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66.傍聴

 テオは朝早くにガエル村に向けて旅立っていった。私の事はニコに『くれぐれもよろしく頼む。』と伝えてたけど、心配しすぎよ。侯爵様のところでお世話になっている以上、心配はいらない、なんてテオ自身が言ってたのに、子離れできない父親みたいよ。

 さっさとガエル村の様子を見に行きなさい、って追いだしてやったわ。


 ガエル村の件はテオ一人に任せても問題は無いでしょうね。

 そしたら私達は裁判の傍聴よ。ニコとソフィと私、連れ立って向かう先は昨日の兵士の宿舎。その中にある会議室を法廷に使うって言ってた。

 親切な兵士さんの案内で迷うことなく会議室へ。後は侯爵様の到着を待つだけね。


 「ねえ、ヴィヴィ。私がこんな裁判をするなんて場所に、ホントにいてもいいのかな。」


 昨日からずっと心配し続けているソフィ。


 「私達は誘拐未遂の被害者なんだって。侯爵様がソフィと一緒に立ち会えって言うんだから断れないでしょ。」

 「ソフィが裁かれるわけじゃないんだから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。もし意見を求められてもヴィヴィが対応するわ。」


 ニ、ニコさん・・・・・ まさかの丸投げ?


 「私に丸投げしなくても、ニコが対応してくれてもいいと思うわ。」

 「大丈夫よ、被告達は罪を認めているんでしょう。認否はとばして、罪状と刑罰を読み上げて執行されると思う。」

 「そんな簡単に刑を執行しちゃっていいの?」

 「平民が裁かれる時はそんなものよ。だからヴィヴィもソフィも被告の側に立たないように気をつけて。」


 それはそれで怖い事になるけど、冤罪だった場合はどうするのよ。犯罪を犯してもいないのに『こいつが犯人だっ』と叫ぶ貴族がいたら、簡単に犯罪者に仕立てられちゃうわ。

 そんな悪党貴族ばかりが蔓延る世の中でない事を祈りましょう。


 侯爵様を先頭に数人が会議室に入ってきて、一番の上座に陣取った。

 あれ? 侯爵様は真ん中じゃ無いんだ。中央に座ったのは兵隊さんではなく、騎士かな?


 次は手枷をはめられた16人が兵隊さんに連れられて入ってきた。

 上座の席から少し間を開けて、対峙して座らせられる。その後ろには私達が座る傍聴席。席がたくさん空いてるけど、騎士や兵士がゾロゾロと入ってきて全席が埋まる。座りきれなくて立ち見の人達もいた。


 「私がクレマンソー侯爵家騎士団長を務めるファブリス・フォンブリューヌだ。本日の進行を務める。全員、静粛にっ!!」


 この場では侯爵様の次に偉い人?なのかしら。騎士団長の一喝でその場が静寂に包まれる。

 シンと静かになったのを確認し、侯爵様に問いかける。


 「アリステイド様、進めてもよろしいでしょうか。」

 「ああ、頼む。」


 侯爵様のOKが出たみたいで、16人の被告人達の名前が読み上げられる。

 その後に罪状を読み上げられる。


 「商隊の護衛達を威嚇して2人の子供を誘拐しようとした。これに間違いは無いか。一人ずつ返事をしろ。」


 一人ずつの裁判じゃ無くて、全員一緒くたですか。大雑把すぎなんじゃ・・・


 「はい、間違いございません。」


 16人全員が順番で同じ言葉を答えた。これなら一緒くたでもいいのかな?


 「子供の誘拐、未遂に終わっているが、未遂ではあってもそれが犯罪である事は納得しているか。」

 「あの・・・・・ 騎士団長様、全員の意見は昨日のうちにまとめてあります。私が代表して答えてもよろしいでしょうか。」

 「そうか、では代表者1名の返事でよろしい。」

 「ありがとうございます。我々全員、それが犯罪である事を納得しております。」

 「今日の判決で刑罰が犯罪奴隷になる事も納得できるか。」

 「はい、納得しております。」


 「アリステイド様、意義は出ないようです。判決を言い渡してもよろしいでしょうか。」


 騎士団長の問いかけに無言で頷く侯爵様。


 「被告人の罪状は、二人の子供の誘拐未遂。それに対しての刑罰を言い渡す。捕縛された後の反省した姿勢なども考慮に入れ、犯罪奴隷として2年間クレマンソー侯爵家での兵役に就くものとする。犯罪奴隷の期間内は無給であるが、衣食住、ケガ病気の治療費はクレマンソー侯爵家がもつものとする。犯罪奴隷の期間が終わった後、クレマンソー侯爵家の兵士として勤める事を希望する場合、その時点から給金が支払われるものとする。」



