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52.危うきが近づいてきたわ

 テオからの話し合いはされずに、っていうよりもそんな暇はなかったって事ね。あの後すぐに、出発しましょう、との声がベルトランさんからかかったんだから。

 あんな事言われたらいろいろ考えちゃうじゃない。考え事をしながらも手は動かさなきゃね。預かった鍋と私達の鍋に干しシイタケを入れて水魔法で水を張る。で、この鍋から水がこぼれちゃいけないから、光の【ナンチャラマンバリア】を鍋の周りに展開、そしてバリア縮小。鍋サイズぴったりになるまで縮小されたバリアに覆われて、馬車に揺られても鍋の中の水がこぼれないわ。これで夕食のスープは大丈夫ね。


 ダダン姐さんが言ってた稀有な体質? 魔物を引き寄せる? それって何か特別な要因でもあるの?

 私が他の人たちと違うところ・・・・・ まさか、金の瞳に銀の髪だから?

 そんなはずはないわね。私以外にもハンターになった人達の中にたまにいるって言ってたし、その人達が金の瞳と銀の髪の人だったなら、その条件に当てはまる人は危険だよ、とはっきり言われるはずよね。


 「ねえ、ヴィヴィ、さっきから難しい顔して何考えてるの?」


 え? ああ、鍋仕事が終わった後も黙ったまま考え事しちゃってたわ。ソフィが心配してくれてる。


 「黙っていても後でテオから話があると思う。だからソフィには先に話しておくわ。」


 真剣な顔で話し始めた私に居住まいを正そうとでも思ったのか、ソフィが狭い馬車の中で身じろぎをした。荷物がいっぱいの馬車の中、しかも水を張った鍋が並んでいる中でソフィの努力はうまくいくはずもなく、背筋を伸ばす程度で終わっちゃった。


 「たいした話じゃないのよ。かしこまらなくてもいいから。」

 「う、うん。ヴィヴィがあんまりにも真剣な顔するから。」

 「ごめんなさい。

 で、ダダン姐さんが言ってた話なんだけど、ごく稀に魔物を引き寄せる体質の人がいるらしいの。ソフィは聞いた事ある?」


 ソフィの顔が見る間に驚愕の表情に変化した。


 「まさか、ヴィヴィがそうだって言われたの?」

 「え? う、うん。何かそうらしいんだけど・・・」

 「初めて会った薬草採取の時、ツノウサギが森から飛び出てきたけど、子供達が狙われたんだと思ってた。ヴィヴィが狙われたのね。」


 あ、あ~・・・ 『暁の空』と始めてあった時ね。あのときもツノウサギが森から飛び出てきたんだっけ。

 え――っ!! あのとき子供達を危険にさらしたのは私自身っだったのっ。


 「ご、ごめんなさい。知らず知らずのうちに子供達を危険にさらしてしまったんだわ。」

 「待って、自分を責めないで。ヴィヴィは子供達を護ってくれたじゃない。」

 「でも、これから先も同じ事が起きるのよ。もし私の周りの誰かが傷ついたりしたら、」

 「ヴィヴィは自分の心配をしなきゃ。魔物はヴィヴィを狙ってくるの。大丈夫、私が絶対護ってあげる。私だけじゃないわ。テオさんもニコさんもいるでしょう。もっと仲間を信頼して。」

 「・・・・・ うん・・・ ありがと。」


 テオやニコに至っては自分の身を挺してでも私を護ろうとするでしょう。そこにソフィまでも危険にさらしたくない。

 何か方法はないの。魔物が襲いかかってくるのを防ぐような手段とか・・・・・


 ・・・・・?? 魔物って、人を見たら襲いかかってくるものじゃないの? 強い魔物は普通に襲いかかってくるのよ。ここで問題になってるのは、臆病者であるはずのツノウサギが目の色を変えて私に襲いかかってくる事よね。単純に考えて、たくさんツノウサギを狩れるってことじゃない。

 それこそハンター冥利に尽きるって事よ。そもそもハンターなんて、元々が猟師なんだからウサギなんか狩ってナンボよ。フハハハハ、この理論でテオを黙らせるわ。


 「ど、どうしたの? 突然笑い出して。」

 「え? 笑ってた? 何でも無いわ。」


 私の中で心配事は吹き飛んで、気分も上向く。



 そろそろ野営地に着きそうですね、とのベルトランさんの言葉。そういえば昼休憩の後【周辺警戒】魔法を発動してなかったわね。この先の野営地の状況を探っておきましょう。


 発動された魔法が拡がっていく。野営地にはすでに到着している2台の馬車と騎馬、人が動いてテントを張ってるのかな?

 その野営地からまだその向こうへ【周辺警戒】を拡げていく。近辺には魔物はいなさそうね。

 ん? その先の岩場の陰に2体? いえ、魔物じゃないわ。2人の人が隠れてる?

