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73.ウンチでしたかっ

 さすがに魔法訓練をお嬢様の部屋の中でやるわけにはいかないわ。騎士や兵士達の訓練をしている中庭の片隅をお借りして訓練を始めようと思ったんだけど、何か真新しい事を始めれば人目を引くものよね。

 魔法訓練が始まる前に回りに人垣ができちゃったわ。

 こんなところで魔法を放ったらケガ人が出ちゃうし、この人達に魔法を教えるつもりは一切無いんですけど。


 「今からレオンティーヌ様に魔法のご教授をいたします。これはアリステイド様との契約で、レオンティーヌ様が魔法を覚えた場合報酬とボーナスが支払われます。あなた方がここで魔法訓練に参加なされるのなら、アリステイド様から支払われる報酬と同等の報酬を要求いたします。」


 蜘蛛の子を散らすようにその場から散り散りに離れていく人達。魔法を覚えられるかもしれないけど、お金は払いたくないって事ね。


 まあ、気を取り直してお嬢様に魔法のご教授をしなきゃ。お嬢様の魔法はどのくらいと考えればいいのかしら。水魔法が得意だと聞いたことがあるけど、せめてフェリシーちゃんぐらいの水魔法が使えると思っていいのかしら。


 「本日の魔法の訓練は初めての訓練となります。レオンティーヌ様の今現在の魔法のレベルがどの程度なのか、私に教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 「そうでしたわね。まだヴィヴィ先生に魔法を見せたことはありませんでしたわ。お見せいたしましょう。」


 お嬢様が精神集中を始め呪文を唱え始める。


 「水の精霊よ、我が魔力を遣い、手元の器を水で満たしなさい。出でよ、水っ。」


 パシャっと皿に落ちた水・・・・・ え? こんなもの?

 そ、そうよね、こんなものよね。まだ何も教えてないんだし。

 いえ、これが全力ってわけでもないでしょう。ちょっとした小手調べの魔法よね。

 あ・・・・・ 違うみたい? 私の顔色を伺って不安そうな顔をしてる。


 「え~と・・・・・ あっ、そんな不安そうな顔しないでください。大丈夫だから、」

 「でも・・・・・ 魔法が使えて周りの皆から凄いって言われていましたわ。でも、この程度の水を出して何が凄いのか、いつも不思議だったんですの。やっぱり、わたくしは周りの者達におだてられてただけなのですわ。」

 「それは否定できませんね。今程度の水魔法ではレオンティーヌ様の身を護る事も、ましてや攻撃さえもできそうには見えません。」

 「何ですって、水の魔法で身を護る? 攻撃?」


 口で説明するより現物を見せた方が早いわね。私の前面、お嬢様の目の前に水球を出現させて宙に浮かせる。


 「この水球で防御ができます。足元の小石を拾って私に投げつけてください。」

 「何を言ってるの。そんなことしたら石がヴィヴィ先生に当たってしまいますわ。」

 「当たる事はありません。水でも防御ができる事を実感してください。」


 小石を拾い上げたお嬢様が恐る恐る小石を投げつけてくる。

 えいっ、とばかりに投げた小石はあさっての方角に飛んでいく。

 恥ずかしげに頬を染めてうつむくお嬢様。か、かわいい・・・ って言う前にウンチでしたかっ。目の前の的に向かって投げれないとか。

 ま、まあ、そんな運動音痴の子もたまにはいたりもしたから、珍しいことではないのよ。でも、これから学園に上がって剣術訓練があるって言ってなかったっけ?

