55.究極の平和的話し合い?
馬車と馬達を避けながら、外周部へ戻れば? 防御結界の外側で何やら騒いでる人たちが、二人?
商人さん達が何事かと馬車の陰からのぞいてる。
ベルトランさんが私達を見つけて状況を教えてくれた。
「ハンターの皆さんが警戒しているところを、あの二人が歩いてきたんです。停止を呼びかけても自分たちは旅人だと主張して歩き続けたところ、ヴィヴィさんの結界にぶつかって、中に入れろ、と騒ぎ始めましてこの有様です。」
「ヴィヴィ、ソフィ、ここから出ないで。」
ニコが馬車の陰から様子をうかがって、騒ぐ人たちの目に触れさせたくないと判断したようね。でも、騒いでる人たちの話の内容を聞けば、私はあの大迷惑な人達と対峙しても大丈夫じゃない?
「さっさとこの結界を解除しろっ!!」
「おまえ達が聖女様を連れ去ったのは分かっているんだぞ。聖女様を出せっ!!」
「何度も言っているが、おまえ達の言う聖女などここにはいないっ。」
テオのいらだった声がが響く。盗賊かもしれないだなんて考えてたけど、まさかの教団関係者でしたか。
私達がのんびりあっちの村こっちの町と旅してる間に、ヴァランティーヌ教国からの聖女捜索隊が私達を追い越して、はるか先、王都まで行っちゃったのかな?
ご苦労様な事だけど、こんな大迷惑極まりない人達にソフィは渡さないわよ。
でも二人しか来てないのなら、後の13人はどうしてるの。
【周辺警戒】を発動させれば・・・ あ~、まだ岩場のあたりに? 馬車が増えてる。あ、一人増えてるわ。馬車に乗ってきた御者ね。
テオの否定なんかはお構いなしに騒ぎ立てる二人組。
「ウソをつくなっ!!」
「これは聖女様の結界だろうっ、早く解除するように進言しろっ。」
テオに比べて一回り大きなダダン姐さん、その迫力そのままに進み出る。それだけで二人組が一歩後ずさる。
「な、なんだ・・・・・」
「おまえ達が主張する聖女とやらが、いたと仮定しよう。その聖女をおまえ達はどうしたいんだ。」
「ヴァランティーヌ様の加護を授かった聖女様なのだぞ。教団にお迎えし、教団のためにそのお力を振るっていただくに決まっているだろう。」
教団のためって何なのよっ。せめてヴァランティーヌ様のため、って言うんならまだ分かるけど、独善過ぎじゃないの。このクソ教団っ!!
「それは嫌がる子供を連れ去り強制的に労働に従事させようという事だな。」
「教団で働けるのだぞ。嫌がる者などいるわけがなかろう。」
こんな騒ぎになっているし、お嬢様の護衛だって気づくわね。私の後ろからお嬢様の護衛の人達がニコに問いかけてきた。
「何の騒ぎだ。」
「教団関係者が聖女がいるはずだ、と言ってます。」
「ヴァランティーヌ教国か。聖女だなんて・・・ いるのか?」
「いいえ、あそこでダダンさんが、もしいるのならどうするのか、と聞いたんですけど強制的に連れ去るつもりのようですね。」
「あそこで武器も構えず手も出さずに言い合いになってるのはどういうことだ。」
チラリとニコが私を見る。ここからは私が説明するしかないか。
「あそこに防御結界があります。」
「ほう、あのハンター達は防御結界を展開しているのか。しかし回り込めば意味ないだろう。」
そう、戦闘時に魔法使いが展開する防御結界って自分の前に盾のように出す防御結界なんだけど、そうじゃないの。全体を囲っちゃってるのよ。
あの二人組が入ろうとしても入れないし、テオやダダン姐さんがあいつらを打ち据える事もできない。どんなに口汚く罵り合ったとしても、お互いが手を出せない究極の平和的話し合い? ができるってものなの。
まあその話し合いが平和裏に終わるかは知らないけど。
「防御結界はあそこの対峙してるところから馬車群全部を囲ってます。だからあの大迷惑狂信者はここに立ち入る事はできません。」
