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第二十話 醜馬

リノア達を乗せた鳥車は、きしむ車輪の音だけを残して、ラバン王国へと変わらぬ速さで進んでいた。


リノアがふと目を覚ますと、窓の外はすっかり茜色から群青へと沈みかけている。いつの間にか夕方を過ぎ、空には一番星が瞬き始めていた。左右には、背の低い平原と、黒く沈んだ森がゆっくりと流れていくだけ。人の気配も、村の灯りも見えない。


「今日は野宿かぁ〜……」


思わず独り言が漏れる。トーメル王国を、ほとんど逃げるように飛び出してきて──バタバタと準備して、ようやく落ち着いたと思ったら、気づけば眠り込んでいた。


「リノア、起きたのか?」


「ひゃっ!?」


てっきり寝ていると思っていたルインに、名前を呼ばれ、リノアはビクッと肩を跳ねさせる。


「ルイン、起きてるなら言ってよね! びっくりするから!」


「声デカかったか? 悪かったよ」


「べ、別に謝らなくていいのに……。わたしの方こそ、その……ルインの過去、聞こうとしてごめんね」


「気にすんな。……ただ、聞いてもあんまり良い話じゃない。聞いたら、正直、気分は悪くなる。それでもいいなら、話すけど?」


リノアは一瞬だけ迷い、それから小さく、でもはっきりと頷いた。


ルインはちらりと向かいの席で眠るゼーラへ目を向ける。まだ体力が戻りきっていないのか、穏やかな寝息を立てている。その顔を一瞬だけ見てから、ルインは目を閉じ、昔を掘り起こすように、ゆっくり言葉を紡ぎ始めた。


「俺とゼーラはさ、ラバン王国のドーラン領にあるササボ村──そこにある孤児院で育った。二人とも、本当の親は知らねえ。俺たちにとって親って呼べたのは、そこにいたシスターと……神父さん、ぐらいだった」


リノアは息を飲み、黙って続きを待つ。


「孤児院には、俺たちより下の子が三人いた。弟とか妹みたいなもんでさ。シスターに読み書きを教えてもらって、下の子らにも教えたりして──あの頃は、それなりに笑ってたんだ」


ルインの声が、そこで少しだけ低くなる。


「……でもある日、神父さんが病気で亡くなって、代わりに別の神父が来た。そいつは“孤児院をより良くする”とか綺麗ごと並べて、最初にしたのがシスターを追い出すことだった」


「そんな……」


「俺たちは当然反抗したさ。でも、全員、棍棒でぶん殴られた。シスターの代わりに来た“世話係”も、機嫌悪いときは俺たちに当たり散らして……。あの頃からだな、“家”って感覚が消えたのは」


リノアは拳をぎゅっと握る。聞いているだけで胸が苦しくなった。


「でも、ゼーラは聖女でしょ? レナウス聖神国から使者が来て、お金くれたり、様子を見に来てくれるはずだよね? 何かあったら、その人達に相談したり、神父さんに言えば……」


「……それが、甘かったんだよ」


ルインが鼻で笑う。その笑いには温度がない。


「レナウス聖神国の使者と、新しい神父は裏でつながってた。孤児院に送られてきた金──俺たちの食事や衣服のための金を、自分たちの懐に入れてた。ゼーラさえいれば金は入る。だから、俺たちは“生かされてるだけ”だった」


リノアの顔色が目に見えて青ざめていく。


「逃げられないようにって、孤児院の周りには壁まで建てられた。弟妹たちは、まともに飯も貰えないから衰弱していく。俺は夜に壁を越えて村の畑に忍び込んでさ、見つからないように野菜盗んで、みんなに食わせてなんとか生き延びてた」


「許せない……」


リノアの声が、震えた。


「何年もそんな生活が続いて、俺とゼーラが十三になった頃だった。夜、俺たちが寝てるときに世話係が来て、“このままだと二人ともずっとここに閉じ込められる。今、入り口の鍵を開けたから、すぐ逃げて。近くの森にドュドゥを用意してるから、遠くまで逃げなさい”って言ったんだよ」


「え……?」


「考える暇なんてなかった。俺たちは言われるままに孤児院を出て、森まで走った。けど、森にいたのは──人攫いだ」


「やっぱり……!」


「その世話係……いや、あれは神父の命令だろうな。俺たちを“逃げた孤児”にして、人攫いに売り渡したかったんだ。聖女として旅立たれたら、今までの不正をバラされるかもしれねぇから」


リノアの背筋に冷たいものが走る。


「縄で縛られて、目隠しされて、鳥車に放り込まれた。けど……なんとか俺だけは手を動かして、武器を錬成した。見張りが油断した隙に縄を切って、ゼーラの手を引いて、また全力で走った。死ぬ気で走って、村から少し離れたところに住んでる“おばあさん”を頼ったんだ」


