦ってた」


「そ、そうなんですか!? 少々お待ちください」


 受付嬢は慌てたように俯き、カウンターの下を確認する。

 何度か視線を下へ落としてから、再び顔を上げた。


「それで、その後、闇獣はどうなりましたか?」


「もう一つ、目玉を潰したら……逃げて行った。それから先は、わからねえ」


 受付嬢は短く息を飲む。

 再び、カウンターの下へちらりと視線を走らせ——内容を確認するように頷いた。


「かしこまりました。この闇獣の件は、改めてギルド長へ詳細を報告させていただきます。お疲れ様でした」


「ああ。行くぞ、アデル」


「はあ? これで終わりか? 闇獣倒してねえけど……これで終わりなのかよ」


 アデルが不満を露わにする。

 グリムは肩をすくめた。


「そんなもんだ。結果は結果だ。

 それに、まだ“本当に闇獣かどうか”わかってねえ」


「どういう事だよ!! 三つ目のクソキノコだろ!!」


「まあまあ落ち着け。

 ギルドはここから本腰入れて調査する。依頼自体も随分前のもんだし、いろいろ確認が必要なんだろ」


「確認ってなんだよ!! オレ達、嘘なんて言ってねえだろ!!」


「嘘は言ってねえよ。受付嬢も、俺達が本当のことを言ってるってわかってた」


 グリムは、さきほど受付嬢が何度も視線を落としていたカウンターの下を指さす。


「なんで受付嬢にそんなことわかるんだ? 嘘見抜く特別な能力持ちだったのか?」


「違うよ。受付嬢、時々テーブルの下見てただろ?」


「おう、見てたな」


「あそこに“白識石(はくしきいし”って石が置いてある。

 話してる内容が嘘かどうか、色の変化でわかるらしい」


「なんだその石!! 初めて聞いたわ!!」


「ま、そういう石があんだって覚えときゃ十分だ」


「……チッ、わかったよ!! ならアニキ、とっととリノア達探そうぜ!!」


 二人はギルドを出た。

 外で待っていたモリハクが「クエッ」と鳴き、二人を出迎える。


「とりあえず、アデルの持ってる安眠草を売ってる店に行くぞ」


「なんでそこ行くんだよぉ! オレ買わねえぞ、安眠草なんて!!」


「買うんじゃねえ。

 アデル達は安眠草を使われて眠らされたんだろ? そいつらは“誘拐”の道具として安眠草を使ってる。

 普通の奴らより、異様な量を買ってるはずだ。

 だから——“誰がどれくらい買ってったか”、薬草屋に聞く」


「……そういうことか!! 流石アニキだぜ!! 早速行こうぜ、薬草屋へ!!」


「ただし、この森都は薬草屋が多い。

 一店舗ずつ、潰していくぞ」


「上等だ!!」


 二人はモリハクを預け、アルセディアの街路を駆け出した。



 木の幹を改造した店、枝の上に建てられた露店——

 森都アルセディアには、その地の利を生かした薬草屋がいくつも並んでいた。


 最初の一軒を見つけたグリムが、扉を押し開ける。アデルも続く。


「いらっしゃーい」


 カウンターの向こうから、気だるげな声。

 髪も髭もぼさぼさの、年配の男が顎を掻いていた。


「悪い、店主。薬草を買いに来たわけじゃないんだ」


「ん? 客じゃねえなら帰ってくれー」


「おい、ジジイ!! 話くらいいいだろうが!!」


 アデルが一歩詰め寄るのを、グリムが片手で制した。

 代わりに、ポケットから安眠草を取り出し、カウンターの上へ放る。


「これを大量に買った客とか、いるか?」


「安眠草をか?……おめえ、こんなモンどこから持ってきやがった」


 男の目が、一瞬だけ細くなる。


「俺の店じゃ扱ってねえ。

 ってか安眠草自体、禁止ってわけじゃねえが“取引制限草”だ。

 国か都市に認定された薬草屋しか置けねえ」


「何!? そうなのか!!」


「ああ、そうだとも。

 他の薬草屋にも聞いてみな。

 ちなみに、この辺りに“認定薬草屋”はねえけどな。話は以上だ!!」


 店主は手でしっしっと追い払う仕草をする。

 アデルが噛みつこうとしたところで、グリムが店を出たので、舌打ちしながらそれに続いた。


「おい、アニキどうすんだよ!!

