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8.見境のない魔法ブッパ少女

 「おはようございます、ヴィヴィ。」

 「おはよう、ニコ。」

 「お疲れのようでしたけど、ハンターギルドへ出かける用意がありますので、お起こし致しました。」

 「大丈夫よ、ベッドでぐっすり眠れたから疲れはないわ。テオはどうしたの?」


 テオドールは別の部屋を取っているけど、ここにいないって事はまだ寝てるのかしら。


 「手紙を書いていますよ。私達の無事を伯爵様に伝えなければいけませんからね。ヴィヴィの事を書かずに無事を伝えるのですから、ずいぶんと文面の内容を悩んでおられるようです。」

 「え、なぜ私の事を書かないの。」

 「伯爵様に直に届く手紙は途中で調べられる可能性も考えられます。テオドールの同僚の騎士に、無事に旅を続けている事を伯爵様に伝えてもらえるように手紙を書くと言ってました。もっともハンターギルドで手紙配達の依頼をすれば、ほとんど問題無く届け先に届くのですが、念には念をという事です。」


 まあ、そういうことなら私の手紙も同封、というわけにはいかないんでしょうね。この世界でのお父様お母様に、私の無事を伝える手段はあるのに伝えられないもどかしさ。テオドールの文面ににおまかせだわ。


 手紙はテオドールに任せて・・・・・  今日はランクアップ審査よ。どんな試験なのかしら。今から胸がドキドキする感じね。

 こんな時、ドキがムネムネするとか言ってた子もいたけど・・・・・・・



 手紙を握りしめたテオドールが、緊張しながら手紙配送の依頼をしている。昨日のお姉さんが受け付けてくれている。


 「この手紙のお届け先は緊急でなければ8千ゴルビーですね。もし緊急でしたら30万ゴルビーでハンターが直にお届けに走りますが、いかがなさいますか。」

 「緊急ではないから普通の便で届けてくれ。」

 「かしこまりました。」


 ニコレットがテオドールの手を引っ張って行くのを見て、私も後ろを付いていく。


 「なぜ手紙を緊急で届けてもらわないんですか。そのくらいのお金は余裕はあるはずです。」

 「まだ、王宮からの査察が領内にとどまってるかもしれない。そんなところに大金を掛けた緊急の手紙が届いたら、不審に思われるだろう。ごく普通に手紙が届くぐらいなら誰も気には止めないと思うのだが。」

 「そ、そうでしたか。申し訳ございません。そこまで深く考えていたとは。」


 そうね、安全にとはいえ手紙を届けるだけで30万ゴルビーだなんて高過ぎよっ。前世では手紙が50円で全国どこへでも送れたのにっ。はがきに至っては20円よっ、20円。それが30万ゴルビーって、金貨三枚じゃない。それ以前に普通に送っても8千ゴルビーも高過ぎなんだけどね。

 自分自身でお金を使った事はなかったけど、本を読んで通貨単位はおおよそ理解はしているつもりなのよね。

 金貨が10万ゴルビー、銀貨が1万ゴルビー、小銀貨が千ゴルビー、銅貨が百ゴルビー、鉄貨が十ゴルビーね。

 金貨の上に白金貨100万ゴルビーなんてのもあるんだけど、一般に流通する事はないみたい。貴族や豪商の間での取引に使われるぐらいらしいから、白金貨が私の目に留まる事はないでしょう。

 それに、そんな高額貨幣を手にしたら、まず真贋を疑っちゃうわね。貨幣なんて高額になればなるほど偽物が流通するようになるしね。



 「テオさん、ランクアップ審査の準備をお願いします。そちらの扉から出て小部屋の先に訓練場があります。訓練場でお待ちください。」


 言われたとおりに扉を抜ければ、部屋があった。小部屋というほど小さい部屋ではなく、剣やその他の武器? みたいな物があった。長い木の棒の先に布が巻き付けてあったり、木の柄の先が十字型の形状になっていたり。これは槍や斧の形状を木で作ってるのかな。

