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第二十二話 もう一つの聖女パーティ

「よしっ!みんな集まったな?」


朝の宿のロビー。まだ少し眠たげな光が色ガラス越しに差し込む中、ルインが腰に手を当てて周りを見渡した。


「ちゃんと集まってるよ!!アデルも無理矢理起こしたし!」


胸を張るリノア。その横で、ボサボサの髪のアデルが目をこすりながら、盛大にしかめっ面を作る。


「リノア!!オレを起こす時、鼻掴むのやめろ!めちゃくちゃ嫌だわ!」


「嫌ならしっかり起きてよ!」


「ちっ!」


舌打ちしながらも、ちゃんと装備は整っているあたりがアデルらしい。


「私もゆっくり寝れました!ベッドってやっぱりいいですよね!」


ゼーラが布団の名残を惜しむように両手を胸の前でぎゅっと握る。柔らかく笑うその顔にも、今日から塔へ向かう為の緊張が少しだけ混じっていた。


「だよね!ゼーラ!!でもこれからまた野宿だぁ〜」


リノアが両腕を大きく伸ばして、すでに恋しくなった宿のベッドを振り返る。


「あはは、ですね!でも私、野宿も好きですよ!みなさんと協力して準備するの、好きなので」


ゼーラの言葉に、ルインが小さく笑う。


「おーい、そろそろフカシアの元へ行くぞ!」


ルインの号令で、四人は宿を後にした。


◇ ◇ ◇


ラバン王国の外れ、鳥車舎。


木製の大きな屋根の下、鳥車たちが翼をたたんで休んでいる。その一角で、すでに荷を積み終えた一台の鳥車の前に、フカシアが直立不動で待っていた。


「み、みなさん、お、おはようございます、、」


相変わらず挙動不審気味に頭を下げるフカシア。その背後には、立派な鳥が一羽、黒曜石のような瞳でこちらを見ている。


「フカシア!待たせたな!」


ルインが手を振ると、彼女は慌てて両手をバタバタさせた。


「い、いえいえ、だだ大丈夫です、それでは乗って下さい!」


ぎこちなくも真剣な声。その言葉に従い、リノアたちは荷台へと乗り込んだ。


鳥が翼を広げ、軽く地面を蹴る。軋む車輪の音と、鳥の足音が重なり、ラバン王国の城壁がゆっくりと遠ざかっていく。


「やあぁあああ!!遂に塔の試練だぁあああ!!」


アデルが、胸の奥から溜め込んだものを吐き出すみたいに叫んだ。鳥車の幌がビリビリ揺れる。


「アデル!!うるぅっさい!!わたしの隣で叫ばないで!!耳が壊れる!!」


リノアが耳を押さえながら抗議する。


「でもアデルの言う通り、やっと本格的に塔へ向かうんだな。ここまで来るのに長かったな、、」


ルインは幌の隙間から流れていく道を見つめながら呟いた。その視線は、少しだけ遠くを見ている。


「そうですよね、、色々ありましたもんね、、」


ゼーラも同じ方向を見ながら、静かに同意する。


アデルは足をぶらぶらさせていたが、ふと思いついたように顔を上げた。


「なあ、オレ達でクラン作らねぇか?なんかカッケーし!」


「クランかぁー」


ルインが頭の後ろで手を組む。


「俺もちょっとどんなもんか、ゼーラと一緒に調べたけど、俺達には向いてないと思う」


「向いてない?どうしてなの?わたしもクラン気になってた!」


リノアが身を乗り出してくる。


ルインは少しだけ真面目な顔になって説明を始めた。


「そもそもクランは、一人でできないクエストを受けれるようになるとか、国からの依頼を受けられるようになるメリットがある。まあ、クランのランクによって任務は変わるけどな」


ゼーラが続けるように口を開く。


「クラン作るとですね、しっかり任務をこなしてないとペナルティとして解散させられるみたいです。後は月の最初にお金を納めるみたいですよ」


「え!そうなの!!なんで?」


リノアの目がまん丸になる。


「クランは“国が使える手”って感じになるからだろ。お金納めて、その分、国の依頼があった時、鳥車とか食料とか支給してくれるらしいぞ」


ルインが肩をすくめる。


「え!国からくる依頼ってやっぱり魔物討伐だったり、色々あるんだよね!!」


「おい!オレも国からの依頼受けてぇな!そうすれば金クソ稼げるんだろ?」


アデルの目が一瞬ギラリと光る。


「アデルくん、私達はクラン作らなくても国から出された依頼は受ける事出来るんです!」


ゼーラが、少し誇らしげに言った。


「え?ゼーラ!!本当か?出来んのかよ!!」


「なんでなのゼーラ?クラン作らなくてもわたし達は出来るの?」


視線が集まり、ゼーラが少し照れたように微笑む。


「そうですね、、聖女がいるからですね!」


「「へ?ただそれだけ??」」


リノアとアデルの声がハモる。


「聖女は光魔法、回復魔法が使えます。ポーションなどもありますけど数に限りがありますから。なので聖女パーティーに依頼が来る事あるみたいですよ!後、塔を攻略してるって事は、聖女以外のお仲間さん達も決して弱くないので。だからクラン作らなくてもいいんです!」


ゼーラが「仲間さん達」と付け加えた瞬間、ルインとアデルの目が微妙にそらされた。


「なんだぁ〜じゃあこのままでいいんだね!」


リノアはあっさり納得して笑う。


「まあ、そういう事だな!」


ルインも笑い返した。


だが、アデルは窓の外へ視線を投げたまま、ふっと笑みを薄める。


(決して弱くない――、か)


