49.あっつ――――――いっ!!
ダダン姐さんに優しく抱きしめられていたら、おなかが膨れていたことも相まって寝ちゃってたわ。目が覚めたときには、帰りの馬車に揺られてた。
ダダン姐さんを元気づけようとしてたのに寝ちゃったなんて、こんなかっこ悪いことはないわ。
あれ? ダダン姐さんは一緒の馬車じゃないのね。乗ってたのは『風鈴火山』とギルドマスターだけね。
「ああっ!! ボスオオカミ、結界を解除してこなかったわ。」
「それは大丈夫よ、私が解除できたから。ボスオオカミは後ろの馬車に乗ってるわ。」
ソフィが解除をしてくれたんだ。それならよかったわ・・・・・??
「後ろの馬車って、『魂の絆』と『ホークアイ』はどうしたのっ。」
「あれだけのオオカミの死体を放置するのもまずいだろう。だからあそこには『魂の絆』と『ホークアイ』それにこの馬車の護衛についてきたパーティーを置いてきた。俺は町に帰ってありったけの馬車を手配して戻らなきゃいかん。」
「あれだけのオオカミを積められるほど、町に馬車はあるんですか。」
「肉屋や商人の馬車を総動員させるつもりだ。奴らも運賃以外に肉の売り上げ分の一部を回してやれば、喜んで動くだろう。」
それならベルトランさんも動員されるのかしら。もしそうなら私達が護衛について行かなきゃね。
ハンターギルドまで帰ってきた。ギルドマスターは大慌てで建物の中に駆け込んでいく。あちこちで馬車を手配しなきゃいけないから、とっても忙しいんでしょうね。でも、帰ってきたんだから、ギルドの職員達を動かせばすぐに手配は終わって、昼前には出発できるんじゃない。
私達は討伐依頼完了の手続きを済ませたけど、他の合同受注のパーティーが帰ってきていない事に加えて、オオカミの討伐数も分からない、報酬の分配が決められないって事で後日精算になっちゃったわ。
ベルトランさんのお店まで帰って、まずはお風呂ね。すっきりして体を休めたいわ。
「おや、お早いお帰りでしたね。」
そうだったわ。ベルトランさんには、3日ぐらい出かけてきます、って言って出かけたんだったわね。
「ええ、依頼が1日で完了したので帰ってきました。」
「そうなんですか。それはよかったです。その依頼の完了が伸びてしまったら、私どもも出発を延ばさなければいけないかと思っていましたよ。杞憂に終わって本当によかった。」
え? 伸びることはなかったと思ったけど、3日でオオカミと遭遇できなかったら帰ってくるって話だったと思ったけど。ベルトランさんにその話するの忘れてたかしら。
まあ、無事に早く帰ってこれたんだから問題は無いわね。
「護衛のパーティーの募集を出してあるんですが、どなたか請けてくれそうなハンター達はいらっしゃるでしょうか。」
「いま、ギルドがバタバタしてるみたいだから難しいかも。でも今回一緒に行動したパーティーなら、お願いしたら請けてくれるかも。」
そうよ、『魂の絆』を指名すればいいのよ。ダダン姐さんが一緒に来てくれるならきっと安心できるわ。
「ほう、どちらのパーティーですか。」
「『魂の絆』っていうんですけど、とっても強いパーティーですよ。」
「『魂の絆』は有名ですよ。そんなパーティーとお近づきになれたんですか。ヴィヴィさんのお名前を出せば引き受けてくれますでしょうか。」
「それは聞いてみないと分からないですよ。」
「それなら、今からギルドへ走って『魂の絆』への指名依頼に変更してきますよ。」
ベルトランさんが大慌てで出ていっちゃったわ。ダダン姐さん達が帰ってくるのは夕方になるのかな。もしかしたら、もう一晩野宿してくるかもしれないわね。それでも依頼の変更を先にしておけば、帰ってきたときにそのままダイレクトに情報が伝わるってことね。
まあ、その辺の事情はベルトランさんにお任せするとして、私達は・・・お風呂よっ。
こんな昼間っからお風呂の用意なんてしてくれる人は・・・いるわけないわよね。みんな一生懸命働いてるんだし。
しょうがないから自分達で井戸から水を運んでお湯を沸かして・・・・・ なんてことをやる必要は無いのよ。
ここは魔法一択よ。水魔法で水を呼び出すイメージ、だけど水じゃない。呼び出すのはお湯よ。温度だってちゃんとイメージしなきゃ、お風呂の温度って42度ぐらいだったかしら。お湯の量はこの浴槽いっぱいに。
そこまでをマナに強くイメージして、 発動っ。
浴槽の上に現れた巨大水球。いえ、水球ではないわね。お湯球だわ。そのお湯球が浴槽の中にドッパーンと落ちた。その勢いは大量のお湯跳ねを発生させ、私は頭からお湯をかぶる事に、
「あっつ――――――いっ!!」
慌てて着ている服を剥ぎ取るように脱ぎ散らかす。
あつっ、あつっ、あつっ、
「ヴィヴィ、大丈夫?」
お湯の跳ねから避難してたソフィが心配そうに聞いてきた。ニコは? お風呂のお湯加減を見て、
「お風呂にはちょうどいい湯加減ね。火傷するほど熱くは無さそうです。」
お風呂の適温だからって、突然頭からかぶったら熱いわよっ!!
