特別編 四つ耳ウサギを追え! その一
これはまだリノア達がランクアップクエスト前に受けていた
クエストのお話しであります。
〜トーメル王国 冒険者ギルドにて〜
「……あぁぁぁ!! クエストボード、何書いてるかわからねえ!!」
朝のギルドに、アデルの叫びが響いた。
木板いっぱいに貼られた依頼書。
インクの匂いと、紙の端がひらひら揺れる。
だが、アデルにとってはどれも「絵の描いてないお札」にしか見えない。
(字さえ読めりゃ、一瞬なんだろうがよ……)
ランクアップ前に受けるべきクエストを探す――そのはずが、文字の壁にぶち当たって、完全に詰んでいた。
途方に暮れてボードの前をうろついていると、カウンターの奥から、ふわりと影が近づく。
もう一人の受付嬢、モモだった。
柔らかい栗色の髪をひとつにまとめ、制服の袖を少しだけまくり上げている。
笑うと、目が三日月みたいになる女性だ。
「アデルさん、良ければ読んであげますよ」
「え!! いいのか!! あるやつ全部読んでくれ!!」
即答。顔が一気に明るくなる。
「分かりました。それでは右から順番に読んでいきますね!」
モモが一枚目の紙に指を置き、口を開いた――その瞬間。
「お、おい、ちょっと待て!おいモモちゃん、俺も混ぜてくれ!」
「あ、俺も!」
「私もお願い!」
背後から、どやどやと足音。
気づけば、アデルの周りに三人ほどの冒険者が集まっていた。
「なんだおまえ!!」
アデルが振り返って叫ぶと、ひとりが気まずそうに頭を掻く。
「俺も一緒で字が読めないんだよ! だからいいだろ?」
「俺も!!」
「私も!!」
三人とも、武器だけは一流そうな見た目だが、字の前ではアデル側の人間だった。
「おまえらも字読めねえのかよ!」
アデルのツッコミに、ひとりが肩をすくめる。
「割と冒険者で字が読めん奴多いぞ。
字を教えてくれる所なんてなかったしな! 教会行けば教えてくれるけど、遠い所にあったし」
「そうだよなぁー。別に商売やるわけでもないからな」
もう一人の女冒険者が笑って続ける。
「畑仕事か、冒険者になるかだったよ、私は。
で、一番稼げるのが冒険者だったからこっち選んだんだ」
貧しい村、生きるための選択肢。
みんな、似たような背景を持っていた。
アデルは、それぞれの話を「わかる」と言わんばかりに頷いて聞きながら、モモへ視線を戻す。
「モモ、頼む! 読み上げてくれ!」
「はい。えっと……ではまず最初は――」
モモは、ボードの右端の紙から、順番に読み始める。
「畑荒らしのビックボアの討伐です。
次はカコウ鳥の捕獲ですね。必要人数は二〜四人で、報酬は千バル。
そして――」
次の紙を読み上げようとしたところで、男の冒険者のひとりが慌てて遮る。
「ちょっと待ってくれモモちゃん!
この貼られてる中で、一番稼げるクエストはなんだ?」
「一番稼げるクエストですか?」
モモは、今度は全体を見渡す。
上から下まで、端から端まで視線を滑らせ――一枚の紙の前で止まった。
「……これです!!」
ぴしっと指差す。
「どんなクエストなんだ?」
アデルがすかさず食いつく。
モモは依頼内容を読み、顔を少し引きつらせながら答えた。
「これは……金貨一枚の報酬です!」
「金貨一枚!?」
「マジか!」
「それ、超アタリじゃねえか!!」
アデル以外の冒険者が、わっと沸き立つ。
しかし、その期待は次の一言で一気にしぼむ。
「内容としては……四つ耳ウサギの捕獲です……ね……」
「なんだよ! 四つ耳ウサギかよ!」
「またこの依頼出したのかよ!!」
「あれは幻の魔物なのになー。領主の息子も懲りないねー」
ギルドの空気が一気に「やれやれ」色に染まる。
アデルは、わからないまま冒険者に問いかけた。
「おいおまえら! なんで嫌そうにするんだ? 金も稼げんだろ?」
ひとりがため息をつき、アデルの肩に腕をまわす。
「おいおいアデル〜。おまえ、空にある雲掴めって言ったら掴めるか?」
「はあ? 無理だろ!」
アデルはキッパリ言う。
「そういう事だよ。そもそも四つ耳ウサギなんているのか? それすらわからないんだぞ!
