58.ダダーン!!ボヨヨンボヨヨン ア~ア~ア~
昼食休憩後にもう一度ダダン姐さんに【身体能力強化】を発動する。でダダン姐さんだけが速い状態は会話が成立しないから、私にも同じように【身体能力強化】発動。
「おお~、これだ、力がみなぎる。」
「ダダン姐さん、今度は突然走り出さないでね。」
「ああ、分かった。」
「まず、ダダン姐さんがやらなきゃいけない事は、今のダダン姐さんの体の状態を記憶する事。どういう状態になってるか理解できる?」
「身体中に力がみなぎっている。力だけじゃないぞ。肉体の全てが強化されているようだ。」
「他には?」
「情報ナントカって言ってたが、それがよく分からないんだ。」
「頭の中の事なんだけど、情報処理速度強化よ。今の状態だとわかりにくいかもしれないわね。」
一度魔法を解除する。ダダン姐さんも解除されたのがすぐに分かったみたい。
「じゃあ、もう一度【身体能力強化】を発動するわ。ただし、今度は情報処理速度強化は外すから気をつけてね。」
【身体能力強化】を情報処理速度強化を外した状態で発動。さっきとは感覚が違うのに気づいたダダン姐さん。
「なんだか違和感があるな。何が変わったんだ。」
「ダダン姐さんの体の動きに頭の中が追いついていかないのよ。今街道は何も走ってないから、ちょっと走ってみて。」
「ヴィヴィ、走るぐらい簡単だぞ。」
街道を誰もいない方向に走り出したダダン姐さん。
うわあああ―――――― と叫んで吹っ飛んだ。転んだとかいうレベルじゃない。もんどり打って地面でバウンドしながら転がっていく。肉体強化はかかってるから筋断裂や骨折とかしないはずだけど、大丈夫かな。
ダダン姐さんのもとまで走り寄って助け起こそうとしたんだけど、私の手は必要ないみたい。ばっと立ち上がって土埃をはたいてた。
あんなにハデにコケたのにケガしてないとか、どんだけ頑丈なんでしょう。
【身体能力強化】を解除して話しかける。
「どう? 体の動きに意識が反応できていない感覚は。」
「怖かった。自分が考えている以上の速度で体が動く。私の意識が取り残されて体だけが先に行ってしまうような感覚。どうやって手足を動かせばいいのか、制御が効かない状態だった。」
「そう、制御できない運動能力、どれほど危険なのか理解してくれた?」
「ああ、充分に理解できた。それを制御できる力も込みで【身体能力強化】を授けてくれると言うのだな。」
「授ける訳じゃないの。ダダン姐さんが自分で感じて体得しなきゃいけないのよ。」
「そんな・・・ 私には魔法は無理だ。」
「そんな残念そうな顔してもダメよ。ダダン姐さんは強くなりたくて『魔の森』を目指すんでしょ。」
「そ、そうだ。強くなりたいっ。」
「その気持ちがあれば、ダダン姐さんは努力できるわ。」
「努力・・・そうだ、私は努力することを諦めないっ!!」
「そうよ、努力するだけならタダよっ!!」
「タダ? 確かにタダには違いないが、その言い方は努力する気が失せないか?」
「き、気のせいよっ!! さあっ、やるわよっ!!」
ダダン姐さんと私、同時に【身体能力強化】発動。情報処理速度強化、肉体強化もセットよ。
「いいこと、この状態を記憶して。肉体強化は重要よ。肉体が強化されずに急激に動いたら体が壊れるわ。」
手をグッパグッパやった後、戦斧を握りブンブン振り回す。
「この状態を記憶するんだな。」
「そう、その状態を記憶して、ダダン姐さんが自分でその状態になる魔法を発動するのよ。」
「できるだろうか。」
「できるかどうかじゃないわ。やるのよっ!!」
私の強気発言に驚いたのか、コクコクうなずくダダン姐さん。
それじゃあ、【身体能力強化】解除。
ベルトランさんが手を振っている事に気がついた。もう出発なのかしら。ダダン姐さんと急いで馬車に戻ったわ。
馬車に揺られ、御者台に座るダダン姐さんと魔法について話す、んだけど、マナは当然理解はできないわね。何かの精霊の力をお借りする、みたいな説明をしたいんだけど【身体能力強化】は何の精霊で説明すればいいんだろ。
ん~~~~~・・・ ま、何でもいいか。どうせマナに属性なんかないんだし、ダダン姐さんが思いを強くするためだけの属性のこじつけが欲しいのよ。土よ、もう土属性で決定。
「ダダン姐さんの周りにはいろんな精霊の力が満ちあふれているの。それを感じ取る事から始めましょう。」
「どうやればいいのか皆目見当がつかないんだが。」
「目をつぶって、心を落ち着けて。」
後ろからダダン姐さんの肩に私の手を乗せる。私自身が感じているマナ、これをダダン姐さんに伝えたい・・・そう、意識がシンクロすれば、できそう?