もう裸になっちゃったし、このまま汚れを落としてお風呂につかりましょ。
お風呂につかっていたらニコとソフィがが入ってきた。
「ヴィヴィの着替えを置いといたわ。」
「ありがとうーっ、ソフィ。」
そ、そうよね。びっしょりになった服を着ていくわけにもいかないし、裸で部屋まで走ってく恥知らずな事もできないわ。
ソフィとニコに感謝しながら、お風呂を堪能しましょう・・・・・
ググ~~ なんだかおなかすいたわね。えっと、今日は何を食べたんだっけ。あ~、朝早くに堅パンを塩水に浸して食べたっきり何も食べてないわね。
ぱちっと目を開く。あれ? ベッドで寝てる? 朝なの?
違うわ、夕方よ。寝た記憶が無いわ。何してたんだっけ・・・・・ そうだ、お風呂っ。またお風呂で寝ちゃってたの。
ずいぶんと疲れていたような記憶はあるけど、まさか寝てしまうとは思わなかったわ。一人でお風呂は危険ね。お湯に沈んで死んじゃうかもしれないわ。
「ヴィヴィ、目が覚めましたね。おなかすいていたら食事にしますか。」
ググ~~ またもやおなかの音が響き渡る。違うのよっ、これはニコがご飯の話をするからよ。決して私は卑しい子じゃないわっ。
にっこり笑ってニコが立ち上がる。
「すぐに用意するわね。食堂へ行きましょ。」
それほど待つ事もなく用意された食事をぱくつき始めたら、ソフィとニコだけじゃなくテオまで一緒に食べ始めた。
「夕食にはちょっと早いんじゃない?」
「また後で皆の分を用意するのも大変だし、一緒に済ませてしまおうと思いまして。」
そうね、何度も食事の用意をするのも大変よね。一度で済むのなら、それにこした事はないわ。効率最優先よ。
「ダダン姐さんが帰ってるか確認したいんだけど、後でギルドへ行ってみない。」
「そうね、そろそろ日も暮れそうだし、帰ってきてるんじゃないかしら。」
「なんでヴィヴィはダダンさんをそんなに気にかけるのよ。」
えっ? ソフィの問いかけにふと思い起こしてみた。
「そうね、初めて会ったときのインパクトよ。ダダーンボヨヨンボヨヨン系なのよ。」
「何言ってるのか意味が分からないわ。」
もう薄暗くなり始めた町並み、店先には灯りが点され始めてる。そんな中を何台もの馬車がガラガラとハンターギルドに向かってる。気をつけなきゃ、はねられちゃいそうだわ。
「もう、何なの、この馬車群は。埃っぽくてかなわないわね。」
「この馬車は森で狩ったオオカミを運んで帰ってきている馬車ではないですか。」
そうなの?・・・ 考えてみればそうね。討伐頭数が多かったし。
全部乗せて帰れるほど馬車を手配できなかったら、2往復した馬車が帰って来てるぐらいの時間なのね。
ギルド前の通りに止められた馬車からハンターが降りてギルド内に入ってく。馬車の護衛についてったハンター達ね。『魂の絆』や『ホークアイ』も帰ってきてるんでしょうね。
ハンター達を下ろした馬車は? どこかへ走り去る?
