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51.稀有な体質

 そうだ、ツノウサギのツノを回収しないとね。ギルドへ持って行けば討伐証明としてお金をもらえるし素材としても買い取ってもらえるし。

 ダダン式血抜きマシーンでしっかり血抜きされたツノウサギを、ダダン姐さんに背負ってもらい馬車のところまで戻ってきた。血抜きされてるって言っても、逆さにしておけばまだ血が落ちそうだし、馬車の後ろの縁から吊るしておけば完璧ね。


 「ほほう、ツノウサギですか。あなた方の今日の夕食は豪勢ですね。うらやましい。」


 声をかけてきたのは後ろから遅れてやってきた商人さんみたい。


 「先ほど到着した商隊の方ですよ。」


 ベルトランさんが教えてくれた。もうすでに商人同士のご挨拶からの情報交換は済んでいるみたいで、私達の夕食に興味がわいているみたい。あわよくばお裾分けでも、とか思ってるのかもしれないわ。


 「同じ場所で野営するんですよね。スープに肉を入れるんですけど、よろしかったらそちらの方々の分もお作りしましょうか?」

 「よろしいんですか。そうしてもらえるとありがたいですね。もちろんお代は払いますよ。おいくらでよろしいでしょうか。」


 え? 価格設定? 考えてなかったわ。スープ1杯よね。500ゴルビーぐらいが妥当かしら。


 「ヴィヴィさん、食堂での相場で数字を決めないでくださいね。野営地での食事などは材料運搬などの経費算入も考慮に入れて高めになるのが普通ですからね。」


 ベルトランさんが教えてくれたのはもっともな話なんだけど、じゃあどれだけのせればいいのって話よね。


 「分からないから、ベルトランさんが決めてください。」

 「いいんですか。では、スープ1杯なら500から600ゴルビーぐらい、そこに経費を乗せて1200ゴルビーでいかがでしょう。」

 「まあ、妥当なところですね。じゃあ、私どもの人数は護衛も含めて20人分をお願いできますか。」

 「あなた方はとても運がいい。今まで味わったことがないものを味わえるのだから。」

 「ほほう、期待しておりますよ。」


 ええっ、ベルトランさん持ち上げすぎよ、って、それよりもそんなに人数がいるの。お肉が足りない? でもスープなんだし肉少なめでもいいのかな。いえいえ、高いお金を払ってくれるのよ。肉はたくさん入れてあげたいじゃない。

 しょうがないわ。もう一度狩りに行ってきましょう。ツノウサギいるかしら。【周辺警戒】を発動させて・・・・・ いたいた。


 「ベルトランさん、お肉が少ないので取りに行ってきますね。

 ダダン姐さん、狩りに行くからもう一回お願いできる?

 あ、そちらの商隊で20人分の大鍋あったら貸してください。」


 【身体能力強化】を発動させて走り出しちゃったんだけど、そういえば返事を聞いてなかったわ。

 近づく林、その奥に感じるツノウサギの気配。私が近づくのがツノウサギにも察知されたみたい。私に対しての攻撃のつもりなのかしら。こっちに殺意をむき出して跳ね飛んで来る。ウサギって草食動物だったはずなのに、ツノが生えると肉食になるのっ!!


 林の手前で迎え撃つ。今回も同じよ。無数の威力を抑えた風の刃を、林から飛び出てきたツノウサギに向けて放つ。結果はさっきと同じ、戦闘不能状態の8羽のツノウサギの首を刎ねながらダダン姐さんの到着を待つ。

