9.ダサメガネ
ランクアップ審査が終わって・・・・・ テオドールもニコレットも審査受けてないじゃない。私だけ魔法の審査受けて、やり過ぎだなんて言われて、おおっぴらに魔法を使うなとか注意を受けたんだけどーっ。
まあ、いいわ。3人共にDランクからのスタートになったんだし、あまり文句を言う事ではないわね。
受付窓口でマリーから金属タグを手渡された。
登録ルクエール支部、名前ヴィヴィ、ランクD、年齢10、性別女、職業 魔法使い、パーティー『風鈴火山』代表者、それらが刻まれていた。
応接室から降りてすぐに手渡されたんだけど、ランクアップ審査合格前提で作っていたとしか思えない。
「『風鈴火山』の皆さん、ランクアップ審査合格おめでとうございます。こちらの金属タグはあなた方の身分証にもなりますので大事に扱ってください。町や村の出入りはあまり厳しくありませんが、王都や教国へ入るときには身分証の提示を求められます。そんなときはこれを提示してください。今ランクはDになっていますが、Cに昇格した時に新しいタグに作り替えます。昇格は請けた依頼を達成できればポイントが加算されます。そのポイントが規定点数に達すれば昇格できます。」
何その柔道の昇段審査みたいなシステム。10点たまると昇段できますよ、的な?
「請けた依頼の難易度によって獲得ポイントが変わります。皆さんはワンランク上のCランクの依頼まで請けられます。だからといって無理そうな依頼を請けて失敗しないように。失敗はあなた方の生死にも関わります。命は大切にして下さい。ギルド側としても依頼失敗が多いとギルドの信用問題に関わります。そのような理由から、依頼達成率が高いほど昇格の規定点数が緩和されます。」
依頼達成率を上げるために低ランクの依頼を請ければ獲得ポイントが低くて、ポイント重視で高難易度の依頼を請けると命を危険にさらす事になるという訳ね。
「ま、私達は何が何でもランクをあげたいわけじゃないから、のんびりやりましょう。
ね、テオ、ニコ。」
「そうですね。我々は馬車さえ手に入れられればいいのですし、旅の路銀は狩りをして稼ぎながらいきましょう。」
「え、旅立ってしまうんですか。この町に居ついて頂いてもいいんですよ。」
「行くところがあるから居ついたりしませんよ。」
「そうですか、残念です。もし落ち着き先のハンターギルドに移籍する場合は手紙を送って下さい。ルクエール支部での登録情報をお送り致します。では、くれぐれも安全を第一に考えて行動して下さいね。」
移動した先で登録し直しという事にならなくて助かるわね。もしかしてこのハンター登録情報のタグって国から国へと世界を股に掛けて動けるインターナショナルライセンスだったりするのかしら。
まあ、今の所はそこまでいろいろなところへ足を伸ばすわけではないし・・・・・ ガエル村を目指すんだったっけ。
テオドールはこの町で馬車を買うお金を稼ぐって言ってたから、ガエル村へ向かうのはもう少し先になりそうだわ。私もあんな屋根もない荷車に乗って旅を続けたいわけじゃないしね。せめて幌馬車が欲しいわね。
「ヴィヴィ、この後は防具とヴィヴィの眼鏡を買いに行きましょう。」
「ええ、そうね。眼鏡よ。眼鏡が一番重要だわっ。」
「え? じゃあ、道具屋を先に廻りましょう。」
道具屋の店内の棚には数多くの雑貨が展示されてたけど、高価な眼鏡はさすがに店の奥に保管されていた。
店の主人に問いかけてようやく眼鏡を出してくれた。
って、いや~、これは・・・・・ ダサい。丸眼鏡の両側に紐が輪っかになって、これを耳に掛けるのだろうけど、耳が痛くなりそう。つるは無いのっ。
試しに眼鏡を掛けて見たら、うっわ、視界がぐらぐらきそうな程の度が入ってる。
「だめよ、これ、度が強すぎるわ。」
「おや、こちらのお嬢様が眼鏡が欲しいのですか。きついのから弱いのもあります、他のも試しに掛けて見て下さい。」
「それならレンズになっていない単なるガラスだけの眼鏡はあるかしら。」
「そんな眼鏡は普通はございませんが、レンズを割ってしまいましてね、捨てるのももったいので普通のガラスをはめ込んだ物が一つだけございます。
