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45.膝カックンキック

 ええっ、膝をつかせるだけなの? それだけなら重心を前に移動させて後ろから膝カックンさせれば一瞬よ。

 さあかかってこい、とばかりに両手をさげた状態で身構えることもなく棒立ちのままのダダン姐さん。非力な小娘と油断してるわ。

 スピードもパワーも兼ね備えていそうなダダン姐さんを相手に、勝機はその油断に不意打ちをかける以外はなさそうね。勝負は一瞬よ。


 私が飛び込んでいくのに腰を落とすこともなく仁王立ちのダダン姐さん。その股下ぐらいの背丈しかない私が飛び込んでいく。しかも身体強化魔法をかけて。

 ドスンという衝撃、私の掌底がダダン姐さんの下腹部にめり込む。くの字になったダダン姐さんの左膝裏に膝カックンミドルキック。そう、普通ならローキックのはずなのに私の体格からはミドルキックになってしまうんですよっ。


 ダダン姐さんの顔が驚愕に歪みながらも左膝をつく寸前なのをギリギリこらえた。うっそー、それをこらえるなんてどんだけの体幹してんのよっ!!

 プルプル震えながら左膝をつけまいと右膝に力を入れ体勢を立て直そうとしている。でも、とっても残念だわ。腰が曲がり上半身は前に出ちゃってる。完全に崩れた体勢でプルプル震えている状態のダダン姐さんの右袖左襟をつかみ右袖を思いっきり引っ張り一気に左へ回転。

 普通ならここで背負うんだけど、ダダン姐さんの完全に体制の崩れた前屈みの状態と私との体格差で前に飛んでいく。

 あ、だめっ!! このまま前に吹っ飛んだら顔面受け身よ。しっかり掴んでいた襟を思いっきり引っ張りあげ回転させれば、ぐるんと回って背中で転がった。

 一本っ!! 背負い投げよっ。

 あまりの体格差で私を押しつぶさないように、ダダン姐さんが自ら飛んでくれたっぽいけど、まさか空中で回転までするとは思わなかったみたい。顔が驚きに満ちていた。


 驚愕の顔をして床に転がったのも一瞬、刹那の後には跳ね飛ぶように起き上がり私から距離をとって身構えてる。

 私の追撃に対して身構えてると思うんだけど、か・・・ 顔が驚いた状態のまま戻っていませんっ。

 相手が非力な小娘だと油断していたから今の不意打ちがヒットしたのであって、ダダン姐さんがそこまで身構えたら手出しできませんよっ。


 周りのハンター達がざわつく。


 「嘘だろっ、ダダンが転がった?」

 「今のは・・・ 魔法か?」

 「魔法にしても、ダダンなら魔法をよけて反撃するだろ。」

 「いや、妹とか娘とか言ってただろ。花を持たせてやったんだよ。」


 端から見てる人たちが好き勝手に思い思いの事を言ってるけど、ほんのわずかな間にすごい攻撃を仕掛けたのよ。とは言ってもダダン姐さんが私の上を飛び越えて床に転がったんだから、自ら転がるために私の上を飛んだと思われてもしょうがないわね。

 でも、まだ膝をつかせていないんですけど。ここまで警戒されちゃうと、もう攻撃は入らないでしょうね。水魔法でタコ殴りにでもしてみようかしら、な~んて危険な考えが頭をよぎる。

 ジャックさんが私とダダン姐さんの間に割って入ってきた。


 「よしっ、おしまいだ。勝負はついた。ダダンの負けだ。」

 「え、待って、私はまだダダン姐さんに膝をつかせていないわ。」

 「対決した相手にひっくり返されて大の字になったんだ。

 まだ負けてない、だなんてまさか言わないだろう? ダダン。」


 距離を置いて構えていたダダン姐さん。構えを解いて体の緊張を解く。


 「隙を突かれたとはいえ完敗だ、ヴィヴィ。討伐に行く事以外なら何でも言うことを聞いてやるぞ。」

 「おい、ダダン。さっきと言ってることが違うだろ。討伐に連れて行ってやろう、と言ってたはずだぞ。」

 「それでもだっ。この小さな子供を連れて魔物の前に行く度胸が、ジャックにはあるのかっ!!」

 「この場は俺が収める。しずかにしろ。」


 ジャックさんとダダン姐さんの言い合いに、割り込んできた人が。さっき受付のカウンター越しにダダン姐さんが対峙していたギルドマスター・・・ でいいのかな?

