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57. 早回し,何言ってるのかわかんない

 お嬢様ご一行とは次の町で分かれる事となった。そりゃあそうよ、王都へ向かうのが目的の旅と、商いをしながらの旅では町での宿泊日数が違うんだし。

 捕縛した教団関係者を王都まで運ぶのに、お嬢様の護衛を割くわけにもいかないって事で、急遽その町から王都までの護衛のハンターを雇うって言ってた。

 捕縛者は縛り上げて教団の幌馬車に詰め込んで運搬だから、御者ができるハンターをということでCランク以上のパーティーに依頼をするみたい。低ランクは御者経験があるハンターが少ないんだって。

 それを考えたら『風鈴火山』はテオもニコも御者を任せられる、なかなかお得なDランクパーティーという事ね。

 報酬をはずんだみたいで、その日の夜には護衛のパーティーが決まったみたい。

 次の日はもうお嬢様一行は王都に向けて旅立っていった。

 なぜそんな事が分かるって? 朝早くにわざわざ私達が泊まっている宿に寄って、念を押していったのよ。王都に着いたら真っ先にクレマンソー邸を訪ねなさい、って。

 私達の判断ではそちらよりハンターギルドが最優先なんですけどっ。



 お嬢様ご一行と別れた後も、ごく普通に旅は続く。

 ガラガラと進む馬車。その御者席に座るベルトランさんから声がかかった。


 「ヴィヴィさん、この先に左へ曲がる道があります。」


 え? と思ってベルトランさんの横へ移動する。


 「左へ曲がっていくと、ヴィヴィさんの目的地のガエル村があります。馬車で半日ぐらいでしょうか。」

 「へ~、そうなんですね。」


 正直、ガエル村に思い入れがあるわけじゃないし、どうでもいいっていう感じ?

 しかも、その目的地ってガエル村の教会って話じゃない。お父様が派遣した神父が教会にいるって言うけど、教団の人間が待ち構えていて私が訪れた途端に御用ってなりそうな気がしないでもない。


 馬車を進めながらベルトランさんがいろいろ教えてくれる。

 ガエル村は開拓村で、王都バルバストルの手前の都市ジルバストルの管理だって話。

 開拓をしても痩せた土地で作物の生育が悪くて、派遣されてた代官も撤退して放置状態なんだって。

 ガエル村へ移民した村民達は細々と食いつなぐ状態で、商人が行商に行っても旨みがない上に、ジルバストルからの距離が馬車で1日かかるという微妙な距離らしい。

 片道1日なら何の問題もないと思うんだけど、ジルバストルに着けばどういうことか分かりますよ、だって。


 夕方ぐらいにジルバストルに着いたんだけど・・・・・ 都市を囲む高い壁、しかも巨大な都市。この都市、どんだけ大きいのよっ。

 しかもその街門からずっと伸びる、長い行列。この街の中に入るのにどれだけの時間がかかるのか、見当も付けられない。


 「夕方の混み合う刻限ですからね。」


 その行列には並ばずに、分かれた街道を馬車は進んでいく。


 「どこか別の門から入れるんですか。」

 「いえ、今からあそこへ並んだら、ジルバストルの中に入るのは夜中ですからね。外で野営をします。」


 これだけの巨大都市の横で野宿とか、がっかり感ハンパないですっ。でも、あんな行列に夜中まで並びたくないし、野宿も致し方ないわね。

 馬車が進んでいく方向には、街道脇に数多くの馬車がもう野営の準備を始めてる?