ルインはそこで目を開き、遠くを見るように空を見上げる。


「……それが、俺たちの過去。聞きたかったのは、こういう話だ」


リノアは何も言えなかった。喉の奥に硬いものが詰まったみたいに、声が出ない。


「……ご、ごめん……」


「なんでリノアが謝んだよ。話すって言ったのは俺だ」


ルインは肩をすくめる。


「その後は、おばあさんの家で数ヶ月世話になって──それからトーメル王国まで来た。だから、ラバンに着いたらさ……俺はまず、おばあさんに挨拶に行きたい。あと、孤児院に残った弟達がどうなったかも、確認したい」


「それなら──わたしも一緒に行く!」


「はあ? なんでリノアが来るんだよ。別に俺一人で行けるって。挨拶と確認だけだし。ゼーラには、あんまり昔のこと思い出させたくねぇから……」


「ダメ! 話を聞かせてもらっただけで、何もしないなんて嫌。それに、一人だと心配だから。もう約束したからね!」


「おい、勝手に約束すんなって!」


「絶対一緒に行くから!! ルイン!」


リノアはまっすぐにルインの目を見つめる。その目は、揺らがない。


「あー……はいはい、わかりましたー。……ったく。じゃあ、色々片付いてから向かうか」


「やったぁ! 約束だからね!」


そんな風に話していると、御者が前から声をかけてくる。


「お客さん方〜、今日はこの辺りで野宿ってことでどうでっか?」


どうやら、ちょうど野営によさそうな場所を見つけたらしい。リノアとルインは、まだぐっすり眠っているアデルとゼーラを容赦なく揺さぶった。


「んん〜……なんだよぉ……オレまだ寝てるぞぉ……」


「アデル! 今日の野宿の場所、ここら辺らしいよ。御者さんが確認してほしいって!」


一方、ルインはといえば──


「ゼーラ、起きろ。……おい。……おーい……」


揺さぶっても揺さぶっても、ゼーラは「うぅ〜」と小さな声を漏らすだけで、全く起きない。


「……もういいや。置いてくぞ」


野営地は街道から少し外れた場所にあり、ちょっとした林の中、一本だけ妙に大きな木の根元を中心に陣取ることになる。寝たままのゼーラをドュドュの上に乗せたまま、残り三人と御者で準備を始める。


「食料、これくらいしかないですけど……足りますかね?」


リノアはゼーラが用意していた食料袋を広げる、袋を覗いたルインが、微妙な顔をする。中身は、髭ニンジン数本と、しなびかけのカイバレタスくらいだ。


「はぁ? 髭ニンジンとカイバレタスだけかよ!! オレ、今腹減ってんのにこんなんじゃ全然足りねー!」


「それなら近くにでっけぇ湖があるみたいだ。そこで魚でも釣ってくりゃ、食えるもん増えるぞ」


「ルイン! 先にそれ言えよ!! オレ、魚釣ってくる!!」


「ルイン、わたしもアデルについていくね。アデル一人だと心配だし」


「おいリノア! なんでオレが心配なんだよ。オレは一人でも平気だっつーの!」


「アデルって、いつも勝手にどっか行くでしょ? だから監視も兼ねて、ついていくの!」


「はぁ〜……はいはい〜」


「なによ、その嫌そうな返事! バカアデル!」


「うるせぇ〜……それよりさ、おまえの鼻な、さっきから鼻くそが呼吸する度にヒョコヒョコしてんだよ。あれペットか? ちゃんと躾けとけよ? リノアの顔見るたび笑えるわ」


