53.便秘だったのかしら
「先ほどのスープを調理した料理人は誰?」
誰もが私に視線を向けてしまえばこのお嬢様も察するわね。
「まさかこの子供があのスープを提供したと言うの?」
私を子供って言うあなたも充分に子供なんですけどっ!! 私よりは大きいかもだけどソフィよりは小さいじゃない。
「答えなさい、あなたがスープを作ったの。」
「お待ちください、レオンティーヌ様、何かご不満がありましたでしょうか。」
「ベルトランには聞いていません。
スープはあなたが作ったのですか」
何なの、この高飛車なお嬢様。お貴族様のお口に合わなかったってことで文句を言いに来たのね。まずかったならまずいと言って食うんじゃねーよっ!! と言ったら、多分ダメな気がする。ここは無難にひたすら謝罪がいいのかしら。
「申し訳ございません。お口に合いませんでしたでしょうか。ご不満もあるかもしれませんが子供が作っておりますゆえ平にご容赦をお願いします。」
「何を言っているのです、あのスープは今までいただいた事があるスープとは全く別の・・・・・深み? のある美味しさです。あなたをクレマンソー家で・・・ いえ、レオンティーヌ・クレマンソーの専属料理人として雇います。」
冗談でしょ、こんな人の意見も聞かないような高飛車お嬢様となんかうまくいくわけないじゃない。
「申し訳ございません。わたくし、料理人ではございませんし、ハンターとして充分に生計はたっております。そのお申し出は辞退させていただきます。」
「何ですって、クレマンソー侯爵家で働けるのよ。ハンターなんか・・・・・ あなたみたいな子供がハンターですって?
こんな小さい子がハンターになれるんでしたっけ?」
「いえ、お嬢様、町の外に出る事のできるハンターは10歳からでございます。」
お嬢様が侍女に確認をとってるけど、ここは主張しておかなきゃね。
「私は体の成長が遅いんですけど、10歳ですよっ。」
「何ですって、わたくしも10歳ですのよ。やけに小さいのではありませんこと? どう見ても7~8歳ぐらいですわ。」
「私だって気にしてる事を追求しないでくださいっ。」
「気にしてるんですかっ・・・・・ あ・・・・・ あれは・・・何ですの。わたくしがここに到着したときにはあんなものはありませんでした。」
お嬢様、しゃべりながらふと視線が横を向いたときに見つけたもの。
「あれはトイレです。」
「トイレ――――――――ッ!! そ、そんなものが?」
「あ、もしよろしかったらお使いになっていただいても結構ですよ。」
お嬢様の首だけがギギギギッと私に向けられた。にっこりとした笑顔で。怖いわ。
「お心遣いありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますわ。」
トイレに向かうお嬢様、待ってくださ~い、と侍女が追ってった。
このまま自分たちのテントに戻ってくれたらいいんだけど。
さて、日が落ちて暗くなってしまう前に【周辺警戒】を発動させて周辺を探索しておきましょう。この先の岩場にいた2人組ってどうなったのか気になるし。
マナに拡がっていく私の感覚、早い時間に感じた岩場のあたりの2人組は? 5人に増えてる? どういうこと?
その向こう、限界まで探索範囲を拡げてみたら、岩場の後方、街道脇の林の中に、10人。
う~ん、ベルトランさんが言ってたわね。盗賊が出やすいとか。これもう盗賊決定じゃないの。
それでも、テオやダダン姐さん達に相談しなきゃいけないわね。
「テオ、相談があるの。『魂の絆』もみんな呼んで。」
「ヴィヴィ、夜の警戒ならいつものようにヴィヴィとソフィは外すんだ。何の相談があるって言うんだ。」
「そうじゃないのよ。この先にね大きな岩があるんだけど、ここに到着する前には2人がいたの。で、さっき5人に増えていて、その先の林の中には10人がいるの。」
「ああ、オオカミを探索した時の魔法か。分かった、その情報は信頼しよう。」
「そりゃ多分盗賊だな。15人程度なら、こっちから打って出るか。」
「ジャック、私達は商人と荷馬車を護らなければいけないんだぞ。ここを離れるわけにはいかないだろう。テオはどう思う。」
「たとえ盗賊だったとしても、こちらが先に手を出して襲われたと騒がれたらどうするつもりだ。俺たちが犯罪者になるぞ。」
お嬢様が突然乱入してきた。とんでもなく迷惑なタイミングね。
「あなたっ、名前はなんとおっしゃるのかしら。」
「ヴィヴィと申します、お嬢様。」