ん~~~・・・・・ あ・・・ マナが 答えてくれる? ダダン姐さんと意識が共有される?
「おおっ、これが・・・ヴィヴィの言っていた精霊の力なのかっ。感じる、感じるぞっ。」
「それを感じることができたら、その精霊の力をお借りするの。ダダン姐さんの体内に取り込む事を思い浮かべて。そこに【身体能力強化】の発動を強くイメージして。」
うぐぐぐぐぐ・・・・・ むむむむむ・・・・・
ダダン姐さんが力んでるけど、きっかけは自分で掴まなければ? あれ? ソフィが治癒を覚えた時って、私がソフィの手を介して治癒を行ったんだっけ。マナの動きが分かりやすいように。
じゃあ、ダダン姐さんにも手を添えてマナの動きを感じてもらいましょう。
背中に両手を当てマナを流し込む。私とダダン姐さんの【身体能力強化】発動。
「これはっ、できたのか。やったぞ、ヴィヴィ。」
「ごめんなさい、今のは私が補助をしたの。精霊の力の動きを覚えてもらいたくて。」
そして魔法を解除。
「そうだったのか。自分の力でできたと思ったんだが。残念だ。」
そこへソフィに指摘される。
「ヴィヴィ、あなたは何も呪文を唱えないけど、ダダンさんは何か魔法を発動させるような文言が必要だと思うわ。」
「そうよっ、呪文よ。さすがソフィだわ。私は大事なことを忘れていたわ。
ダダン姐さん、何か魔法を発動させられるような呪文を唱えてみて。」
「呪文だなんて、何を唱えればいいのか知らないぞ。」
「何でもいいのよ。呪文に決まりがあるわけじゃないし、魔法発動のためのきっかけになればいいのよ。何なら言葉じゃなくてもいいかもしれないわ。」
「ヴィヴィ、そんないい加減じゃダメよ。
ダダンさん、私は精霊様にこのような魔法を出してください、とお願いするんです。ダダンさんも精霊様にお願いすればいいと思いますよ。」
「そうだな、土の精霊だと言ってたな。
土の精霊様、この肉体に【身体能力強化】をお授けください・・・・・」
ダダン姐さんにはその状態で頑張ってもらいましょう。
そんな感じで御者台に座るダダン姐さん、うなりながらも馬車は進む。
「あ、見えてきましたね。今日はあの宿場町に泊まります。」
「王都まで二日かかるって言ってたから野営だと思ってたけど、違ったんですね。」
「二つの都市間を行き来する人が多いですからね。必然的に宿場町ができたんですよ。」
宿屋の裏へ馬車を置き馬は厩舎へと繋がれている間もブツブツとつぶやき、うむむむ、とうなり続けるダダン姐さん。
「ダダン姐さん、降りますよ。」
「できそうなんだ、あとほんのわずかなんだっ。」
「でもできないんでしょ。静かで落ち着いた場所へ移動すればできるかもしれないわ。」
「そうかっ、馬車に揺られて集中できていなかったのか。」
はっと、何かに気づいたような顔をして、バタバタと宿屋へ駆け込んでいっちゃった。部屋で静かに集中できることを願うわ。
就寝前の時間、ベッドに横になり手を胸の前で組んでブツブツと【身体能力強化】発動のための呪文を唱えるダダン姐さん。
これを夜中ず~っとやられたら、寝ていられないわよ。
「ダダン姐さん、そこまでしても魔法が発動しないのは、もっと豪快な呪文がいいのかも。」
「豪快とは一体どんな・・・」
