60.永遠に無い物ねだりなのっ?!
「お食事の用意が整いました。」
「ああ、ありがとう。
皆さん、さあ、こちらへどうぞ。」
ベルトランさんに食堂に案内されれば・・・ フォーク、ナイフ、スプーンだけが席に置かれている。何を食べろって言うのっ。何もないんですけどっ。
給仕? っぽい人達が入ってきてワゴンに乗った皿を配り始めた。
「前菜 オードブルにございます。」
ま、まさか・・・ お上品にいただかなければいけないという、フルコース料理ですか。そんな経験、今までないのに今ここでやらなきゃいけないのっ。
隣のニコがこそっと耳打ちしてきた。
「ヴィヴィ、私を見てまねをして。ソフィにも伝えて。」
え? ニコ? そうよ、テオもニコもライオネット伯爵家の騎士だったんだから、こういったコース料理をいただく機会はあったのよ。どこへも出掛けない私に、教える機会が無かったのね。
横に座るソフィにも私のまねをするように伝えて、ニコの仕草をまねながら食事をする。
「ほう、テオさん、ニコさんはこういった料理は慣れていらっしゃるようですね。」
「ええ、貴族家の夕食に招かれたこともあります。」
テオやニコは分かるわよ。なんでダダン姐さん達までテーブルマナーがちゃんとできてるのよ。
「不思議そうな顔をしてるが、ヴィヴィだってランクが上がっていけば貴族家との関わりも出てくるんだ。テーブルマナーは覚えておいた方がいいぞ。」
「ダダンさんの言うとおりです。特にヴィヴィさんはレオンティーヌ・クレマンソー様に呼ばれているのですよ。今のうちに身に付けていただきたいと、この席を設けました。」
「そうなんですね、ありがとうございます。」
スープ、魚料理、肉料理、デザート、コーヒーと出されて・・・メンドくさい。食べたいときに食べたいものを口に放り込めれる日本の食卓が、私には合ってるわ。
食後のお茶の時間になって、扉が開き一人の男性が入ってきた。うん、ベルトランさんそっくりだ。息子決定ね。
「皆さん、店を任せているジェレミーです。
ジェレミー、こちらはハンターパーティー『魂の絆』さんと『風鈴火山』さんです。」
「ジェレミーです。商隊の護衛をありがとうございます。今回も無事に父が帰ってきて、家族がほっと胸をなで下ろしている次第ですよ。」
「『魂の絆』のリーダー、ジャックです。それと、アルバン、ダダンです。」
あ、そうなのね。リーダーが名乗ってメンバーを紹介するのね。
「『風鈴火山』のリーダーのヴィヴィです。我がパーティーは4人、テオ、ニコ、ソフィです。」
え? という疑問の顔がベルトランさんに向けられるけど、にっこり笑顔のベルトランさん。
「驚くのも無理はありません。手紙に書いたヴィヴィさんです。小さな女の子ですが、ハンターとして素晴らしい能力を持っています。ジェレミーもハンターギルドへ何か依頼することがあったら『風鈴火山』さんに指名してみるといいですよ。」
「子供がリーダーとか、え? 女の子・・・ ですか。父さん、冗談では・・・」
「女の子ですっ!!」
そう、ここ大事よ。女の子アピールしとかなきゃ、この後もずーっと男の子扱いされかねないし。
「それは、申し訳ない。ヴィヴィさん、商売で多くの人を見てきたつもりですが、これは驚きですね。私の予想が完全に裏切られましたよ。いりことか、コンブとか、あれほどの調理法を知っているのだから、元貴族家の調理人だと思ってたんですが。」
「なんで調理法を知ってるんですか。まだ届いてないですよね。」
「調理法は父からの手紙に記されていましたし、いりこもコンブもルクエールから少量を早駆けの馬で送らせましたよ。番頭の馬車が戻ってくるのはまだまだ先になりそうですが。」
おっとりしているようで、商売に対する動きが速すぎるわ。これが商売人って人達なの。敵にしないように気をつけなきゃ。
「皆さんは今後、王都を拠点にされるのですか。」
「いえ、俺たちは魔の森でAランクを目指します。」
