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78.お友達認定ロックオン

 お買い物の支払いを済ませたところへタイミングよく、ベルトランさんとおじいちゃん家令、それともう一人、若い女の子の店員さん? が来た。もう打ち合わせは終わったようだわ。


 「ヴィヴィさん、今日は買い物をしないと聞いてましたが。」

 「気に入った物があったので買っちゃいました。」

 「それはそれは、当店をご利用いただきましてありがとうございます。先にお声がけいただけたら値引きをいたしましたのに。今日は他にもご入り用な物はございますか?」


 ご入り用? あっ、そうだ、搾油機よ。搾油機って作られているのかしら。もし誰も作ったことが無い物を作らせちゃったら、その製造元から秘密漏洩があるかも。

 ベルトランさんには遠回しに言ってみた方が良さそうだわ。


 「欲しいものは~、例えば果物を搾ってジュースにするような器具ってありますか?」

 「ございますとも。どうぞこちらへ。」


 案内されて来たところは、生活雑貨でも厨房で使う雑貨を展示してあるコーナーね。鍋や包丁が並んでるその奥にその絞り器は置いてあった。


 「こちらがそうです。行商でドワーフの国もいきますからね。そこで手に入れた物です。この上の金属製の器に切った果物を入れ、上のハンドルを下に押しつけると底に空いた穴から絞られた果汁が下の器にたまる仕組みです。」

 「ドッ、ドワーフッ、ドワーフの国へ行くんですか? 行ってみたいですっ!!」

 「え? ガエル村の件で忙しくなりますから、私はしばらく行けなくなりそうです。」


 そ、そうよね。私だってしばらくは王都とガエル村を行ったり来たりになりそうだし。

 っていうよりも、果汁絞り器よ。構造はてこの原理を利用して果物を圧縮させているんだけど、これを搾油機に使おうとしたら圧倒的に強度が足りないわ。

 圧搾の力を強くしたいのなら作用点から力点までの距離を離せばいいんだけど、支点が力に耐えきれなくて破壊する恐れがあるし、圧が加わる器も壊れそうよ。

 できたらドワーフの国まで行って直に説明をして、私の言うとおりに制作してほしいものだわ。

 果汁絞り器をさわったり動かしたりしながら、うむむむ~、とうなっていたら、おじいちゃん家令が助け舟を出してくれた。


 「ヴィヴィさん、何か改良点があるようでしたら、侯爵領にもドワーフの工房があります。そちらで作り直してもらいましょうか?」

 「ドワーフの工房? あるんですかっ。」

 「王都にもありますが今回はクレマンソー侯爵領の事業となりますからね。侯爵領の工房を使いましょう。」

 「分かりました。それでお願いします。

 あ、ベルトランさん、これ買います。」

 「待ってください、それを元に改良するんですよね。

 ベルトランさん、これを2台買います。クレマンソー侯爵様への請求としてください。」

 「かしこまりました。これは私共でお運びいたしましょうか?」

 「いえ、馬車に積んで持って行けます。」



 馬車まで運んでもらった荷物を積み込み、さて次は孤児院ね、と思ってたらベルトランさんが、連れてた女の子の店員さんを紹介してくれた。


 「この娘はアンナといいまして、孤児院から働きに来てる娘です。セレスタン様がこの後孤児院へ向かわれるとおっしゃっていたので、案内のために連れてきました。」

 「あのっ、アンナですっ。よろしくお願いしますっ。」


 元気そうな女の子だわ。お店の店員さんだからこれくらいがいいのかしら。何もしゃべらない店員さんに横に立たれても、気持ち悪いしね。

 年齢はソフィと同じぐらい、12~13歳ぐらいに見える。ソフィと仲良くなれそうね。

 幌馬車にアンナも乗せて動き始める。

 アンナって案内で来たんじゃないの。御者席で指示しなくていいの?


