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第四十八話 目玉に届くまで

サイクロプスの一つ目が、ぎらりと細まる。


次の瞬間――広間そのものが、目に見えない刃で満たされたみたいに空気の温度が落ちた。


「――――ッ!! な、に……」


「先程までとは……違いますね……」


 リノアとゼーラの背中に、ぶわっと冷や汗が浮く。

 さっきまでは「ただの強敵」。

 今、目の前にいるのは――明確に、自分達を“殺そうとしている”何かだ。


 膝が笑いそうになる、その瞬間。


「……アネマ・シレオ(沈黙する風)……」


 ふわり、と柔らかい風がリノア達を包んだ。

 カリスの白い髪が、静かに揺れる。


「カリスさん、これって……」


「……殺気を遮断する風……。

 みんな、これで“怖さ”に飲まれずに戦える……」


 風が、胸を締めつけていた圧迫感をさらっていく。

 心臓の鼓動が、少しだけ落ち着いた。


 ――その刹那。


 サイクロプスが床を蹴った。

 巨体とは思えない速度で、一気に距離を詰めてくる。


 拳が、砲弾のような速度でアデルへと迫る。


「来いよぉ!!」


 アデルが吠え、全身のバネを爆発させて前に出る。

 足を軸に回転しながら、迫る拳を横から蹴り上げる。


「うりゃああああ!!!」


 衝撃が空間を震わせ、サイクロプスの右腕が弾かれる。


 だが、止まらない。


 サイクロプスは弾かれた反動を利用して身体を捻り、そのまま左腕でアデルを殴りつけようとした。


「ゲネシス・マレウス(槌)!!

 おりゃああ!! ヒットォオオ!!」


 ルインが割り込むように飛び込み、生成した岩槌をサイクロプスの拳へ叩きつける。

 鈍い音と共に拳が逸れ、サイクロプスは数歩分、後ろへ押し戻された。


 だが、すぐさま壁際まで下がると――

 分厚い石壁に片手を突き立て、そのまま岩を“掴む”。


「――――ッ!?」


 握力だけで壁を抉り、その破片を山ほど引き剥がすと――

 次の瞬間、その瓦礫を全力で投げつけてきた。


 まるで岩石の豪雨だ。


「こいつなんなのよ!! あたしには効かないけどね!!」


 リナが一歩前に出る。

 槍を縦横無尽に振るい、飛来する壁の破片を次々とはじき返していく。

 槍筋が、何本もの白い軌跡となって空中を走った。


「ソルマ・パリエース!!」


 ゼーラはカリスの前に岩壁を出現させ、防壁を作る。

 砕けた石が跳ね返り、周囲で火花を散らした。


 ルイン、アデル、リノアは――

 避け、叩き割り、斬り払いながら雨のように降り注ぐ瓦礫を凌いでいく。


「急に身体が赤くなって、サイクロプスの行動が変わりました……。

 ミノタウロスの時も、体が赤くなりましたよね……」


 ゼーラが息を切らしながら呟く。


「……どちらも、体力が減ったから……?」


 カリスが眉を寄せる。


「違います……魔石を攻撃されたからです!」


 ゼーラはサイクロプスの姿を凝視しながら言う。


「……魔石? どこについてるの……?」


「ミノタウロスの時は、胸のあたりでした!」


「……サイクロプスには、見えない……」


 確かに胸には“それらしいもの”はない。

 ただ一つ、大きく輝く器官を除いて。


「場所が違うだけです。サイクロプスにも魔石はあります!」


「……どこ……?」


「目です!」


 ゼーラの視線が、サイクロプスの一つ目を射抜く。


「私の魔法がサイクロプスの目に当たった瞬間、姿を変えました……。

 なので、目の中にある魔石を壊せば――きっと、倒せます!」


「……でも、リノア……。

 今この破片が飛んでる状況の中、どうやってみんなに伝えるの……?」


「そ、それは……」


 考え込むリノアの声を――遠くで聞いていた男が、ニヤリと笑った。


「リノア!! 大丈夫だぁ!! 全部聞こえた!!」


「アデルくん! どうやって!」


「オレは耳がいいんだよぉ!!

