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84.『リボーンの騎士』を名乗るのよっ

 おじいちゃん家令に訓練場まで案内されているんだけど、何度も行ってる訓練場だし案内いらないんですけど。

 さすがにデルフィーヌお嬢様を一人にするわけもなく、女性の護衛騎士が後ろにくっついてきてた。


 「デルフィーヌ様は剣術に自信がおありのようですわね。」

 「ぼ、僕のことは、デル、と呼んでください。」

 「あら、それならわたくしの事もレオンとお呼びくださいまし。」

 「そ、そんな、滅相もないことです。」

 「まあ、徐々に親交を深めてまいりましょう。

 わたくし魔法使いとして、今とても上達している自覚がありますの。早く剣士の方と組んで模擬戦をしてみたいと思っておりましたのよ。」

 「そうなんですね。レオンティーヌ様の魔法はどの程度のレベルなのでしょう。」

 「レベルなどとおっしゃっても、わたくしなどまだまだダメダメでございますのよ。」

 「ご謙遜を、父の話では、凄い水魔法使いだと聞き及んでおりますよ。」


 うんうん、やっぱり子供達だけで話せば打ち解けるのも早いわね。これならレオンティーヌ様を預けても大丈夫そうだわ。


 「それは単なる噂ではないでしょうか。わたくしにできるのはせいぜい水球の2連弾、水槍は覚えたばかりで1本しか撃ち出せませんの。」

 「え?」


 ポカンとした顔で、デルフィーヌお嬢様の歩みが止まり一行から遅れてしまう。

 気づかずにレオンティーヌ様は話し続けているんですけど。


 「せめて、水球だけでも無限に撃ち出したいと思ってますわ。」


 護衛の女性がすぐにデルフィーヌお嬢様に寄り添い、小声で囁くけど・・・聞こえてますよっ。


 「デルフィーヌ様、冗談に決まってますよ。承認欲求の強い子なのかもしれません。」

 「そんな酷いこと言わないでっ。僕と友達になってくれるんだよっ。」

 「申し訳ありません。でも考えてみてください。子供が攻撃魔法を撃ち出せるなんて考えられませんよ。話を真に受けないようにしましょう。」


 考えられないんですかっ!! レオンティーヌ様は魔法でも無双しちゃうんですかっ。

 こ、これは確認せねば・・・・・


 「あの~、レオンティーヌ様ぐらいのお子様が、攻撃魔法を撃つのは考えられないのでしょうか?」

 「聞こえてましたか?」

 「はい、全てはっきりと。」

 「ごめんなさい。デルフィーヌ様に対してやり込めるつもりの話だと思っちゃったんですけど、レオンティーヌ様には内緒にしてくださいね。」

 「言いませんけど、魔法の件はどうなんでしょう。」

 「そんな簡単に攻撃魔法なんて撃てませんよ。熟練の魔法使いの教えを受けてようやく攻撃魔法が形になるんですよ。まだ学園で教えを受けてもいない子供ができることではありません。」


 「あらっ、わたくし一人でお話をしていて恥ずかしいですわ。

 デルフィーヌ様、いつの間にヴィヴィ先生と仲良しになられたんですか?」

 「レオンティーヌ様、これからすることはちょっとした戦闘訓練になります。お互いの能力を何も知らずに訓練に入れば、事故が起こる可能性もあります。今ここでレオンティーヌ様の魔法をデルフィーヌ様にご披露しておきましょう。」

 「デルフィーヌ様に魔法のお披露目ですのね。なんだか恥ずかしいですわ。

 デルフィーヌ様も、この程度か、なんて幻滅しないでくださいましね。」


 おもむろに頭の上に手を掲げたレオンティーヌ様。その手の先に二つ、大人のこぶし大の水球が発生した時点で、デルフィーヌお嬢様と護衛の目が見開かれる。そんなに見開いたら目玉落ちちゃいますよっ。

 その水球が時間差でバシュッバシュッと撃ち出され、庭の土を抉り水のシミを残し消える。


 「申し訳ありませんわ。今はまだ2連弾しかできませんのよ。もっともっと訓練を積んで学園入学時には、無限に撃ち出して見せますわ。」


 口があんぐりと開かれたまま声も出せないデルフィーヌお嬢様達。


 しばしの沈黙を破ったのは、レオンティーヌ様。


 「ご、ごめんなさい。そんなに幻滅されるなんて思ってもおりませんでしたわ。もっとスゴい魔法使いを期待なさっていらしたのですね。こんなわたくしの護衛などできないのでしょうか。」