リノアの顔が、一瞬で真っ赤になった。


「ア、デ、ルゥウゥウゥウ!!! アネマァァァァァァ!!」


「お、おおおい!! いきなり魔法撃ってくんな!!」


「待てぇえ!! バカアデルゥゥ!! 本当に怒ったからね!! ラミーナ! ラミーナ! ラミーナ! ラミーナァァァァ!!!!」


「リノアァァ!! 落ちつけって──うおっぶな!!」


「逃げるなぁ!! 待てぇえ!! バカアデルゥゥゥ!!」


二人はドタバタと追いかけっこしながら、たまたま湖のある方角へと消えていった。


「……あいつら、元気だな。ゼーラ、あんだけ騒がしいのにまだ寝てんのかよ……まあ、いいか」


ルインは肩をすくめ、御者と一緒に焚き火の準備に取り掛かる。


一方その頃、アデルとリノアは、相変わらず追いかけっこを続けていた。


「リ、リノア、もういいだろっ!!」


「よくない!! こういう恥ずかしいことはね、こっそり教えるか、さりげなく取るの! あんな堂々と言うもんじゃないのぉぉ!! ラミーナァァ!!」


「そんなルール知らねぇよ!! 鼻くそピロピロさせてるリノアが悪いだろぉ!」


「もう鼻くその話はやめてって言ってるでしょ!!」


リノアの魔法から逃げ回っている途中、アデルがふと足を止める。急に動きが止まったアデルに、リノアは「え?」と首を傾げ、その視線の先を追った。


そこには──


夜の帳が降りた湖面に、逆さまの月が浮かんでいた。空の月と、湖の月。二つの光が、重なり合うように揺れている。


「すっげ……」


「こんなに綺麗に映るんだ……」


二人はぽかんと口を開けたまま、しばらくその光景に見とれた。


「おまえさんらは、初めて見るのかねぇ。アルナディス湖」


背後から突然かけられた声に、二人は同時に飛び上がる。


「うわぁああ!?」

「きゃっ!」


「いや〜すまんすまん。驚かせちまったか。悪い悪い」


振り返ると、そこには釣り竿を持った優しそうな中年男が立っていた。どこからともなく現れたような気配に、アデルは目を細める。


「なんだよ、おっさんかよ! びっくりしただろ!」


「アデル! 知らない人をいきなり“おっさん”呼ばわりしないの! すみません、口が悪くて……」


「はっはっは。気にしなくていいよ」


「おっさん、ここで何してんだ?」


「見ての通り、釣りをしていたのさ」


「釣りか!! オレも魚釣りに来たんだ! えーっとなんだっけこの湖。リノア、なんだっけ?」


「アルナディス湖ね」


「そう! アルナディス湖! ここってさ、魚釣れんのか?」


「それがだなぁ……まったく釣れんのだよ、これが! はっはっは〜」


「釣れねぇのかよ!!!」


「アデル、とりあえずわたし達もやってみようよ! もしかしたら釣れるかもしれないし!」


「おっさんが下手なだけじゃねーの? オレは大物釣って、腹いっぱい食ってやるからな!」


二人は湖の方へ歩いていく。その途中、湖のほとりに、黒茶色の毛に覆われた四本足の魔物……ではなく、動物を見つける。


「ん? なんだあの、見た目汚ねぇ魔物は?」


「あれ、馬だよ! アデル、見たことないの?」


「あるわけねーだろ。カスボ島にはいねーし」


「それもそうか……。じゃあ、近くで見てみようよ。襲ってこないし、あんまり近づきすぎると逃げちゃうから気をつけてね」


「はいはいー」


ギリギリまで近づいて見ていると、アデルが足元に奇妙な花を見つけた。


「なぁリノア、この花見ろよ。なんか、ふーって吹いたら花びら飛びそうだぞ」


「今そんな花どうでもいいでしょ……馬に逃げられちゃうかもしれないから、静かにしてて」


アデルは花を捨てようとした──が、好奇心に負けて軽く息を吹きかける。


ふわり、と白い綿毛のような花びらが舞い上がり、そのうちの一つが、アデルの鼻の穴にすっぽりと吸い込まれた。


「……へっくしょおお!! ぶへっくしょん!! リノアァ!! くしゃみが止まら──へっくしょん!! ぶへっくしょん!!」


「アデル!! うるさい! くしゃみ我慢してよ! 馬が逃げちゃうでしょ!!」


「馬なんてもう──へっくしょん! どうでも──へっくしょん!! 鼻の中がヒリヒリしてきた……。鼻水もやべぇ……」


リノアはそんなアデルを半分無視して、馬が逃げていないか確認する。馬は、こちらの騒ぎを気にすることもなく、静かに湖の水を飲んでいた。


ほっとしたのも束の間、物陰から小石が飛んできて、馬の脇腹にコツンと当たる。だが、それでも馬は気にした様子もなく、水を飲み続ける。


「え……?」


リノアが石が飛んできた方向へ視線を向けると、木の上に数匹の猿がいた。奴らは、腹の袋から小石を取り出し、それぞれ両手に構えている。


「まさか……!」


猿たちは、合図でも交わしたように、一斉に馬へ向かって石を投げつけた。


「なにしてるのっ!! このっ! アネマ!!」


リノアは猿たちに向かって風魔法を撃つ。だが、ゴマ模様の小柄な猿たちは怯む気配もなく、再び腹の袋から石を取り出し、馬へと投げ続ける。


「もう許さない!! ラミ──」


リノアが魔法を発動しようとした瞬間、後ろからアデルに腕を掴まれて止められる。


「アデル!! なんで止めるの!!」


「リノア……へっくしょん!! あの猿はな……ぶえっくしょん!! 殴れば……へっくしょん!! はっくしょん!! だからな……へっ、へっ、へっくしょん!! ってことで! こうすりゃいいんだよ!!」


「全然言ってることわからなかったんだけど……」


アデルは鼻水を垂らしたまま、猿の群れへと突進する。木を飛び移る猿たちを追いかけ、次々と拳を叩き込んでいく。猿たちも石を投げ返してくるが、アデルは「へっくしょん!!」と叫びながらも全てを紙一重で避け、最後にはその場にいたゴマテザルを全匹叩き伏せてしまった。