「ヴィヴィ、お話を伺いたいわ。わたくしのテントまでいらっしゃい。」
「申し訳ございません。ただいま夜の警備の打ち合わせ中でございます。後でよろしければ伺わせていただきます。」
お嬢様、ニコ~と笑顔を見せて、約束よ、と言葉を残して戻っていった。それにしてもトイレ長かったわね。便秘だったのかしら。
私とお嬢様の会話を意に介さずテオ達の話は続いてた。
「これは後ろのハンター達も呼んだ方がいいだろう。」
「それを言ったら貴族家の騎兵にも周知させるべきだな。お嬢様が標的って場合もなきにしもあらずだ。」
後ろのハンター2パーティと貴族家騎兵3人が集まってきたわ。お嬢様の護衛が誰もいなくなっったらまずいって事で3人しか来なかったけど、問題はないでしょう。
正体不明の集団がこの先にいる事を告げ、防衛に徹する事を伝える。
そうすると疑問をぶつけられるのは当然よね。疑いの言葉を投げかけてきたのはお嬢様の護衛ね。お嬢様が一番大事だし、そのお嬢様を真偽の分からない情報で危険にさらす訳にはいかないってことでしょうね。
「そんな事をどうやって探ったんだ。誰かがその方角に走っていったのを見ていないぞ。」
「優秀な斥候がいるんだろ、っていうかそんな簡単にあんたらに見つかってたら斥候とは呼べねーしな。」
「そんな事よりも相手はたかが15人だろう。こっちはハンターだけでも俺たちが8人、あんた達は・・・子供が交じってるな。使える奴は5人か。騎兵さん達が6人、奴らより人数が多いじゃないか。ちゃちゃっと殲滅してこればいいんじゃねーの。」
「彼らが襲ってこない限りは盗賊として認定ができない。先に手を出したらこちらが犯罪者だ。」
後ろの商隊の護衛達がテオの意見に、うっ、と言って黙り込む。
「そこで、提案だ。今は思い思いの場所に馬車を止めているが、クレマンソー家の馬車とテントを囲うように商隊の馬車を周りに配置してくれ。その周りにハンターが周辺を警戒する。この人数のハンターがいる事を見せつければ、15人程度なら襲ってくる事もないだろう。」
「護りに徹するってんなら、それしかねえだろうな。」
「戦闘を回避できる可能性があるんなら、その方がありがたい。」
テオの提案にハンター達は納得、騎兵さん達は? あ、大丈夫そうね。
「すまない、そうしてくれると助かる。」
そうよね、一番の中心でお嬢様を護る布陣なんだし、お嬢様護衛の騎兵さんからしたらこんなにありがたい事はないでしょう。
ガラガラと馬車が移動されミステリーサークルみたいに円状に密集する。これなら【ナンチャラマンバリア】円筒状が発動しやすいわね。そうそう、トイレもバリア内に入るようにしとかなきゃ。
ハンター達は全員が馬車の円の外側に陣取る。トイレまでをカバーする円を【ナンチャラマンバリア】円筒状、発動。
キンッという音と共に光る円筒、その光は一瞬で消え今まで見えていた風景が再現されている。
「おいっ。何だ、今の光は。」
【ナンチャラマンバリア】を見た事がないハンターさん達がざわついてるけど、知らないふりしてれば静かになるかな。
と思ってたらテオのネタバラしね。
「防御結界だ。外部からの侵入を防ぐ事ができる。夜間の見張りは少人数でいいだろう。」
「防御結界だと。あんたがやったのか。」
「それには答えかねる。」
「そんなものすぐ消えちまうだろう。」
「いや、朝出発するまでは消えない。」
「信用できるのか。」
あーだこーだの言い合いはテオにまかせて、そっとその場を離れる。私はお嬢様のお話相手をしなきゃいけない。気が重いわ。
「ニコ、ちょっとお嬢様のところへ行ってくるわ。」
「相手は侯爵家のお嬢様ですよ。私もご一緒しましょうか。」
一緒に来たとしてもニコは外で待たされて私だけが対面で話す事になるんでしょうね。それなら、ソフィも一緒に行けば話し相手になれるんじゃないかしら。
「そうねニコ、お願いするわ。
ソフィも一緒に来てくれる?」
「ええっ、なんで私が。」
「ここにいたって夜の見張りの順番を決めるだけだし、ソフィには関係ないでしょ。」
私とソフィは見張りの順番からは外されてるし、その話し合いの場にいても意味は無いの。ついでにニコがいなくなっちゃうと、人見知りのソフィの話し相手がいなくなっちゃうのよね。っていうのは建前で、ソフィは貴族と話す事になれた方がいいのよね。ハンターをやってく上で、貴族からの依頼というのも多々ある事だし。
「大丈夫よ。お嬢様が話したいのは私だけなんだから。」
ソフィの手を取り、強制連行よっ。




