59.王都よっ!!
王都への最後の一日よっ。商隊の護衛も今日が最後なのね。こんな依頼もまた請けてみたいけど、まずは王都よ。王都を堪能するわ。
私はまだ見ぬ王都に思いを馳せる・・・・・ ダダン姐さんは? ギンギンに目を見開いて周辺を見回す。
鬼気迫るものがあるわ。何が何でも魔物を見つけてやる、みたいな。そんなに【身体能力強化】を使ってみたいのかしら。
そんなダダン姐さんの気持ちは、当然かなうはずもなく、馬車は無難に王都に向かって進む。だって王都に近いせいで、街道上をあまりにも多くの馬車が行き交ってる。馬車だけじゃなく、街道脇を徒歩で歩いてる人達もいたりして。その人達を見ればハンター風の人達ばかりじゃない、ごく普通の一般人も歩いてる。この街道はすごく安全なんじゃないの。これじゃあ魔物は出ないでしょう。と、ダダン姐さんに言ったら意気消沈してしまいそうだわ。黙っておきましょう。
ダダン姐さんの思いをよそに、馬車は安全な街道をひたすら走る。街道も混み合ってきているおかげで、馬車の速度はだいぶ抑えめ。前方には巨大な王都を囲う壁が見えているんだけど、なかなか近づいてくる感じがしないわね。
だけど、こんなにたくさんの馬車が街道を走ってるのよ。王都の街門大混雑なんじゃないの。今日中に王都に入れるのっ。
案の定、王都の街門は長い長蛇の列ができあがっていた。当然そこに並ぶものだと思っていたんだけど、ベルトランさんは王都の南へ回る街道を進む。
「東門はいつも混雑しているですよ。南の街門がすいていて私の店にも近いのでいつもそちらから王都に入るんですよ。」
まだ夕暮れにはほど遠いけど、このデカい都市をグルリと回ってたら夜になっちゃうじゃない。まさか真っ暗な道を馬車で進むんじゃないでしょうね。そんなことしたら馬がケガしちゃうわよ。
「暗くなっちゃうんじゃないですか。」
「早い時間なら王都の壁沿いに進めば、足下が見えるぐらいの明るさはありますよ。あまり暗くなってしまうようでしたら、野営も考えますよ。」
王都を前にして野営ですか~。暗くなったら大きめの【ライトボール】を馬車の上に浮かべますか~。
南に回る道はすいているおかげで馬車の速度が上がってる。このペースで走ってるのなら、わりと早く街門に着きそうな気がしないでもない。
とは思っていても、徐々に日はかたぎあたりは薄暗くなってきた。たしかに灯りがともり始めて街の中は明るくなっているけど、塀の影で外は暗くなっちゃうでしょ。
しょうがないわね、3台の馬車の足下を照らせるぐらいの大型の【ライトボール】発動。
「おお、これはまた明るい【ライトボール】ですね。ヴィヴィさん、ありがとうございます。これなら安全に進めます。」
明るくなったおかげで、馬車はペースを落とすことなく進めるようになったわ。これならお馬さんもケガなく勧めるわね。
「南の街門が見えてきましたよ。もう他の馬車は並んでいないようです。これなら円滑に街門を通れるでしょう。」
街門に向かう馬車、その街門からワラワラと出てくる、門兵? それぞれが槍や剣を構えてる。
「ベルトランさんっ、まずいですよ。止まってくださいっ。」
このままじゃ前の馬車が止まったところに追突しそうよ。慌てて幌馬車の上によじ登り、後ろの馬車にも手を大きく振って注意を促す。私の上空には【ライトボール】が浮かんで照らされてるから、確認できてると思うんだけど。
追突することもなく3台の馬車は無事止まることができた。無事? 武器を構えた兵隊さんが向かってくるのに無事なのかな。
門兵が近づいてくるのが前の馬車越しに見えたようで、ベルトランさんが門兵に向かって走ってく。
ダメでしょう、武器を構えた兵隊さんに向かっていったら、斬捨御免、があるかも。
ベルトランさんが斬られたら護衛任務失敗で報酬がトんでっちゃうわ。
【身体能力強化】発動、幌の上から飛び降りてベルトランさんの前へ回り込んで手を広げて止まるのを促すんだけど、
イヤ―― 止まりきれないベルトランさんが私に迫ってくる。私の顔の高さがベルトランさんの股間の高さなのよっ!!