 「私、アンナです。お名前聞いてもいいですか?」


 案の定ソフィにアンナのお友達認定ロックオン。だめよ、ソフィにグイグイ行くと引いちゃうわ。


 「う、あ、ソフィ・・・です。」

 「ソフィはシャイなのよ。あまりグイグイいかないでっ。」

 「あ、ごめんなさい。年齢が近いみたいだし、お友達になれるかなって思って。」

 「うん、まあ、ソフィはいい子だからお友達にはなれるでしょうね。」

 「そうでしょうーっ。お友達になりましょう?」

 「だから、グイグイいかないで。お話ししたいなら私がするわ。聞きたいこともあるし。」

 「え、でもあなた、ヴィヴィさん? でしたっけ? ちっちゃい子なのに商会長の態度、凄く偉い人とお話してるみたいなんです。ヴィヴィさんって偉い人なんですか?」

 「偉くないですよっ。普通に接してくれて構いませんよっ。」

 「そうなんですか。何か聞きたいことがあるとか言ってませんでした?」

 「ええ、そのことなら、孤児院の子供達で、アンナぐらいの子は何人ぐらいいるの?」

 「なんでそんなことを聞くんですかっ。まさか、誘拐して売り飛ばそうとか、」

 「誘拐なんかしませんよっ!! 真面目に働いてくれる人達が欲しいだけですっ。」


 御者を務めてくれているおじいちゃん家令が声を掛けてきた。


 「ヴィヴィさん、平民街の教会が見えてきましたよ。」


 そうなのよ。ここの孤児院って教会が運営してる孤児院なのよね。

 教団からの影響力はどうなのか侯爵様に聞いてみたら、その教会の管理者の神父は数年前に亡くなっていたようで、神父と共に孤児院を切り盛りしていた女性がいまだに孤児院のお母さん的存在で、子供達の面倒を見ていると言ってた。

 でもその状態って、神父不在の教会に新たに教団から神父を送るんじゃないのかしら。そんなことになったらこの孤児院には近寄らない方がいいかも。


 「そうそう、ここ。ここが私達のおうちです。」


 教会の横に建てられている薄ら汚れた建物。いかにもお金ありませんよ的な建物だわ。


 「あまりきれいじゃないけど、寄ってきますか?」

 「ここの責任者にお話があって来たのよ。寄るわよ。」


 孤児院の前まで馬車が入ってきたおかげで、ワラワラと小さな子供達が飛び出てきて私達を遠巻きに眺めてる。

 見た感じ5歳ぐらいまでの子達が6人か。まだこの子達を農業に従事させるには早いわね。できたらアンナぐらいの年齢から上ぐらいがいいんだけど。

 止まった馬車から飛び降りて建物に駆けていくアンナ。


 「お母さ~ん、お客さんだよ~っ。」


 出てきた女性は・・・  え? お母さん? アンナよりちょっとお姉さんみたいな感じ?

 ど、どこがお母さんなのよっ。

 お姉さんが話しかけてきた。


 「どのようなご用件でしょう。」

 「私、クレマンソー侯爵家で家令を務めております、セレスタン・ラヴィルニーと申します。あなたがこちらの責任者ですかな。」


 さすがおじいちゃん家令、孤児の下賤の者めっ!! みたいな差別的な考えはないようで、ちゃんと人として接してる。


「こっ、侯爵家?」


 でもお姉さんがびっくりして、ザザザッと後じさりひれ伏す。

 私達『風鈴火山』はいつものハンターのカッコしてるから平民扱いだけど、おじいちゃん家令は侯爵家の家令なんだから、身なりは貴族に引けを取らない。家令とは言っても貴族家の出なんでしょうけど。


 「お姉さん、侯爵家の家令であって、侯爵様ではないんだからひれ伏さなくても、あ、侯爵様相手でもひれ伏さなくていいと思うわ。そんな状態じゃお話ができないわ。顔を上げて立ってちょうだい。」


 アンナが走って戻って来た。


 「あれ、何やってんの? サラ姉さん。起きなよ。

 あ、お母さん、ちっちゃい子のおしめ変えてるからちょっと待って、って言ってたました。」


 ですよね~、このお姉さんがお母さんである訳がないでしょう。


 「あ、アンナ、こちらの方々は何をしにこんなとこへ?」

 「え? 働き手が欲しいとか。

 でしたよね、ヴィヴィさん。」

 「ええ、農作業と農産物からの生産に携わってくれるような子供達を募集してます。」

 「農業なんて私達には無理ですよ。そんな知識ありませんからね。」

 「農業に携わっていたお年寄りがいます。その方達が教えてくれますよ。」


 あ~、それならできそうですね。なんてアンナが言ってる後ろの方から初老のおばさんが出てきた。


 「ようこそ、おいでくださいました。こんなところで立ち話も失礼ですので、どうぞ中にお入りください。」

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