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79.よっしゃーっ 難関攻略ねっ!!

 「ようこそ、おいでくださいました。こんなところで立ち話も失礼ですので、どうぞ中にお入りください。」


 ソフィは子供達の方をチラチラと見ていたので、『子供と遊んでいてもいいわよ。』と言えば、喜んで子供達の輪の中に入っていった。ソフィも孤児院暮らしだったし、小さな弟妹を面倒見るのが好きそうだったしね。

 お母さんのお招きで案内された部屋は・・・ 教会の応接間ね。孤児院の建物もずいぶんと古くて傷んでいたけど、教会も同じようなものね。でも掃除は行き届いて清潔感はあるわ。


 「孤児院の院長を務めております、エステル・アルベールと申します。」

 「ほう、貴族家の出の方でしたか。私はクレマンソー侯爵家王都邸で家令を務めております、セレスタン・ラヴィルニーと申します。こちらはハンターパーティー『風鈴火山』の皆さんです。」

 「皆さん初めまして、貴族家の出とは申しましても2代前から平民ですのよ。気になさらないでくださいね。」


 言葉遣いの丁寧な、いえ、気品さえ漂わせる初老のおばさん。2代前ならお爺さまとかお婆さまが貴族籍だったという事ね。

 貴族家の子供達が全員爵位を継げるような事はない。爵位を継げない子達は爵位継承者に嫁いだり婿養子にいければ、運良く貴族籍から外れる事は無いけど、それ以外の子達は貴族籍から外れてしまう。

 だから、平民でも姓を持っている人もいるんだけど。それを考えると平民でも姓を持ってる人達がもっと多くてもいいんじゃない?

 多分、おじいちゃん家令もそんな感じで貴族籍から外れた人よね。まだ貴族籍は残ってるのかな?


 「今日のご訪問は、労働に従事できる子を必要としているとアンナに聞きました。その子供達はどのような労働をさせられるのでしょう?」


 もちろんエステルお母さん、おじいちゃん家令に向かって話しかける。私達みたいなハンターが人材を欲しがることもないでしょう、との思いがあるんでしょうね。


 「今回、開拓が滞っているガエル村をクレマンソー侯爵家が主導で再開拓を推進する運びとなりました。ついてはガエル村に労働力が・・・・・

 欲しいということですよね? ヴィヴィさん。」


 おじいちゃん家令も一人でしゃべっていてなんだか心配になってきたみたい。私に話を振ってきたわ。


 「なんで途中で話を振るんですかっ。エステル院長も驚いていますよ。」


 え? という顔をして私とおじいちゃん家令の間で視線がさまようエステルお母さん。


 「いや、しかしですね、侯爵家主導だとはいえ、ヴィヴィさんの発想に頼るところが大きいのも事実です。ヴィヴィさん主導と言っても、」

 「私が主導じゃないですよっ。ちょっとお手伝いのつもりですよっ。」

 「あ・・・ あの、」

 「これは、申し訳ありません。こちらの方が、え~、ガエル村再開拓のお手伝いのヴィヴィさんです。お手伝いとは申しましても、再開拓はヴィヴィさんの発想に頼っております。

 ではヴィヴィさん、子供達はどのような労働に従事するのでしょう。」


 結局私に丸投げですかっ。と言うのもおじいちゃん家令をいじめてるみたいに見られちゃいそうだわ。お年寄りをいたわるためにも、ここは私の出番かしら?


 「あくまでも、ガエル村再開拓のちょっとしたお手伝いをする予定のヴィヴィです。」


 あくまでも、お手伝い、を強調しておいたわ。これでエステルお母さんも私がこの計画を主導してるなんて思わないはずよ。


 「あの、ヴィヴィさん? あなたのような小さな子供が、そんな大きな仕事を大丈夫なのでしょうか?」

 「大丈夫です。クレマンソー侯爵様が主導している計画です。私は単なるお手伝いです。」

 「いえ、お手伝いにしても子供が携わる仕事ではございませんよ。」

 「確かにそうですね。でも・・・」


 その通りよ。こんなの子供がやる仕事じゃないわ。でも、ガエル村再開拓を軌道に乗せないと、お父様お母様の居場所を確保できない。


 「何か事情がおありなのですね。できましたらヴィヴィさんの力になってあげたいと思います。でも、私は子供達の母親代わりなのです。ここの子供達を不幸にすることはしたくありません。ガエル村の労働力として連れて行かれた子供達は幸せになれる未来が待っているのでしょうか。孤児だからと言って給金も払われずに奴隷のように扱われるようなことはありませんか。」

 「奴隷のような扱いをするつもりはありませんが、農業に携わり農作物を収穫し農作物からの生産物で利益を上げる計画です。ガエル村に行ったからその場で賃金がもらえるわけではありません。ただし、農地を切り拓き農作物を収穫することができれば、その土地は切り拓いた者が所有する権利を有します。」


 荒れ地を切り拓いて畑にしただけで所有権をあげちゃってもいいものか分かんなかったから、おじいちゃん家令をチラリと盗み見た。

 ウンウンと頷いてるおじいちゃん家令を確認して、所有権をあげてもよかったみたい、と納得した。


 「農作物で利益が上がるまで賃金をもらえないのでは、その間の住まいも食事もどうするのでしょう。」

 「最初はクレマンソー侯爵領よりの物資及び食糧支援があります。住居も侯爵領の職人達が建物の新築修繕を行います。衣食住はお任せください。」

 「で、では、農作物の収穫後には働いただけ利益が生まれると? それは信用してよろしいのでしょうか。」


 働いただけの利益が生まれるのが・・・ え? ここでは普通じゃないの?


