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7.ハンター登録

 ハンターギルド事務所内には受付窓口が並んでいたけど、窓口で対応していた受付嬢は二人しかいなかった。あまりハンターらしい人は見かけられないし、ちらほらといるハンターらしい人は受付に行列をつくっているわけでも無い。

 ハンターギルドといえばハンター達を束ねている組合みたいな物よね。こんな閑散としていて組合が成り立つのかしら。受付窓口の向こう側にはずいぶんたくさんの職員が事務仕事をしているようだけど、ハンターより職員の数が多いってどうなの?


 「あ、テオさん・・・ でしたよね。買い取り査定が出るまでにハンター登録をお願いしま~す。」


 奧から一人の女性がテオドールに呼びかけてきた。

 ええっ、登録? 私も登録してハンターになるわっ!!


 「ああ、よろしく頼む。」

 「そちらの女性もご一緒に登録なさいますか。」

 「ええ、私も登録します。」

 「ちょっと待って、三人よ。私も登録するわ。」

 「え? 10歳以下のお子様はランク外でしか登録できませんが、よろしいですか?」


 まじまじと私を観察した受付嬢、テオドールとニコレットに、お子様何か言ってますがみたいな視線を向ける。

 それより10歳以下はランク外ってどういう意味。普通にハンターとしての仕事を請けられないという事なの。そんな事になったら、テオドールやニコレットがお出掛けしても私はお留守番になっちゃうじゃない。

 あ、10歳よ。私は10歳という事にしておきましょう。


 「私は10歳です。先日誕生日を迎えたばかりよ。

 テオ、ニコ、あなた達も私のお誕生パーティーにいたから分かってるでしょっ!!」

 「ええっ」


 テオが驚きの声を上げたけどそれ以上は何も言わなかった。語尾をかなり強くしたから、余分な事を言わずに黙っていなさいとの思いが伝わったようね。


 「そ、そうですか・・・・・ 10歳にしては少し小さいようですけど、成長の度合いは人それぞれですからね。それではこちらの紙に必要事項を記入してください。文字の読み書きができなかったら、私が代筆しますよ。」

 「それは大丈夫です。」


 そうか、この世界では識字率が低いんだ。子供が学校へ行くのがあたりまえの世界じゃなかった。私も学校へ行ってたわけではないけど、テオドールやニコレットがずっと専属家庭教師として教えてくれてたし、それ以外には本も読みあさった。人並み以上の知識はあると思う。

 でも、裕福な家庭ならいざ知らず、この世界の平均的な平民達は、学問に費やす暇もお金もないのでしょね。勉強する暇があったら働けと言われて子供達は育っているんじゃないのかな。

 それを考えたら私は恵まれていたんだわ。誰にも会う事もなく、塔に幽閉されてたけど。


 ニコレットが気を利かせて椅子を持ってきてくれた。これに座って書きなさいという事ね。って、座っても受付カウンター高すぎて書けないわよっ。そ、そうか、椅子の上に立てという事ね。椅子の上に立ち上がってようやく書類に目を通す。

 サラサラと書き始めた私を見て受付の女性が驚いた目をしてたけど、私が文字を理解していると思ってなかったのかしら。

 え~っと名前と年齢性別は何の問題もないわね。ヴィヴィ、女、10歳、と。職業? 何、職業って。これからハンターになるんだからハンターって書いとけばいいのよね。え~と、パーティー・・・・・ 先日10歳のお誕生パーティーを済ませました、と書いておけばいいのかしら。テオドールやニコレットはお誕生パーティーなんかやってないわよね。何を書くのかな。

 テオドールもニコレットも職業欄で悩んでた。


 「そこは、これからハンターになるんだからハンターって書くんじゃないの?」

 「あ、ちょっと待って、違います。」


 聞き咎めた受付嬢があわてて私達の書いている紙を覗き込む。


 「この職業欄は、例えばテオさんとニコさんは剣を携えていますから、『剣士』と書いてください。剣は扱えますよね。

 え~っと、ヴィヴィさんですか。ヴィヴィさんは剣士は無理でしょうから、何か特殊技能とかはありますか?」


 受付のお姉さんが紙に書き込んだ名前を見て呼びかけてくれた。っていうよりも特殊技能って何よ。剣士が無理そうって・・・・・  この小さい体じゃ無理そうに見えるわね。


 「ヴィヴィは魔法が使えます。それが特殊技能になるでしょう。」

 「ええーっ、ヴィヴィさん魔法使いなんですかっ。凄いじゃないですか。」

 「魔法使いってそんなに凄い事なんですか。」

 「生活魔法ぐらいならある程度使える人はいますが、攻撃や治癒を実戦レベルで使える魔法使いはかなり稀少ですよ。ヴィヴィさんはどの程度使えそうですか。」


 魔法使いがそんな稀少な存在なら、あまり正直に言わない方がいいのかしら。


 「ちょっと風を起こして攻撃の補助ができるぐらいです。」

 「攻撃の補助ですか。立派な特殊技能ですよ。じゃあ、職業欄は『魔法使い』と書いてください。次はパーティーですね。常に行動を共にするグループがパーティーメンバーになります。そのパーティーネームを記入して、パーティーリーダーは、テオさんを書いてください。」