 私をジロリと一瞥した後、視線はテオとニコに向けられる。


 「『風鈴火山』といったな。この子供の保護者はおまえ達でいいのか?」

 「ああ、それで間違いは無い。」

 「よし、『風鈴火山』奥の部屋へ入ってくれ。

 ジャック、ダダンはアルバンを連れてこい。

 ああ、それと~『ホークアイ』っ!! いるのかっ。」


 明らかに渋々と進み出たサロモンさん。


 「あの・・・ なんで俺たちまで・・・・・」

 「おまえ達も関係者だろ。奥に入れ。

 その他の用がない奴らは解散っ!!」



 会議室っぽいところに集められた『風鈴火山』『魂の絆』『ホークアイ』

 厳つい筋肉モリモリ大迫力おじさんに詰め寄ったのはダダン姐さん。


 「モーリス、私達を集めてこの少人数で討伐に行かせようとでも言うのか。」

 「少数精鋭で討伐に行くと聞いたときに何か策でもあるのかと思ったんだが。なんだこのパーティー、女子供ばかりじゃないか。」

 「失礼ねっ。子供だと馬鹿にしないでっ。れっきとしたDランクハンターよっ!!」

 「そうだ、さっきも言ってたな。Dランクパーティー『風鈴火山』と。そっちの娘もDランクハンターなのか。」


 指を指されて問いかけられたソフィがビクッと震えてニコにすがりつく。


 「そうよ、我が『風鈴火山』は全員がDランクよ。」

 「おまえ達のような子供がDランクだなどとは、にわかには信じがたいが、ダダンを手玉にとったあの体術は賞賛に値する。」

 「ちょっと待てっ、私は手玉にとられたつもりはないぞ。ゆ、油断していたんだ。そうだ、その隙を突かれた。」

 「しかし、この子供は、」

 「ヴィヴィよ。」

 「え?」

 「私の名前はヴィヴィよ。」

 「ああ、そうか。

 ヴィヴィはダダンが身構えているにもかかわらず、『まだ膝をつかせていない。』と言ったんだぞ。おまえに膝をつかせる手段がまだあるということだ。」

 「私がヴィヴィに後れをとるとでも言うのか。」

 「それも考えにくいことだが、

 だからといって、こんな子供達を討伐の最前線で戦わせるわけにはいかん。ヴィヴィの討伐の申し出は却下だ。やはり討伐隊を組織」

 「横暴よっ。私はダダン姐さんと対峙して、ジャックさん曰く私の勝利だったのよっ。私の意見を通してほしいものだわ。」

 「俺はここのギルドマスターだ。ヴィヴィとダダンのやりとりは俺には関係ない。」

 「なんですってー、今度はギルドマスターと戦わなきゃいけないの。」

 「俺にまでけんかを売るつもりか。ヴィヴィは言うこと聞かないやつは叩きのめしてでも言いなりにさせようとでも思ってるのか。」


 ガーンと頭を殴られたような感じ? それってまるで未来の世界の猫型ロボットが出てくる漫画のキャラ、『GOダ タケシ』そのものじゃない。そ、そんなつもりは微塵も無い、ないけど・・・ そ、そうね、力をひけらかして他人を従わせるなんて最低だわ。


 「ごめんなさい。そんなこと考えてもいなかったわ。暴力はいけないわね。でもダダン姐さんとの件は、」

 「ああ、わかってる。ダダンが言い出したことだ。ヴィヴィに非はあるまい。

 そうだな、ダダン。」

 「 ・・・・・ああ、私が悪かった。まさかあんな体術使いだとは思わなかったんだ。だが、あの体術では魔物相手では戦えないぞ。それだけでもヴィヴィを討伐に連れて行かない理由にはなるな。」