 「ち・・・ 違うっ。僕はあまりにも恥ずかしい。世間一般の水を出せる程度の魔法使いを想像してた。こんな僕がレオンティーヌ様を護るだなんておこがましいっ。」

 「世間一般の魔法使いって、そうなんですの?」

 「え? 私に聞かれましても、よく分かりませんよ。」


 そうよ、ソフィやフェリシーちゃん、レオンティーヌ様もすぐに覚えたわよ。このくらいが普通だと思ってたけど違うのかしら。


 「ぼ、僕は・・・・・ 生まれ変わりたいっ!! もっともっと強く生まれ変わってレオンティーヌ様の隣に肩を並べたいっ!!」

 「生まれ変わるのよっ!!」

 「え?」

 「もっと強く生まれ変わるのよ。リボーンよ。強く生まれ変わった暁には『リボーンの騎士』を名乗るのよっ!!」

 「は? き、君の言ってることは意味が分からないぞ。どうやって強く生まれ変われと言うんだ。」

 「そんなこと簡単ですよ。」

 「何が簡単だと言うんだっ!! 君は剣の鍛錬などしたこともないだろう。」

 「え? まさか、レオンティーヌ様が何もせずにここまでの魔法を習得したとお思いですか?」

 「お待ちください、ヴィヴィ先生。わたくしがここまでになれたのはヴィヴィ先生がいらしゃったからこそですわ。デルフィーヌ様にはヴィヴィ先生がいらっしゃらなかった。そういうことなんですのよ。」


 何がそういうことなんですか、よく分かりませんわ。


 「それなら、僕もヴィヴィ先生に教えを乞えば強くなれるとおっしゃるのですか?」

 「私は剣士じゃありませんよっ。剣術ならデルフィーヌ様の護衛騎士さんにお願いしてくださいよ。」

 「もっともです。」


 もう一行は訓練場の前まで到着していて、おじいちゃん家令が、どうぞ、と招き入れる。


 「いろいろ思うところもあるでしょうが、侯爵様から見極めろとの指示が出されていますので、軽く模擬戦みたいな感じでお願いします。武器は木剣がありますので、好きなサイズをご使用ください。

 まずデルフィーヌ様は魔法使いの前衛役、前衛が抜かれると後方の魔法使いが攻撃を受けます。抜かれないように敵を牽制してください。あ、倒せそうなら倒しちゃって構いませんよ。

 レオンティーヌ様は殺傷力の高い水槍は使わないでください。連弾ができる水球が使い勝手がいいと思います。初めて組むパーティーなのでうまく連携ができないと思います。フレンドリーファイヤーを防ぐためにも、撃つ時には合図が必要です。」

 「そのフレンドリーファイヤーとは何ですの。」

 「例えば、敵を牽制しようと射た矢が味方の背を貫くこと、ですね。」


 あ~~、と声が漏れ出た。理解はしてくれたみたいね。後ろから味方の魔法が当たるかも、って事なんだけど、それを避けるためにも声がけが必要よ、と言いたかったのよ。


 「では私が魔法を撃つ時には『撃ちます』と宣言いたしますわ。そうしたらデルフィーヌ様は横へ避けてくださいましね。」

 「承知いたしました。

 それで、僕たちが対戦する相手は誰なんでしょう。」

 「え? 私ですよ。」

 「ええーっ、ちょっ、君は魔法使いじゃないのか? いくら何でも僕が斬り込んだら、すぐに終わってしまうだろう。」

 「そんなことはございませんわ。ヴィヴィ先生はとってもお強いのです。デルフィーヌ様がかなうと思わないことですわ。」


 デルフィーヌお嬢様の護衛騎士さんが口を挟んでくる。


 「デルフィーヌ様は同年代の男の子を相手にしても引けを取りません。こんな小さな子では危険なのではないでしょうか?」

 「大丈夫ですよ。ケガしても治癒できますので、思いっきりやっちゃってください。あ、私からの攻撃魔法は使いませんので、魔法攻撃を警戒しなくてもいいですよ。」


 そんなんで、対峙した私達。私が持つのは短剣を模した木剣、刃渡り30cmぐらいかしら? 私が持つと短剣に見えないんですけど。

 デルフィーヌお嬢様は私の短剣よりも少し長めの、あのサイズも短剣の部類に入るのかしら? 体格がいいといっても10歳の子供なんだし、大人が使うロングソードを振り回せるはずもないわね。