「ふー……どーだ!」


アデルは鼻水を糸のように垂らしたまま、リノアに向かってドヤ顔でガッツポーズを決める。


「アデル、鼻かんで。汚い」


「そんなことより、馬はどうなった!!」


振り返ると、馬は相変わらず呑気に水を飲んでいた。


二人でそっと近づく。こうして見ると、馬の背はアデルの胸あたりまでしかない。少し小柄な馬のようだ。


リノアは、さっき石の当たった辺りを確認しようと、距離を詰める──その瞬間、鼻を衝く強烈な臭いが襲ってきた。


「くっさ……」


思わず顔を歪める。


「どうした? 顔、老けてるぞ」


「アデルも嗅いでみてよ! 顔しわしわになるから!」


アデルも馬の体に顔を近づけ、思い切り息を吸い込む。


「オレ、だめだ。さっきの花のせいで、臭いが全くわかんねえ。てか、やっぱ汚ねえな!」


アデルは、雑に水を掬って馬の背中にぶっかける。すると、黒い泥のような汚れが、どろりと流れ落ちていった。


「なぁリノア、見てみろよ。すんげー黒い汚れが取れるぞ。毛が固まってるから洗いづれぇけどな。リノアも手伝えって」


「ええぇ……」


「なんだよ。顔見てみろよ、この馬。めちゃくちゃ愛くるしい顔してんだろ? それに、リノアは聖女だろ? 人だけ助けて、目の前の可哀想な馬は放っとくのか?」


「……っ、わかったわよ! やるから!!」


二人で協力して、一心不乱に馬を洗い続ける。いくら洗っても、黒い汚れは次から次へと流れ落ちていった。


「すごいね……どれだけ汚れてたんだろう」


「知らねえ。この辺りに、くっそ汚ねぇ場所があんのかもな」


「それよりアデル、そろそろ戻らないと。ルイン達、心配してるかもしれないし……」


「馬はどうすんだよ。置いてくのか?」


二人が顔を見合わせて悩んでいると、ふいに先程の釣り人の男が声をかけてきた。


「おっと、まだここにいたか。さっきゴマテザルに絡まれてたみたいだが」


「お、おっさん! 今までどこ行ってたんだよ!」


「そこら辺の茂みに隠れてたのさ。ゴマテザルに石を投げられるのは、勘弁だからねぇ」


「おっさん! へっくしょん! さっきから、くしゃみが止まらねぇんだけどよ! 鼻の中が痛ぇし、鼻水もやべぇ!」


「ふむ……もしかして、針綿花しんめんかを吸い込んだかな?」


「おじさん、それってどんな花なんですか?」


「綿毛みたいにふわふわしてるけどね、綿の一本一本が細い針になってる。目にはほとんど見えないけど、鼻から吸い込むと、鼻の中で針が刺さって、今の少年みたいにくしゃみと鼻水が止まらなくなる」


「おっさん!! どうすればいいんだよ!! このままだと鼻取れるだろ!!」


「鼻を水で洗うしかないね。何度も何度も。……ああ、それと。さっき君たちのお仲間らしい人が、ここら辺を探して歩いてたよ。この馬なら、よくここにいる。僕が見てるから、君たちは先に戻っておいで」


「そんな頻繁に来んのかよ、この馬。へっくしょん! そんじゃ、明日まだいたら、もう一回洗ってやんねーとな! ぶへっくしょん!!」


「アデル、明日には出発するよ。可哀想だけど……でもゴマテザルはやっつけたし、少なくともあの子に石を投げられることはなくなると思う」


釣り人の男が感心したように目を細める。


「君たちがゴマテザルを倒したのかい? でも、ここには一匹も倒れてないよ」


二人は辺りを見渡す。倒れていたはずのゴマテザルの姿は、どこにもない。


「逃げられたか……」


「ゴマテザルには、ボスのオオゴマテザルってのがいる。きっと、そいつに今日のことを報告しに行ったんだろうねぇ」


「それってつまり──」


「ボス猿が、仲間の仇を取りに来る可能性が高いってことだ」


「上等だぜ!! そのボス猿、オレが一撃でぶっ飛ばしてやる!! おい馬!! 安心しろ!! へっくしょん!!」


「アデル、そろそろ戻るよ! ね、おじさん、この馬のことお願いしていいですか?」


「任せときなさい」


「アデル、ボス猿の件は、ルイン達と相談してからね!」


二人が帰り道を歩いていると、ちょうどルインとゼーラに出くわした。


「リノアさーん!! やっと見つけました!!」


「お前ら、どこ行ってたんだよ。森に入って迷子になったかと思ったぞ。……ん? なんかすっごい臭ぇんだけど」


「わ、わたしも思いました……。くさいです……」


「やっぱり臭うよね……ううう、ゼーラ〜、ルイン〜、聞いてよ。実はさっき──」


リノアは、馬のこと、猿のこと、針綿花のこと、全部を説明する。その間、ルインとゼーラはずっと鼻をつまんだままだった。アデルは、相変わらずくしゃみを連発している。


「……なるほどな。それで、馬の臭いがここまで酷くなったわけか」


「でもさ、それがさ……なんて言っていいかわからねぇけど、タイミングがいいんだよな」


「どういうこと?」


「ドュドュが、ちょっとやらかしたらしくてな。御者さんが言うには、ドュドュが“発火の実”っていう、とんでもなく辛い木の実を食っちまったらしい。しばらく安静にさせないといけないってさ」