逃げるわよっ!! こんなの逃げるに決まってるじゃないっ!! でもこのまま走らせたらまずいから、ベルトランさんの後ろからベルトをガッチリと掴む。走る勢いも落ちてたし転ぶこともなく安全に止まってくれたわ。
「おまえ達は何者だっ!! あの灯りは魔物でも連れてきたのかっ!!」
ええ――――っ!! 単なる【ライトボール】なんですけど、どこからどう見たら魔物になるんですか。」
「わたくし共はブランシュ商会の商会長ベルトランと申します。」
「なに、ブランシュ商会? たしかにベルトラン殿だな。してあの灯りは何なのだ。」
「暗くなってきましたので、【ライトボール】で照らしながら馬車を進めておりました。」
「【ライトボール】だって。あんなに大きなライトボールがあるのか。まさか新しい魔道具でも手に入れたとか?」
「まあ、そんなところですね。
ヴィヴィさん、あれを消してください。」
ベルトランさんが私に囁いてきた。【ライトボール】を解除すればあたりは一気に暗くなる。目が慣れさえすれば足元が見えるようにはなると思うけど。
「真っ暗だ何も見えん。誰か松明を持ってこい。」
暗くなったおかげで兵隊さんが慌ててるけど、すぐに目が慣れると思うんだけどね。
すぐに松明を持った兵士が街門から戻ってきた。
「突然真っ暗にしたら困るだろうっ。」
「申し訳ありません。ずいぶんと魔力を使いますので魔力切れを起こしたようです。」
「そうか、それなら仕方が無い。荷の検査と身元確認をする。街門まで馬車を進めてくれ。」
小さな町や村では行われなかった保安検査? とでも呼べばいいのかしら、王都に危険物が運び込まれないように荷物の検査、不審人物を入れないように・・・不審者ってどうやって見極めるのよ。
不審人物の見極めはなかったわ。私達はハンター証の金属タグを提示しただけで済んじゃったし。ただ、私の金属タグを見た門兵さんが、もの言いたげな顔でタグと私を二度見三度見してたけど、何も言わずに通してくれた。
ハンターをあれこれ探らないように、というのは暗黙の了解でもあるのかしら。でも、それはそれで私は助かるんだけど。
問題なく街門を馬車は通過した・・・ 王都よっ!!
街門を通過した後の中心街にまっすぐ進む道。街灯や建物からの灯りが煌々とともり道が照らされ、馬車を進ませるのに何の不安も感じさせない。
「ずっとこんなに明るいんですか。」
「いえ、だんだんと灯火は消されていきますよ。深夜には道の角に灯りが点いているぐらいですかね。」
そ、そうよね。寝るときには灯りを消すわね。
「見えてきました、私のお店です。今日は遅くなってしまいましたから、近くの宿を押さえておきます。食事はうちで提供いたしますよ。」
デカいんですけどっ。お店って規模じゃないんですけどっ。デパートですよ、これ。これだけデカい規模の店に、3台そこそこの馬車で荷物を運び込むなんてショボすぎなんですけどっ。
馬車が巨大店舗の裏口へ回る。そこは馬車ごと中に入れる戸が開けられていて、3台の馬車が中に入ってもまだまだ余裕の倉庫兼馬車置き場だった。
お店の従業員風の人達がワラワラと出てきて、ベルトランさんが馬車の荷物をあれやこれやと指示を出してる。ホントに商会長だったんですねっ。
ベルトランさんに案内された部屋は、事務所? ではなく、その横の応接室に案内されソファに腰掛ける。
すぐさまお茶が用意され、目の前に人数分が並べられた。キビキビ動く従業員さんだけど、超過勤務じゃないんですかっ。
「『風鈴火山』と『魂の絆』の皆さん、今回の護衛依頼を請けていただいて本当に助かりました。ありがとうございました。それで、これが依頼完了伝票、こちらが『風鈴火山』さん、と、こちらが『魂の絆』さん。共にA判定を付けておきました。」
「ありがとうございます。って、A判定って何ですか?」
ダダン姐さんが教えてくれた。
「依頼主がいる場合、ハンターの仕事に対しての評価なんだ。Aは最高の評価だぞ。オオカミの討伐の時だってギルマスがA判定付けてたんだが、覚えてないのか。」
「ええっ、聞いた覚えが無いわ。」
テオに指摘された。
「帰りの馬車で説明されたんだが、あの時ヴィヴィは寝ていたんだ。」
「え? そうだったの。でも、聞いていなくても問題が無いくらいたいしたことじゃないって事ね。」
「いや、そういうわけではないが。」
ダダン姐さんに呆れられた。別にAでもBでもみんなが無事に旅を終えたんだから、いいんじゃない?