 「ここで野営する方々は、ほとんどがジルバストルに寄らずに王都バルバストルへ向かう人達なんですよ。私達もこのまま明日は王都へ向かうんですけど。」

 「ええ~、寄らないんですか?」

 「そんながっかりしなくても、あと2日で王都ですよ。王都とジルバストルは双子都市と呼ばれるほど似た作りになってます。」

 「双子って、そんな近くに同じ都市を作ったりして、何か意味があったんでしょうか。」


 ベルトランさんが説明してくれた内容。

 元々はジルバストルが王都で東に広がる『魔の森』へ騎士や兵士を送り出しては『魔の森』の魔物達があふれ出ないようにしてたらしい。でも距離が遠くて派兵や物資運搬に日数がかかる。『魔の森』が拡がってくるのも放置できない。

 そこでジルバストルと『魔の森』の中間にもう一つの都市を造ろう、として作られた都市がバルバストル。

 もうずいぶんと昔に王都はバルバストルに移されたけど、ジルバストルにも王宮は残っていて、魔物のスタンピードが起こったときの王族の避難用にちゃんと手入れされてる。

 それなら、王都を移さなくてもよかったのに、って思うんだけど、そのときの王様がメチャメチャバトル系で先陣切って『魔の森』に突っ込んでいく王様だったんだって。

 王様曰く、王都は『魔の森』に近くなくてはいかんっ、との一声で移らざるを得なかったとか。

 そのおかげか、ハンター達も集まり魔物を狩る、商人が集まり物を売ったり魔物素材を買ったり、そうして民間人も増え巨大な都市に発展した。

 だけど、そんな事をしたらジルバストルが寂れて過疎化しちゃうんじゃ、って心配もあったらしいけど、人口減は一時だけですぐに回復したらしい。『魔の森』効果だって事らしいけど、そんな事まで『魔の森』のおかげにしちゃうなんて考え方が跳びすぎよっ。


 で、王都バルバストルから『魔の森』までの中間には、『魔の森』に沿って幾つもの防衛用の砦が建設されて、兵が常駐している。

 しかも、そこは『魔の森』へ入るハンター達も利用でき、ハンターギルドの出張所もある。ハンターはわざわざ王都に戻らなくても、素材などの買い取り手続きもできる。


 すっごい便利じゃない。ハンターは『魔の森』に入り浸れるって事ね。

 でも・・・・・ Cランク以上なのよね~

 私達もCランクに上がれるように、ボチボチ頑張りましょう。




 野営の後出発に当たって2台の馬車が、ブランシュ商会ジルバストル支店へ行きます、と離れていった。

 残りの3台に二つのパーティーが分乗する事になって、ベルトランさんの馬車にはダダン姐さんが乗る事になった。

 ダダン姐さん、デカいから荷台ではなくベルトランさんの隣に座ってるんだけどね。


 ジルバストルを出発して旅もあと二日、ようやく王都も手が届きそう、なんて思えるところまで来たわ。

 『魂の絆』は『魔の森』へ行くって言ってたから、ダダン姐さんとは王都でお別れなのね。もう会えなくなるって訳じゃないんだけど、それでも寂しいって思うわ。

 ・・・・・ダダン姐さん?・・・・・ なんか忘れてない?