「発火の実……?」


「めちゃくちゃ辛い木の実らしいです。ドュドュの体が熱くなっちゃうみたいで……」


「つまり、二日くらいはここで足止めってことだ。だったら、その間にくっさい馬を綺麗にしてこいよ。二日もあれば、真っ白ふわふわにできんだろ」


「ゼーラとルインも、手伝ってよ」


二人の顔から、同時に笑顔が消えた。


「……ええ……俺達も?」


「でもリノアさん……ドュドュの看病とか……」


「ゼーラ、ドュドュのことよく知らないでしょ。ドュドュは御者さんに任せて、わたし達は馬、綺麗にしよう? ね? 一緒に・い・こ・う?」


「リノアさん……顔が……とっても怖いです……」


「へっくしょん!! ぶへっくしょ!! そんなに臭いか? オレ、全くわからねぇんだけど。例えるとどんな感じの臭いだ?」


「えーと……ちょっと待ってろよアデル。……んん……う◯こだな。だよな、ゼーラ」


「わ、私も……ルインと同じです……」


「二人共、その程度じゃないよ! この臭いはね、暑い時期に道端に放置されて、干からびながらもまだ生きてる、う◯ち!! だからアデル、これくらいはわかって!!」


「嘘だろ!! オレ、近くの川で体洗ってくる!! マジで臭いがわかんねぇ!!」


「待って! わたしも行く!!」


アデルは一目散に川へと走り出し、リノアも慌ててその後を追う。残された二人は、ため息をつきながら御者のいる野営地へと戻った。


  ◇ ◇ ◇


「これで臭い取れてんのか? 鼻が効かねえから、全然わかんねぇ……。そっちはどうだ?」


「全っ然とれてないよぉ!! もうやだぁ!!」


大きな岩を挟んで、アデルとリノアは背中合わせになる形で川に浸かり、ひたすら体を洗っていた。互いに裸を見られないように、岩を上手く盾にしている。


「そんな怒んなって。……よし、ちょっと上から木の実投げるから、それ食って落ち着けよ。ぶへっくしょん」


「急に何? え──」


岩の上から、コロリと赤黄色の木の実がリノアの目の前に落ちてくる。リノアは恐る恐るそれを拾い上げた。


「アデルー! これ、食べれるの? すっごく甘い匂いするけど!」


「食える食える! めっちゃうまいぞ!!」


アデルの言葉を信じて、一口かじってみる。シャリッという小気味よい音と共に、果汁が口いっぱいに広がった。


「お、おいしい!! なにこれ!! すっごく甘酸っぱくて、おいしい!! アデル、これルイン達にも持っていこうよ!!」


「この辺にいっぱいなってるからな。体洗い終わったら、一緒に取っていこうぜ。……オレはこの果汁、体にも塗っとく。臭い消えそうだしな。べっちょべちょになるけど」


「くさい臭いが無くなるなら、ベタベタくらい我慢する……!」


二人は体を洗い終え、木の枝にたわわに実ったその木の実──ヤックの実を、腕いっぱいに抱えられるだけ抱えて野営地へ戻った。


「おーい! 戻ったぞー!! ルイン! ゼーラ! 御者のじいさん! 見てみろよこれ!! くっそ美味い木の実見つけた!!」


「体洗ってただけじゃなかったのかよ……。リノアも、山ほど持ってきてるな」


「リノアさん、半分持ちますね!」


アデルとリノアは地面にどさっと実を置く。


「それとよ、なんか気づくことないか?」


「気づくこと……? アデルのくしゃみが止まった、とか?」


「違ぇよ!! 臭いだって!! いい匂いになっただろ!」


さっきまで漂っていた地獄のような臭いが、今は甘い果実の香りに変わっている。リノアも同じだ。


「この果実……すごいですね。こんなに匂いを変えてくれるなんて……。僕も少し貰っておいて、ドュドュに塗ってあげようかな」


「まあ、その代わり体はベトベトだけどな! 飯食ったら、もう一回川行って洗ってくるわ!」


空はすっかり夜の帳を下ろし始めていた。四人は簡単な食事を済ませ、交代で見張りをしながら休むことにする。


  ◇ ◇ ◇


「……やべぇ、もう寝れねぇ」


アデルは寝返りを打っても眠れず、夜の空気を吸い込むように起き上がる。焚き火は小さくなり、周りは静まり返っていた。


「今、誰か……」


木の影を、何かがすぅっと横切った気がした。人か、魔物か──気配は微妙だ。アデルは眉をひそめ、そっと立ち上がる。


「アデルくん、どうしたんですか?」


「うわっ!! ビビった!! ゼーラかよ!」


振り返ると、ゼーラが目をこすりながら立っていた。


「ごめんなさい。音がしたので……目が覚めちゃって」


