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50.ダダン式血抜きマシーンだわっ!!

 「それでは出発しましょう。」


 ベルトランさんの合図に、朝早くまだ暗い道を5台の馬車が動き出す。この町から南の漁村セブランに向かうって聞いたけど。


 「領主様の荷物運搬用馬車が2台同行します。そちらは領主様の私兵が護衛に付いていますが、何かあったときには合同で事に当たってください。」

 「セブランに向かう道は何かありそうなんですか。」

 「いえいえ、このあたりは割と安全なんですけどね。ギルドを騒がしたオオカミの魔物、あんなのがこのあたりに出没するなんて、魔の森の魔物があふれ始めているんですかねえ。」


 そんな・・・ 魔物があふれるだなんてどんな事になるのかしら。


 「魔の森って王都よりまだずっと東ですよね。そんな遠くからこんなところまで来るんですか?」

 「この大陸で見かける魔物は、魔の森から出てきた魔物なんですよ。魔の森から魔物が出てこないように騎士や兵隊、ハンター達も努力はしているのですが、すべてを止めるのは難しいようです。」


 魔の森から出たスライムやツノウサギ、ゴブリンなんかは繁殖力の強さゆえにどこにでも定着してるって本で読んだ事があるわ。それって弱い魔物だから放置されちゃってるのかな。各町のハンターに狩ってこいってことね。

 でも国民を脅かすほどの魔物を国内に放置するのは危険だから、国が兵を挙げて魔の森から魔物の流出をとめようって事ね。だけどそこにハンター達が集まって、国の兵隊さんと共同戦線なんか・・・・・ できそうもないわね。ハンターはハンターで全くの別行動でしょうね。



 そんな感じで町や村へ寄っては商品を卸したり仕入れたり、はたまた同行の馬車が増えたり減ったりで旅は進んで、ベルトランさんが、あと10日ぐらいで王都に着きます、と教えてくれた。


 「このあたりぐらいが盗賊が出やすいんです。」

 「ええっ、出るんですか。」

 「王都に近いとすぐに討伐隊が来ますからね。ある程度王都から離れたところ、そして王都に向かう商隊が狙われやすいんです。」

 「気を引き締めないといけないじゃないですか。ダダン姐さん達は知ってるんですか。」

 「あのパーティーはベテランですからね。そのくらいは承知してますよ。」


 それなら、わざわざ馬車を止めてまで話し合う必要も無いわね。お昼休憩の時にでも話してみましょう。

 それよりもソフィに【周辺警戒】の魔法を教えたんだけど、あまり広範囲をカバーできてない。せいぜい300mぐらいかしら。その距離は森の中で魔物を探すぐらいならいいんだけど、街道上での300mって相手から視認されちゃうって事よね。

 まあ、私が常に警戒しておけばいいんだけどね。


 ベルトランさんに脅かされたからって訳じゃないけど、近辺の警戒はしておいた方がいいわね。

 ソフィの手を握る。


 「え? ヴィヴィ、何?」

 「静かに、目を閉じて、今からマナに意識を広げるわ。ソフィも一緒に感じてみて。」


 周りのマナに意識が拡がる、マナからマナに伝播する。【周辺警戒】の範囲が拡がっていく。


 「すごい、一体どこまで拡がるの。」


 ソフィに尋ねられたけど、どのくらいなのか自分でもよく分からない。多分最大で半径10kmぐらいいけるかな?