 「すごいじゃない。刑期を終えた後の面倒まで見てくれるなんて。改心しているせいなのか、犯罪者に対して至れり尽くせりね。」

 「ヴィヴィ、そうとばかりは言えないわ。彼らは兵役に就くのよ。最前線で使い捨てにされたら、命がいくつあっても足りないわ。」

 「最前線って、どこかで戦が起きてるの?」

 「『魔の森』・・・ 魔物相手の最前線よ。」

 「それって、ハンターが戦ってるんじゃないのっ。」

 「王国の騎士や兵士、領地持ちの貴族の私兵も徴兵されてるらしいわ。」


 『魔の森』ってそんなに大がかりに攻め込んでるのっ。ハンターの生活費稼ぎのために魔物を狩りに行く程度だと思ってたのにっ。


 「いったい、何のためにそこまで『魔の森』に・・・・・」


 私とニコの会話を聞いていた騎士さんが教えてくれた。


 「あそこは樹木の生育が早くて、放置すると森の拡がり方が尋常じゃない。森が拡がれば森の魔物達が人の生活圏に近づき易くなる。だから森の木を伐りながら魔物を狩る事が必要になってくるんだ。」

 「森を焼き払う事はできないんですか。」

 「過去には焼き払おうとした王様がいたらしいが、森の奥から強大な魔物が次々と現れ、人が放つ炎など水を纏う魔物に消し去られ、軍隊は崩壊する憂き目にあった、と伝えられている。いや、でもな、そんなもの大昔の伝承だし、信憑性に欠けるっていうの? 俺たちからしたらさっさと焼き払っちまえ、ってのが本音なんだけどな。」

 「おいっ、軽く考えるんじゃない。それは伝承で済む話じゃないぞ。それが史実だと記されている書物もあるんだ。軽々しく、焼き払えなどと言うんじゃない。

 嬢ちゃん達もコイツの言う事を真に受けて、焼き払おうなんて考えない事だ。」


 明らかに熟練の騎士さんに注意されて、小さな声で『スンマセン』と謝る若い騎士さん。


 「でも、そんなところへ犯罪奴隷の皆さんが投入されたら、誰も生き残れないんじゃないですか。」

 「なんの訓練も無しには前線に投入はしないさ。戦闘訓練を終えてからだ。」


 そんな会話をしている間に、犯罪奴隷達が首に黒い輪を付けられて手枷を外されていた。何なの、あの黒い輪っか・・・・・ 逃げようとしたり反抗的な態度をとれば首をちょん切る装置とか?


 「あの首の輪って何ですか?」

 「アレは犯罪奴隷の印だ。逃げてもあれが首に付いているだけですぐ捕まる。輪にはどこの所属の犯罪奴隷か記されているから、すぐに送り返されるんだ。」

 「逃げ出してどこかに潜伏されたら見つけられないですよね。」

 「アレって魔道具になってて、どういう仕組みかは知らないが、逃げるとデカい音が鳴り響いて場所を教えてくれるんだ。自分の首元で巨大な音が鳴り響いてたら、逃げようという気も失せるだろう。」


 音で知らせるって事は、首がポロリと落ちるような非人道的な魔道具ではないって事ね。

 彼らには極力生き延びて刑期を終えてほしいものだわ。



 騎士団長による『閉廷』が宣言され、皆がゾロゾロと会議室から退出していく。その人の流れに乗って私達も一緒に退廷。

 いつまでもその場に残って、聖女様呼ばわりされるのも御免被りたいわ。さっさとその場を逃げ出すべきね。


 本邸の貸し与えられた客室に戻って来たら・・・ お嬢様が、扉の前に待ち構えているとか。何をしてるんですか、このお嬢様はっ。


 「ようやく戻って来ましたわね。裁判をするとか、そこにヴィヴィ達が列席するとか、聞いていませんでしたわっ。」


 お付きの侍女さんがお嬢様を諭す。


 「犯罪者を裁くのを見せるのはまだ早い、とアリステイド様のご意向です。」

 「ヴィヴィだってわたくしと同じでしょっ。」

 「いえ、ヴィヴィさんは誘拐される側、被害者です。列席する権利はあります。」


 やり込められて、うぬぬぬ~と侍女さんを睨みつけてるけど、こんな廊下で言い合いされても困るわ。


 「ここでは人目もあります。お部屋へ入りますか?」

 「そうね、わたくしはヴィヴィ達のお話も伺いたいし。

 ロメーヌはお茶の用意をしていただけるかしら。」


 侍女さん、ロメーヌさんでしたか。侯爵領からお嬢様のお供についてきた侍女さんだったわね。もう一人いたと思ったけど、え~と・・・・・シルヴィさんだ。お嬢様のわがままで侍女さん達も大変そうだわ。


 「もうお昼になります。お茶よりも昼食のご用意をいたしましょうか。」


 お嬢様の顔がぱっと笑顔になって私を振り向いた。


 「ヴィヴィ、昼食を一緒にいただきましょう。こちらに運ばせますわ。」


 お嬢様のこの押しの強さ、拒否権はなさそうだわ。

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