「あー、悪ぃ。起こしたか。……魔物か人か、分かんねぇけどさ。影が横切ったんだ。ちょっと追ってみようと思ってな」


「それなら、私も一緒に行きます。一人だと危ないですし……アデルくん、いつも一人で突っ走っちゃうから」


「お前な……まあ、いっか。一緒に行くぞ。……あ、朝飯用にこの木の実も持っていこうぜ!」


アデルとゼーラは、影が消えた方角──アルナディス湖の方へと走り出す。


「この方向って、あの大きい湖がある方ですよね?」


「そうそう。くさい馬がいた湖だ」


しばらく進むと、湖が見えてくる。昨日の馬も、相変わらず水際で水を飲んでいた──が、そのすぐ近くで、またゴマテザル達が石を投げていた。


「あの猿共、また石投げやがって!! ゼーラ、馬を助けるぞ!」


「はい! アデルくん!」


二人が飛び出そうとした瞬間、森の奥から「ウウウウウホホホホォオオオ!!」と腹に響くような咆哮が響き渡る。警戒して周囲を見回す間にも、足元がふっと暗くなった。


見上げると──三メートルはあろうかという巨大な猿が、枝を折りながら現れた。


「なんだこいつ!!」


オオゴマテザル。ゴマテザル達のボスだ。


大猿は、いきなりアデルに向かって、腕を振り上げてきた。アデルは半歩下がり、拳を難なくかわす。


「ゼーラ! このデカ猿はオレに任せろ! 馬に石投げてるバカ猿共は、ぶっ飛ばしてくれ!」


「わかりました!」


ゼーラが横をすり抜けようとすると、大猿が今度はゼーラに向かって拳を振り下ろす。しかし、アデルの蹴りがその拳を弾き飛ばした。


「おい、バカ猿! ボスか? だったら、こっち来いよ!」


大猿は両腕を高く振り上げ、地面を砕くように叩きつける。だが、アデルは地を滑るように軽やかに避け続ける。


「ウウウウッホッホホホウウホォオオオ!!」


「ウホウホうるせぇんだよ!!プラーガ・カルキス(踵落とし)!!」


拳を蹴り上げる。腕が跳ね上がり、一瞬、大猿の胴体ががら空きになる。


「一撃でくたばれ!! ペガルイム・プルス!!」


ボンッという衝撃音が、空気を震わせた。次の瞬間、大猿は白目を剥き、その場に崩れ落ちる。


「よし!」


アデルが素早くゼーラの方へ駆け寄ると、すでにゼーラの足元には、数十匹のゴマテザルが転がっていた。


「ゼーラ! おつかれ!」


「アデルくんも、お疲れ様です! 倒すの早すぎです……!」


「こんな雑魚猿、余裕だっての」


アデルはポケットからヤックの実を取り出し、一口かじる。そのときだった。


「お見事よ。おまえさん達」


背後から聞こえた声に、アデルはまた心臓が飛び出そうになる。


「うおお!? だからいきなり出てくんな!! 釣りのおっさん!!」


男は楽しそうに笑った。


「今君が倒したのは、オオゴマテザル。ゴマテザル達のボスさ」


「やっぱりな。まあ、大したことなかったけどな!」


「ウキキ! ウキキキキ!」


ゼーラが倒したはずのゴマテザルの一匹が、ヨロヨロと立ち上がり、アデルの前で跳ね回る。


「なんだこいつ。殴っていいか?」


「アデルくん、ちょっと待ってください。その子……アデルくんの持ってる木の実を指差してます」


「これか? おっさん、この実、何か知ってんのか?」


「それはヤックの実。甘酸っぱくておいしい果実さ。ゴマテザルの大好物でもある」


ゴマテザルが、ちょうだい、と言わんばかりに腕を差し出してくる。アデルはため息をつき、ポケットからもう一個取り出して渡した。


「ウキウキキキキッ!!」


あまりの嬉しさに、猿はその場で飛び跳ねる。その興奮に釣られるように、森の中から次々とゴマテザル達が現れた。


「こんなにいたんだ……」


「ここら一帯は、ゴマテザルの棲家だからね」


「よし、クソ猿共!! この実が欲しいかぁ!!」


「ウキキ!! ウキキキィィ!!」


「アデルくん!? 急にどうしたんですか!」


「こいつら、オレらの言葉、ある程度わかってんだろ。だったら──聞く。なんであの臭ぇ馬をいじめてたのか、だ」


アデルが一歩前に出て、猿たちを睨みつける。


「おい、テメェ! 前出ろ!」


「ウキ!」


一匹のゴマテザルが、枝を二本持ってくる。一本は葉っぱがついていて、もう一本は枯れている。


「……?」


猿はまず、葉っぱのついた枝を地面に立て、それから枯れ枝を手に持って、二本足で歩く真似をする。それから馬を指差し、さっきの“歩く動き”を繰り返し、この葉の枝の前を通り抜けた瞬間、葉っぱの枝を倒し、代わりに枯れ枝を立てる。そして、執拗に馬を指差した。


