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6.狼の襲撃

 寝る前に思う事は、あの夢よもう一度。お父さんお母さんに会いたい、咲姫ちゃんの髪を編んであげたい、あの幸せな時間を味わいたい。たとえ最後に死の苦しみがあっても。

 どれだけそれを恋い焦がれてもかなわない夢。

 ふっと目を覚ませば、設営したテントの中で毛布にくるまってる自分がいた。


 もうあの夢は見られないのかな。


 家族に、過去に縛られずに前を向いて進めって言われたような・・・・・気がする?


 うん、家族の思い出は胸にしまって、前を向いて生きよう。


 私は私のやるべき事をするよ・・・・・・・・?


 何をやるんだったっけ? 女神様が何か言ってたけど・・・・・ ああ、そうか、時空間の亀裂を塞げとか?

 でも、そんなものそうそう私の廻りに起こるわけないでしょ。遙か遠くで起きた事まで私が関わらなきゃいけない道理はないしね。

 あれ? 私が引き寄せるとか言ってなかったっけ。

 いやだぁ――っ!! あんなのが私の廻りで頻繁に起こるとかあり得ないでしょうっ。

 で、でもっ、塞ぐ力を使う機会があるかどうかも分からないのよね。そんな機会が来ないことを祈るしかないわ。このまま平穏な日々を過ごして天寿を全うするのよ。って、こんなとこでテントで寝てるってどこが平穏なのよっ。

 でもまあ、魔法に目覚めて自分の身を守るくらいはできそうだし、長生きはできそうかな。素敵な男性と知り合って幸せな家庭を育むのよ。娘が産まれたら咲姫ちゃんみたいに可愛がってあげるわ。


 「ヴィヴィ、朝食の用意ができました。」


 ニコに呼ばれて幸せな妄想タイムが終わってしまった。まあ、いつまでも妄想に耽っているわけにもいかないし、気持ちを入れ替えてこの先の旅の事を考えましょう。



 テオの説明では、東に向かえばヴァランティーヌ教国の首都がある。そこを越えてまだ東に向かえばブルダリアス王国の王都ヘの近道なんだけど、ヴァランティーヌ教国の首都で私の容姿を見せたくないってテオは言ってた。金の瞳と銀の髪は人目を引くらしい。

 で、首都へ向かうわけではなかったけど、髪の毛を隠すようにニット帽みたいなのをかぶせられてた。腰まで伸びた髪をひとまとめにして帽子の中に詰め込んでいる。

 もし、人と会うときは伏し目がちにして下さい、とも言われてるし。

 これからの私の一生って、お天道様に顔向けできない日陰者生活なのね。


 川沿いに南へ南へと進む。途中の農村で馬車を手に入れようとしたんだけど、こんな田舎の農村に馬車などあるはずもなかった。

 農作物を運ぶような荷車があったから、村長さんに頼み込んで一台の荷車と馬の飼い葉を買い取って村を後にする。

 ようやく徒歩の旅は終わった。ニコが騎乗する馬に牽かれた荷車の荷物と飼い葉の上で私が仰向けに寝転がって、空を仰ぎ見る。


 女神様は何て言ってたんだっけ。始祖様とか眷属とか・・・・・ 神様が他にもいっぱい存在するって事なのかな。でもヴァランティーヌ教国ではヴァランティーヌ様のみの一神教だし。女神様は『わたくしには名はありません』って言ってたから、ヴァランティーヌ様とは違う神様なのか、それともヴァランティーヌ教国の創始者が勝手に名付けたのか。

 多分、人間達が勝手に名付けたんでしょうね。名無しの神様だと声に出して呼びにくいしね。だけどそうなると他にも眷属が名無しで存在してたらどう呼べばいいの。

 眷属A様、眷属B様とか? いやいや、無い無い。そんな呼び方したらバチあたるでしょ。

 まぁ、女神様と邂逅しただけでもあり得ない事だと思うから、他の眷属様なんて会う訳がないよね。


 でもホントはヴァランティーヌ大神殿の北にある『神の門』には行ってみたかったな。

 教国では、『神の門』はヴァランティーヌ様のお住まいであると教えてる。その『神の門』の廻りを囲ってヴァランティーヌ大神殿の建設を始めたら、ヴァランティーヌ様の怒りを買い一夜にして崩壊したとされてる。

 そのおかげで『神の門』から南へ離れた所、これだけ離れていれば大丈夫、だと思われた場所にヴァランティーヌ大神殿を建設した。

 信者達はまずヴァランティーヌ大神殿から『神の門』にお祈りを捧げ、おそばへ赴く事の許しを請い、歩いて向かいお祈りを捧げ歩いて帰ってくる。

 その行程が大人の足で丸一日かかる。それが年がら年中他国からの巡礼が来てるし、教国の首都は信者達の巡礼の旅人が落とす金でウハウハだって噂だし、教団自体は信者の寄付がガッポガッポ。

 何か商売を考えるよりも、宗教で一発あてれば将来安泰ね。

 って、私が人に説教垂れたりとか、絶対無理っ!! うん、教祖なんかできませんっ!!