「それと、『風鈴火山』さんにはルクエールでの約束の通り馬車を1台差し上げます。」
「ありがとうございます。覚えていてくれたんですね。」
「商人たるもの、約束を反故にしたら商売が成り立ちませんよ。ヴィヴィさん達の荷車は必要ないようでしたら、私が買い取りますよ。」
すかさずテオがお断りをした。
「いや、馬車をいただけるのだから荷車は差し上げます。」
「そうですか。ありがとうございます。ではこちらで有効活用させていただきます。」
扉がノックされ『失礼します。』と女性が入ってきた。手には恭しく白い布がかぶった、お盆ぽいものを掲げて。ベルトランさんの前に置いたら、さっと引っ込んじゃったけど、何を持ってきたのかしら。
「これはヴィヴィさんにです。」
ベルトランさんが上にかぶった布をとれば・・・ き、金貨よっ、何枚っ、何枚あるのっ。っていうか、これって何のお金なのよ。
っ!! まさかっ、ハンターをやめてブランシュ商会に来いとか言うんじゃないでしょうね。
「これは、ルクエールでのいりこ製造、乾燥させた海藻類製造の確立、ムーレヴリエ男爵領でのシイタケ栽培及び干しシイタケ製造の確立、これらに対してのブランシュ商会からのお礼、そして口止め料ですね。」
「お礼は理解できるけど、口止めって何なんですかっ。」
「あちこちで製法や栽培法を広めないでほしいのですよ。いずれは製造法などは広まっていくと思いますが、広まる前に製造から販売までの道筋はブランシュ商会が押さえました。だから他で製造されるのは困るのです。」
「道筋を押さえた、ってベルトランさん、私達と一緒に旅してましたよね。」
「ムーレヴリエ男爵領でのシイタケ栽培の話の後すぐにギルド便で手紙を出しまして、番頭にルクエールに向かわせました。もう漁師達とは契約も済んで第一便はこちらへ向かっている事でしょう。フロランタン様とは私が直に契約を交わしてきましたから、干しシイタケができているようでしたら、その第一便に積んであるでしょう。」
ベルトランさん、手際がよすぎですっ。さすが商人さんです。じゃあ、問題なくこのお金、もらっちゃってよろしいのでしょうか。
「200万ゴルビーを用意させていただきました。金貨がかさばるようでしたら、白金貨にしましょうか。」
え? え? どう答えていいものやら、助けを求めるようにテオ達に目を向ける。
「そうですね、今回は白金貨がいいですね。」
「あ、ではこれをどうぞ。」
ベルトランさんが懐から取り出した革袋。その中から無造作に取り出された白金貨。その白金貨を2枚お盆の上に置き、20枚の金貨が革袋にしまわれた。
白金貨なんて初めて見るから、これが白金貨だ、と言われれば、そうなんですねというしかないわ。
「白金貨は金額が大きいから、普段の買い物で使えません。その点を注意してください。」
そうよね、100ゴルビーの買い物をするのに100万ゴルビーを出したら、お釣りの用意が大変よっ。
またさっきの女性が来た。
「お食事の用意が整いました。」