まだドラゴンを探して旅出た方がマシだ……」
「だなだな。ドラゴンの方が、まだ“伝説”って感じあるよな!!」
別の冒険者も頷く。
「あ! でもおまえの仲間! ルインだっけ? あいつ最初このクエスト受けてたぞ!
『俺は見つけるぞぉおお!!』って言ってな!」
「まあ結局ダメだったみたいだけどな!」
その瞬間、アデルの眉がぴくりと跳ねた。
「なら今度はオレが受けるぜ! そのクエスト!!」
三人の冒険者は、揃って口をぽかーんと開ける。
「おい、アデル、聞いてたか? 四つ耳ウサギなんているわけ――」
「大丈夫だ!! いる!!」
アデルが食い気味に叫んだ。
「おいモモ!! オレは受けるぞ、そのクエスト!! 絶対見つけてやるぜ!!」
モモは一瞬目を丸くしたあと、くすっと笑って依頼書をボードから外す。
「分かりました。それでは、頑張ってください」
「一撃で捕まえてやるぜ!!」
大言壮語に、周りの冒険者たちも苦笑する。
「まあ、頑張れよ」
「うん……が、がんば!」
「見つけたら飯奢ってあげるね」
それぞれがひやかし半分、期待半分の声をかける。
アデルはそれをすべて「応援」として受け取り、拳を握った。
「よしっ! とりあえずリノア達に言わんとな!」
胸に金貨一枚の夢と、四つ耳ウサギの妄想を抱えたまま、アデルはギルドを飛び出した。
・
・
・
〜トーメル王国 とある安宿の前〜
「もう! アデル!! また一人で何処か行って!!」
宿の前の通りで、リノアが頬を膨らませながら足を鳴らしていた。
朝の光が白い壁を照らし、行き交う人々がちらっとこちらを見る。
ゼーラはそんな視線を受け流しつつ、苦笑いを浮かべる。
「アデルさん、また修行ですかね……?」
「朝、一緒にクエスト見に行こうって昨日言った所じゃねえか」
ルインは腕を組み、額に手を当てて空を仰いだ。
その時。
「おーい!! おまえらーーーー!」
遠くから聞き慣れた声。
アデルが勢いよく走ってくる。息を切らしながらも、顔だけはやたら元気だ。
「アデル!! 昨日、みんなでクエスト朝から見に行くって言ったよね!!」
「へ? 言ったか、そんな事?」
「アデルッ!!」
リノアのツッコミが炸裂する直前、ルインが割って入る。
「まあ、いいじゃねえか。それでアデル、どうしたんだ? つか何処行ってたんだ?」
「オレは見つけてしまったぞ!! 報酬が高いクエストをな!!」
アデルは得意げに胸を張る。
「なんのクエストなんですか?」
ゼーラが一歩進み、用紙に視線を向ける。
「これを見てくれ!!」
アデルはクエスト用紙をゼーラに渡した。
「これって……!」
ゼーラが目を見開く。
リノアが横から、紙の文字をなぞるように読む。
「四つ耳ウサギを捕獲せよ。報酬金、一金貨……」
数秒の沈黙。
そして、堪えきれなくなったようにルインが爆笑した。
「ぷあはっはっはっは!! アデル、おまえもか!! っはっは!」
「おい! ルイン!! 何がおかしいんだよ!!」
「俺もこれ、初めてギルド来て受けたクエストだ!」
「そうらしいな!! ルイン!! なら探すぞ!! みんなもいいよな!!」
アデルのテンションは一切ブレない。
だが、ゼーラがすっと紙を持ち上げ、アデルと向き合った。
「アデルくん! このクエストやめませんか?」
「はあ? なんでだよゼーラ!! いいじゃねえかよ! 金貨一枚だぞ!!」