 どこも売ってねえって言ってたじゃねえか、あのジジイ!!」


「とりあえず、他の店だ。

 “扱ってない”って情報も、一応の手がかりにはなる」


 その後、二人は森都中の薬草屋を回った。

 結果は——どこも同じ。


『うちでは扱ってない』『認定店じゃないからな』『見たことはあるが、仕入れたことはない』


 安眠草は、この都市では「一般に出回らないはずの物」だった。


 夕方、ようやく二人は広場のベンチに腰を下ろす。


「リノア……ゼーラ……ルイン……お前ら、どこ行ったんだよ……」


 アデルは握り拳を膝に押し付けながら、唇を噛む。


「手がかりがねえ……。何も情報が出ないと、どこに向かえばいいかすらわからん……」


 グリムも、目を閉じて深く息を吐いた。

 モリハクは二人の足元で丸くなり、じっと様子を窺っている。


 そのときだった。


「あの!! 少し伺いたいことがあります!!」


 不意にかけられた声に、二人は顔を上げる。

 横を見れば——熊の耳と短い尾を持つ、大柄な獣人族の青年が立っていた。

 丸い瞳が、不安と必死さで揺れている。


「なんだ、聞きたいことって……」


 グリムが応じると、熊獣人の青年は拳を握りしめた。


「実は僕……聖女パーティーなんです!

 仲間は聖女様を含めて三人なんですけど……ある時、クエストのために鳥車に乗って移動したんです。

 気づいたら——僕一人だけ森に捨てられてました。仲間とはぐれて……」


 そこで彼は、アデルの手に握られた草へ視線を落とす。


「いろいろ調べて、僕たちは“この安眠草”で眠らされたんだって、後でわかりました。

 だから——丁度その安眠草の話をされていたので……思わず声をかけてしまいました」


「お前らもか!!」


 アデルが立ち上がる。


「オレも眠らされて、仲間を連れてかれたんだ……。

 でも、どの店も安眠草扱ってねえからよぉ!!

 あのババア共、どこで手に入れやがったんだよ、この草!!」


「アデルが言ったことが全てだ。

 だからこそ——今、俺達も詰んでる」


 グリムも立ち上がり、名乗る。


「一応、名乗っておくか。俺はグリム。で、こっちがアデル」


「僕はカルガラって言います!!」


 熊獣人は慌てて頭を下げた。

 耳がぺたんと寝ている。


「聖女パーティー所属のカルガラです! よろしくお願いします!!」


「それで、カルガラ。お前、さっき“知ってる”って言ったな。

 “安眠草がただよう鳥車がどこにいるのか”って」


 グリムが本題に戻すと、カルガラは自分の鼻先に人差し指を当て、誇らしげに胸を張った。


「僕、鼻が利くんです!!

 安眠草の匂いくらいなら、どれだけ薄くても嗅ぎ分けられます!

 僕が降ろされた場所には、まだ匂いが残ってるはずです。そこから匂いの後を追って——どこへ向かったのか、辿ることができます!!」


「おい、お前は冒険者なんだよな?

 匂いがわかるなら、自分の仲間を助けに行けたんじゃねえか?」


 アデルが一歩詰め寄る。カルガラは肩をすくませた。


「そ、それには理由があります!!

 と、とりあえず移動しながら話しましょう! ここで長居するのもアレですし!

 僕もドゥドゥを借りてきますので、北のゲートに集合しませんか!?」


 そう言うなり、カルガラはバタバタと走り去っていった。


 その背中を見送りながら、グリムが小さく笑う。


「なあアデル。

 行き詰まってた状況で、ようやく出てきた“匂いの手がかり”だ。

 カルガラのおかげで——アデルの仲間の居場所、見つけられるかもしれねえぞ」


「ああ……アイツらを必ず見つけ出す!!」


 アデルの瞳に、再び炎が灯る。


 二人は北のゲートへ向かい、モリハクに再び跨がって待つ。


 しばらくすると——


「も、もう!! 言うこと聞いてください!! 動いてーー!!」


 カルガラが、頑固なドゥドゥを半ば引きずるようにして現れた。


「おい!! カルガラ!! 何してんだ!! 早く来い!!」


 アデルが怒鳴る。


「アデル、落ち着け……。はあ、しゃーねえな」


 グリムはモリハクから降り、カルガラのドゥドゥのところへ歩いていく。

 ドゥドゥの額あたりを軽くぽん、と撫で、手綱を優しく引くと——


 さっきまで頑として動かなかったドゥドゥが、嘘のように素直についてきた。


「す、すごいです!! ありがとうございます、グリムさん!!」


「慣れだ。で——俺達は今からどこへ向かう?」


「はい、“森嶺山(しんれいざん”方面へ向かいたいです!