 そのままみんなに伝えればいいんだよなぁ!!」


 アデルは飛んでくる破片を器用に避けながら、ゼーラに叫ぶ。


「アデルくん!! お願いします!!」


「任せろぉお!!」


 アデルは肺いっぱいに空気を吸い込むと――

 広間中に響き渡る声で吠えた。


「てめぇらぁあ!! あのクソ目玉の弱点は“目玉”らしいぞぉお!!

 ゼーラが言ってたぞぉお!!


 だから! リノアぁあ!! ルイン!! リナぁあ!!

 一気にオレ達で“目玉”を狙って行くぞぉお!!


 ゼーラぁあ!! カリスぅう!! 援護を頼んだぁあ!!」


「「了解!!」」


 リノア、ルイン、リナ――三方向から、同時にサイクロプスへ向かって駆け出した。


 アデルは先頭で一直線に突っ込む。

 標的を絞られたサイクロプスは、アデルに狙いを定め、瓦礫の弾幕を集中的に浴びせる。


 それが合図だった。


 サイクロプスの意識がアデルへ傾いた瞬間――

 左右からリノアとルイン、少し後ろからリナが同じく一直線に走り込み、サイクロプスへ殺到する。


 飛んでくる破片が、アデルへ到達するより早く――

 空中で次々と粉砕された。


「みんなを、絶対援護します!!」


 ゼーラが叫び、頭上にいくつもの岩釘を生成する。


「ソルマ・クラヴィス(岩釘)!!」


 その針を、弾丸のように瓦礫へ向けて撃ち出した。

 飛来する石片が砕け散り、アデル達の進路が空く。


 同時に、カリスの魔法がサイクロプスの動きを鈍らせ続ける。


「……アネマ・レント……」


 しかし――


「……もう、魔法の効力が……」


 サイクロプスの身体は、すぐにまた元の速度へ戻ってしまう。


「カリスさん!! まだ諦めないでください!!

 マナが尽きるまで!! みんな、まだ諦めてませんから!!」


 ゼーラは撃つ手を止めない。

 破片を撃ち落としながら叫び続ける。


「ソルマ・クラヴィス!! ソルマ・クラヴィス!!」


 何度でも生成し、何度でも撃ち抜く。

 その背中に、カリスもまた静かに頷き、風を重ねた。


 前では、アデルが再びサイクロプスの懐に潜り込んでいた。


「おいクソ目玉!! また腹へ一撃ぶち込むぜぇ!!」


 サイクロプスは即座にアデルを挟み潰そうと、両手を広げる。


「バカかよぉ!! 何回も同じトコ攻撃すっかよ!!」


 アデルは進行方向を急角度で変え、サイクロプスの足元へと滑り込んだ。


「ルーナ・カルキブス(三日月蹴り)!!」


 低い姿勢からの回転蹴りが、サイクロプスの足首を打ち据える。

 巨体がぐらりと揺れ、視線が足元へ落ちた。


「あたしも行くよ!!

 アネマ・ヴォラーレ(飛翔の風)!!」


 リナが風の力を両足に集めて跳躍する。

 二段跳びのように空中でさらに加速し、サイクロプスの頭部を越える高さへと飛び上がる。


「頭ガラ空きだよ!!

 アネマ・アキエス(槍刃風)!!」


 リナの槍先から放たれた鋭い風槍が、一つ目を貫かんと迫る。


 ――が。


 サイクロプスは“何か”を察したように、右手を頭の上へ回した。

 巨大な掌が盾となり、リナの攻撃を咄嗟に受け止める。


「クソ!!」


 リナは舌打ちしながら距離を取る。


 サイクロプスはアデルを一瞬だけ無視し、リナへ猛攻を開始した。

 拳が、風を裂いて迫る。


 リナは紙一重で避け、すれ違いざまに槍で斬り払い――

 「避けて、刺して、離れる」をひたすら繰り返す。


「ゼーラぁあ!! 空中に階段作ってくれ!!」


「わかりました!! ソルマ!!」


 ゼーラはアデルの前方――空中に“土の階段”を瞬時に組み上げる。

 アデルはそれを一気に駆け上がる。

 足をかけるたびに階段が崩れていくが、最後の一段を蹴って大きく跳躍した。


 サイクロプスの頭上へ――


「脳天カチ割れろぉ!!