 こんなんで剣術訓練やらせて大丈夫なんですか。

 剣術訓練とはいっても基本が魔法使いだから、身を守る程度の剣術でしょうけど、それにしてもこの運動音痴はお粗末すぎないかしら。


 「お嬢様っ、私が投げます。お嬢様は私の後ろにいてください。」


 侍女さんがお嬢様を後ろに下がらせ、手に持った小石を投げつけてきた。

今度は水球にズボッと飲み込まれ、投げられた小石の勢いは水の抵抗で減衰して下へ向かって落ちていく。


 「凄い、ちゃんと防御ができていますわ。水の魔法でこんなことができるなんて。」

 「そうです。水を呼び出す量、水の操作、これらが自在にできるようになって水魔法の【治癒】も発動できます。ちなみに水の操作はこんなこともできます。」


 水球から小さな攻撃用水球を分離させて、撃ち出す。数メートル先の地面に着弾した水球は地面をえぐりながらはじけ散った。


 「な、何ですか、この威力はっ。まさかヴィヴィ先生はこれをわたくしにやれとおっしゃるのですか。」

 「この程度の水の操作は、最低限必要かと思われます。」


 お嬢様が涙目で訴えかけてくる。


 「む、無理ですわ・・・ わたくしにはそこまでの魔力量はございません。」


 ここで誰もが大きな勘違いをしている体内魔力量。まずはその考え方を根本から変えなきゃいけないんだけど、その魔法の本質について語るには人払いをお願いしたいわね。


 「魔力量に関してのお話なんですが、レオンティーヌ様と私、二人だけのお話にさせていただけませんか。」


 え? っと周りを見回して侍女さんと目が合うお嬢様。


 「ロメーヌにも話せませんの?」

 「はい、レオンティーヌ様と私、二人だけでお願いします。」


 侍女さんを振り返り指示をするお嬢様。


 「ロメーヌ、控えなさい。ここからはヴィヴィ先生とわたくし二人だけの授業ですわ。わたくしが呼ぶまで近寄らないで。」

 「かしこまりました。庭の隅で拝見させていただくのはよろしいでしょうか。」

 「ええ、構いませんよ。」

 「ありがとうございます、ヴィヴィ先生。」


 離れていく侍女さんを見送り、私達はガーデンテーブルを挟んで椅子に座る。


 「私の魔法の授業は、レオンティーヌ様が今まで教わってきた魔法の常識を根底から覆す事になります。その上で私から教わったことは秘匿することをお願いします。」

 「わたくしとヴィヴィ先生以外には誰にも秘密、という事なんですね。」

 「いえ、この極意を知り、魔法を行使できる者がレオンティーヌ様もご存じのソフィです。」

 「それじゃあ、その3人だけの秘密ということですわね。」

 「あ・・・ いえ、もう一人?」


 う~ん、フェリシーちゃんともう一人、ダダン姐さん? 二人といいたいとこだけど、ダダン姐さんに限って言えば【身体能力強化】に特化しちゃってるし、ダダン姐さんはノーカウントということで・・・


 「ムーレヴリエ男爵家長女のフェリシー様に魔法の手ほどきをいたしました。」

 「ムーレヴリエ男爵家といったら、そこのご長男がわたくしと同学年で学園入学とか言っておりませんでした?」

 「そんなこと・・・ 言いましたね。」

 「聞いておりますわ。殿方を投げ飛ばしたとか、その技を伝授したとか。」


 そ、そんな事まで言いましたっけ?・・・ いえ、お嬢様が知ってるって事は言ったんですよね。


 「それで、ムーレヴリエ男爵家のフェリシー様も学園にご入学なさるのですか。」

 「いえ、フェリシーちゃんはまだ5歳の女の子ですから、入学はまだ先になります。」

 「5歳? その女の子の魔法のレベルはどのくらいなんですのっ。」

 「え? 先ほど私が出した水の盾や水弾はできてましたから、私と別れた後も鍛錬を続けていれば、もっと威力が上がるか、もしくは全く別の魔法を覚えているかもしれませんね。」


