99.子供扱いしないでっ
神父様の【治癒】も終わる頃お屋敷に向かってくる一台の馬車。その馬車の幌には『ブランシュ商会』の文字がこれ見よがしに描かれている。
「あ、あの馬車はベルトランさんです。」
御者を務めるベルトランさんの姿が確認できる。一緒に来てた他の馬車はどうしたんだろう?
「ん、ベルトランとは? ああ、『ブランシュ商会』と描かれているな。
テオドール、王都では幌馬車に絵を描くのが流行っているのか?」
「いえ、流行っているのではなく、我々の馬車にヴィヴィが絵を描いたのが最初です。それがブランシュ商会にも広まりました。これから先も他の商会がまねをするでしょうね。」
私達の手前で馬車が止まりベルトランさんが降りてくる。
「ヴィヴィさん、こちらが神父様でよろしいでしょうか?」
「ええ、クリストフ神父様です。」
「クリストフ神父様、お初にお目にかかります。ブランシュ商会の商会長を務めるベルトランと申します。この度ヴィヴィさんと縁があってガエル村に赴いた次第です。」
「クリストフ・ボドワンです。丁寧なご挨拶、痛み入ります。商会長まで来ていただいたとは、この先のガエル村の発展も期待できるものと考えてもよろしいですか?」
え? と疑問の顔を私に向けてくるベルトランさん。
私の発案から始まったとされている『ガエル村再開拓計画』。ここで声を大にして話すことじゃないわ。ベルトランさんの馬車に知らないおじいさん乗ってるし。
「面倒な話になりそうだわっ。中で話しましょうっ。
神父様もそれでよろしいですねっ。」
神父様をグイグイ押して邸に向かう。この家のご主人様が家の中に入れば、お客様達も付いてくるしかないわね。
応接間に入ったのは、神父様、テオ、ベルトランさん・・・ なんで知らないおじいさんが入ってくるのよっ!!
「セルジュ村長までいらっしゃるとは、何事ですかな。」
ええ~、知らないおじいさん、まさかの村長さんでしたか。
「セルジュさんをお連れしたのは、ヴィヴィさんのお話を伺いたいとのご要望でしたのでお連れいたしました。」
「ベルトランさん、話を聞くにしてもこんな小さな子供に何を聞けばいいんですか?」
「ヴィヴィさんの知識はとても豊富ですよ。私が用意してきた種子類もヴィヴィさんが選んだものですしね。」
「そ、それなら、大豆やトウモロコシ、ゴマは分かります。菜の花だのひまわりだの、食えないものを栽培する理由は何ですか? ここの土地は麦の生育も悪く、村人達が自分達の食べる分を確保するのも大変なのに。」
「食べ物として栽培するつもりではありません。あ、いえ、穀物類は食用にしてもいいんですけど、それらの穀物や花の種は油をとりやすいんですよ。」
「あ、油? 麦が不作で食うのに困ってるのに食えないものを作れと?」
「麦が不作なのは、同じ畑で毎年同じものを栽培することによって起きる連作障害ではないかと思います。今回ベルトランさんに用意してもらった5種類の種子、」
「待ってくれ、そ、その連作障害とは一体・・・」
「同じものばかり栽培してると、その植物に必要な土中の栄養素を吸い上げて成長しますからね、年を追うごとに栄養素は減っていきます。不作になりやすいという事ですね。」
「なんだって? 麦ばかりじゃダメだって事か。」
「だからこその5種類の種子です。農家一軒一軒が持ち回りで、5種類の種子を順繰りに栽培するようにすれば連作障害は防げるでしょう。3年程度麦の栽培を控えていただければ、きっとその先は豊作になりますよ。」
「そ、それを信用してもいいんですか?」
「信用できない農家は、これからも不作の麦を作り続ける事になります。」
「分かりましたっ。村の連中に言い聞かせてきます。もし村民が説明を求めたら説明してやってくれますか?」
「いいですよ、集会所みたいなのがあったらそこへ人を集めてください。」
「それなら、いつも集まっている教会でいいだろう。」
「じゃ、じゃあ、神父様、村民が全員集まれるように日取りを決めてきます。」
村民を前にして農業の講習でも開けっていうの? 聞きかじりのうろ覚えの知識しかないんですけどっ。
「さすがヴィヴィさんです。そこまで考えて5種類の種子だったんですね。」
「いや、待て待て、ヴィヴィアン様がなぜそんな知識を持っている。」
「あ、私もヴィヴィアン様とお呼びしましょうか?」
「ベルトランさんは今まで通りヴィヴィと呼んでくれて結構ですっ。
神父様も、私のことはヴィヴィと呼んでくれてもかまいませんっ。」
「そうか、ではそうさせてもらおう。ヴィヴィのその知識は一体誰に教えられた知識なのだ。」
どうしよう、転生前の記憶とか言いたくないし・・・ これはアレよ、女神様に聞いた記憶ってことにすればいいのよ。崖から馬車が落ちた後テオやニコには説明したはずよね。それで押し通しちゃいましょう。
「女神様です。」
「なんと、ヴァランティーヌ様にお目にかかったことがあるのか?」
「いえ、ヴァランティーヌとは名乗っていませんでした。そして女神様には誰もが会っています。でもこの世に産まれ出たときにその記憶は失われます。私はあるきっかけでその記憶がよみがえりました。魔法に長けているのも知識が豊富なのもそのせいでしょう。」
「それは誰もが欲しがる記憶だ。その記憶が蘇るということはヴァランティーヌ様の加護を得たと受け取って間違いはないな。」
「だーかーらっ、女神様ご自身がには名はないとおっしゃっていましたし、加護なんてもらってませんよっ!!」
「教皇はヴァランティーヌ様のお声を拝聴したと、そんな話が広まっているが、多分嘘だ。あの金と欲にまみれた教団上層部、そんな奴らにヴァランティーヌ様が語りかけるようなことなど絶対にあるわけがない。
そんな中でヴァランティーヌ様・・・ ではないのだな。ヴィヴィの言う女神様、その記憶を持っているという事は教団だけに限らずその他の権力者からも狙われる恐れがある。
ベルトラン殿、この話は他言無用で頼めるだろうか。」
「もちろんでございますとも。今までヴィヴィさんにはずいぶんとお世話になってきました。ヴィヴィさんに不利益が及ぶようなことは絶対いたしませんよ。」
「それは助かる。
テオドール、ヴィヴィは他でもその話を吹聴してるわけではあるまいな。」
ふ、吹聴って何なのよ。私があっちこっちで宣伝して廻ってるとでも思ってるのかしらっ。
・・・・・? 誰かに話したっけ? 話したような気がしないでもないわ。
ま、いいんじゃない? これから誰にも話さなきゃいいのよ。
「私とニコとの前で一度だけ話していましたが、その後は聞いていませんね。」
「そうか、ヴィヴィが人前で話しそうになったら必ずとめるように。ニコレットにも伝えておくように。」
「承知いたしました。」
子供扱いしないでっ!! って、まだ私は子供だったわ。この庇護者達から見たらまだまだ私は要庇護対象なのね。