ゼーラの言葉が、妙に胸の奥で引っかかる。


――オレはよえーよ、まだ全然だ。

塔を攻略して、世界に名を知らしめて、ジートを生き返らせる。

このままじゃ全っ然足りねえ。もっと、もっと……。


「オレはよえーよ、、塔を攻略、世界に名を知らしめ、ジートを生き帰えらせる、、オレはもっともっと強くなねえと、、」


考えてるつもりが、そのまま口から漏れていた。


「アデルどうしたの?外なんか見て、、後なんか言った?」


すぐ隣のリノアが首を傾げる。アデルはビクッとして、慌てて顔をそらした。


「べ、別に、、何も言ってねぇよ、、、」


「そっか、、」


リノアはそれ以上追及しなかったが、じっとアデルの横顔を見て、何かを飲み込むように小さく息を吐いた。


そんな空気を破るように、前方からフカシアの少し上ずった声が飛んでくる。


「み、皆さん左見てください、ぶどうがいっぱい実ってますよ!ぶどうの丘っていう場所です」


左を見ると、緩やかな丘一面が、陽光を吸い込んだような紫の粒でびっしりと覆われていた。風が吹くたびに、葡萄の房がゆらゆら揺れて、小さな鈴のように光を弾く。


「本当だ!ぶどう、わたし好きなんだ〜」


リノアの目がきらきらする。


「リノアさんもなんですか!私もなんです!!お口の中で齧った時に弾ける感じが好きなんです!」


ゼーラまで頬を緩ませて身を乗り出した。


「ん?なぁルイン、ぶどうってなんだ?」


アデルが本気で知らなそうな顔で問いかける。ルインは思わず二度見した。


「おいアデル、おまえ知らないのかよ!おまえ、よく俺の皿からこっそり取って食べてる紫色の果物だよ、、」


「ルイン!てめぇ!オレがこっそり果物取って食ってるの知ってんのかよ!」


「知ってるわ!言えばいいだろ、“欲しい”って」


「今度からはそうするわ!」


「自分でこれから注文した方がいいだろ、、、」


そんなやりとりを聞きながら、フカシアが少しだけ誇らしげな声で続ける。


「ラ、ラバン王国は葡萄酒も人気で、あのぶどうの丘でぶどうを取って作ってるんですよ!隣にある大きな建物で葡萄酒を作ってるんですよ!」


遠くに石造りの大きな建物が見える。樽を運ぶ人影と、その周りを巡回する武装した冒険者たち。


「そうなんですね!でも葡萄香房ぶどうこうぼうの周りに巡回してるのって冒険者なんですか?」


ゼーラが興味深そうに尋ねる。


「そ、そうです、、ぶどうを狙う魔物だったり、葡萄酒を盗む人がいるので、ああやって巡回してるんです」


「そうなんですね、、」


ゼーラは、丘で働く作業員の一人と目が合い、思わず手を振ってみせた。作業員は驚いたあと、嬉しそうに大きく振り返してくる。その様子に、ゼーラもふっと笑みを深くした。


◇ ◇ ◇


ぶどうの丘を越えた先、景色は一転する。


草の緑が途切れ、視界の向こうに“青”が広がっていた。


「なんだここの水!クソ青いな!!」


アデルが身を乗り出して叫ぶ。そこには、空よりも濃く、宝石を砕いて溶かしたみたいな“蒼”の川が、静かに流れていた。


「こ、ここは、蒼泉(そうせん)と呼ばれています!」


フカシアが少し誇らしげに胸を張る。


川はやがて、少し開けた場所で大きな泉となり、青い光を湛えていた。水底には、同じく青い魚が、のろのろと、しかし気持ちよさそうに泳いでいる。


「へぇー!!凄くきれいー!!青い魚もゆっくりだけど泳いでるよ!!捕まえるのかな?」


リノアが目を輝かせながら身を乗り出す。


「えいっ!皆さん見てください!!私、捕まえれました!!」


ゼーラが、見事に両手で青い魚をひょいっと掲げてみせた。


「ゼーラ!捕まえるの早いな!こういうのは先にアデルが捕まえ、、、って、おいアデルおまえそんなでかい木の下で何してんだ!!」


ルインが振り向くと、アデルは少し離れた、太い木の根元で堂々と立っていた。


「何って立ちションだ!!立派な木があったら立ちションするもんだろ!!」


「ア、アデルさん、その、もうちょっと人気がない所で、、」


フカシアが顔を真っ赤にして両手を振る。


「そうですよ!!アデルくん!!お尻が見えてます!!」


ゼーラも慌てて視線をそらした。


「ほら!女の子達が目のやり場に困ってるだろ、、ん?リノア、、平気なのか?、、」


ルインは隣を見るが、リノアは特に動じていない。


「へ?ただアデルが立ちションしてるだけでしょ?もう見慣れてるから平気。アデル、しっかり手洗ってね!」


「わかってるわ!!」


アデルが蒼泉の水で手を洗うのを見て、ルインはなんとも言えない顔になる。


「そんなもんなんだな、、、、」


◇ ◇ ◇


それぞれ枯れ木を集めたり、荷を下ろしたりして、昼食の準備が始まる。


「フカシア、この取れた青魚食べれるの?」