「ん? ……よくわかんねぇ。ゼーラ、わかるか?」


「葉っぱの枝が“元々の木”、枯れ枝が“枯れちゃった木”……馬が通ったら葉っぱが枯れたってことを言いたいんじゃないでしょうか……」


ゴマテザルは今度はヤックの実を指差し、それから馬を、そして枯れ枝を交互に指差す。


「お嬢ちゃんの推測、当たりだね。ゴマテザルの棲家には、ヤックの木が多くあった。でも、あの馬が通った後、ヤックの木も周囲の木も枯れた──って訴えてるんだ」


「そういうことか……。おい、猿!! あの馬のせいで、ヤックの木が枯れたって思って石投げてたのか!」


「ウキキキ!!」


「バカ野郎!!」


アデルは猿の頭に軽くゲンコツを落とす。


「それなら、ここら一帯の木が全部枯れてるだろうが! あの馬、ずっとここにいるんだぞ!!」


「……それについては、ちょっと心当たりがある」


釣り人の男が表情を引き締める。


「君たち、ちょっと着いてきてくれるかい? 聖女様もいるしね」


「おっさん? 急になんだよ」


「まぁ、来ればわかるさ」


男は森の奥へ歩き出す。アデルとゼーラ、そしてなぜかゴマテザル達もぞろぞろと後をついて行った。


しばらく進むと、木々が途切れ、視界が開ける。そこは──


「なんだ……ここ……」


地面が、ところどころ黒く焼け焦げたように変色し、木々も黒ずんで枯れ果てている場所だった。


「これ……黒雪……」


ゼーラの声が震える。


「さすが聖女様だね。そう、黒雪が降った跡さ。最初はもっと酷かった。地面も木も、真っ黒でね。でも、ここまで回復した」


「マジかよ……。でも、まだ黒いところ残ってるじゃねーか。これ、自然に治るのか?」


「レナウス聖神国から“黒雪”の浄化部隊──天唱聖団(てんしょうせいだんが来て、光のマナで浄化するのさ」


「その人達って……全員、聖女なんですよね?」


「その通り」


「じゃ、ゼーラとリノアも、そのうち出来るようになるのか?」


「いや、それは難しいね。確か、塔を六基攻略してないと、その術は扱えないはずだ」


「六基……。先、長ぇな……。てか、おっさん、なんでそんなこと知ってんだよ」


「はっはっは。ちょっとした縁でね」


男は肩をすくめる。


「長居はよくない。浄化されたとはいえ、黒雪の跡は体に良くない。戻ろう」


一行は再びアルナディス湖へと引き返す。ゴマテザル達も、その後ろをとことこついてくる。


「なんで猿共までついてきてんだ?」


「アデルくんがボスを倒したんで、お猿さん達、アデルくんに従ってるだけなんじゃないでしょうか……」


「めっちゃ嫌なんだけど」


「それはそれとして──少年、魚、釣れたと思う?」


「おっさん、釣れたのかよ!」


「魚じゃないけどね……」


「ん? なんか言ったか?」


「なんでもないよ」


そんな会話をしていると、急に周囲が白く霞み始めた。足元からじわりと霧が湧き、あっという間に視界を覆っていく。


「アデルくん……これ……」


「どうなってんだよ……おっさん! 猿共!!──どこいった!?」


一緒に歩いていたはずの釣り人の男も、ゴマテザル達も、霧の中からふっと姿を消していた。


「足元の霧……どっから湧いてるんだよ……!」


「アデルくん、どうしますか……?」


「とりあえず湖まで行く。リノア達と合流だ」


「はい!」


二人だけになり、不安と警戒心がじわじわと胸を締め付けてくる。それでも歩みを止めずに進んでいくと、いつの間にかアルナディス湖のほとりへ着いていた。


「……おい。湖が真っ白なんだけど」


湖面を覆うように、濃い霧が揺らめいている。


「アデルくん!! 湖の真ん中、見てください! なにかいます!!」


ゼーラに言われ、アデルは目を凝らす。霧の向こう──そこにいたのは、真っ白な毛並みを纏い、大きな翼を広げた馬のような存在だった。体長は五メートルほど。異様でありながら、どこか荘厳な気配をまとっている。


「アデル!!」


「リノア!! ……ルインもいるじゃねぇか」


湖畔の少し離れた場所に、リノアとルインの姿があった。


「アデル! どこ行ってたのよ! ゼーラも! 心配したんだから!!」


「ちょっと色々あってな。……てか、お前らの方こそ何してんだよ」


「オレ達も色々あってな……それでここまで来てみたら、この光景だ」


「私も驚きました……。リノアさん、ルイン、気づいてますよね。湖の中心の……あの存在を」


「ああ、見た。……けどありゃ、本当に魔物か? 魔獣の可能性もある」


「オレも、さっきまで見てきた魔物とは雰囲気が違う気がする。あ、そうだ。釣りのおっさん、見てないか? 一緒にいたんだけど、いつの間にかいなくなっててさ。あとゴマテザルも──」