「ほう、それなら指名依頼の情報も届きますね。『風鈴火山』さんも魔の森ですか。」
「魔の森は行きませんけど、王都内での雑事があるんです。」
「ヴィヴィさん、クレマンソー侯爵邸に伺うのを雑事で片付けるのはいけませんよ。」
「それだけじゃないんですよ。王都のハンターギルドへ手紙を届けなきゃいけないですよ。」
「手紙ですか、それはどちらのギルドでしょう。」
「え? 王都のハンターギルドってたくさんあるんですかっ。」
「東が古くからあるハンターギルドですね。数年前に西の街門の近くに新設されました。どちらか聞いておりますか。」
ルクエールのギルドマスターはそんなこと言ってなかったわよ。両方行って確かめなきゃいけないの。あ、最近できたハンターギルドの情報がルクエールに届いていなかったのよ。
「多分・・・ 東? かな?」
テオが助け船を出してくれた。
「ギルドマスターがエルフの若い娘だと聞いている。」
「ああ、それなら東で間違いありませんね。」
そうよっ。エルフって言ってたわ。どんな人なのかしら。早く会ってみたいわ。
「ただ、気をつけてくださいね。小さな娘だと侮って、他所から来たハンターが何人も叩きのめされているそうですからね。」
「まさか、小さくても俺たちは侮ったりは、絶対しませんよ。」
ジャックさんが私を見ながら言ってるんですけどっ。私は他のハンターを叩きのめしたりしませんよっ。
あ・・・ 教国の追っ手を【巨大ゲンコツ】で殴り飛ばしたわね。でも、アレはハンターじゃないのよ。セーフよ、セーフ。
『魂の絆』の視線がっ、アウトだろ、って突き刺さる。やめてっ、私はそんな乱暴な子じゃないの。もっと優しい視線を向けてっ。
「なんだ、ヴィヴィと気が合いそうじゃないか。」
まさかのダダン姐さんの一言、
「どういう意味なのっ!!」
「あ、いや、悪い奴らはぶん殴るとか。」
「殴ってないわよっ!!」
ジェレミーさんが引いてる、ところをベルトランさんが、
「今の話は違うんですよ。こちらのヴィヴィさんとソフィさんを出せと騒いだ人達を、返り討ちにした話なんですけど、見事に叩きのめしていましたね。」
ダダン姐さん達3人がウンウンと頷いてる。
「ベルトランさんもっ、アレは違うのよっ。私とソフィを連れ去るだなんて言う奴らを・・・・・ そう、叩きのめしたんじゃなくて、魔法で成敗したのよっ。」
「ま、まあ、東のギルドマスターとは気が合いそうですね。」
ジェレミーさんに大きな誤解を植え付けてしまったわ。もう、絶対にエルフのギルドマスターなんか仲良くしないわっ。
その後は、宿へご案内いたします、とお店の従業員風の男性に案内されて行った先は、なんだかずいぶんと高級そうな宿みたい。さすが王都、こんな高級な宿がいっぱいあるのね。でも、ずいぶんとお高そう。
宿に入った目の前にフロントとでも呼べばいいのかしら、カウンターが設置されていて、カウンターの奥にいた人が、いらっしゃいませ、と挨拶をしてきた。
「ブランシュ商会様のお客様ですね。本日は当宿にてごゆっくりと旅の疲れを癒やしてください。お部屋へご案内いたします。お荷物はいかがいたしましょう。」
「あ、結構です。」
私が答えちゃったけど、そんなに大量の荷物を持ってる訳じゃないし、自分で持ち歩いても問題ないでしょ。
部屋に案内されて、4人部屋を2室だったから、当然女の子チームとおっさんずに分かれるわよね。
これだけの高級宿だし、当然お風呂もあるわ。何日ぶりのお風呂なのっ。ここ何日か桶にお湯張って濡らした布で体を拭く程度の事しかできなかったのよ。久しぶりよ。久しぶりのお風呂が堪能できる。
女の子チーム4人でお風呂に向かい、久々に綺麗に体を洗い、湯船にドッボ~ン、ふわ~ 溶ける~
ダダン姐さんのボヨヨンボヨヨンがすごい迫力ア~ンド存在感。それを見つめながら、いつかボヨヨンボヨヨンになるのよ、と密かに誓う私は、永遠に無い物ねだりなのっ?!