 いや、宗教とか教祖とかじゃなく、『神の門』へ行きたい。そこに行けばもう一度女神様に会えるかもしれない。そうしたら時空を歪めた眷属様にも合わせてくれるかも。なんでそんな事をしたのかも聞きたいし。

 いつか『神の門』へ行ってみよう。


 「ニコ、ヴィヴィとここで待て。」


 テオが馬を駆って走り去る。私は飼い葉の上から飛び起きてニコに聞く。


 「ニコ、何が起きたの?」

 「前方の馬車に横から狼の群れが近づいていますっ。」


 目の前にニコの乗る馬がいて馬車は見えないけど、5頭の狼が左側から街道に向かって走ってきている。


 「テオは大丈夫なの。5頭もいるわよ。」

 「私がいければ大丈夫ですが、一人では厳しいかもしれません。」

 「何言ってるのっ!! だったら早く進んでっ!!」

 「お嬢様を危険にさらすわけには、」

 「自分の身は自分で守れるわよっ!! さっさとと行きなさいっ!!」


 鞭でパーンと馬のお尻を叩いてやったら一気に走り出す。ついでに風魔法で後ろから前に向けての強風、速度がさらに増す。

 狼はこっちに気が付いたみたい。三頭が先を走るテオに向かってきた。

 距離が縮んだおかげで魔法が届きそう。この三頭の足元から土を隆起させ槍状にする。狼は避けきれず、走ってきた勢いのまま土の槍に突っ込み串刺しになった。

 先行してたテオが凄い形相で振り返ったけど、まだ二頭残ってるのよ。そっちに集中しなさいよ。


 テオが狼とすれ違いざま一頭を切り伏せる。もう一頭は怒りに燃えたのか、テオの馬を追って進行方向を変えた。私達から離れて行っちゃってるし、魔法が届かなくなっちゃうでしょ。

 後ろからの風をテオを追う狼まで届かせる。狼の廻りで回転させてつむじ風を起こす。その風はどんどん強さを増し局地的な竜巻となって狼を舞いあげた。グルグルと回転しながら舞い上がった狼が地面に叩きつけられる。

 絶命はしなかったようで必死に立ち上がろうとする狼を、戻ってきたテオがとどめを刺す。

 うわ~、気持ちのいいもんじゃない。こんな目の前で生き物が切られて死ぬとか、初めての経験だよ。スライム退治は見たけど、あれは生命体認定ができなかったのよね。今目の前で起こってる事は、血飛沫が飛び命の灯が消える様を見せつけられた。

 その前には私の魔法で三頭の狼を殺しちゃってるし・・・・・ 魔法だったからとっさに放ってしまったんだけど、もし剣を突き刺して殺すだなんて事になったら、絶対躊躇してるわ。もし対峙してたらきっと狼に食い殺されてるわね。

 テオが近づいてくる。怒られるんだ。でも怒られるのもしょうがない。私を護らなきゃいけないのに私が危険に向かって飛び込んで行っちゃうんだもん。


 「ニコレット、何故お嬢様を危険にさらしたっ!!」

 「申し訳ございません。」

 「待って、ニコは悪くないの。私が馬を走らせたの。」

 「何故ですかっ。」

 「待って下さいっ、テオドール様、三頭がこちらへ向きを変えました。我々は離れずに対処するべきだったのではないでしょうか。」

 「ぐ、確かにそうだが、我々はお嬢様の安全を最優先させねばならん。

 しかし、お嬢様の魔法に助けられたのも事実です。お嬢様、ありがとうございます。」

 「いえ、テオ、怒られてもおかしくない事をしたわ。私は無謀な事をしたと反省はしてるの。ごめんなさい。」

 「待って下さい。お嬢様は悪くありません。私の判断ミスがありました。申し訳ありません。」


 その間にも襲われそうになった馬車は遙か向こうまで逃げちゃってる。まあ、無事でよかったというのもあるけど、助けてもらったお礼も言わずに逃げちゃうなんて失礼よね。


 「馬車が逃げていったし、私達も行きましょう。」

 「待って下さい。、ヴィヴィ。狼を積んでいきます。次の町で売る事ができます。」

 「売るって、こんな物買い手が付くの?」

 「食用肉や毛皮が必要とされています。ヴィヴィも肉は獣や魔物肉を食べているんですよ。」


 こ、こんな、血をドクドク流してるのを見ると、ちょっと肉は敬遠したくなるわね。目が、睨んでるように見えるのは、私の気のせいよね。

 でも、売れるなら売らなきゃ。旅の路銀だって無限にあるわけじゃないだろうし。最悪働きながら旅を続ける事になるかも?


