90.エルフの始祖
「ここまでが年寄り共の口伝だ。
そしてここからが・・・・・ 私の見てきたことだ。」
ちょっと――――――っ、重すぎですよっ、私には背負いきれませんよ。いったい何を見てきたんですかっ。
「『魔の森』の奥深く、いまだ始祖は存在した。
数千年の時の中で魔力を吸収し続けた魔石。魔力吸収は止まっているようだったが、それは巨大化し始祖が取り込まれ、その回りは濃密な魔力が渦巻いているようだった。
そんな事になりながらも、始祖はわずかに残った自我で私に思念を送ってきた。
『できるのなら私を終わらせて』
そう、始祖は死を望んでいた。
私は魔石を破壊するつもりで攻撃した。何度も・・・・・
魔石は、修復してしまうのだ。
私の力では破壊することはかなわず、おめおめと逃げ帰る事しかできなかった。
里に戻り年寄り共に助力を求めたが、勝手に里を出た私が処罰の対象となっただけで、始祖の件は黙殺された。
年寄り共は始祖の魔力のせいで『魔の森』が生まれたことを知っていたようだ。『魔の森』のおかげで里に人が迷い込むことは無いと、あえて放置してきたようだ。
そのおかげで『魔の森』は成長し続け、発生する魔物達も強力になり、もはや私一人では始祖の魔石の場所までたどり着けない。」
「『魔の森』のおかげで人が行けないって、エルフの里は『魔の森』に接しているんですか?」
「私が逃げ出した時にはまだ里と『魔の森』にはまだ距離があったが、もう里の結界まで到達しているだろう。強力な結界があるから浸食されてはおらぬだろうが、結界もいつまで持つか。」
「それを説明して、お年寄り達に助けを求められないんですか?」
「奴らではもう無理だ。里に籠もって何もしてこなかった輩が、今の『魔の森』の中心部を目指すなどできようはずも無い。」
「だからといって私にも無理だと思いますっ。」
「そんな事はないさ。金色の瞳を持つエルフはいまだ産まれてきたことが無い。金色の瞳、銀色の髪を持って生まれた人の子はエルフを超える魔法使いになれるようだ。それも鍛錬ありき、だがな。」
「それよりも、エルフに産まれずに、人の子に金銀の子が産まれるってどういうことですか?」
「始祖から産まれた子供達は、何代かの後に今のエルフの特徴を持つようになった。そうなる前の子供達が里を出て人と交配したのだろう。隔世遺伝で始祖の特徴を持つ子供が産まれても不思議ではない。」
私の金銀の特徴については、そういう事もあるのかなって納得するしかないわね。
だからといって、その始祖さん? を私が破壊しに行かなくちゃいけないとか、無理なんじゃない? エメリーヌさんがどんなに攻撃しても破壊できなかったんだよ。それを、この私が? 無理無理、どうにかして断らなきゃ。
「今すぐにはギルドマスターの座を退くことはできないが、極力『風鈴火山』と共に活動できるようにしよう。」
「無理ですよ、侯爵様の依頼でガエル村に行くんですよ。」
「ん、ガエル村? それほど遠くはないな。すぐに戻れるだろう。王都に戻ったときには必ずここに寄るように。」
「ここへ立ち寄ることも、始祖さんの魔石を破壊することも、私達『風鈴火山』に強制されるんですか?」
「王都東支部所属のハンターなら、ここへ寄ることは義務だ。それと・・・・・言っておかねばならないが、始祖の魔石の破壊は、私からヴィヴィへの指名依頼になる。他のメンバーは連れて行けない。」
「なぜですかっ、みんな私の仲間達だし、強いですよっ。」
「そうだな、あの者達は人として強い。だが、求めるのは人を超えた強さだ。」
「だからといって、テオもニコも納得しませんよっ。」
「納得するかしないかではない。その者達が足手まといになりたいか、なりたくないかの選択肢になる。足手まといになってでも行動を共にしたいというのなら、ヴィヴィにとってもっとも危険な存在になる。」
「信頼する仲間ですよっ!! どうしたら危険な存在になり得るんですかっ。」
「仲間の危機を見捨てて進むことができないだろう。私と二人なら私の命に代えてもヴィヴィを始祖の魔石まで送り届ける。私だけなら切り捨てやすかろう。」
確かにテオもニコもソフィも・・・ 見捨てることはできないわ。だからといって、エメリーヌさんだって見捨てないわよ・・・・・?
あれ? なんか『魔の森』の奥深くまで行くような話になってない?