 訓練で怪我しないように考えているんだね。そうすると鞘に収まってる剣は木剣なのかな。


 「訓練だからこの剣を使えという事でしょうね。」

 「ああ、そうだろうな。剣が一番数があるから、自分に合った長さを選べそうだ。」


 テオドールやニコレットは剣士で審査を受けるんだから、何の迷いもなく剣に手を伸ばし重さや長さを確認してる。私も短剣ぐらいは装備しようかしら。

 短剣を選んで腰に装備して、シュパッと抜剣してみたら木剣じゃなかった。刃は止めてあるけど鉄の短剣だった。テオドールが抜いた剣も鉄剣だ。そんなものでチャンバラしたら怪我しちゃうわよ。大丈夫なのかしら。

 まあ、とりあえずは剣を選び終えて部屋から出たら・・・・・・・ 訓練場って、単なる外の空き地じゃない。外から丸見えにはならないように囲ってはあるけど、隣の宿の窓から丸見えよ。


 キンッキンッキンッキンッ 剣撃の音が響き始めた。目をやればテオドールとニコレットが剣を交えている。本番前の肩慣らしね。

 どう考えてもテオドールの方が剣が力強い。打ち込む力を加減しているみたい。それはしょうがないんだけど、受けているニコレットもうまい具合に力を受け流し切り返す。スタイルが違う、剛の剣と柔の剣という感じかしら。

 だんだんとスピ-ドが上がり打ち合いも激しさを増す。


 「ほう、訓練に熱が入ってる奴らがいるな。ハンターたる者そうでなきゃいかんな。で、審査する新人はどこにいるんだ。」

 「あ、あの、あちらで剣を打ち合ってる二人がそうです。」


 扉から出てきたのは、今にも暴れ出しそうな筋肉モリモリの、恐そうなおじさん。顔も恐い。後に受付のお姉さん。


 「ちょっと待てっ、あれのどこが新人だっ。あのスピード、俺の全盛期よりも早いぞ。」

 「審査、どうしましょう。」

 「いや、もう、合格っ!! 俺の権限であの二人は合格っ。」

 「ええーっ、準備してきたんだから、ちょっとぐらい剣を交えてもいいんじゃないの。」

 「嬢ちゃん、どう見ても俺が打ち据えられる未来しか見えねーよ。戦う意味ないだろう、これ。

 もう一人魔法使いがいるって言ってたよな。どこにいるんだ。」

 「こちらのお嬢さんが魔法使いだそうです。支援魔法を使われるようです。」

 「え?・・・・・  嬢ちゃん、10歳以下はランク外から始めないと駄目だろう。これはハンターギルドの決まり事だぞ。」

 「私は10歳よっ。」

 「成長の度合いは人それぞれですので、小さいようですが10歳として受け付けました。」


 お姉さん、ありがとう~。お姉さんの言葉にまだ何か言いたそうにしてるおじさん。

 テオドールもニコレットも人が来た事に気が付いて、剣の打ち合いをやめて歩いてきた。


 「本日剣士として審査を受けるテオとニコです。よろしくお願いします。」

 「ああ、その件な。審査無しでいいや。合格。」

 「ええっ、そんな簡単でいいのですか。」

 「俺はギルドマスターだしな。マスター権限だ。それとこの嬢ちゃんが10歳というのは本当か。」

 「え? ええ、ヴィヴィは10歳ですよ。」

 「そうか、じゃあ、魔法の審査をしないといけないか。

 嬢ちゃん、支援魔法ってどんなのができるんだ?」

 「支援魔法はわかりにくいから、派手な攻撃魔法でもいいかしら。」

 「ほう、攻撃魔法ができるのか。ちょっと待ってろ。的を用意してやる。」


 ギルドマスターが隅に置いてあった丸太を担いできて訓練場の真ん中にドンと据える。


 「あの丸太に向けて魔法を撃ってみろ。的が遠いようならもっと近づいてもいいぞ。」

 「もっと遠くても問題無いわね。」

 「ははっ、それは届いてから言うもんだ。」


 ここでいきなり魔法を放ってもいいんだけど、何か呪文を唱えた感じにしないといけないのよね。大声で呪文を唱えるのも恥ずかしいし、小声でブツブツと呪文を唱えてるように見せて、的に向かって手を突き出す。