 荷車の荷物を寄せて獲物を乗せようとするんだけど・・・・・ 2頭が限界だよ。そんなに大きな荷車じゃないし。


 あれ? 馬車が近づいてきた。さっき逃げてった馬車なのかな。


 「いやあ、助かりました。あなた達はハンターなのですね。」

 「いや旅の者だ。」

 「巡礼の旅の方でしたか。いや、それにしてはお強い。それほどのお力をお持ちでしたらハンターとして登録する事をお勧めしますぞ。」


 そうよ、女神様が魔物を狩る職業があるって言ってたじゃない。ハンターよ。私達もハンターになればいいじゃない。テオドールやニコレットはどう考えているのかしら。


 「ああ、それも考えてはいるのだが、次の町にはハンター登録できるようなギルドの支店とか出張所はあるのか。」

 「ございますとも。この先の町ルクエールはブルダリアス王国の辺境ではありますが、なかなかに大きな漁師町です。ハンターギルド、ルクエール支部がございます。ご案内致しますよ。あ、あ、ちょっとお待ちください。その狼を運ぶのに困っておりましたら、私の馬車で運びますよ。行商の帰りですから、荷物を寄せればそのぐらいは積めますよ。」

 「それは助かる。お願いしよう。」


 私も馬車に乗せてくれるって言ってたけど、それはテオが丁重にお断りしてた。

 私はテオの馬に乗せられたんだけど、馬車の方が良かったな。それを察したみたいでテオ曰く『ヴィヴィが馬車に乗れば護衛できません。』って言ってた。


 先行する馬車にニコが後ろに付いて馬を進める。

 行商のおじさんは『めったに獣も魔物も街道までは出てこない』って言ってたけど、テオが周囲を警戒しながら最後尾を進む。馬車の後ろを付いていく程度だから、馬にしてみれば普通に歩くぐらいの速度で、それほど揺れないのが助かる。


 まだ充分に日が高いうちに町が見えてきた。ほのかに潮の香りが漂ってくる。

 海だわっ!! 魚料理っ、鯛やヒラメの・・・・・ お刺身は食べれるのかしら。寄生虫が恐いのはカツオよね。他のお魚でお刺身を試してみましょう。お醤油なんて物は当然無いわよね。でも大丈夫、塩を代用すればなんの問題もないわ。他には焼き魚は外せないわね。煮魚は醤油や味噌が無いからあまり期待はできないかも。


 既に町中を進んでいた私達。商人さんの馬車が止まって商人さんが走り寄ってきた。


 「ここがハンターギルド、ルクエール支部の建物です。テオさん、一緒に受付に行って頂けますかな。」

 「分かった。

 ヴィヴィ、ニコと一緒に外で待っていてください。」


 テオが商人さん連れだって建物の中に消えたけど、程なくもう一人を伴って出てきた。


 「うわ~、本当に5頭だ。こりゃ、裏口から運び込まないと、

 馬車をこっちにお願いします。」


 建物の裏側へ歩いて行く人の後を追って馬車を動かす。裏側に回れば馬車ごと入れるような大きな扉が開かれていた。


 「それでは、私共はこれにて失礼をさせて頂きましょう。」


 商人さんは扉の前で狼をおろして去ってしまった。お店の場所も聞いてあるし、町を離れる前にお礼がてら寄っていくのもありね。

 ニコレットは馬ごと扉の中に入り、狼を降ろしてもらってる。


 「おいおい、小せえ子をこんな血生臭いとこへ連れて来てんじゃね~よ。」


 こわもてのおじさんがテオドールに突っかかってきた。た、たしかに血生臭いわよね。でも大丈夫よ、においだけなら。現物が見えてるわけじゃ無いし・・・・・ 向こうに見えてる~、逆さ吊りの皮を剥いだ肉塊が・・・・・

 うっ、気悪い、吐きそう・・・・・


 「ヴィヴィ、大丈夫ですか。

 すまないが外で待たせてもらう。」

 「待て待て、外へ行かなくても、そっちの扉からギルドの受付に行けるから、受付で待ってろ。馬の面倒は見といてやるよ。」


 ニコレットに抱きかかえられてハンターギルドの事務所に移動して、ようやく血のにおいから解放された。よかった、吐き気は治まったみたい。

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