 ふんふん、前方に馬車が2台止まってる。他には騎馬が6頭に6人がいて、馬車には4人か。そのうちの1人は御者なのかな。お上品な馬車っぽいし貴族とその護衛ってところね。もう一台は荷馬車ね。きっと商人さんね。街道脇の空き地、かなり広い空き地に止まってるし、休憩中ってところね。

 後ろからは8台もの馬車が来てる。これは商隊の馬車ね。

 街道から右側の林の中で動いてるのはツノウサギの群れだわ。こっちへ出てくる様子もないから放置ね。

 多分このあたりが限界かなってところまで警戒の範囲を拡げたら、こっちに向かってくる馬車も・・・ 2台の荷馬車ね。

 王都に近づいているから街道の往き来もずいぶんと多くなってきたわ。

 それほどの情報が脳内を駆け巡っているなか、ソフィの呼びかけに現実に呼び戻される。


 「ねえ、ヴィヴィ、いつもこんなに広範囲を警戒してくれてるの。」

 「いつもはやってないわ。たまにやって危険が無いか確認するだけよ。」

 「そう、よかった。ずっとやってたらすごく疲れちゃうでしょ。少しでも私がヴィヴィを助けられたらって思ったの。」

 「ちょっと、なんでソフィは疲れちゃうって思ったの。」

 「え? 私がどのくらい続けられるかやってみたの。そしたらね突然眠くなっちゃって。」


 そうよ、この魔法は情報量が多すぎるのよ。警戒範囲内の情報が大量に脳に流れ込んでくるおかげで、脳の疲労が極限にまで達すると言っても過言ではないわ。


 「ソフィ、この魔法を長時間続けないで。負担が大きすぎるわ。」

 「でも、ヴィヴィの負担を少しでもへらさなきゃ。」

 「私の事は考えないで。私は極力疲労を残さないようにやってるつもりだから。」


 今の警戒範囲内では怪しい集団はいなかったと思う。盗賊ならどこかに隠れて獲物を待ち伏せするんじゃないかしら。今のところは大丈夫そうね。また後で【周辺警戒】を発動してみましょう。



 「この先に街道脇の空き地があります。そこで昼休憩を取りましょう。」

 「そこってどちらかの貴族っぽい馬車が休んでるみたいだけど、大丈夫なんですかね。」

 「おや、もう見えますか? ヴィヴィさんは目がいいようですね。」

 「見えませんよ。魔法で周辺を警戒してるだけですよ。」

 「そ、そんな魔法ありましたか?」


 私が開発しましたとか言ったらまた驚きそうだし、魔法の本に載ってましたよ、と返事をしておいた。


 そろそろ空き地に近づいて肉眼でも見えるぐらい? 前の馬車が邪魔だわ。幌の上によじ登って遠くを見通してみれば、あ、馬車と騎馬が出発しちゃう。荷馬車まで一緒に?


 「ベルトランさん、馬車が出発しちゃいました。」

 「そうなんですか。貴族家ならご挨拶したかったんですがね~。」

 「休憩せずに追いかけますか?」

 「いえ、今このあたりを走っているのなら、野営場所は同じところになりますからね。夕方にはご挨拶ができますよ。」


 ちょうどいい場所に町や村が無くて野宿になるっていう事だけど、貴族家の人たちって野宿なんかイヤダって言わないのかしら。



 何はともあれ休憩地に着いたんだし昼休憩よ。まずは馬たちに水をあげなきゃね。御者達が馬の世話をしている間を縫って、ソフィが木桶に魔法で水を満たす。私は大鍋を用意して、いりこダシ塩味スープの準備よ。手が空いてソフィは土魔法でかまどを創ってくれる。テオやニコだって遊んでいない。枯れ木枯れ枝を集めてくれる。

 ダダン姐さん達は周辺警戒ね。やる事無くてウロウロしてるだけに見えるけど、警戒してるのよっ!!