ルインがゼーラの持つ魚を指さす。


「そ、それが私、食べた事なくて、、、」


「ルイン、色が青くて綺麗なんだよ!食べれるに決まってるじゃん!!」


リノアの謎理論が炸裂する。


「リノアの絶対的自信、何処からくるんだよ、、、毒持ってたらどうすんだよ!」


「ルイン!この魚に毒なんてありません!!」


「ゼーラ知ってたのか!!この魚!!」


「いえ!!勘です!!!」


「勘??マジか、、ゼーラ、、、」


ルインが頭を抱えたちょうどその時――。


「ど、どします、、皆さん食べ、、、??アデルさん??」


フカシアの視線の先、アデルが青魚を一足先に豪快にかじっていた。その顔が、みるみる歪んでいく。


「くう、、、ううっ、、うぅぅぅうう、、っぐ、、、」


「アデル!!大丈夫!!どうしたの!!」


リノアが駆け寄り、ルインも身構える。


「おい!!やっぱり毒か!!!」


「アデルくん!!今すぐヒールで!!」


「ヒールだと状態異常治せないよ!!どうしよう!!」


「あわわわ!!ア、アデルさん!!」


三人が慌てふためく中、アデルは口に含んでいた魚を盛大に吐き出した。


「クッッッッッソまっっっず!!!なんだこれ!!クッッサ!!腐った果物の臭いと、苦酸っぱ塩辛いぞ!!まっっず!!うえっ!」


涙目で蒼泉の水をがぶ飲みし、口を何度もゆすぐアデル。


「この魚、不味いのかよ、、」


ルインがぽつりと呟く。


「誰にも狙われないから、あんなおっそい動きしてたんだ、、、」


ゼーラもがっくり肩を落とす。


「色綺麗なんですけどね、、、」


フカシアも、なんとも言えない顔で魚を見る。


「あ、あの、、私、干し肉作って持ってきてますので、これを食べませんか」


フカシアがおずおずと袋を差し出した。


干し肉は程よく塩気があり、噛むほどに旨味が滲む。五人は焚き火の側に座り、さっきの騒動を笑い話に変えながら干し肉をかじる。


ふと、リノアが蒼泉を眺めて思い出したように口を開く。


「そういえばさ、ラバン王国に着く前に休憩した湖、あれ、アルナディス湖って教えてもらったじゃんね」


「そうですね、白くて羽の生えた馬が出ましたよね、、」


「し、白くて羽が生えた馬ですか、、、」


フカシアが目を瞬かせる。リノアがフカシアに馬の事を尋ねる


「えっーっとすいません、、見た事ないです、、、、ですが、前、村のお爺さんが白い馬をアルナディス湖で見たって言ってました、、もう老衰で亡くなってしまいましたけど、、その後どうなったんですか?」


「何かいつの間にか消えたんだよなぁ。でも一枚の羽が上から落ちてきたから、売れると思ってマジックポーチに入れてるんだよな。フカシア、見てみるか?」


アデルがマジックポーチを探り、一枚の羽を取り出す。


「これが羽だ!!白く輝いて綺麗だろ」


アデルの手の上で、羽は柔らかい光を帯びている――四人には、そう見えていた。


だが、フカシアの顔色が変わる。


「どうした?フカシア!あまりにも綺麗すぎてびびったか!」


「あ、あのアデルさん、私は茶色で汚れてる羽にしか見えないです、、、」


「え?」


リノア達は一斉にフカシアを見る。


「フカシア!!そうなの?!白く輝いて見えないの、、?」


「本当なんですか、、!!」


ゼーラもそっと羽を覗き込むが、彼女にはやはり、白金色に輝く羽にしか見えない。


「は、はい、、」


フカシアは申し訳なさそうにうなずいた。


「どうなってんだ?なんでフカシアには茶色の汚れた羽にしか見えねぇんだ?」


ルインが眉をひそめる。


「もし俺達四人以外の人には、茶色の汚れた羽にしか見えないなら、この羽お金にはならんぞ、、、」


「マジかよ!せっかく高く売ろうとしたのによ!!」


アデルが天を仰いで叫ぶ。


「アデル!一応取っとこう!せっかく手に入ったから、、あんな凄い事起こって手に入れた羽だよ?」


リノアがおさえるように言うと、アデルは渋々ながら羽をマジックポーチへ戻した。


「不思議な事もあるんですね!」


ゼーラがぽつりと呟く。


「今度ユーリに再会したら聞いてみるか」


ルインが顎に手を当てる。


「おお!そうだな!アイツに聞けばなんかわかるだろ」


アデルもそれには素直に頷いた。


◇ ◇ ◇


蒼泉を後にすると、視界は一気に開ける。


果てしなく続く草原。背の高い草が風に揺れ、波のようにうねっている。雲の影がゆっくりと地表を流れていくのが見えた。


「おい?、、なんだアレ?遠くの山より背が高い木?があんだけど、、」


アデルが指差す先には、山脈の向こう側まで届きそうな巨大な“木”――いや、“柱”のようなものがそびえ立っていた。葉が見えない。まるで、緑ではなく、岩と樹皮が凝縮した一本の巨塔。


