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65.ボウチョー・・・ って?

 水魔法での【治癒】を侯爵様にお披露目した後は、お嬢様への魔法伝授の契約書類を交わす。魔法を覚えられなくても家庭教師のお金はもらえるし、覚えられたら特別ボーナスが入ってくる。お嬢様には何が何でも覚えてもらいましょう。

 Cランクへの推薦状も依頼達成報酬として記入をお願いしたわ。

 侯爵様と私の契約書以外にも、ギルド提出用の書類を別の文書で作成される。

 ギルドへの指名依頼書類は、水魔法の【治癒】を秘匿するために家庭教師とだけ記され、魔法伝授や魔法名は記されなかった。


 「この書類は、明日セレスタンにギルドまで提出に行かせよう。『風鈴火山』は同行せずとも委任状にサインをすれば、セレスタンが全て手続きを済ませてくる。」

 「かしこまりました。ギルドの書類手続きはセレスタン様にお願いいたします。では、明朝こちらのお屋敷までお伺いいたします。」

 「それには及ばぬ。レオンティーヌが学園に上がるまでの間、客間を使ってくれて構わぬ。」

 「ええっ、いいんですか・・・ でも、ずっとここに閉じ込められるとか?」

 「行動を制限するつもりはない。好きなように出掛けてもらって構わん。」

 「ありがとうございます。」


 宿泊費が浮いちゃったわ。基本的には私一人がお嬢様の魔法の面倒をみてあげるだけで、パーティー全員がここに泊まれちゃうだなんてとってもお得じゃない? しかも好きなときにお出かけ自由なのよ。


 「ヴィヴィ、私はガエル村に向かいます。」


 テオの突然の申し出、何を勝手に決めてるの。私達は侯爵様の依頼を請けるのよ。


 「お嬢様の家庭教師の依頼が優先よ。ガエル村へは依頼が一区切り付いた頃合いでいいんじゃないかしら。」

 「その依頼は私がここにいる必要性が感じられません。そしてヴィヴィがここにいる間は私がいなくても安全が保たれるでしょう。その間にガエル村のクリストフ殿を訪ねて参ります。」

 「おぬし達はガエル村のゆかりの者であったか。あの開拓村は土地が痩せて作物もあまり育たぬと聞いている。代官も村を引き上げて放置状態だ。そんな村に何用なのだ。」

 「ヴィヴィと共にガエル村の教会に身を寄せるつもりでおりましたが、教団からの影響を強く受けているようでしたらヴィヴィを同行させるのは危険と考えました。ですから私一人で様子をうかがって参ります。」

 「教会だと? あの村に教会とは初耳だな。」

 「古くからある教会ではございません。できたのは5年ほど前ぐらいでしょうか。」

 「しかし教会に身を寄せるなどとは、そんな事が教団に伝わればすぐにでも暗部の者達が来るぞ。今度は旅の途中で捕縛した輩よりも遙かに腕の立つ者達が派遣されてくるだろう。」


 そうよ、捕縛されたあの人たちはどうなったのかしら。まさか処刑されたりしてないでしょうね。


 「捕縛された人達はどうなったんですか。」


 侯爵様の視線が一瞬チラリとお嬢様に向き、その場の面々を睨みつけるように視線が流れる。返事に間が空きながら告げられた言葉。


 「その件については、人払いをした上でヴィヴィと話したい。」

 「お待ちください。人払いとは私共も、でございますか。」


 慌てたテオが侯爵様に問う。


 「もちろんだ。私とヴィヴィ、二人だけだ。」

 「お爺さま、わたくしは同席できるのでしょうね。」

 「二人だけだと言っておるだろう。レオンティーヌも控えなさい。」


 「しかし、私はヴィヴィの護衛として」

 「ここでは安全だって言ったのはテオでしょう。護衛の必要はないわ。」


 テオまで食い下がろうとしてきたのは私が止めなきゃ。侯爵様がご機嫌を損ねる前にね。


 「ふむ、我々が移動しよう。ヴィヴィ、ついてきなさい。」


 侯爵様についていけば、ここは執務室ね。執務室にもソファが置かれていた。

 座るように勧められて、侯爵様と対面に座る。


 「捕らえた者達の件だったな。今はまだ地下牢に幽閉しておる。狂信盲信が解けている訳ではないのだが、教団への忠誠心は薄れておるようだ。」

 「え、それってヴァランティーヌ教は信じているけど教団を信じないという事ですか。」

 「そうだな、教団には戻らず聖女様のためにこの身を捧げたい、と言い始めている。何を言っても誘拐を企んだのだから犯罪奴隷落ちなのだがな。」


 犯罪奴隷だなんて・・・・・ 教団にさらわれた子供がかたよった教育を施されて、悪い事だと思わずに命令された事を実行してしまった・・・ それで奴隷落ちはかわいそうだと思うのだけど。