 内臓も取り出して足を縛っているところに、ゼーゼーと息づかいが近づいてきた。


 「ちょっと休んでてね。いま足を縛ってるところだから。」

 「ゆ・・・ ゆっくり・・・ やってくれて、構わん・・・」


 二回も走らせちゃってお疲れ様ね。ダダン姐さんにも【身体能力強化】を教えたほうがいいのかしら。覚えられるかが問題なんだけどね。

 ツノウサギの足を縛り終えたロープの端をダダン姐さんに預ける。


 「ゆっくり休んでていいわ。待ってるから。」

 「もう大丈夫だ。私は回復が早いんだ。」


 立ち上がったダダン姐さん。ヤバいわ、離れないとツノウサギの血の雨を頭からかぶる事に。

 ダダダッとダッシュで離れ、振り向いたらもうダダン式血抜きマシーンの回転が始まってた。ここまで離れていたら大丈夫ね。



 ツノを回収し馬車まで戻り、ツノウサギはまた馬車の縁に逆さ吊り。

 そこへさっきの商人さんが鍋を持ってきた。20人分の大鍋はなかったみたい。商人さんの後ろにもう一人鍋を持った人・・・ 剣を装備してるからハンターね。


 「え? ついさっき走って出て行ったばかりですよね。」


 商人さんが聞くまでもなく、さっき私はここから走り出したんだけど。


 「ツノウサギってこんなに簡単に狩れるもんなんですかね。」


 振り向いて後ろにいる鍋を持ったハンターさんに問いかけるけど、ハンターさん首を横にブンブン振ってる。


 「簡単じゃありませんよ。こいつら魔物としては弱い部類だから警戒心が強くて、人の気配がすれば隠れちまうんですよ。」

 「え、ええ―――っ!! 私には敵意剝きだしで襲いかかってきますよっ。」

 「何だってっ!! ヴィヴィ。」

 「マジ? ていうかあんた子供を囮にして魔物を誘ってんのか。」


 ダダン姐さんの私にむかって責めるような問いかけ、鍋を持ったハンターさんのダダン姐さんへのきつい口調。なに、なに、何の話なの?


 「断じて囮だなどと考えたことはないっ!!

 ヴィヴィ、どうなんだ、今までも魔物はヴィヴィに向かってきてたのかっ。」


 う~ん、スライムは動きが遅いし、よくわかんないわね。あ、ゴブリン村長、思いっきり私に敵意を向けてきたわね。ボスオオカミだって私を認識してるっぽかったし。


 「おそらくは、私を敵と認識して襲いかかってきてるのかも。」

 「囮にって発言は俺の早とちりか。でもな、あんた子供を連れ回さずに町の中で大事に育てた方がいいぞ。」

 「そうだな、ヴィヴィ、王都に着いたらもうハンターはやめて静かに暮らすんだ。」

 「何言ってるのっ。ハンターはやめないわよ。」

 「こんな子供がハンターとか、冗談だろ。」

 「私はDランクハンターよっ。」


 何やらもめ始めたっぽい雰囲気を察知したのか、テオが近づいてきて助け船を出してくれた。


 「ヴィヴィはDランクパーティー『風鈴火山』のリーダーだが何か問題でも?」

 「リーダーだって? 冗談じゃなかったのかよ。」

 「ああ、冗談ではないな。それで、何の話だったんだ。」

 「俺から言わなくても、そっちのデカい女が知ってるみたいだから聞いてみろよ。俺は鍋を持ってきただけだしな。」


 鍋を置いて商人さんとハンターさんは戻っていっちゃった。

 何の話だったのかダダン姐さんに問い詰めなきゃ。


 「ハンターをやめろだなんてどういうことなの。」

 「テオも一緒に聞いてくれ。ハンターになった者の中に(まれ)にいるんだ。妙に魔物を引き寄せる体質の奴が。そういった()()な体質の奴は総じて早死になんだ。分かるだろう。魔物達はヴィヴィを見れば攻撃をしてくるんだ。魔物に襲われて死ぬ前に王都にこもって静かに暮らすんだ。」

 「私はイヤよっ。やめないわ。」

 「テオ、私は忠告をした。後はパーティー内で相談することだ。」

 「ああ、すまん、ダダン。忠告をありがとう。」

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