「どういうこと、オオカミ乗せて帰ってきたんじゃないの。下ろさずにどこかへ行っちゃったわ。」
「討伐数が多過ぎなのよ、ここの解体場に入りきらないでしょう。他所へ委託したんでしょうね。」
それもそうね、人手も足りなくなっちゃいそうだし。あちこちのお肉屋さんで解体してもらって、そのまま販売してもらえばいいのね。
ギルドの中は大賑わい、受付は行列ができちゃってるし。受付のお姉さんに何か聞きたくてもこの行列に並ばなきゃいけないなんて、勘弁してほしいわね。
「私が聞いてきましょう。」
テオが進言してくれたけど、行列に並ぶのなら誰が並んでも同じなんだけどね。と、思っていました。
テオったら行列の後ろの数人に話しかけ首を振られ、受付から戻ってきた人にも話しかけ・・・・・ あっ、どこか指さしてる。簡単にダダン姐さんの居場所が分かっちゃったみたい?
「併設の食堂にいるみたいですね。」
ギルド内には食堂もあって外へ出なくても食事ができるようになっている。そこは依頼者とハンターとの交渉の場にもなってるから、食事をしなくてはいけないわけじゃない。
もし聞かれたくない話をするんなら、会議室を借りたりするらしいんだけど、有料だって言ってたわね。
あ、いたいた、って『魂の絆』だけじゃない、『ホークアイ』も。そうよ私達だけが先に帰ってきちゃったんだもの。馬車の護衛に一緒に行動してきたってことね。
あれ? ベルトランさんまで一緒にいるじゃない。もう護衛依頼の件はまとまったのかしら。
「ベルトランさん、皆さんもご一緒なんですね。」
「ヴィヴィさん、『風鈴火山』の皆さんもご一緒で。ちょうどいいタイミングです。お時間がよろしかったらこちらでご一緒していただいてもよろしいですか。」
「もちろん、いいですよ。」
ダダン姐さんに会いに来たんだから、断る理由なんか全くないわ。
「それなら、俺たちが隅に寄るからヴィヴィ達がベルトランさんの横に座れよ。」
『ホークアイ』が席を譲ろうと言ってくれたんだけど、なんで?
「私達は空いてる席で構わないわ。」
「俺たちはこの町までの護衛の約束だったんだよ。ここからは『魂の絆』が護衛を引き受けてくれたからな。後は『風鈴火山』と『魂の絆』で打ち合わせをしてくれ。俺たちは今回の討伐報酬が出たらルクエールに戻るよ。」
そうだったわ。ルクエールに家族がいるから遠くまでは行けない、って話だったわね。って、それよりも、ダダン姐さんが引き受けてくれたの?
「そうなんですよ。『魂の絆』に護衛を引き受けていただきました。出発までにしっかり打ち合わせをお願いしますね。」
「お任せください、ベルトランさん。ダダン姐さんはすっごく強いんですよ。」
「そうですか、期待しておりますよ。では、私は店に戻ります。ごゆっくりしていってください。」
ベルトランさん、帰っちゃったけど忙しかったのかな。
ダダン姐さんは?・・・ 微妙な顔をしてる?
「ヴィヴィが言うほど私は強くない。」
「そんな事無いわ。」
「今回の討伐も『風鈴火山』に・・・ いや、ヴィヴィに助けられたぐらいだ。」
「一緒に討伐に行った仲間なのよ。助けるのが当たり前でしょ。」
ジャックさんが口を挟んできた。
「ダダンはヴィヴィを護りたかったんだ。それが逆になっちまって落ち込んでるんだ。」
「そんな、落ち込むだなんて。護衛依頼を請けるのに落ち込んでる暇はないわ。元気を出してちょうだい。」
「ああ、そうだな。王都までよろしく頼む。」
「王都まで一緒に行ってくれるんですか。」
「ダダンがこんなんだからな。王都から東に行くと魔の森があるんだ。そこでAランクを目指してみるかという事になった。」
ええ――っ、魔の森・・・・・ そんなのがあったなんて、私も行きたい。
「魔の森って私達も一緒に行けるの。」
「そりゃ無理だ。あそこはCランク以上が要求される。おまえ達の実力はCランク超えてるのは理解はできるが、魔の森へ出る許可を出すのはギルドだからな。だから魔の森に行きたいなら、地道にCランクを目指せ。」
ガックリだわ。ちょっとのぞきに行くぐらいは良さそうだと思うんだけど。きっとそれもだめだって言われるんでしょうね。
Cランクか~・・・・・ あれ? 貴族家の推薦とかあったらランクアップができるとか、誰か言ってなかったっけ。でも高位貴族って言ってたわね。難しいわね。そんな伝手ができる気がしないわ。
地道にランクアップを目指しましょう。