「報酬金の問題ではありません!!」
ゼーラの声が、いつもより少しだけ強くなる。
「そもそも四つ耳ウサギなんていないんですよ!!」
「ええ!! ゼーラ、そうなの!! じゃあなんでクエストにあるの?」
リノアが驚き、ゼーラに詰め寄る。
ゼーラは真面目な顔で説明を始めた。
「私、調べたんですけど――この依頼主、ルーフ領の領主の子供なんです。
だから、まず報酬金が高いのと……あとはただの珍しい魔物好きみたいですよ!!」
「魔物好きなの?? どう言う事?!」
「結構な珍しい魔物を家で飼ってるみたいで。
何処でこの四つ耳ウサギの噂を聞いたか知らないですけど、珍しい魔物はどうしても欲しい人らしくて、依頼したみたいなんですよ」
「え! そうなの!! 実際に四つ耳ウサギいないの!! えー……」
リノアは肩を落とし、金貨の夢がしぼんでいくのを感じる。
そんな中、ルインがゼーラの前に出て、真剣な目を向けた。
「ゼーラ! 俺にもう一回チャンスをくれ!!」
「……ルイン?」
「どうしても見つけたいんだ!!
前回受けた時、森の中走らくり回ってたらマナ欠乏症のせいでマナが極端に減った爺さんと会って、その爺さんが『四つ耳ウサギを見た』って言ったんだ!!
だからいるぞ!! 絶対! ゼーラ!!」
ルインの言葉には冗談が一切なかった。
アデルも横で全力で頷く。
「ゼーラ!! ルインが言うなら間違いねえ!!」
しかしゼーラは、それでも首を横に振る。
「ダメです!! こんな無駄な事に時間を使ってられません!!
アデルくん、クエストを破棄して別のにしませんか?」
はっきりとした口調。
守るべきものがある人間の声だった。
「嫌だね!!」
アデルも一歩も引かなかった。
「アデルくん!!」
「じゃ、一日くれよ!!」
アデルは指を一本立てる。
「それで見つからないなら諦める! それじゃダメか?」
ゼーラは一瞬言葉に詰まり、問い返す。
「アデルくん、なんでそんなにこのクエスト受けたいんですか?」
アデルは、胸を張り、間髪入れずに答えた。
「果てしなく面白そうだからだぁああ!!!!!」
通りの風が、一瞬止まった気がした。
「……果てしなく?」
「……果てしなく……ですか?」
リノアとゼーラは、その言葉に揃ってきょとんとする。
しかし、その背後でルインがアデルの肩をガシッと掴んだ。
「俺もアデルと一緒で、面白そうじゃん?! だから受けたんだ!!」
「だろ!! ルインはわかってる!!」
ふたりの顔には、子どものような笑みと、冒険者の目が混ざっていた。
リノアはゼーラの方を向き、少しだけ笑って言う。
「まあゼーラ、いいじゃない? 受けさせても。一日だけなら、大丈夫じゃない?」
「でもリノアさん……空の上にある雲掴んでくださいって言われたら、掴めますか?」
「え! 無理だよ! そんなの!」
「そういう事なんです!! だから無駄なんです!!」
ゼーラの理屈は完璧だ。
だが、その理屈を揺らしたのは――ルインだった。
急に、深く頭を下げる。
「頼む、ゼーラ!! 俺に夢を与えてくれ!!
俺、このクエスト受けたら、次からすげーがんばれる! だよな、アデル!!」
「ああ!! 一撃で捕まえてやるぜぇ!!」
アデルは拳を突き上げる。
「ルイン!! 行くぞぉお!! ゼーラとリノア、行っていいよって言ってるから!