「本当だな、、デカい木だな」


ルインが低く唸る。


「ここでその大きさなら、近くで見たらきっと凄いですね!」


ゼーラが息を飲む。


「ねえーフカシア、あの木がある所ってもしかして、、」


リノアの声に、フカシアは僅かに身を震わせて答えた。


「え、そ、そうです、、トラウスの森、、もう一つの名をエルフの涙と言います」


「パニア爺は、上から岩の様な大きな水滴が落ちてくるって言ってた場所か!!」


アデルが思い出したように叫ぶ。


「そうなんですか!!アデルくん!!」


ゼーラが目を丸くする。


「パニアさん、そんな事言ってたんだね!エルフの涙まで来た事あったのかな?」


「知らねー、そこまで聞いてねぇや」


アデルが肩をすくめる。


巨大な“木”は、近づくほどに不気味な存在感を増していく。その足元に広がる森――トラウスの森が、これから彼らを試す舞台だ。


そう思ったちょうどその時――。


「助けてくれぇええええ」


悲鳴が、風を切り裂いて届いた。


「今の声!!どこからなの!?」


リノアが反射的に立ち上がる。


「み、皆さん!前方に行商人が魔物に襲われてます!!」


フカシアが前方を指差す。砂煙の向こうに、小さな荷馬車と、その周りをぐるぐる旋回する影が見えた。


「みんな!助けに行くぞ!!」


ルインの声に重なるように、鳥車が急加速する。荷台に揺られながらも、四人は瞬時に武器を手に取った。


◇ ◇ ◇


砂煙の中――。


「ヒィー、、い、今ドュドュが抵抗してるけど、、や、やられたら、、今度は俺の番だぁあああ!!誰かぁああ!!助けてぇあああ!!ウィンドウルフがぁああ!!」


震える行商人が、荷車の陰に隠れながら叫ぶ。その眼前では、小柄な護衛・ドュドュが、ボロボロになりながら風を纏う狼たちに槍を振るっていた。


ウィンドウルフ。毛皮が風そのもののように揺らぎ、動くたびに空気が切り裂かれる音がする。二匹、三匹――群れは獲物をいたぶるように輪を描いて走り、瞬間的に距離を詰めては爪と牙を突き立ててくる。