 この旅も30日以上、その間に野宿の経験も多かったわ。宿のない村なんてのもあったし。そんな経験も踏まえて、みんなの手際がすごくよくなってるみたい。当然私の手際もなんだけど。

 すぐにでもスープの用意ができて昼食が始まる。相変わらずパンは硬いんだけど。


 「いつものように思うのだが、この温めた塩スープにこれは海藻だな。たったこれだけでここまでの深い味わいをどうやって出せるんだ。」

 「ダダン姐さん、塩味だけのスープじゃ何も美味しくないでしょ。少しでも美味しく味わいたいと思った努力の成果よ。」

 「そうなのか、ヴィヴィは子供なのにどれだけの努力をしてきたのか、見当もつかないな。」

 「そ、そこまで言うほどの努力ではないけど・・・」


 そう、ダシの取り方を知っていただけなの。私自身の努力ではないのよ。


 「謙遜することはない。誰が味わっても旨いと言うスープを作れるんだ。誇っていいぞ。」

 「ありがとう、ダダン姐さん。」

 「それでだな、夕食にははシイタケスープがいいと思うんだが。」

 「シイタケスープのリクエストね。シイタケを水で戻しておかなきゃいけないわね。あ、具材にお肉を入れてみたりとかいいんじゃない。」


 幸い向こうに見えてる林の縁にツノウサギの群れがいるみたいだし。


 「テオ、向こうの林にツノウサギがいるわ。狩りに行くわよ。」

 「待て、ヴィヴィ。私が行こう。

 ベルトランさん、少し離れます。いいですか。」

 「いいですよ。今日の夕食は期待できそうですね。」


 ベルトランさんは快く返事をしてくれた。そうよ、護衛任務中なんだから、護衛対象に無断で離れちゃだめよね。たとえ周りに危険が無いと分かっていても。

 でもベルトランさんの許可も出たし、欲しいものは・・・ ロープが欲しいわね。

 では【身体能力強化】発動!! 林に向かって走り出す。


 「待てっ!! ヴィヴィッ!!」


 ダダン姐さんの制止の声を置き去りに、林がグングン近づいてくる。

 あ、ツノウサギが気がついた? 林から飛び出たツノウサギが明らかに私を目標に据えて向かってくる。6羽ね。

 無数の風の刃を広範囲に放てば、何の問題もなく全てのツノウサギが戦闘不能で地面に転がる。

 戦闘不能っていうのは、威力を極力弱めて放った風の刃だから、即死まではしなかったから。強力な威力で放っちゃったら、細切れになって食べられなくなっちゃうし。

 絶命していてもしてなくても、とりあえずは血抜きしないといけないし、ツノウサギの頭を短剣でスパスパ()ね飛ばす。


 「ゼーゼーッ、ヴィヴィッ。」


 あ、ようやくダダン姐さんが来たわ。ダダン姐さんはパワフルなんだけど全力走行には向かないのね。


 「単独行動は危険だろっ。」

 「え、のんびり動いてたら獲物が逃げちゃうわ。ダダン姐さんがもっと早く動けるように鍛えなきゃいけないのよ。」

 「うっ・・・・・ すまん、そうだな、私は役立たずだ・・・・・」


 ショボーンとしてしまったダダン姐さん。私って余分なこと言っちゃった?


 「そんな事無いわ、ダダン姐さんが来てくれて助かったと思ってるの。お願いしたいことがあるし。」

 「そ、そうなのか。まかせてくれ。何でもするぞ。何をやればいい。」


 あ、元気出たわね。それじゃあ、ツノウサギの頭は刎ねたから、腹を割いて内臓を出して、と。そうしたら~、持ってきたロープでツノウサギの後ろ脚を全部縛って。

 うん、できたわ。ロープをダダン姐さんに渡して。


 「これでブンブン振り回して。」

 「ああ、そういうことか。」


 ダダン姐さんも気がついたみたい。短めにロープを持ってジャイアントスイングの如くにグルングルンと回転を始めた。

 ツノウサギの血があたりに飛び散る。キャ―――― 血が届かないところまで脱兎の如く逃げ出したわ。

 振り返ってダダン姐さんを見てみれば、回転に勢いが付いたおかげでジャイアントスイングみたいに体ごと回転しなくても、頭の上でぐるぐるとロープを振り回してる。


 こ、これって、ダダン式血抜きマシーンだわっ!!

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