早く見つけに行くぞぉおお!!」
そう言ってアデルが走り出す。
「ちょっ!? 誰も『行っていいよ』とは――」
ゼーラの抗議を、走り出した足音がかき消す。
「待て! アデル! 目撃場所わからないだろ!! 俺に着いてこい!!」
ルインも慌てて走り出し、その背中を追いながら笑う。
「私……行っていいよって言いましたっけ……?」
「行ってないと……思う……」
リノアとゼーラは、同時に深いため息をついた。
・
・
・
「なあ、ルイン。今どこ向かってるんだ?」
街道を歩きながら、アデルが聞く。
空は高く、風が心地いい。
「今はな、ルーフ領に向かってる」
「鳥車乗らんくていいのか?」
「大丈夫だ! 歩いて一時間くらいの場所に、小さな森があってな。
そこの爺さんが、四つ耳ウサギ見たって聞いたんだ!」
「へえ〜。なんでそんな所にいるんだ?」
「それはわからない!! 改めて、四つ耳ウサギの事を聞こうと思うんだ」
アデルは「なるほど!」と頷き、空を見上げた。
「もし見つけたらよ……オレ、名前つけようかな」
「捕まえる前からかよ」
「いや大事だろ? ドゥドゥにも名前つけてやりてぇな〜って前から思っててよ」
「どっちもまだ手元にいねえからな?」
他愛のない会話を繰り返しながら、二人は進む。
やがて、遠くに“ちょっとした森”が見えてきた。
「ルイン!! あそこか?! あの森なのか?!」
「ああ! そうだ!」
ルインは、足を速める。
アデルも負けまいと駆け出した。
森の入口をくぐると、空気がひんやりする。
湿った土の匂い、木々のざわめき、鳥の鳴き声が近くなる。
「アデル! こっちだ!!」
ルインは木々の間をすり抜けながら、以前訪れた小屋の位置を思い出している。
やがて――木の陰に、小さな小屋がぽつんと現れた。
「アデル、ここだ!」
「ボッロイ小屋だな? 人いんのか?」
屋根は苔むし、壁板はところどころ剥がれている。
二人は周りをうろうろと歩いて散策するが、人の気配すらない。
「ルイン! 本当にいんのか?」
「前はいたぞ?」
ルインが眉をひそめたその時――
少し離れたところから、バサバサッと大量の羽音。
鳥が一斉に飛び立つ瞬間が視界に入った。
「ルイン!!」
「アデル!! 行くぞ!!」
二人は走り出す。
枝を避けながら、鳥が飛び立った方へ突き進む。
そして――到着した先には。
ハンドベアーが三匹。
木陰の下で、獲物を貪っていた。
「おい、何食ってんだあいつら?」
「……あれはビックボアだろ」
丸々太ったビックボアの亡骸。
腹を裂かれ、まだ温かそうな肉を、ハンドベアーたちが大きな手で引きちぎっていた。
血の匂いと獣臭が、むっと立ちこめる。
「ったく……食事中悪ぃがよ……」
「なーんだっと言わんばかりに見つめる」どころか、アデルの眉間にはうっすら怒気が滲む。
一匹のハンドベアーが、こちらに気づく。
唸り声を上げ、のっしのっしと近づいてくる。
「おいおい、クソ熊が……ぶっ飛ばすぞ……」
アデルは腰を落とし、いつでも飛び出せる体勢を取る。
「そうだな……こいつら倒すしかねえか……」
ルインも剣に手をかけ、足を半歩前へ。
二人が戦闘態勢に入った――その瞬間。
ぞくり。
空気が、一気に冷たくなった。
背中を撫でるような、骨まで刺さる冷気。
風向きが変わり、木々がざわりと揺れる。
「……フリグス・アウリス(風の冷気)……」
耳に届いたのは、澄んだ、低い女の声。
次の瞬間――
白い風が、ハンドベアーたちの足元から一気に吹き上がった。
風は冷気を巻き込み、三体の獣を呑み込んでいく。
バキバキバキッ!!