「ヒィイイイン!!」


馬の鳴き声が響く。


霧の上を、白い馬が歩いた。


「……おいおい。そんなこと、あんのかよ……」


「うそ……水の上、歩いてる……!」


羽をたたみながら、白馬は静かにこちらへ歩いてくる。次の瞬間には、アデル達の目の前に立っていた。


「なんだよ、コイツ!! いきなり目の前に……!」


白馬は、ぐいっと首を伸ばし──アデルの頬を、ざらりと舐めた。


「ひゃい!? 冷てっ……ってかヌルッ!!」


「アデルぅぅ!! 大丈夫!? 食べられてない……?」


「ア、アデルさん……よく近くで平気ですね……。わ、私はちょっと怖いです……」


「お前らビビりすぎだろ。今の感じだと、襲ってくる気配はねーし」


「だったらルイン、もうちょっと近くに──」


「やだ。俺はこの距離を保つ」


「おい、おま──やめろって!! 顔ベトベトになるだろうが!! 他にも舐める奴いんだろ、ほら、あっち!」


アデルが白馬の頭を押しやると、馬は素直にリノア、ルイン、ゼーラの頬を順番に舐めていく。瞬きしたわずかな瞬間で距離を詰めてくるため、誰も避けられない。


ただ、不思議なことに──ゼーラとルインを舐めたときだけ、白馬の目から静かに涙がこぼれた。


「おい。なんで、オレとリノアのときだけ泣かねぇんだよ」


「決まってんだろ。俺とゼーラが、人一倍優しい心を持ってるからだよ」


「ちょっとルイン!! なんでわたしとアデルが同じ扱いなの!? わたしの方が心が優しいもん!!」


「なんだと、鼻くそリノア!」


「なにそれ!? 鼻水アデル!!」


「お、落ち着いてください、二人とも……」


「ヒィイイイン!!」


白馬が再び鳴くと、巨大な翼を一度だけ大きく羽ばたかせた。その瞬間、足元を覆っていた霧が一気に晴れ、湖畔に光が満ちる。


そこには──無数の光花が咲き誇っていた。白く発光するような花々が、風にゆらゆらと揺れ、夜の湖畔を幻想的に照らし出す。


上空から、白い羽が一枚、ゆっくりと落ちてきた。


「ん? おっと……」


アデルの頭上に落ちかけたそれを、アデルは片手で受け止める。人の腕ほどもある、大きな羽だ。


「なんだこの羽。……でけぇな。どうすりゃいいんだ、これ?」


「どうしようね……。アデルが拾ったんだから、アデルの好きにすればいいんじゃない?」


「ひょっとしたら、これ売れるかもしれませんよ。魔物……もしくは魔獣の素材ですし」


「おおお! ルイン! その発想はなかった!! 売ればいいのか!! ……でもこれ、持ち歩くのクソめんどいな……」


「あっ、アデルくん! ユーリさんから貰ったマジックポーチありますよね! “魔物素材一つだけなら、なんでも入る”って言ってました!」


「それだ!! こんなところで役立つとはな!」


アデルは慌ててマジックポーチを取り出し、蓋を開ける。その瞬間、羽は吸い込まれるようにしてポーチの中へ消えていった。


「よっしゃ!! 入った!! ユーリ、マジ感謝だぜ!」


「こんな早く役に立つなんて……。ところで──ずっと夜ですよね。わたし達、朝方に起きたはずなのに」


「ああ……感覚、狂うな。とりあえず野営地に戻るか。御者のじいさん達が心配だ」


「そうですね。急いで戻りましょう!」


四人は足早に湖畔を後にする。途中、再び霧が濃くなり──それが晴れたときには、もう空には朝日が昇っていた。


「……は? なんだ、これ」


「さっきまで夜だったのに……どうして……」


「考えてもわかんねぇ。とにかく戻るぞ」


「御者さんに、何か知らないか聞いてみましょう」


しばらく歩くと、野営地が見えてきた。御者はドュドュの具合を確認しながら、出発の準備をしている。


「おい、ドュドュは元気になったのか?」


「この木の実を食べさせたらね、嘘みたいに元気になったんだよ」


「おお……アデルが見つけたヤックの実、そんな効果まであるんですね」


「それなら、もう出発できるってことか?」


「そうだね。ドュドュもすっかり元気さ」


「クエッ、クエッ!」


ドュドュが元気よく鳴き、翼をはためかせる。


「よし!! それじゃ、ラバン王国へ出発だぁ!!」


ルインの合図と共に、鳥車は再び走り出す。揺れる荷台の中で、四人はそれぞれの胸に──失ったものと、これから取り戻すものを、強く刻み込んでいた。

ゴマテザル

お腹に袋があり自分の興味ある物を入れたりしている

敵だと判断した場合石を投げる


オオゴマテザル

体調は三メートルくらいあるゴマテザルのボス、拳は石みたい硬い


ヤックの実

赤と黄色の混ざった丸い実、齧ると果汁が結構飛び出し味は甘酸っぱい、体力回復促進剤として扱う事も多い


発火草

色がオレンジと赤が混ざった美しい色の草、食べると辛い、調味料の材料として使われる


針綿草

綿菓沢山ついてる花、その綿は鋭い針になっており、粘膜が弱い所に入ると痒み、痛みが出る


月光花

眩しくもなく暗くもない丁度いい加減で光る花

満月の時にしか咲かない、その光を見つめると、ストレスや不安がなくなるらしい




本日も見ていただきありがとうございます

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