違うのよっ、ここは断るのが正解よ。
「ギルドマスターの指名依頼でも、断ることはできますよね。」
「ヴィヴィが断れば『魔の森』は膨張を続け、いずれ王都バルバストルは飲み込まれる。王都をジルバストルへ移転させたとしても、いつかはバルバストルと同じ運命をたどるだろう。最悪の事態としてブルダリアス王国は魔物が跋扈する『魔の森』となって崩壊する。」
「そこまでになるのはまだずっと先ですよね。私よりももっとスゴい子が産まれてくるかもしれないじゃないですか。」
「その時には始祖の魔石まで到達できぬほどに『魔の森』が成長しているかもしれぬ。ヴィヴィの言うようなもっと凄い子供がずっと先ではなく、今、もう一人いればヴィヴィも・・・・・もっと前向きに考えてくれるのだろうか。」
「・・・・・け、検討してみます。」
「そうか、色よい返事を待っているぞ。」
執務室を退出して一人トボトボと歩く。エメリーヌさんとの話をテオ達に話すかどうかの選択を私に委ねるために二人だけの話にしたのね。
『魔の森』の深くまで行くけどあなたたちは連れて行かない、なんて事を話したらテオは怒り出しちゃうんじゃないかしら。
こんな話は私の胸にしまって黙っているべきね。エルフの根幹というか、闇の部分に関わるお話だし。
うん、決めた。今は話さない。いつかは話さなきゃいけないときがくるだろうけど、それは今じゃないわ。
考え事をしながら歩いていたら、恐る恐るという感じで話しかけられた。
「あ、あの、ごめんなさい。」
「え?」
この人って受付嬢だったわね。受付が混み合ってハンター達が行列を作り始めてるこんな時間に何の用かしら。
「『風鈴火山』さん、全員がCランクの審査に合格なんて、本当に実力のあるパーティーだったんですね。先ほどの私の失礼な物言い、失礼いたしました。」
深々と頭を下げ謝罪する受付嬢? そういえば何か失礼な事を言われたような気がするけど、私も強気発言しちゃったような覚えがあるわ。
「私も失礼な事を言ったと思うわ。私からも謝罪します。ごめんなさい。」
「いえ、ヴィヴィさんに謝っていただくなんて恐れ多いです。こっ、これ、ヴィヴィさんの登録証ですっ。確認してくださいっ。」
手渡された金属タグ、Cランクになっているのを確認していたら『失礼します』と受付嬢のお姉さんが足早に立ち去ってしまう。受付が混み合い始めて急いで戻らなきゃいけないのね。でも、持ってきてくれたんだしお礼ぐらいは言っとかなきゃ。
「お姉さん、ありがとう。」
私の声に気がついたお姉さん、振り返ってにっこり笑顔でぺこりと頭を下げる。
「シルヴィです、これからもよろしくお願いしますっ。」
そう、シルヴィさんなのね、今度受付に行ったときには名前で呼んでみましょう。もっと親しくなれそうね。
テオ達が私を見つけて歩いてきた。
「ずいぶんと長話だったわね。何の話だったの?」
「あ、ニコ・・・ 私の金の瞳と銀の髪に関しての話だったわ。エルフの年寄り達の口伝を長々と聞かされちゃったわ。」
「ほう、エルフは秘密が多い種族です。年寄りの口伝を聞いたということは、ヴィヴィはギルドマスターによほど信頼を得たようですね。」
「そうね、エメリーヌさんの話は人に話せないと思ったわ。だからテオ達も問い詰めたりしないでほしいの。」
「私はヴィヴィの意思を尊重します。無理に聞き出そうなどとは考えません。」
「ありがとう、テオ。
みんなはもう登録証をもらったんでしょう?」
「ええ、ヴィヴィが出てくるのを待ってたのよ。帰りましょうか。」
私達の馬車がハンターギルドを出て帰路につく。
そうだっ、Cランクになったら幌馬車に『風鈴火山』を描こうと思ったんだわ。何か描くための塗料なんてあるのかしら?
「テオ、道具屋さんに寄ってもらえる? 欲しいものがあるの。」
「分かりました。この先にありますので、そこへ寄っていきましょう。」
馬車が走るすぐ先に道具屋の看板が見えた。良かったわ、戻ることにならなくて。
道具屋さんで塗料が欲しいと伝えると、道具屋では扱ってないみたい。
「そういうのは看板屋が持ってるんだ。いろんな色の粉を持ってて水や油で溶いて塗ってくれるんだ。」
そんな説明を聞き、看板屋さんの場所を教わってそちらへ向かう。
看板屋さんがあるなら、塗料なんて買わずに看板屋さんに描いてもらえばいいんだわ。