肉が凍る音。血が固まる音。
瞬きする間に、三体のハンドベアーは、氷漬けの彫像に変わっていた。
「一体……」
「何が起こったんだ……」
アデルとルインは、その光景を見て、ただ呆然と立ち尽くす。
自分たちが動くより早く、戦闘は「終わって」いた。
そこに――ドゥドゥの蹄音が近づく。
木々の間から姿を見せたのは、黒い鎧で身を包んだドゥドゥ。
その背中に、黒い軽装鎧を纏った人物が跨っていた。
紅い瞳が、氷漬けの獣を一瞥し、すぐにアデルとルインを見つめる。
近くで見ると――そのシルエットは明らかに女性だった。
だが、纏う空気は柔らかさよりも、鋭さが勝っている。
「……大丈夫……?」
女性は、短くそう問いかける。
「オレは大丈夫だぁ!」
アデルは反射的に胸を張って答える。
負けまいと、ルインもすぐに続いた。
「俺もだ!!」
女性は一度だけ瞬きをした。
「……そう……」
その一言だけを残し、手綱を軽く引く。
ドゥドゥが地面を蹴り、黒い影は森の奥へと走り去っていく。
風だけが、おくれ毛のように後を追った。
「おい……なんだったんだ……」
アデルが呟く。
「ルインの友達か?」
「んなわけないだろ……」
ルインは苦笑しながらも、さっき見た氷魔法の精度と速さを思い出し、背筋に冷たい汗を感じていた。
二人はしばらくその場に留まり、氷像と静まり返った森をただ眺めていた。
そこへ――
「おまえさんら……大丈夫か……?」
背後から、かすれた声。
振り返ると、杖をついた爺さんが立っていた。
背中は曲がっているが、目だけは妙にぎらりと光っている。
「あああ!!! 見つけたぁああ!!」
ルインは大きな声を張り上げる。
ーーーー
「おいルイン! このジジイが本当に四つ耳ウサギ見た事ある奴なのか?」
「アデル、“ジジイ”って……。そうだよ! この人だ」
ルインは苦笑しつつも、爺さんの前へ歩み出る。
「で、坊主。このわしになんの用じゃ?」
爺さんは、アデルとルインを交互に見ながら問う。
「改めて、四つ耳ウサギの事について教えてくれ!!」
ルインが勢いよく言うと、爺さんは「ああ、またか」といった顔をする。
「またか! 前にも言ったろう……。
わしはこのあたりで見た。
ただそれだけなんじゃ」
「この辺りって言っても結構広いからわからねえんだよ!
だからもっと、覚えてる景色を思い出してくれよ!!」
アデルも身を乗り出す。
爺さんは腕を組み、難しい顔をして唸った。
「んんーー、少し待て……んんーーーー」
目を閉じて、“思い出すモード”に入る爺さん。
――一時間経過。
「おい! ルイン!! こんな待つもんか? ジジイ、全く目開けねえけど」
「俺は前回三十分待った!
きっと鮮明に思い出してくれてると思うから、もうちょい待とうぜ」
――二時間経過。
「なあ、あの女なんだったんだ? あれは氷魔法か?」
待ち時間に耐えきれず、アデルが話題を変える。
「氷魔法だったな。結構珍しい属性だ」
ルインが頷く。
「マジで! 氷って珍しいのか?」
「まあな。あんま属性で氷は少ない。後、雷も珍しい。
俺、まだ一回も会った事ない」
「氷はあるのか?」
「さっきの女性だ」
「ああ、そうか……雷はカスボ島に使う奴がいたな〜」
「えええ!! 本当かよ!! どんな奴だ!?」
ルインの目が輝く。
「え? 賢者ドラノフっていうジジイ」
「はああああああ!! アデル!! それマジかよ!!! 賢者って!!
はああああああ!! あと、“ジジイ”やめろぉおお!! ドラノフ様だ!!」
ルインが両肩を掴み、アデルを揺らす。
「驚き過ぎだわ!! でもそんな強いって思わんのよ。
元々ボロボロの状態だったんだ」
「ドラノフ様に何があったんだ??」
「それがよー――」
アデルのしゃべりが加速していく。
・
・
・
アデルの会話で、さらに三時間過ぎる。
「なあ、もういいだろ!! 起こしても!! もういいだろ!!!」
アデルが叫ぶ。
「アデル我慢だ!! 四つ耳ウサギだぞ!!