 隠れてるってのもちょっと言い方が悪いかも。徒歩での旅人が疲れて日陰で休んでる事もあるわよね。最悪足を痛めて動けなくなってる可能性も。

 そうだったら助けに行かなきゃいけないかな。

 警戒の範囲は限界だし、その向こうが分からないし。

 野営地に着いたらもう一度【周辺警戒】を発動してみましょ。



 「ほう、あの馬車はクレマンソー侯爵家の馬車ですね。ご領地のお屋敷でご子息様にご挨拶はしたんですが、あの馬車はご子息様のご令嬢でしょうか。王都邸に向かうという話をしておりましたからね。」

 「あれ? ご当主様はいなかったんですか。」

 「ご当主様アリステイド・クレマンソー侯爵は王城勤めですからね。ご領地はご子息様にまかせっきりですよ。では、私はお嬢様にご挨拶して参りますね。」


 当主の子息の令嬢? 侯爵の孫ね。え? 一緒に移動してる荷馬車はご令嬢の荷物運搬用馬車なの? どれだけの荷物が必要なのよ。

 贅沢三昧、わがまま放題のご令嬢相手にご挨拶なんてベルトランさんも大変ね。無理難題言われたりしないのかしら。私は近づきたくはないわね。君子危うきに近寄らず、って誰か言ってたような気が・・・


 さて今回も野営の準備、トイレよっ。ちょっと離れたところに土魔法でトイレを創り上げ、その周りを目隠し壁で囲う。

 馬の水やりはソフィにまかせて、まな板の上にツノウサギを乗せて皮を剥いで肉を切り出す。思ったよりも肉がたくさんあったわね。最初の6羽のツノウサギで足りたわ。後のツノウサギは乾燥させて干し肉にでもしておこうかしら。

 薄くスライスされた肉が積み上がっていく間に、ソフィがかまどを創る。今回は鍋が4個もあるから4つのかまどよ。

 鍋の中の水で戻したシイタケを取り出して、スライススライス。鍋は火にかけてスライスシイタケを放り込んで、塩で味付け。後は肉を入れて、海藻はアオサにしようかな。

 こんなもんで完成ね。

 昼休憩の後に一緒に出発して後ろに付いてきた、商人さんとハンターさんが近くでゴクッと喉を鳴らしてるのが聞こえた。


 「とてもいい香りがします。これほどのスープをどうやって作っているのですか。」

 「お昼から仕込んでいましたからね。もっと長い時間置きたかったんですけど、さすがに馬車の上ですから、無理があるんですよね。」

 「それほどまでに手間のかかるスープを・・・ あの金額でよろしいんでしょうか。」


 ベルトランさんが戻ってきて商人さんに話しかける。


 「あの時にはそれ以上の金額を提示したらきっと断られているでしょう。だから妥当な金額を言ったのですよ。あなたにこのおいしさを味わっていただいて、この材料を売ってくれと言わせたかったのです。」

 「売っていただけるのですか。」

 「今は無理です。まだ量産体制が整っておりませんからね。量産ができて王都に届けられるのは来年の冬ぐらいでしょうか。そのときには是非ともブランシュ商会をよろしくお願いしますよ。」


 ベルトランさん、商売人ですっ!!

 商人さんとハンターさん、鍋を持って帰って行った。

 それと入れ替わりって訳じゃないんだけど、侯爵家の侍女? ぽいお姉さん、恐る恐るベルトランさんに話しかける。


 「あ、あの、ベルトラン様、先ほどからの香ばしい香りを、お嬢様がとても気にしております。何の香りなんでしょう。」

 「ツノウサギスープです。一杯1200ゴルビーです。」

 「売っていただけるんですか。」

 「ヴィヴィさん、クレマンソー様ご一行の分は私が払います。無料で差し上げてください。」

 「あ、それじゃあ、11人でしたよね。こっちの鍋の分で足りると思います。これ持ってってください。器はありますよね。」

 「お嬢様の分だけでもと思っておりましたのに、全員分いただけるのでしょうか。皆様の分は残りますか。」

 「余分に作ってあるから大丈夫ですよ。遠慮せずに持って行ってください。」

 「はい、ありがとうございます。」


 さあ、夕食よ。今日のスープはお肉もふんだんに入って期待できるわよ。


 シイタケの戻し汁にツノウサギの肉の旨みが溶け込んで・・・おいっしい―――っ。


 余分に作っておいたけどあっという間に空になっちゃったわ。みんなも美味しいと思ってくれたのね。よかったよかった。


 「ヴィヴィはこれだけの美味しいものが作れるんだ。王都で食堂を開くのはどうだ。きっと繁盛するぞ。」


 私にハンターをやめさせたいダダン姐さん、食堂を勧めてくれるんだけど・・・ 食堂か~、やってみたい気持ちはあるんだけど、私はいろんなところを見て回りたい。それに当初の目的地、ガエル村だってまだ行ってないのよ。


 「ヴィヴィ、ニコとも話し合ったんだが、」


 テオが話し出したのを、私の言葉でかぶせる。


 「テオ、ハンターっていうのはね、魔物をハントする職業なの。それが魔物が自分に向かって襲いかかってくるのを恐れていたんじゃハンターはできないのよ。」

 「だから、ヴィヴィには特に多くの魔物が襲いかかるんだ。」

 「ダダン姐さんは魔物と対峙したときに、魔物は襲いかかってこないの。」

 「そりゃ襲われるさ。基本魔物は人を見れば襲いかかるんだ。」

 「じゃあ、私だけが襲われるわけじゃないってことなの。ツノウサギに関しては私だけなのかもしれないけど。でも、ツノウサギを狩り放題よ。ハンターとして最高の能力じゃない?」

 「う、まあ、そういう考え方もあるかもしれん。

 テオ達の考え方はどうなんだ。」

 「今すぐに結論を出すべき問題ではない。我々は行くべきところがいくつかあるからな。その間にゆっくりと答えを出す事にするよ。」



 なんか騒がしいわね。


 「お嬢様、お待ちください、お嬢様、わたくしが伺って参ります。」

 「あなたは黙ってなさいっ!! 料理人はどこにいるのですか。」


 うっわー、君子危うきに近寄らず、とか言ってたけど、危うきが近づいてきたわ。どーすんのよ。

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