 プラーガ・カルキス(踵落とし)!!」


 振り下ろされた踵が、サイクロプスの頭頂に直撃する。


 ゴンッ!!


 鈍く重い音が広間に響き渡った。


「ウォオオオォオオオオ!!」


 サイクロプスが咆哮を上げ、後方へ大きくよろめき、背中を壁へと打ちつける。


「わたしも……お待たせ!!」


 リノアが一歩前に出る。

 右手のひらの前に集められた風のマナが、螺旋状の槍へと形を変えていく。


 “貫く”ことだけをイメージした、重く、太い槍。


「これで終わりっ!!

 アネマ・ランケア(風の重槍)!!」


 放たれた風槍は、渦を巻きながら一直線にサイクロプスの一つ目へと飛んでいく。


「リノアさん!!」


 ゼーラがその軌道を見守る。


 ――しかし。


 サイクロプスは、今度はその槍へと正面から手を伸ばした。


「あれを受け止めるの……?」


 リノアの目が見開かれる。

 それでも尚、風槍の勢いは衰えない。


 サイクロプスは右手でそれを掴もうとし――

 貫通する。


「ウォオオオォオオオオ!!」


 悲鳴が上がる。

 右手のひらに、大きな風穴が空いた。


 それでも止まらない。

 サイクロプスは今度は左手も添え、両手で槍を必死に押さえ込む。


 風槍は、左右の掌を次々と穿ち――

 その背後にまで達したが。


 ほんの僅かだけ、標的から逸れていた。


 一つ目には、かすりもしない場所で止まる。


「そ、そんな……。あと少しなのに……」


 リノアの膝から力が抜けかける。

 リナも、アデルも、驚愕の表情を浮かべていた。


 ――ただ、まだ一人。


 この“最後の一押し”に賭けている男がいた。


「ゼーラ!! 壁に足場を作ってくれ!!」


 ルインの叫びに、ゼーラは即座に反応する。


「はい!! ソルマ!!」


 サイクロプスの背後、壁面に土の足場が次々と隆起する。

 ルインはそこへ飛び乗り、一気に駆け上がった。


 最後の足場を蹴り、空中へ身を躍らせる。


「ゲネシス・ハスタ(槍)!!」


 手の中に長槍が生成される。


「くたばれやぁ!! インペトゥス(突進)!!」


 サイクロプスは本能的に右手を持ち上げ、ルインを掴もうとする。


 だが、その右手のひらには――

 リノアの風槍が穿った巨大な風穴が空いていた。


 ルインは槍を前に突き出したまま、その“穴”へ身体ごと滑り込む。


「うらぁああああ!!」


 サイクロプスの掌を通り抜け、その先。

 一つ目のど真ん中へ、槍を突き立てた。


 ぐちゅり、と嫌な音。


「ウォオオオォオオオオ!! オオオオオオオ!!」


 サイクロプスが凄まじい断末魔を上げる。


 ルインはそのまま重力に引かれ、地面へ落下しそうになったところを――


「っとと!! 危ないっての!!」


 リナが滑り込み、ルインの身体をしっかりと抱きとめる。


「リナ……助かった!!」


「こんなの余裕余裕!!」


 リナは笑ってみせる。


 サイクロプスは片手で潰れた目を押さえながら、ふらふらと後退し――

 壁に何度もぶつかり、そのたびに石片を撒き散らす。


 そしてついに、膝から崩れ落ちた。


 床が揺れるほどの音を立てて、巨体が倒れ込む。


 ――二度と、動かなかった。

本日も見てくださりありがとうございます!

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