行商人が叫びながら、倒れた護衛の名を呼ぶ。砂の上には既に、動かなくなった護衛らしき人影が二つ転がっていた。


その瞬間――。


光が、走った。


「アネマ!」


「ソルマ!」


甲高い詠唱と共に、二つの魔法がウィンドウルフを貫く。悲鳴と共に吹き飛んだ狼が砂地を転がり、地面に焼け焦げた跡を残した。


「《ヒール》!」


別の声が、倒れかけていたドュドュの身体に白い光を降らせる。裂けた皮膚が繋がり、血が止まり、呼吸が少し落ち着く。


行商人が恐る恐る頭を上げると――。


そこには、風を切り裂くように立つ二人の少女――聖女がいた。


「せ、、聖女様!??」


声が裏返る。


ゼーラはドュドュの傍らで、さらにもう一度ヒールを重ねた。光が柔らかく護衛を包み込み、その顔色が少しずつましになっていく。


少し離れた位置では、リノアがウィンドウルフたちと睨み合っていた。


「アデル!!右!!」


「任せとけぇ!!」


リノアの叫びと同時に、アデルが横から飛び込む。風をまとって突進してきたウィンドウルフの顎に、彼の渾身の拳が突き上がるように炸裂した。


「ぶっ飛べやあああ!!」


骨が砕ける鈍い音。狼は空中で体勢を崩し、そのまま砂地に叩きつけられる。


残りのウィンドウルフが唸り声を上げて散開する――が、その先をルインが読んでいた。


「ゼーラ、後ろは任せろ!」


ルインは素早く踏み込み、迫ってきた一体の狼の前足を斬り払う。鋭い軌跡を描く剣筋。砂が舞い上がり、血が飛び散る。


「っらああ!!」


切り飛ばされた前足を失った狼が片側に倒れ込む。その隙を逃さず、アデルが再び拳を叩き込む。


「プグヌス・ディレクトゥス(直進する拳)」


リノアの短い詠唱が響いた瞬間、彼女の手の平から強烈な風が炸裂する。残ったウィンドウルフが一瞬目を焼かれたように動きを止めた。


「今だ!」


ルインが滑るように間合いを詰め、喉元へと剣を突き立てる。最後の一匹が苦悶の咆哮を上げ、砂地に崩れ落ちた。


風が、静まる。


砂埃の向こうから、行商人の震える声が聞こえた。


「……た、助かった……?」


「大丈夫ですか?」


リノアが行商人の方へ歩み寄る。さっきまで魔物相手に鋭い眼光を向けていた少女とは思えないほど、柔らかい顔で。


「あ、あ、あああ!!ありがとうございます!!聖女さまぁああ!!」


行商人は勢いよく地面に額を擦りつけるように頭を下げる。


「顔あげてよ!!恥ずかしくなる!!別に凄い事してないよ〜」


リノアは頬をかきながら苦笑する。


「命の恩人です!!!あのお名前は?、、」


「わたしはリノア!」


「そちらの聖女様は、?」


「私はゼーラと言います!」


「おおお!!リノア様!!ゼーラ様!!」


行商人は半泣きになりながら何度も頭を下げ続けた。


その少し離れたところで、ルインとアデルはフカシアを鳥車ごと待機させ、周囲に他の魔物の気配がないか見張っていた。


「なあ、ルイン。リノア、あの物売りおっさんから何かもらったぞ」


「行商人な。……黒い石?腕にはめれるような穴が空いてるな」


やがて、行商人は礼を言い切ると、瀕死の護衛たちを荷車に乗せて去っていった。代わりに、リノアの手には、黒い石のブレスレットが一つ残されている。


「なんかこれ貰った、、、ブレスレット?かな?」


リノアが手のひらの上でくるくる回して見せる。


「石で出来たブレスレットって珍しいですよね!」


ゼーラが興味深そうに覗き込んでくる。


「リノア、もう片方につければ良いんじゃね?せっかくだし、バランスよくなるだろ!」


アデルがニヤニヤしながら指差す。


「いやよ!なんか地味だし!わたしにはこのブレスレットで十分!!アデル欲しい??」


「いらねぇーよ。とりあえずゼーラの袋の中に入れとこうぜ!」


「わ、私ですか!!まあ幸いにも持ち物少ないのでいいですよ」


ゼーラは慌てつつも丁寧にブレスレットを布に包み、自分の袋にしまった。


「フカシア!色々と待たせたな!準備整ったし、そろそろ出発といきますか!」


ルインが手を叩く。


「わ、分かりました!そ、、それでは先へ進みましょう!」


再び鳥車は走り始める。


◇ ◇ ◇


それからしばらく、草原と夕焼けの中を進む。空はオレンジから紫へとゆっくり色を変えていく。


「フカシア〜後どれくらいで着くんだ?オレ尻が痛くなるかもしれねぇー」


アデルが尻をさすりながら抗議する。


「そ、それは、、まだまだなんです、」


フカシアは申し訳なさそうに振り返る。


「うっそだろぉおおおお!!」


アデルの絶叫が、夕空に虚しく響いた。


「と、とりあえず、日も沈んできたので、今晩はあそこの木の影で休みましょう」


少し先に、大きな木々が点在する小さな林が見えた。


◇ ◇ ◇


野営地づくりが始まる。


「オレ、食いもん探し行ってくるわ!!」


アデルが勢いよく立ち上がる。


「なら俺も行くかな。リノア、ゼーラ、フカシアは寝床と焚き火の準備頼んだ!」


ルインが肩を回しながら後を追う。


「まっかせて!!よく燃える枝探しに行ってくるね!!」


リノアが元気よく手を挙げる。


「フカシアさんもリノアさんと一緒に枝を探してきてくれませんか?」


ゼーラが優しく声をかける。


「え、で、でも、、ゼーラさん一人になってしまいます、、」


フカシアは不安そうに目を揺らした。


「私は大丈夫です!」


ゼーラはそう言うと、そっと地面に手をついた。


「《土造形》……っと」


ふわり、と地面が盛り上がり、みるみるうちに形を変える。土が丸く盛り上がり、内部がくり抜かれ、入口が開く。やがて、小さな土のかまくらが、ぽこぽこと人数分並んで姿を現した。