 「その人達は教団にいいように使われただけだと思うんです。刑を軽くしてあげる事はできないでしょうか。」

 「その点は考慮するが、刑期が終わって自由になれば、奴らはヴィヴィの元へ押し寄せるぞ。」

 「ええっ、なんで私のところに・・・」

 「奴らがヴィヴィを聖女だと信じてしまったからな。そんな連中を手元に置けば忠実な部下としても使えそうだ。」

 「それって、宗教で人を縛り付けてる教団と一緒ですよっ。」

 「ふむ、嫌ならヴィヴィが奴らを説得するべきだな。」



 私が狂信者共の説得という事になって地下牢に案内されているんだけど、そもそも狂信者の説得なんてできるものなの?

 考えが凝り固まって他の情報を全く受け付けないから、狂信者盲信者なんて呼ばれるんだから、私みたいな小娘の話なんか聞き入れるわけないわ。


 本邸を出て離れの建物に入る。そこは兵達の宿舎みたい。

 1階の廊下をまっすぐ進んだ最奥の扉の前には、二人の兵士が扉を護るように立っていた。


 「アリステイド様、本日も尋問でございますか。」


 一人が扉の鍵を開けようとガチャガチャさせ、もう一人が問いかけてくる。


 「今日は尋問ではないが、尋問室を使う。いつものリーダー格の男を連れてきてくれ。」

 「はっ、すぐに連れて参ります。」


 それほど待つ事もなく、兵士が手枷をはめた一人の男を尋問室に連れてきた。

 そうそう、こんな顔の人もいたわね。と思っていたら、そのおじさん私を目にするなり床にひれ伏して号泣。


 「あ~~・・・・・ 聖女様、聖女様、私はあなたのしもべです~、何なりと命じてください~。死ね、と申し付かればこの場で首を掻き切って見せましょう~。」


 その男を連れてきた兵士がその場で唖然と立ちすくむ。この反応は誰も予測してなかったみたい? 侯爵様だって、一瞬ポカンとしてしまった様子。

 すぐに我に返った侯爵様、兵士に指示をする。


 「この事は他言無用だ。それとこの男を椅子に座らせろ。」


 兵士が立たせようと動けば、かたくなにひれ伏すおじさん。


 「聖女様と同じテーブルには着けません~。このままにしてください~。」


 言う事聞かないと、叩かれちゃったりするんじゃない? 私もこんな土下座状態の相手とお話なんかしたくないし。

 聖女として崇められちゃってるなら、ここは私が一発ガツンと命令してみれば素直に言う事を聞くかも。


 「椅子に座りなさいっ。」

 「はいっ!!」


 間髪を入れずにがばっと立ち上がり椅子に腰掛ける。あ、でも顔を上げられずに机に伏してる。


 「な、何でもお申し付けください。」

 「私のために何かしたくても、あなたたちは犯罪奴隷になるのよ。」

 「・・・わ、分かりました・・・ それも聖女様のご命令とあれば、犯罪奴隷として一生を終えます。」

 「いや、おまえ達の罪状はそれほど重いものではない。そう悲観するものではなかろう。」

 「ありがとうございます、侯爵様。」

 「でも、侯爵様が勝手に罪状や刑罰を決めてもいいものなんですか。」

 「我がクレマンソー侯爵領での犯罪として処理すれば、私に司法権がある。刑罰も犯罪奴隷として、我が領の兵役に就かせるつもりだ。」


 その罰が重いのか軽いのかは分からないけど、断頭されるような事はなさそうね。

 刑期を終えたら自由になれたりするのかしら。まさか私のところへ来たりしないでしょうね。


 「ありがとうございます。兵士として鍛えてください。刑期があけたら聖女様の元で護衛に付きたいと思います。」

 「いらないわよっ!! あなたたちを食べさせてあげるほど、私は裕福じゃないわよっ。」

 「その先の事は追々考えていくとしよう。今はこの者達の裁判においてヴィヴィの意見を聞きたい。」

 「私が何かを決める権限など無いでしょう。」

 「この者達の罪はヴィヴィとソフィの誘拐未遂だ。被害者側のヴィヴィは意見を言う権利がある。量刑を軽くとか、厳罰にしろ、などの意見だな。」

 「その意見はしたくないです。侯爵様のご所見に沿いますよ。」

 「そうか、では明日この者達の簡易裁判を執り行う。ソフィを連れてヴィヴィも傍聴をしなさい。」


 ぼ、ぼ、ぼ、ボウチョー・・・? って何? あ、あぁ、裁判の傍聴ね。って何で裁判なんかに立ち会わなきゃいけないのよ。


 「嫌か?」


 侯爵様に眼光鋭く睨みつけられたら、断れるわけないでしょうっ。


 「い、いえ、滅相もございません・・・」

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