 見えない風の刃が丸太の表面を切り裂き、丸太は後ろへ吹っ飛ぶ。

 これだけじゃ合格になりそうもないし、もう一丁。土の槍が地面から突き出し、丸太を突き上げもう一度丸太を地面の上に立たせた。

 立てた丸太の廻りをゴウゴウと風が渦巻き、小さいけれども強力な竜巻となって丸太が空中に舞い上がる。丸太が高く舞い上がったところで風の魔法を解除。解除と共に丸太の落ちてくる場所に向かって走り出す。

 地面に落ちた丸太に向かって短剣を突き刺す、突き刺す、突き刺す。これでとどめを刺したわ。

 ギンッとギルドマスターに、何か文句があるかしら、と睨みつける。


 何なの、あの人達。呆けた顔をして。何か言ってくれてもよさそうなのに。

 皆のところへ戻ってギルドマスターに詰め寄る。


 「どうなのかしら。合格なのっ?」

 「う・・・・・・・ あ、ああ・・・・・・    ご、合格。」

 「ヴィヴィ、やり過ぎです。」


 ええっ、今度は無詠唱とか言われないように、ちゃんと呪文詠唱の間を取ったわよ。何がいけなかったの。


 「と、とりあえず、二階へ上がれ。マリーおまえもだ。」


 ギルドマスターがお姉さんも指差して、ってお姉さんの名前マリーだったのね。

その場にいる全員に付いてこいと指示する。



 ここは応接間ね。こんなとこに呼び出してどうするつもりなのかしら。

 お姉さんが全員分のお茶を用意してギルドマスターの横にちょこんと座ると、ようやく重々しく口を開くギルドマスター。


 「まずは、ルクエール支部のギルドマスター、ラウルです。二人の剣撃を見て思いつくのは騎士だろう、あ、いや、騎士様でしょう。剣筋が綺麗すぎます。で、騎士様がお連れになっているお嬢様、貴族家のお嬢様でしょうか。」

 「何言ってるんですかっ。私は貴族家でも何でもありませんよ。そんな事の追求のためにここに呼び出されたのっ。もしかしてランクアップはさせたくないという意思表示ですか。」

 「いえっ、そうではありません。ランクアップは決定です。問題は剣士の実力がBランク上位、魔法使いに至ってはAランクの力がある。そんなパーティーをDランクで世に出していいのか、悩むところです。」

 「突然敬語にならなくてもいいでしょう。私は貴族ではないと言ってるでしょ。」

 「あ・・・・・ 分かった。普通にしゃべらせてもらおう。あれほどの力があればCランクから始める方法もある。有力者の推薦状だな。逆に推薦状があっても力が無ければランクアップは認めない。」

 「有力者って、ギルドマスターじゃ駄目なの。」

 「俺みたいな平民なんか無理に決まってるだろう。王候貴族、貴族といっても公爵候爵ぐらいでないと駄目だな。教国なら教皇とか枢機卿だな。そのぐらいの有力者から推薦状をもらってこれるか。」

 「そんな知り合いはいないし、Cランクにこだわらない。Dで充分だわ。」

 「そうか、ま、あれだけの力があればすぐにでもCランクに上がってくるだろうがな。だけど嬢ちゃん、あの力をあまりおおっぴらに使わない方がいいぞ。こんなちびっ子がAランク並みの魔法を使ってたら誰もが欲しがる。下手すりゃ誘拐されてもおかしくはないぞ。」

 「嬢ちゃんとか、ちびっ子はやめて。私はヴィヴィよ。」

 「あ、すまん。ヴィヴィか。良い名前だ。

 それとテオとニコ、ヴィヴィの親には見えないが、保護者として付き添っているんだろう。ヴィヴィから目を離さない事、そしてあれほどの魔法を人前で使わせない事だな。」

 「それは承知はしているのだが、相手がヴィヴィだけに・・・・・ 」

 「ええ、そう、私もヴィヴィを止められません。」

 「ちょっと―っ!! 見境のない魔法ブッパ少女みたいに言わないでっ!!」


 「・・・・・一応、ギルド側の意見として伝えたからな。俺やマリーの口からこのパーティーの能力や秘密を漏らす事はない。もし広まるようなら、おまえ達がなんの制限もせずに無双したと言う事だ。」

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