 そうよっ!! 【身体能力強化】よっ。ダダン姐さんに教えなきゃって思ってたのに、完全に忘れてたわ。

 ガラガラ揺られる馬車の中を、ダダン姐さんのいる御者台の後ろに移動する。


 「ダダン姐さん、お話があるの。」

 「何だ、そんなに改まって。」

 「前にツノウサギを狩ったときの話なんだけど、」

 「そうか、王都の中で安全に過ごす気になったか。」

 「違うわよ、あのとき私が走り出したのをダダン姐さんは追いついてこれなかったでしょう。」

 「ああ、そうだったな。ヴィヴィは走るのが速すぎるんだ。」

 「魔法で身体能力を高めているのよ。その【身体能力強化】をダダン姐さんにも教えられないかな、と思って。挑戦してみる気はある?」

 「それは願ってもない提案だな、しかし私には魔法の才能は全くないんだ。きっと徒労に終わってしまうよ。」

 「努力する前から諦めたら、何も成せないわ。」

 「努力をしてないと思われるのも心外だな。これでも魔法使いに教えを乞い努力はしたが、全く魔法は発現しなかった。」


 ダダン姐さんの耳元で囁く。だってベルトランさんが聞き耳立ててるし。


 「それを教えたのは私じゃなかったからよ。私ならもっとうまく教えるわ。今から【身体能力強化】の魔法をダダン姐さんにかけるわ。その感覚を体で覚えて。」


 ダダン姐さんに【身体能力強化】そこに脳の情報処理速度強化も上乗せよ。


 え? 御者台に座ったままプルプル震えだしたダダン姐さん。今どんな感じなのー。


 目にもとまらぬ早さで御者台を飛び出し走り出すダダン姐さん。馬車よりも遙かに速い。はるか先に走っていったダダン姐さん、戦斧をブンブン振り回してる。

 隣に座ってたダダン姐さんがすっとんでっちゃったのを見たベルトランさんが慌てちゃった。


 「ど、どうしたんですか。魔物ですかっ。」

 「ダダン姐さんに【身体能力強化】の魔法をかけたんですけど、体内から湧き上がるパワーをを抑えきれなかったみたい?」

 「危険が迫っていたわけじゃないんですね。」

 「ええ、近辺には危険は無さそうですね。」


 ベルトランさんがほっとした様子胸をなで下ろす。ダメよ、手綱から手を離しちゃ。

 前を走ってた馬車からジャックさんが顔を出して大声で叫ぶ。


 「ダダンは何やってるんだ―――っ!!」


 馬車の距離が離れてる上に車輪のガラガラ音で、かろうじて聞こえた程度。けど私が大声で答えたとしても、きっと私の声は届かないと思うわ。

 何か声を届けるような魔法とかないの・・・・・ 拡声魔法とか?・・・ それよりも普通にしゃべる声を風に乗せて、伝えたい相手にだけ聞こえるような魔法、そうよ、これよ。風魔法の変則的応用版【伝声】よ。


 私の口元からジャックさんの耳元まで、風の道のイメージ。


 「【身体能力強化】の魔法の試験運用みたいなものよ。」


 私のしゃべる声が風に乗って運ばれる。あ、届いたみたい。ジャックさんが驚いた顔をして何か話してる。

 そうか、普通に私の言葉が聞こえたから、ジャックさんも普通にしゃべれば私に声が届くと思ったのね。私の言葉を届けるだけで会話が成立してない。

 これは一つの課題ができてしまったわ。お互いに会話できるようにしないといけないって事ね。

 それは今後の課題、次に【伝声】を発動するときに考えましょう。

 ジャックさんが何か言ってたけど、私には聞こえてなかったし放置でいいわね。


 ダダン姐さんが戻ってきて御者台に飛び乗り、私にしゃべりかけてきた。


 「#$θ%&π@¥γφ」


 すっごい早回し、甲高い声でペチャクチャと話しかけられても、何言ってるのかわかんないわよっ。

 【身体能力強化】解除。


 「ダダン姐さん、何言ってるのか分からなかったわ。もう一度話して。」

 「え、そうなのか。この魔法はすごいぞ。前にも魔法使いに強化の魔法をかけてもらった事があるが、これほど力がみなぎる事は無かった。ただ速度が上がった感覚が無かったんだが、あれほどの力が出るんだ。速度の事まで言いだしたら欲張りすぎだな。」

 「速度も上がってたのよ。ダダン姐さんの感覚がその速度に対応できるように、情報処理速度強化も上乗せしてるわ。」

 「そうだったのか。私はそんなに速く動いていた感覚は無かったんだが。」

 「体の動きに頭の働きがついていけなかったら、どこかにぶつかっちゃうわ。肉体強化もされてるから、多少の衝撃ぐらいは大丈夫だと思うけど。」


 そう、【身体能力強化】を発動させるのに重要なのは情報処理速度強化、肉体強化、この二つが重要よ。速く動くためには脳の情報処理速度が上がらないといけないし、体を速く動かしたおかげで筋肉や腱の断裂、骨折などが起きる事を防ぐために肉体強化は外せない。

 これらがそろってようやく【身体能力強化】が発動できるのよ。

 ただ問題は、短時間にたくさん動く分、おなかが減るのよね。


 ググ~~~~~


 「あ、ダダンさん、もう少し先に街道脇に休憩場所があります。おひるはもう少し我慢してください。」


 ベルトランさんに言われてうつむいたダダン姐さん。頬がピンクに染まってた。おなかの音が恥ずかしかったのかしら。

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