 「待ってくれ、リーダーはヴィヴィではいけないのか。」

 「ええっ? リーダーはパーティーのまとめ役ですよ。こんな小さな子には務まらないでしょう。」

 「いや、ヴィヴィなら大丈夫。」

 「そんな事はどうでもいいのよっ。パーティーネームよ。これが一番重要だわ。どんな名前にするのよ。テオ、ニコ、何かかっこいい名前を考えて。」

 「それなら、ヴィヴィさんにちなんで『黄金の瞳』なんてどうですか。」


 私達三人が、ばっと受付嬢に目をやった。私なんかいい事いった、的な得意げな表情のお姉さん。


 「悪くはないが、少し我々だけで検討させてもらおう。」


 窓口から移動して離れた場所のテーブル席に着く。


 「ヴィヴィ、まずいです。金の瞳を認識されました。」

 「そんなのしょうがないでしょう。人と話をするときは相手の目を見て話しましょうって教えてくれたのはニコレットでしょう。目を伏せて会話するなんてできないわよ。」

 「そ、それはそうですけど・・・・・」

 「今更しょうがないでしょう。後で眼鏡を買いに行きます。多少はごまかしが利くかもしれない。」

 「眼鏡ですって、そんな物があるのっ。もっと早く言ってよ。」

 「あまり普及はしていませんが、道具屋へ行けば置いてあるでしょう。」

 「そうなのね。じゃあ、眼鏡の件は後で考えましょう。今はパーティーネームよ。変な名前を付けて後々後悔する事が無いように、何か考えてちょうだい。」

 「待って下さい、ヴィヴィ。命名を我々に投げられても困ります。」


 そんな事いったって私にだってネーミングセンスなんか無いのよっ。

 あ、そうだわ。パクっちゃえばいいのよっ。え~と、戦国武将が何かかっこいい事言ってたわ。イタチ マサムネだったかしら。たしか火山は風鈴で涼もうとか・・・・・ 火山風鈴・・・・?

 『風鈴火山』よっ!! 熱い火山は風鈴で涼しく過ごしましょうとかいう言葉じゃなかったっけ。意味はかっこよくはないけど、語呂がいいわ。この世界の人が意味が分からなくても問題はないしね。これに決定よ。


 「『風鈴火山』はどうかしら。格好良くない?」

 「いい感じですが、意味がわかりません。」

 「カッコよさげな感じで決めただけだから、意味を求めないで。」

 「ヴィヴィがよろしいのでしたら、私達は反対は致しません。」

 「じゃあ、パーティーネームは『風鈴火山』に決定ね。パーティーリーダーは私でいいの?」

 「はい、私も異存はございません。」

 「じゃあ、それも記入して、と、最後にこの特記事項? 何なのかしら。これは聞いた方がいいわね。」


 受付を振り返ればいつの間にやら人口密度が上がってる。窓口に並ぶ人やその手前でたむろしている人達が・・・・・  そうか、一仕事終えて帰ってくる人達で賑やかくなってきてるのね。私達もあれに並ばなきゃいけないのか。

 と、思ってたら、さっきの応対してくれてたお姉さんが奧から出てきてくれた。


 「記入が終わりましたか。」

 「ほとんど書き込んだんですけど、この特記事項って何ですか。」

 「特にハンターとしての能力が高いと思われた場合に、その能力を書いて下さい。それに対して試験を行って合格すれば、一つ上のランクで登録できます。」

 「どんなランクがあるんですか?」

 「ランクはA、B、C、D、E。Aの上にSがありますが、Sに到達できる人はほとんどいません。Eの下が10歳以下のランク外登録になります。10歳以上ならEランクから始めるんですが、狼を5頭も狩ってこれるならランクアップ審査を受ける事をお勧めしますね。」

 「ランクなんてそんなに重要なのかしら。」

 「我々は旅をしながら、時折獲物を狩る程度の事しかするつもりもありませんからね、ランクにこだわる事もないでしょう。」


 テオドールもニコレットもランクアップには乗り気じゃないみたいだし、審査は受けなくてもいいかな。


 「ランクによって請けられる依頼のグレードが変わります。Eランクだと狩ってくる魔物もスライムや角兎に限定されますね。パーティーを組んでゴブリン討伐ぐらいでしょうか。旅をされているなら商隊の護衛依頼の受注がお勧めですけど、護衛はDランク以上でなければ受けられません。」


 ええっ、そんな仕事もあるの? 商隊の護衛でくっついて行くだけで依頼料がもらえるだなんて最高じゃない。是非Dランクに上げるべきだわ。


 「審査受けますっ。テオもニコも受けるでしょ。」


 そうよ、スライム狩りなんてしたくないわよ。せっかくハンターになるんだしハンターらしい仕事をしたいわよね。


 「でしたら、準備もありますので明朝お越し下さい。この後は受付も混み合ってしまいますから狼の査定額もその時に用意しておきます。よろしいですか。」

 「ああ、それでかまわない。それと宿を紹介してほしいのだが近くにあるだろうか。」

 「隣がルクエール支部直営の宿です。まだ今なら部屋も空いてると思いますよ。もし空いていなかったら、この前の道を町の中心に向かって進んで頂ければ、道沿いに何軒か宿屋があります。」


 今日はベッドで休めそうね。何日ぶりかしら。

 明日はランクアップ審査か。ゆっくり休んで頑張りましょう。

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