 ガタンと勢いよく立ち上がったお嬢様。掴みかからんばかりに私に迫ってきた。


 「ヴィヴィ先生っ、わたくしはヴィヴィ先生の弟子としてフェリシー様に負けてはいられませんわっ!! その極意をわたくしにもご教授お願いいたしますわ。」


 「ま、まずは座って落ち着いてください。」

 「これが落ち着いていられますかっ。5歳の女の子に大きく水をあけられておりますのよ。わたくしだってすぐにでもそのレベルまで到達いたしますわっ!!」

 「わ、分かりました。え~と、まずはレオンティーヌ様の魔法に対する考え方、体内の魔力を使って魔法を発動させるという考え方は捨ててください。この世界には精霊の力が満ちあふれています。空気中に満ちている精霊の力をお借りする、というイメージで魔法を発動させます。」

 「空気中の、精霊の力?・・・・・」

 「そうです。私はマナと呼んでいますが、レオンティーヌ様には精霊の力と呼んだ方がイメージしやすいと思います。そして、水の精霊にどのような魔法を発動したいのかをイメージして呪文を唱える、いえ、呪文と言うよりお祈りを捧げる感じですかね。」

 「お祈り、ですか・・・・・」

 「試しに私が先ほど出した水球、あれより小さくても構いません。精霊へのお祈りで水球を出してみましょう。」

 「そ、そんな簡単に・・・ もっとはっきりとわかる極意とかは?」

 「魔法に対する考え方が極意だと思ってください。だからといってあまり思い詰めずに、精霊へのお祈りをしていただければ、きっと魔法は発動しますよ。お祈りと言っても魔法のイメージをしっかり持っていれば、簡単な文章で構いません。」


 半信半疑の顔で手を組み合わせてお祈りを始めようとするお嬢様。


 「そんな疑いながらお祈りしても、魔法は発動しませんよ。信じるんです。周りに存在する精霊の力を感じるんです。」

 「え・・・ ええ・・・」


 ぎゅっと瞑った目の前で組み合わせた手。集中しながらお祈りを捧げ始める。


 「水の精霊様、水の精霊様、わたくしの目の前に水球を現してください。


 目の前に現れた水球、思ってたより大きい。コップ一杯分が限界かと思ってたのに、木桶一杯分ぐらいの水球が姿を現した。

 ヤバいわ、これが落ちたらテーブルどころか私達の服が水浸しよ。

 慌てて水球の下に【ナンチャラマンバリア】の器を作って落ちてくる水球を受け止める。

 バシャッ、ふー、間に合ったわ。


 「え? この・・・ 水は?」

 「今、レオンティーヌ様が呼び出した水ですよ。」

 「ええ? こんなにたくさんの水を?」

 「今まで水の魔法は使っていたのです。この方法で水を呼び出すことはレオンティーヌ様なら造作も無いことと思っていましたよ。後は水の操作です。呼び出した水を自分の前に浮かせておく、小さな水弾を撃ち出す、等の自在に操作ができるようにならなければいけません。そこまで水を操作できるようになって、ようやく水の【治癒】を教えることができます。」

 「はいっ、ありがとうございますぅ。ヴィヴィ先生・・・」


 ちょっと、涙ぐんじゃってるんですけど、まだそんなたいしたこと教えていませんよ。呼び出した水がちょっと大きくなっただけで、大げさですよっ。


 「あの程度の水を出せるだけで、魔法使いを名乗っていいのか、凄く心配だったんですぅ。わたくしなんかいらない子なんじゃないかって。お爺さまやお父様におまえなどいらないと言われるかもしれないのがとても怖かったんです。でも、でも、これで胸を張って魔法使いを名乗れますぅ。」

 「ここがレオンティーヌ様のゴールではありません。もっと高い目標を持ちましょう。」

 「目標とは?」

 「そうですね~、貴族学園への主席での入学、首席での卒業、はいかがです?」

 「む、無理ですわ。わたくし、座学が苦手です。」

 「苦手でも努力はできます。せめて私が教える算術と魔法に関しては、学年で上位に入れるように努力してみませんか。」

 「が、がんばってみますわ。」

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