こちらをお試し下さい。」
あっ、これホントに普通のガラスだ。これなら煤でも塗りたくって黒くすればサングラスとして使えるわね。ダサいけど我慢しましょう。でもダサメガネなんて呼び名が付いたらどうしよう。
眼鏡を購入したら、次は防具ね。
金属製は重いから革製の防具が一般的らしいけど、私にはどれも大きすぎだわ。Eランクハンターになれるのが10歳からなんだから防具も10歳以上の体に合わせた物しか作っていないっぽい。その中でも一番小さな子用の革製防具を肩当て胸当て籠手脛当てと、一式身につけてみた。
ぶかぶかだけど、大丈夫よ。革紐でギュッと締めておけばいいのよ。私はこれから大きく発育していくんだしねっ。あんなところやこんなところが・・・・・ 成長するわよね。
す、すぐに小さくなって買い換える事になるわよ。
3人分の防具と私の短剣を買って店を出る。全く傷みの無い新品の防具を身に着け街中を歩く。端から見れば完全に初心者ハンターね。
「ヴィヴィは魔法使いなのでローブでもよかったのでは」
「却下―――っ!! あんな動きにくそうな物着ないわよっ。」
「しかし、魔法使いは呪文詠唱時は派手に動けません。だから我々がヴィヴィを護ります。」
「二人が抜かれたら私が動かなきゃいけないのよ。だから、せめて短剣ぐらいは装備して迎え撃たなきゃいけないの。だったら動きやすい装備を選ぶでしょ。それに、私に詠唱が必要だと思ってるの?」
「そうならないように我々が護ります。ヴィヴィを前には出しません。」
「それはテオの希望的観測であって、常に物事は思った通りに進まないという事を肝に銘じておくべきね。」
テオドールはがっくりと肩を落とし小さな声でつぶやいた。
「申し訳ありません。私がふがいないばかりに・・・・・・・」
あ、まずい。言い過ぎたかしら。
「う・・・・・ そうです・・・・・ 無事にお嬢様を送り届けるはずが、崖から転落したり、狼を仕留め損なったり、」
「崖から落ちたのは車輪が外れたんだからしょうがなかったのよ。でも、落ちながらもテオは私を護ろうと動いてくれたわ。狼の時だって、一人で5頭も対処しようとしてくれたわ。でもね、これからは私達はパーティーとしてお互いを信頼し合わなきゃいけないと思うの。テオが一人で全てを背負おうとはせずに、私やニコをもっと頼った方がいいと思うわ。」
「そうです。私も充分に戦えます。テオにもっと頼って欲しいです。」
「・・・・・しかし、ヴィヴィの身の安全が第一なのです。ヴィヴィを護るためにもニコをそばに付けなければっ、」
「え? 私、防御魔法使えるけど、」
「え?」
「ええっ!!」
「土と風だけではないのですかっ!!」
「土の魔法だって土壁で防御できるし、風が私の廻りに吹きすさべば、無傷で私に近付けないわ。それにテオは私の防御結界に頭をぶつけた事があるでしょ。」
「防御の魔法が完成するまで、攻撃を待つ輩はおりません。」
さっきのランクアップ審査の時は、呪文を唱えたように見せて発動を遅らせたんだった。それ以外の時も魔法のイメージから発動までは見ていないんだし、魔法発動に時間がかかると思われても無理は無いか。
男の子達に大人気だったあの特撮の『ナンチャラマン』が自分の前に出した四角の光る壁、敵の攻撃を全て跳ね返す壁、『ナンチャラマンバリア』イメージすればできそうよね。
私のイメージに沿って、突き出した私の左手の先に光の壁が一瞬で形成される。
「テオとニコでこの光の壁に攻撃をしてみて。」
「これはっ、光魔法なのですか。」
「そうね。光る壁だから光魔法に分類してもいいかもしれないわね。でも光らなくする事もできるわ。」
魔法はイメージだって女神様は言ってたしね。私の思うとおりに変わるんじゃないかしら。
光らない壁をイメージすれば無色透明の壁に変わる。これって色を付けたりできるのかしら。
イメージしてみたらその通りの色に変わる。赤、青、黄色、緑、これって面白い。黒にもなるのかしら。と思ったら黒にもなった。あっ、さっき買った眼鏡のガラスにこの魔法を使えば、気分次第で色の変わるサングラスができるじゃない。なにこれ、凄い便利魔法ができちゃった感じ?