 デルフィーヌお嬢様はレオンティーヌ様の2mほど前方で構える。近づきすぎず離れすぎずの位置取りね。

 レオンティーヌ様はメイスを構えて、隙あらば私に殴りかかろうという魂胆なのね。


 護衛騎士さんの『始めっ!!』の声がけで、一気に間合いを詰める。

 即座に反応するデルフィーヌお嬢様、反応が早いわ。何の躊躇も無く袈裟切りに木剣が振り下ろされてくる。

 ガッと木剣同士がぶつかり合い、デルフィーヌお嬢様は力任せに木剣を押し込んでくる。

 私には撥ねのける力はあるんだけど、ここは力が拮抗したように木剣を押し合う。

 押し勝てないと判断したデルフィーヌお嬢様、一瞬で木剣を引き私の間合いの外へ異動、そこから横薙ぎの木剣が襲いかかる。

 リーチの差、木剣の長さの差で即座に有利な位置取りをしてくる。対人戦闘に関しては鋭い勘を持っているみたい?

 横薙ぎの木剣を後ろに下がって避けたところに『撃ちますっ!!』のかけ声。

 レオンティーヌ様に目をやれば、 っっっ!! ウソッ、掲げた手の上に10個近くの水球が浮かんでる。今ここで魔法が進化してる。実戦を経験しながら魔法が強化されてくなんて、レオンティーヌ様にはこれからどんどん戦闘訓練をさせるべきだわ。


 デルフィーヌお嬢様が横に避けたところへ、私に向かっての水球が撃ち出される。

 この水球を木剣で叩き落としてもいいんだけど、そんなことしたら私が飛沫で水浸しよっ。

 木剣に水の魔法を纏わせ、私めがけて撃ち出された水球を吸収。次々と撃ち出される水球も全て吸収。

 木剣に纏わせた水がどんどん重くなってく。そこへ横へ避けていたデルフィーヌお嬢様が私に斬り込んでくる。

 そりゃそうでしょ、飛んで来る水球が当たるのを待っていたら、剣士としてはあまりにもお粗末よね。隙があればそこを狙うのが当然だわ。

 剣と剣のぶつかり合い、私の剣に纏っていた水がはじけ飛び二人そろってずぶ濡れよっ。

 こ、これは魔法攻撃じゃないのよ、こんなに水が飛び散るなんて想定してなかったわ。

 ずぶ濡れになっても意に介さず斬り込んでくるデルフィーヌお嬢様。

 ちょ、ちょ、待って、こんなずぶ濡れじゃ中止を宣言したいわっ。って言うか、次で終わらせるわ。


 後ろへ引いた私にデルフィーヌお嬢様が、一気に間合いを詰め渾身の一撃を放ってくる。その剣の柄に近い部分を思いっきり力を込めてカチ上げる。

 グッ、とうめき声が聞こえ、デルフィーヌお嬢様の剣は飛んでいく。手が痺れて剣を握っていられなくなったはずよ。

 武器を失ったデルフィーヌお嬢様に情け容赦の無い一撃・・・ ちゃんと手加減はしてるわ。

 胴を横薙ぎ一閃、デルフィーヌお嬢様はその場に膝を突く。

 後はレオンティーヌ様に向かってダッシュ。


 「いや―――――!!」


 悲鳴を上げながら次々と水球が撃ち出されてくる。スゴい、レオンティーヌ様はまだまだ成長できるわ。

 水球は全て剣で切り裂きながら進む。おかげでバッシャバッシャと水しぶきを浴びながら。その前からずぶ濡れだったし、もう気にせずに水浴びよ。

 レオンティーヌ様の喉元に剣を突きつけて、はい終了。

 すでに涙ぐんでいたレオンティーヌ様、気が抜けてしまったみたい。頭の上に浮かべていた水球が全て落ちてきて、レオンティーヌ様までもがずぶ濡れに。


 「終了です。」

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