「は?・・・・・ き、君が聖女なのか?」
「いえ、違います。」
「いや、そんな巨大な結界なんて、王宮の魔法使いだってできやしないぞ・・・・・」
「できるかどうかは置いといて、あそこの狂信者ですよ。どうします。」
「あ・・・ う、うん、そうだな。奴らは捕らえて王都へ連行しよう。」
「え? 教団関係者を捕まえちゃっていいんですか。」
「ああ、子供の行方不明者が増えている。教国ぐるみの拉致組織があるのではと危惧をしている貴族家もいる。ここで聖女を出せ、連れ帰る、などと言っているのだ。完全なクロだろう。」
「あそこの二人だけじゃないですよ。」
「そうか、君たちが調べた15人は全て教団関係者か。」
「それが・・・ また一人増えたみたいです。」
「だから、それはどうやって・・・ いや、答えなくていい。」
この人疲れた顔で首を振ってるわ。きっと、わがままお嬢様に振り回されてお疲れなのね。
さて、この16人を一人残さず捕らえなきゃいけないのね。
この二人を捕獲して、仲間が助けに来たら一網打尽? そんなうまくいくかしら。全員がまとめて助けに来る事は無さそうなんだけど。
そんな先の事は後で考えればいいわね。とりあえず二人を捕獲よ。
馬車の陰から出てテオの元へ向かえば、腕を掴まれ引き留められる。
「待て、君は奴らが探してる人物じゃないのか。今出て行ったら、奴らが余計に騒ぎ出すぞ。」
「私はあの二人が言う聖女じゃありません。それよりもあの二人を捕らえるんでしょ。」
「あ、ああ、」
「待って、私も行くわ。
ソフィは隠れていなさい。」
ニコに言われて首を縦に振るソフィ。そうね、ソフィはあいつらには見せたくないわ。
騎兵さん達3人が前に出て、その後ろをついて行く形で私とニコが歩く。
これだけの騒ぎだからハンター達は皆その場に集まって遠巻きに眺めている。その間を抜け先頭に立つ。
「あっ、おまえは竜巻娘っ!! やっぱり聖女様はいるんだなっ。さっさと聖女様を出せっ。」
なんですってっ!! ま、まさか、教団内で竜巻娘のネーミングが定着しちゃったとか? 失礼すぎるわっ!!
「私は竜巻娘じゃないわっ!! 失礼よっ!!」
「いや、俺はこの目で見たんだ。おまえは絶対竜巻娘だっ。」
「あなたはムーレヴリエ子爵様の屋敷からの逃亡兵ね。」
「なぜそれを・・・ まさか、おまえ達がルクエールを逃げ出したのも、子爵の差し金か。探すのにずいぶんと手間取ったが、もう逃げられんぞ。おまえだって連行対象なんだぞ。」
え? 逃げられないのはあんた達なんですけど。防御結界の内側に手を当て、イメージは投網みたいにネットをかぶせて拘束よ。
「おいっ、竜巻娘、何をしてる。早く聖女を連れてこい。たつまきむ」
ボッコ――――――――ン
あ・・・ ネットで拘束のつもりだったのよ。竜巻を連呼されたおかげで、光の網がゲンコツに変わっちゃったのよ。
二人が光の巨大ゲンコツに殴られ、もんどり打って地面を転がっていった。
ちょ、ちょ、ちょっと、死んでないよね、死んでないよね。竜巻、竜巻って言われたからって殴っちゃいけないわ。
ピクピクしてるんですけどっ。ピクピク動いてるってことは大丈夫よね。
今度こそ投網状にネットを打ち出して、ピクピク動いてる二人を回収して、【治癒】発動。よかった、回復したみたいね。
じゃ、回復させた二人はネットで捕まえたまま結界の外側に放置ね。
「では、皆さん、この者達の仲間が現れたら起こしてください。それまで私は休みます。」
「ちょっと待て、こいつらをどうするんだ。」
「網がかぶって拘束されてます。逃げられませんよ。仲間が来たとしても拘束を解く事はできないでしょう。それではおやすみなさい。」
振り返って歩き出したら・・・ ちょっと―――っ!! モーゼの十戒じゃないのよ。海が割れるように人が避けるのをやめてー。