 匂いを辿ったとき、安眠草の香りが森嶺山の方角へ続いてました!!」


「わかった。カルガラ、案内頼む」


「か、かしこまりました! それでは、僕についてきてください!!」


 三人と二羽は、森都アルセディアを後にし、森嶺山へ向けて走り出した。



 森嶺山へ続く街道は、思ったより静かだった。

 木々は生い茂っているが、目立った魔物の気配もなく、順調に進んでいく。


 しばらく走ったところで、カルガラが手を挙げた。


「すいません、一旦ここで休憩しませんか?」


「まだいけるだろ!!

 早くリノア達助けに行かねえといけねえんだからよぉ!!」


「それはわかってます! 僕だって仲間が連れてかれてるんです!!

 でも、ドゥドゥも休憩させないと……。ドゥドゥがいないと、早く着くこともできません!」


「……チッ。わかったよ……」


 アデルは苛立ちを隠せない。

 だが、自分でもそれがカルガラにぶつけるべきものじゃないことはわかっていた。

 時間が過ぎれば過ぎるほど、胸の焦りが強くなる。それが、言葉に棘を混ぜる。


 グリムは木にもたれかかりながら口を開いた。


「それで聞きてえんだが。

 カルガラ、お前はなんで一人で仲間を助けに行かなかった?

 今のところ、道中、危険な魔物は少ねえぞ」


「僕も、本当は途中まで行ってたんです」


 カルガラは自分の拳を強く握り込む。


「ですけど、ある場所で……僕は引き返しました」


「なんでだよ。危険な魔物いなかったんだろ?」


 アデルの問いに、カルガラは息を呑んだ。


「……“ヒトガタ”が現れたんです。

 だから、引き返しました」


「はあ? ヒトガタ? なんだそいつ?」


「アデル、ヒトガタはな……“人の形をした植物”だ」


 グリムが補足する。

 アデルは思わず顔をしかめる。


「植物だって……全く想像つかねえ……」


「アデルさんは、名前を聞くのも初めてですよね。

 魔物の一種です。これだけは覚えておいてください——“恐ろしい魔物だ”ってことだけ」


 カルガラの声には、誇張ではない怯えが滲んでいた。

 その様子に、アデルも少しだけ真顔になる。


「……そんなにヤベえのかよ」


「はい。詳しい説明は、現場を見てからでも遅くないと思います。

 それでは——そろそろ、出発しませんか?」


 三人はそれぞれのドゥドゥに再び跨がり、森嶺山を目指して走り出す。


 安眠草の匂いの先に——

 攫われた聖女たちと、見知らぬ敵がいることを、誰もが確信しながら。

三つ目闇獣ドンテン

マゾットマッシュルームが黒雪の影響で闇獣となった姿

全長四メートル、腹部あたりに大きな口を持つ、主に触手を使って攻撃するが、相手が獲物ではなく敵と認識すると、体を黒くし、戦闘体制に変わる、ドンテンがから放出される黒い胞子は黒雪の影響を受けている為、色も黒い、吸って体内に入ると激しい痛みが襲う


魔物図鑑

マゾットマッシュルーム

全長僅か五十センチ、主に木に生えた苔や、小さな虫を捕食する、マゾットマッシュルームは食べれる、ただ環境のストレスで毒を持つ種類もある


鉱物図鑑


白識石はくしきいし

・普段は 乳白色の半透明な色をし、嘘や幻を感知すると、

 白に黒い細い亀裂模様が走る。

 嘘を「黒」、真実を「白」として示す。

 契約・誓約の場や相手の真偽を確かめる為に使われることが 多い


最近寒いですね!読者の皆様、体調には十分気をつけてください!


本日も見てくださりありがとうございます!

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