「そうね、呪文と共に動きも付けるのよ。ここでは狭いわね。外へ出ましょう。」
表通りにはまだ人が行き交ってる。さすがに人の目がありすぎて魔法の練習なんかしていられない。裏の馬車置き場が良さそうね。
馬車と馬車の間の暗がり、ここ良さそうなんじゃない。そこへ入り込んでダダン姐さんを振り返る。
「精霊の力を使うのに、お祈りするダダン姐さんは似合わないわっ。自らの体内に精霊の力を呼び込む雄叫びが欲しいのよ。」
「待て、雄叫びで精霊様が力を貸してくれるのか。」
「力を借りるのではないわ。体内に呼び込むのよ。」
「力を借りると考えるよりも、呼び込む。そうだ、その方が私にはしっくりくるぞ。しかし、どんな呪文がいいか分からないぞ。」
そのための呪文といったらアレよ。アレしかないわ。
「まずは両腕を上げて、二の腕の力こぶを膨らめて誇示する感じ。そのポーズでダダン姐さんの体内に精霊の力を呼び込む言葉、『ダダーン』と唱えるの。次は両手を胸の横に当て胸を揺らす。これは呼び込んだ力を体内へ浸透させるポーズ、このときの呪文は『ボヨヨンボヨヨン』よ。精霊の力が浸透したら【身体能力強化】発動を願うの。やってみて。」
「そんな簡単な事で魔法が発動するのか?」
「発動するかどうかは分からないわ。私の【身体能力強化】を何度も経験してるから、ダダン姐さんの体はそれを記憶していると思うの。後は発動に至るきっかけだけよ。」
「そうだな、そのきっかけは自分で掴むしかないんだ。やってみよう。
ダダーン!! ボヨヨンボヨヨン・・・・・ ダダーン!! ボヨヨンボヨヨン」
マナが動く、ダダン姐さんに集まった感じが分かる、だけど発動しない、なぜ? 何かが足りない?
「精霊の力が体内を巡るのが分かった・・・ ただ、発動までこぎつけない。ヴィヴィ、発動のための呪文はないのか。」
ここまで来たら発動のキーワードなんて物より、発動を念じながら叫べばいいのよ。
「最後は【身体能力強化】が発動した自分を強く思い浮かべて、叫ぶの。『ア~ア~ア~』やってみて。」
「叫んで? そんなことで発動する訳が・・・ いや、ここまでヴィヴィの言うとおりにしてうまくいってるんだ。」
「そうよ、ここまで来たら後は発動だけなのよ。これがダメなら他の言葉を考えるわ。」
「そうだな、試してダメなら次を考えればいいだけだ。やってみよう。
ダダーン!! ボヨヨンボヨヨン ア~ア~ア~」
マナがダダン姐さんに集まり体内を巡りはじめた。
えっ、ええ――――――っ!! 発動した?!
まずいわっ。ダダン姐さんだけが動きの速い世界に入っちゃう。私も慌てて自らに【身体能力強化】を発動させる。
「おめでとう、ダダン姐さん。【身体能力強化】を自分自身の力で発動させたわ。」
「確かに発動できたような感覚はあるが、あまり強くなった気がしないな。」
「魔物と戦ってみないと、実感はわかないでしょうね。」
「こんな町中で魔物は出ないだろうし、明日の王都までの旅に期待をするか。」
「そうね、明日以降の話ね。もう食事にしましょ。あ、そうそう、必要ないときには必ず魔法の解除を念じてね。そのままで人にぶつかったりしたら相手がケガしちゃうし、扉を開けようとしたら扉が壊れるわよ。」
私の場合は、この状態でも力加減はカンペキなんだけどねっ。