「す、、すごいです、、こんな簡単に、、」


フカシアが目を丸くする。


「慣れですっ!」


ゼーラが微笑むと、フカシアの顔が真っ赤になる。


「じゃ、メシ取りにちょっくら行ってくるぜ!!」


アデルが片手を振り、ルインと共に森の奥へ消えていく。


「さあ!フカシア、一緒に枝探しに行こう!!」


「みなさん、行ってらっしゃーい!」


ゼーラは焚き火の場所を整えながら、三人の背中を見送った。


◇ ◇ ◇


しばらくして――。


「ゼーラ、お待たせ!!結構乾いた枝があったね!これくらいあれば明日まで持つかな?」


腕いっぱいに枝を抱えたリノアが戻ってくる。その後ろで、フカシアも同じように両腕に枝の束を抱えていた。


「はい!全然大丈夫だと思います!リノアさん、フカシアさん、ありがとうございます!」


ゼーラが枝を受け取りながら微笑む。


「ゼーラもいつも立派なかまくら作ってくれてありがとう!」


リノアが笑いながら肩を軽く叩く。


「あっ!そうだフカシア!さっき鋭い葉っぱに当たって腕切っちゃったでしょ!」


リノアがフカシアの腕を掴む。そこにはうっすらと血が滲んだ細い切り傷があった。


「え、あ、はい!!でも大丈夫ですよ!このくらいなら、、」


「ヒール!!」


リノアが、短い詠唱と共に手をかざす。柔らかい光が傷口を包み込み、瞬く間に跡形もなく消えた。


「す、すごいです!!」


フカシアは目を見開く。


「こんなの余裕だよっ!」


リノアが得意げに胸を張る。


「何度か見てますけど、リノアさんの回復魔法、本当に早く傷を癒やしますよね?!」


ゼーラが心から感心したように言う。


「そうかな?」


「そうですっ!!」


女子三人でわいわいしていると、遠くから男二人の声が聞こえてくる。


「豚魚って何処にでもいるんだな!!コイツしか池の中いなかったぞ!!」


「アデルはなんで毎回毎回すぐ水の中に入るんだよ!釣りの方が確実だろ!」


「糸切れたらどうすんだよぉ!手で掴んだ方が確実だわ!」


「じゃ、どれくらい捕まえた?二匹だけだろ?俺の見てみろよ、三匹だ!」


「オレのより一匹多いだけじゃねぇか!!」


そんな言い合いをしながら、二人はいつの間にか野営地へ戻ってきていた。


「アデル!ルイン!おかえり!!何をそんな言い合ってるの?」


リノアが笑いながら声を掛ける。


「リノア!魚取る時、釣りと素手、どっちが効率いいと思う?」


アデルが真剣な顔で聞いてくる。


「釣りに決まってるじゃん!!」


即答だった。


「ほらみろよアデル!!素手よりも釣りだぁ!!!」


ルインがドヤ顔を決める。


「おい!!リノア!!よくよく考えてみろ!!素手の方が・・」


「釣り!!」


「クソッ!!ゼーラ!!フカシアは??どっちだ!!!」


アデルが最後の希望を求めるように振り返る。


「アデルくん、釣りの方が捕まえやすいんじゃないですかね?そのー、、魚、素手だとヌルッとして難しくないですかね?」


ゼーラが申し訳なさそうに答える。


「えーっとその、、フィッシャーマンなら別として、私達は素手、難しいと思います」


フカシアも控えめながら正直に答えた。


「ほらアデル!女性みんな釣りだってよ」


ルインが追い討ちをかける。


アデルはしばし無言になり――。


「ほらアデル、ご飯の支度するよ!」


リノアが、アデルの持ってる魚を軽やかに奪い取る。


その様子を見ていたゼーラは、すぐにアデルの表情の曇りに気づいた。


「でもアデルさんしか素手で魚捕まえれないと思いますのですごいです!!本当に!!」


ゼーラが真っ直ぐな目でそう言った瞬間――アデルの目がカッと見開かれる。


「おまえらよってたかってなんだよぉ!!もういい!!オレはあの池の豚魚百匹取るまで移動しねえからな!!クソがぁ!!」


怒鳴り声を残し、アデルはくるりと背を向けて森の方へ駆け出した。


「ねぇ!待ってアデル、、」


リノアが手を伸ばすも、その背中はあっという間に木々の間へ消えていった。


「ルインのせいですよ!!」


ゼーラがぷるぷる震えながらルインを睨む。


「なんでだよっ!ゼーラ!!」


「魚なんて取れればなんでもいいんです!!せっかくアデルくんがちゃんと取ってきた事に関して褒めないんですか!!

細かい事いちいち言わなくていいんですっ!!昔っからそうでした、、」


ゼーラはそこまで一気にまくし立てて、はっと口をつぐむ。


ルインは、口をぽかーんっと開けたまま固まった。


(昔っから……って)


心に刺さる何かがあったが、それを言葉にする前に、ゼーラはくるりと後ろを向いてしまう。


「さあ!リノアさん、フカシアさん、ご飯の準備しましょう。アデルくんもきっとお腹空いて戻ってきますから!」


「ゼーラの説教モード初めて見たかも、、」


リノアが小声で笑う。


「リ、リノアさん、そうなんですか、、?」


フカシアはおろおろしながらも、どこか羨ましそうに二人を見ていた。


リノアはルインの横を通り過ぎる時、ぽん、と肩を叩き、「どんまい」と一言だけ置いて行った。


◇ ◇ ◇


一方その頃――。


アデルは、先程ルインといた池まで戻ってきていた。


「クッソ、アイツら見てろよぉ!!ここの豚魚全部捕まえて独り占めしてやらぁ!!」


苛立ちを拳に込めて、アデルは水面に向かって思い切りぶん殴る。


ドンッ――!


鈍い衝撃音とともに、水面が爆ぜた。大量の水飛沫と共に、池の中の豚魚がほとんど打ち上げられる。


「フンッ!最初っからこうしとけばよかったぜ!!、、、ん?なんだコレ??」


水面が、ぼこぼこと不気味に泡立ち始めた。


「……は?」


次の瞬間。


ズガーーーンッ!!!


さっきの比じゃない水柱が、夜空に向かって吹き上がった。アデルは思わず後ろにひっくり返る。


「へ?なんでだ??ーーーーあっつ!!何この水!!あっつ!!」


さっきまで普通の池だった場所から、白い湯気がもうもうと上がっている。


そこへ、空高く打ち上げられていた巨大な円盤状の岩のプレートが、重力に従って落ちてきた。


ドガァァァンッ!!


地響きと共に、プレートは池の真ん中に突き刺さる。その衝撃で、池はきれいに円を描くように二つに割れた。左右に、対称な二つの円形の湯だまりが出来上がる。


「……あっつ!!!!へ??池から湯気出てんじゃん、、、なんだコレ、、よく見ると別の魚泳いでねぇか?!豚魚が水面でひっくり返ってるしよ!」


右側の池では、さっきまで元気に泳いでいた豚魚たちが、全員ひっくり返ってぷかぷか浮いている。一方、左側には、見たことのない奇妙な生き物がうようよしていた。


アデルがふと足元を見ると、全身泡だらけの拳サイズのカニが、ちょこちょこと近づいてきた。次の瞬間、そいつはアデルの足にぶちゅっと泡を吹きかける。


「お、おおい!!な、何すんだよ!!」


慌てて泡を手で擦り落とそうとするが、触れば触るほど、もこもこ増えていく。


「全然、、取れねぇ、、クッソ、、」


そこへ、さっきから気になっていた赤いタコが、吸盤をこちらに向けた。


「おい!!てめぇー!何する、、」


ビシャァァァ!!