 「あの、ここの子供達はどちらかへ働きに出ていますか?」

 「皆さんを案内してきたアンナが、ブランシュ商会でよくしてもらっていますが、その他の子達は孤児を理由に虐げられたりしたようです。そのおかげでハンターになる子が多いんですよ。」


 やっぱり孤児は偏見の目で見られているのね。いえ、偏見の目で見られている以上に虐げられているわ。正当な給金が支払われずに働かされているなんて。


 「子供達が帰ってきたら相談をしてみましょう。働きに行きたいと言う子がいれば、ヴィヴィさんにお願いしてみましょうか。」


 突然、扉が勢いよく開かれた。アンナが扉の向こうで聞き耳を立てていたようね。


 「ダメよっ、お母さんっ。ここの働き手を連れてっちゃったら、孤児院が困っちゃうじゃないっ。

 ヴィヴィ、帰れっ!! ここの子達は連れて行かせないよっ!!」


 掴みかからんばかりに迫ってきたアンナは、私にたどり着くこともなくテオの片腕で止められた。


 「アンナ、盗み聞きは失礼です。」

 「でもっ、ここは私達が働かなきゃ小さい子達のご飯だって困るんだよっ!!」


 そんなにお金かない教会なの? あ、そうだ、神父さんいないし、教会への寄付も無いのかな?

 でも、教団から孤児院の維持費とかは・・・ 無さそうね。教団は金の亡者だってテオが言ってたし。


 「アンナ、失礼を詫びて部屋を出なさい。」


 アンナは涙をボロボロこぼしながら、『ちっちゃい子達をどうするのよ』ってつぶやいてる。

 これは私が何か解決策を・・・・・ どうしよう? まあ、とりあえず、アンナとも話し合ってみましょうか。


 「アンナ、あなたとも話したいわ、座って。」


 ギロッと私を睨みつけながら、エステルお母さんの横に座る。


 「私はこの孤児院を見捨てたいわけじゃないわ。アンナはここの子供達を護るためにどうしたらいいと思う?」

 「近くで働けるならいいんだけど、そんな何処ともしれないような村なんかに連れて行かれたら、ここに帰ってこれないわ。そんなことになったら幼い子達が困っちゃうじゃない。」

 「そんなこと心配しなくても、私があちこち寄付を募りに動くわ。私は子供達が幸せになれる道があるのなら進ませてあげたいの。アンナだって行きたかったら止めないわ。」

 「嫌だよ、私はお母さんと・・・ 子供達とずっと一緒にいる。」


 うん、アンナは連れて行ったらベルトランさんに怒られちゃうわね。ん? ガエル村にもブランシュ商会が出店するとか、言ってませんでした?

 そこの店番に連れて行くのはアリかも。ベルトランさんにアンナの店員教育をしっかり叩き込んでもらった上での話なんだけどね。

 そうすると・・・ 寄付か~、クレマンソー侯爵様にお願いすれば、出してはくれるんだろうけど、ずっと寄付を出してくれる保証はないし。


 「アンナはここにいたいのかもしれないけど、他の子供達が孤児を理由に虐げられているなら、ガエル村に行きたい子供達の方が多いんじゃない?」

 「そんなのっ、私が絶対に行かせないっ!!」


 これは困ったわね。アンナが完全に敵に回っちゃったわ。

 だけど、私の話を信用してくれてたエステルお母さんは子供達に選んでほしいみたい。


 「アンナ、誰もが幸せになれる道を選んでいいの。アンナ以外の子供達は、アンナが反対するおかげで幸せになれないかもしれない。それでもいいの?」

 「そんなこと言ったら、今うちにいる働けない子達が幸せになれないよ。」


 小さい子を置いていけないか~。ソフィも孤児院を出るときは下の子達の心配してたし。みんないい子達ばっかりよ~。

 私まで涙がポロポロこぼれて来ちゃったわ。


 「なんであんたまで泣いてるのよ~、ウグッ、ヒック、わ、私は・・・子供達やお母さんを置いて絶対ここを離れないからね~、ウワ~ン」


 え? 何て言ったの・・・ 子供達やお母さんを置いてここを離れない? それは他の働いてる子供達にも共有される考えなの?

 いえ、共有されてなくてもアンナがそのように誘導するでしょうね。だから今のアンナの納得する条件が、今ここで提示されなければここでの全ての話はご破算よ。

 アンナは何を言ってたの? え~と・・・・・ 子供達とお母さんを置いていけない?

 置いていけないんだったら連れて行く・・・・・?


 あ、いいかも。孤児院の移転よ。いえ、孤児院を移転ではないわね。ガエル村に新しく孤児院を作っちゃいましょう。そこへエステルお母さんも働けない子供達も連れて行くのよ。今は小さくて働けない子供達だって、成長すれば立派な労働力よ。

 ガエル村だって、子供達が増えれば賑やかになって活気づくはずよ。

 そ、そしたら・・・ 村祭りとかも開催しちゃったりとかして、

 ま、まあ、村祭りはまだずっと先の話ね。それは置いといて、まずは目の前の話を進めなきゃ。


 「子供達やお母さんを置いていけないとの事ですが、私からの提案があります。みんな連れてっちゃいましょう。ガエル村に子供達全員が住める建物を建ててそこを孤児院にしちゃいます。」

 「待って、そんなことしたら私だけが行けない。商会長にはお世話になってるから、ブランシュ商会を簡単にやめられない。」

 「ブランシュ商会はガエル村に出店の計画があります。アンナがガエル村支店へ配属されるように私からベルトランさんにお願いしておきます。」


 アンナの何のためらいもない返事が即座に返ってくる。


 「・・・・・行くっ!! 私は行くよっ!!

 お母さんっ、みんな連れて行こうっ!!」


 よっしゃーっ!! 難関攻略ねっ!!

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