その情報を教えて貰えるんだぞ!!!
金貨以上の価値があるんだぞ!!!
待つんだ! アデル!!」
ルインは必死に説得する。
〜四時間後〜
二人は座ったまま、寄りかかって寝息を立てていた。
〜七時間後〜
「ふぁあああああーーん?? あれ??」
アデルが大きなあくびと共に目を開ける。
「くうううううう!! ん? どしたアデル?」
ルインも目を擦る。
「オレ達寝てた?」
「ぐっすり寝てたな……」
外はいつの間にか暗くなっていた。
森には夜の気配が満ちている。
ルインは爺さんの方を向く――まだ同じ姿勢で考えていた。
「おいジジイ!! いつまでそうしてるんだよ!」
アデルが声を上げるも、反応はない。
「おい、爺さん! 爺さん!!」
ルインも声を掛ける。
その瞬間――爺さんの目が、かっぴらかれた。
「ほぉおおおお!! でっかい木じゃぁあ!!!」
叫んだ次の瞬間、バタリと横になり、そのまま眠る。
「なんだぁああ!! このジジイ!!!」
アデルが叫ぶ。
だが、ルインの顔には興奮の色が浮かんでいた。
「アデル!! “でっかい木”だ! 行くぞ!!!」
「何処のでっかい木があんだよ!!!」
「大丈夫だ!! 俺を信じろ!!
四つ耳ウサギ!! 待ってろよ!!」
ルインはそう叫びながら、暗い夜の森へ入っていく。
アデルも、小さく悪態をつきながらも、その背中を追った。
「アデル、ここだ!」
森を駆け抜け、ルインが急に止まる。
「ここか??」
そこには、他の木と比べて一本だけ、頭ひとつ抜けた大木があった。
幹は太く、枝は高く、月明かりを受けて輪郭だけが銀色に浮かんでいる。
ルインは、暗くてよく見えない中、月の光を頼りに周りを見渡す。
その時――黒い大きな影が、すっと何かを横切った。
(以前、爺さんに聞いたとき――
四つ耳は普通のウサギと違って、大きさがドゥドゥくらいあると言ってたな……)
ルインの胸が高鳴る。
もしかしたら、今見えた影が――。
「逃さねえぞおお!! 四つ耳!!!」
興奮が抑えきれず、ルインは先走るように駆け出した。
「まってぇ!! ルイン!!!」
アデルも追いかけるが、その瞬間、月が雲に隠れた。
辺りが一段と暗くなる。視界がほとんど奪われた。
「くそっ……!」
枝が顔に当たり、足元の根に躓きそうになりながら進む。
しばらく走って――ふいに視界が開けた。
小さな“空き地”みたいな場所に出る。
だが、ルインの姿はどこにもない。
「……ここ、なんで地面が抉れてるんだ?」
足元の土が、あちこちえぐれている。
それも、まるで何かが弾け飛んだような、丸い形の窪みだ。
「丸っこい石が結構あんな……何してたんだ?」
拳大の丸い石が、いくつも転がっている。
ただの岩なのか、それとも――。
その場の状況に疑問を抱きつつも、ルインとはぐれてしまった事実の方が重大だった。
アデルは喉が張り裂けそうなほどの声を出す。
「ルイーーン!! おいルイン!! どこだよ!!」
返事はない。
風が木々を揺らす音だけが、かさかさと耳に届く。
「ルイン!! 返事しろ!! ゼーラにルインがいなくなったって言ったらオレどうなっちまうんだよぉおお!!」
叫び続ける。
夜の森の中で、アデルの声だけが空しく響いた。
――四つ耳ウサギを追うはずの夜は、いつの間にか、ルインを探す夜へと変わっていた。
すいません!!
前回、ちょっとだけ暗い展開だった為、気分展開に特別編として作りました!
明日の投稿で特別編は終わりですので、本編までしばらくお待ちください。