「……あれ、、、泡取れるし、お湯が気持ちいいぞ、、しかもすんげーカスボの実の匂いがして悪くねぇ!、、、もしかしてこの池入れるんか??」


ぽかんとしたあと、アデルの顔に悪ガキ特有の笑みが浮かぶ。


「決まりだな」


アデルは無駄に勢いよく服を脱ぎ捨て、そのまま湯気立つ池へと飛び込んだ。


「ピョエエエエエエエーーーーーーー!!!」


森中にアデルの奇声が響き渡る。


「気持ちいなぁあああああああ!!クソッタレがぁああああ!!ーーーん?なんだこの細長い魚は?」


腰あたりをぬるりと何かが巻き付いてくる。見ると、細長い魚がアデルのふくらはぎに絡みつき、ぶるぶると高速で振動していた。


「ひゃああああ!!き、気持ちいい!!なんだこの魚!!」


さらに、先程の赤いタコと別のタコが、アデルの足の裏に吸盤をくっつけて、絶妙な力加減で揉みほぐしてくる。


「ひぃいいいいいい!!さ、最高ーーーだぁあああ!!」


完全に昇天しかけながら湯に浸かっていると、近くの茂みからゴソゴソと音がした。


「おい!魔物か?出てこい!!」


アデルが警戒して声をかけると――。


「にゃはーー!!!」


茂みから、猫みたいな声を上げながら少女が飛び出してきた。年頃はリノアたちと同じくらい。明るい髪が肩で跳ね、目尻の下がった笑顔がめちゃくちゃ人懐っこそうだ。


「な、なんだお前!!急に茂みから出て来やがって!!」


「いやいや〜驚かせてごめんねぇ〜!!少年がなんか気持ち良さそうに池に浸かってるからさ〜ルナも浸かりたくなっちゃったの〜!!」


「めちゃくちゃ気持ちいいぞ!!って、名前ルナっていうのか??それより湯気で最初わからんかったけど、お前、聖女かよ!」


ルナの体から漂う、どこか特別な“気配”そして白い髪。アデルには、それが見慣れた“聖女の光”と似たものに感じられた。


「ん?ルナは聖女だよ〜!初めて見る感じ?」


「仲間に聖女二人いるからな!初めてでは無いぞ!」


ルナは、話しながらあっさり服を脱ぎ始めた。


「やっぱり女って、ち◯ち◯ついてないんだなぁ!!」


アデルの感想はひどかった。


「え?少年!!今まで見た事なかったの??」


「おう!!ねえぜ!!“ち◯ち◯見せろ”って言うと魔法撃たれたからな!それより早く入れよ!!マジ気持ちぃいぞ!!この池!後、魚達が色々としてくれるぞ!!」


「よーし!!ルナも入る〜!!」


ザッブーーン!!


「おおお、おおおお!!ピャアアアアアアアアーー」


ルナの奇声が森中に響き渡る。


「ええ!!すんごい気持ちね!!何この長い魚!!ルナの足に絡まってすごい振動出すけど、めっちゃ気持ちいいね!!」


「だろ!!ずっと入れるわー」


二人は完全に同じ波長だった。


「ねえ!少年!名前なんて言うの?」


「オレか?オレはアデル!将来、世界に名を知らしめる男だぜ!!」


「おお!!カッコいいね〜!!アデル少年か〜」


「ん?少年?」


「うん!アデル少年!!ルナと友達になってよ〜」


「お!友達になろうぜ!!これから宜しくな!!」


「こちらこそ!宜しくね!」


二人は湯の中から立ち上がり、全裸のまま、なぜかやたら熱い握手を交わした。


その時。


「ちょちょちょちょちょとぉおおおお!!何してるんだよぉお!!ルナちゃん!!!」


再び茂みが揺れ、今度は少年が飛び出してきた。髪を振り乱し、顔を真っ赤にしている。


「アデルゥウウウウウウウウ!!!な、な、ななにしてるのょおお!!」


その後ろからは、半泣き気味のルインと、心配そうなゼーラたちの声も聞こえてくる。


「アアアア、、アアデルくん!!ちょっとまままだ早いと、思うんですけど、、、」


「アデルゥウウウ!てめぇ!!人が心配して見にきたら!!ななな何、女の子と一緒に湯に浸かってんだよぉおお!!てか!俺と来た時こんな湯気立つ池なかったろぉお!!」


ルインとリノア、ゼーラ、フカシアも木陰の向こうから顔を出し、謎の光景を目撃して固まる。


アデルとルナは、それぞれ「よっ!」って感じで、お互いの仲間に手を挙げた。


「ラセル〜なんでそんな顔真っ赤で怒ってるの〜」


ルナがけろっとした声で言う。


「そいつ、ルナの仲間か!オレの仲間も顔真っ赤で怒ってるんだよなー」


アデルはどこか他人事だった。


「え!!あれアデル少年の仲間達なの!!挨拶しに行こ〜!」


「ならオレはルナの仲間に挨拶してくっかな!!」


二人は湯から上半身を出したまま、それぞれの仲間の方へ進み、そこでようやく「全裸だ」という現実に気づいたルインが慌てて目をそらした。


「お前、ルナの仲間なんだな!オレはアデル、宜しくな!」


アデルは先ほどの少年――ラセルの肩をがしっと掴む。


「よ、宜しくってなんだよ!!ななな何でルナちゃんと一緒にお湯に浸かってるんだよぉー!!ぼぼ僕だってまだないんだぞぉ!!」


「ん?ならお前も入れよ!ほら服脱げよ」


「え?ちょ、、いきなり、、何するんだよ!!」


「よし!!スッポンポンになったな!」


一瞬で服をはぎ取られたラセルが青ざめる。


「僕、まだ入るって!!言って、、」


「うるせぇー!はよ入れ!」


アデルはラセルを容赦なく蹴り飛ばした。


ザッパーン!!