テオは手で触れたり拳でゴツゴツと叩いて強度を確認している。
「その程度ではどのくらいの強度なのか分からないでしょ。剣で斬りかかってもいいわよ。」
「人目が少ないとは言え、こんな町中でそんな事をしたら衛兵を呼ばれますよ。」
そ、そうよね。こんなとこでそんな事するべきじゃないわよね。もう少し人目を気にしなきゃ。
「剣で切りつけなくても、この防御魔法の強度が私の剣で破壊できそうもない事は、理解出来ます。」
「それが理解出来たなのなら、ニコに護られなくても私は安全だと理解してもらえたかしら。」
「いえ、いざ戦闘となれば敵は魔物だけではありません。対人戦闘ともなればもし敵に魔法使いがいた場合は、攻撃は四方八方から来ます。前面しか護れないようではすぐに命を落とします。」
む~・・・・・ このおじさんはあ~言やこ~言うタイプのおじさんですか。いいでしょう、誰にも攻撃を受けない『ナンチャラマンバリア』にしてみましょう。
私の前面に展開した『ナンチャラマンバリア』が形状を変え半球状に私の廻りを覆う。
あぁっ!! 黒い色のまま囲ってしまったから廻りが何も見えないっ、真っ暗闇だわ。透明化しなきゃ。
透明になった結界のドーム、その廻りを手で触りながら廻るテオとニコ。
「分かりました。ヴィヴィはこの防御結界を即座に展開できるという事ですね。我々が魔物との戦闘になったときには、自らの身を防御結界で守って下さい。それができなければ魔物狩りには連れて行きません。」
「私がパーティーリーダーなのよっ。」
「パーティーリーダー以前に、ヴィヴィは我々の護衛対象ですっ!!」
うぐ・・・・・ そ、それを言われちゃ反論できないわよね。しょうがないわ、おとなしく言うとおりにしましょう。
「分かったわ。あなた達の護衛対象という事で自分の身を守る事を優先するわ。でもね、テオとニコは私のパーティーメンバーなのよっ。あなた達の身が危険にさらされたら、あなた達の身を守るよう援護するわっ。」
テオがまだ何か反論しようとしてるのを遮ってたたみかける。
「もちろん、自分の身の安全を最優先にするわよ。」
その言葉に納得できそうもない微妙な顔のテオ。
「テオ、私達よりもヴィヴィのほうが攻撃も防御も上であると認めれば、肩の荷も降りますよ。」
ニコは私の事を認めてくれたみたい。そうよね、パーティーとして行動するんだから、こういう信頼関係がほしいわよね。
「いやしかし、それでも・・・・・・」
テオも頭が固いわね。でも、何もできなかった私が突然何でもできますよ、みたいなことになっても、なかなか信用して任せてくれないのも納得はできるし。
時間を掛けて少しずつ慣れてもらうしかないわね。
「もうヴィヴィは護られるだけの少女ではないのですよ。」
「ニコ、テオは私ができる事、できない事がまだ把握できてなくて、どこまで任せていいのか不安があると思うの。だからこれからの活動でだんだんと慣れていきましょう。」
「それについては私もテオと同じですよ。ヴィヴィがどこまでの事ができるのか、テオと一緒にまなんでいきましょう。」
テオはがっくり肩を落として私達の後を着いてくる。何でそんな事で落ち込んでいるんだか。
可愛い可愛いで、育ててきた何もできないお嬢様が、『私にかまわないで。』なんて反抗期みたいに言われて、ショックを受けたお父さんみたいじゃない。お父さんじゃないのに。
まあ、装備も調えた事だし、明日からハンティングよね。いろんな事を試しながらテオとニコには慣れていってもらいましょう。