「ピニャアアアアアアアアアアーーー!!」


ラセルの奇声も、森中に響き渡る。


「おお〜ラセルも入ったんだね〜」


ルナは楽しそうに手を叩いた。


その頃、リノアはルナへ詰め寄っていた。


「あの!あなたは誰なの!なんでアデルと一緒にお湯に浸かってるの!!」


勢いある質問攻めに、ルナはむしろテンションが上がる。


「ん〜アデル少年とはね!さっき友達になったんだよね〜。あ!ルナって言うの、よろしくっ♪」


「わたしは、、リノア、、」


「おお〜リノア少年ね!!よろしくね!アデル少年が言ってた聖女の二人って、君達の事かな〜??ルナ、自分以外の聖女に会うの初めてなんだよねぇ〜!もう一人の聖女さんっ!名前教えて〜」


「私はゼーラと言います、、」


「おお〜!ゼーラ少年ね〜宜しく〜!で、最後、少年の名前教えて〜??なんで少年、横向いて目瞑ってるの?」


「いや、、お前が、裸だからだろ!お、俺は、ルインだ!」


「了解!ルイン少年ね!よろしく〜」


「あの!わたし少年じゃなくて少女だと思うけど!!」


「私もです!!」


リノアとゼーラが同時にツッコむ。


「にゃはは〜まあ別にいいじゃん♪」


ルナは気にする様子もない。


「まあ、いいわ。それより!ルナは何処でアデルと会ったの?」


「んーっとね!この池で会ったよ〜。ヘックション!うう〜体が冷えたからまた湯気の出る池に入るね〜」


「ちょちょ!待って!!」


リノアの制止も聞かず、ルナはまたスタスタ走っていき、アデルとラセルのいる湯船に飛び込む。


「なんか三人とも気持ち良さそうですね、、」


フカシアが、頬を赤くしつつも羨ましそうに眺める。


「俺達も入って見ないか?、、」


ルインがぽつりと漏らした。


「え?!一緒に!!?ルインと??!」


リノアが赤面する。


「ま、まて!!違う!!そういう意味じゃない!!ほれ!見てみろ、丁度でかい石が中心に刺さって池が二手に別れてるから!誰も入ってない方をゼーラ達が行けばいい!!」


「あ!なるほど!それならアデルくん達に見られませんね!」


ゼーラの顔も少し赤い。


「た、確かに!そうだね!でもあのルナって子もこっちに連れてこないと!!」


リノアはその場から声を張り上げた。


「ルナ!!こっちの湯、わたしたちと入ろ!!」


「ええ!ルナはリノア少年とゼーラ少年と一緒に入る!!聖女同士の水浴び!やったぁああ!!」


ルナのテンションは最高潮だった。


その後、男女にきれいに分かれて、それぞれの湯に浸かることになった。


◇ ◇ ◇


「「「ピヒャアアアアアアアアアア」」」


初めて湯に入ったリノア、ゼーラ、ルイン(なぜか男湯側からも)の奇声が、森中にこだました。


遅れて、フカシアも湯気の池まで辿り着く。アデル達の姿を見て、顔を真っ赤にしながら、今にも泣きそうな顔で立ち尽くす。


「ほ、本当に……よかったです、、皆さん無事で、、てっきり魔物にやられた声だと思ってたので、、無事でよかったです、、」


ようやく状況を理解して涙ぐむフカシアに、リノアとゼーラが笑って声を掛ける。


「ごめんね、、フカシア、心配させちゃって」


「フカシアさん、ごめんなさい!!」


「フカシア少年!いい奴だなぁ!ルナはフカシア好きだぞ!」


ルナが無邪気に抱きつくように湯の中から手を伸ばす。


「せ、聖女様から“すき”って、、はあ〜〜〜、、」


フカシアはぶくぶくと湯の中に沈みかけた。


「あにゃ?フカシア少年どうしたんだ?」


ルナは首を傾げるばかりだ。


フカシアも湯に浸かることになり――。


「ピヒョオオオオオオオオオオオオオオオーーー」


新たな奇声が森に響き渡った。


一方、男湯では。


「あ〜〜〜ぎもぢ〜」


ルインが完全にゆでダコ状態の顔で湯に浸かっていた。


「おいルイン!ヨダレ垂れてるぞー。汚ねぇ〜ぞ〜。そして、、おいクソガキ!いつまでオレを睨んでんだよ!」


アデルが向こう側から声をかける。その視線の先には、まだ頬を真っ赤にしているラセルがいた。


「それは睨むに決まってるだろぉー!!ルナちゃんの裸、見たから!!しかも一緒に池に入ってたじゃん!!」


「ん?んな事気にすんなぁ〜オレも見られたし、お互い様って事で〜」


「そんなわけあるかぁあああ!!」


ラセルの叫びが、湯気と笑い声の中に溶けていく。


男女ともに、会話は途切れることなく続き、それぞれの旅の話、塔のこと、故郷のこと、くだらないこと――。


数十分という短い時間だったが、お互いの距離は一気に縮まり、夜の森は、湯の音と笑い声で、いつまでも賑やかだった。

魚図鑑


蒼隣魚

青い鱗を持った魚、動きがとても遅く、危機管理もとても薄い為、誰でも捕まえられるが、とても不味い


泡ガニ

いい臭いの泡を出すカニめっちゃ泡たつ


振動ウナギ

危険が察知すると体を振動させるウナギ


水かけタコ

十本の足から丁度いい水を出すタコ


揉みだしタコ

タコ自身は攻撃してるつもりだが、人には丁度いい揉みかげん


アカトリ

人の垢を好んで食べる小魚


泡テッポウオ

口から泡を出して獲物を捕食する


水テッポウオ

泡の水版、行動は一緒

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