 「何言ってんですか、私は魔法使いですよっ。」

 「なんだと、魔法使いか・・・・・ そうか、ランクアップ審査を合格したということか。Dランクだと言うのも頷けるな。

 で、おまえ達と一緒にこの町に来たのか?」


 我関せずで隅っこで小さくなってたサロモンさんがいきなり話を振られて慌てた。


 「え・・・ え? あ、一緒に? 誰と? あっ、あ~竜巻・・・じゃないっ、『風鈴火山』とですか。はい、一緒です。」


 な、なんて危険な言語を発してるんですかっ。竜巻娘で噂が届いていたらとっても困ったことになりますよっ。

 チラリとギルドマスターの顔色をうかがうと、バッチリ目が合った。なんだかフフンと薄ら笑いを浮かべられたような・・・

 ダダン姐さんは? よかった、何の反応も無い。


 「そういう事だったのか・・・・・

 よしっ、さっきの俺の意見は撤回だ。ヴィヴィの意見を尊重しよう。3パーティー合同で討伐にあたる。」

 「待てっ、いくらギルドマスター権限だと言っても、私は許さないぞ。」

 「私もヴィヴィの保護者として納得はしないぞ。」


 テオまで反対を・・・ って、テオは最初から反対だったわね。


 「私はテオが反対しても行くわよ。」

 「しかしっ、」


 それでも反対しようとするテオの顎を掴み、グイと自分に顔を向けさせるニコ。


 「ヴィヴィはもう籠の鳥じゃないの。私達は自由に飛び立つヴィヴィの手助けをしなきゃいけないの。」

 「あ・・・ ああ・・・・・ わ、わかった。」


 わかったなんて言っても、テオは事あるごとに私に反対しそうだけど、今回は納得してくれた?

 ギルドマスターとダダン姐さんの言い合いが・・・・・ けんか腰になりそうな雰囲気ではないわね。


 「ヴィヴィの保護者の反対なら連れて行かないが、ダダンが反対する権限こそ無いだろう。ヴィヴィを危険にさらしたくないのもわかるが、ヴィヴィはダダンの庇護を必要とはしないと思うぞ。」

 「どういうことだ。」


 ダダン姐さんが私に顔を向けた。睨みつけられるのかと思ったら、やさしい口調で問いかけられた。


 「ヴィヴィはあの体術以外にも、いったいどれだけの力を持っていると言うんだ?」

 「他人の能力の詮索はやめとけ。」

 「そうだな、すまない。しかしモーリスは何か情報を知っているようじゃないか。」

 「ルクエールのギルドが討伐隊を組織してゴブリンの集落を掃討した、と情報が届いている。」

 「そ、それって、どんな情報なんですかっ。」


 まさか、ルクエールのギルドマスターが私達のことを事細かにお手紙に託して、あちこち知らせて回ってるんじゃないでしょうねっ!!


 「何か大きな事件が起きたときにはギルド間で情報を共有している。ルクエールのすぐ近くにできたゴブリンの集落が殲滅された件も報告書が届いている。」

 「ルクエールでそんなことが? どれほどの死傷者を出したんだ。

 そうだ、『ホークアイ』はルクエールから来たんだろう。おまえ達もその討伐に参加したんじゃないのか?」

 「ダダン、『ホークアイ』だけじゃない。『風鈴火山』も参加していたと思うが、

 実際はどうなんだ? ヴィヴィ。」

 「そんなこと、私達に聞かなくてもその報告書に書いてあるんじゃないですか?」

 「いや、パーティー名や個人名は全く記されていなかったな。ただ、自然発生した大竜巻にゴブリンの集落が飲み込まれたおかげで、殲滅にあたった討伐隊にはわずかな負傷者だけで死者は出なかった、と記されていた。殲滅した中にはゴブリンキングまでいたらしいじゃないか。」


 もう、みんな知らないふりしてるけど目が泳いでるわ。


 「たしかに特異固体はいたわね。だけどあんなものキングと呼んでいいのか、ね。私はゴブリン村のゴブリン村長と呼ぶわ。そしてその村長を切り捨てたのが、私が最も信頼するテオよ。」

 「ちょっと待ってください、ヴィヴィ。あのときは、」

 「違うって言うの? テオが首をはねたのを私は確認してるわ。」

 「待て、まさかゴブリンキングを一人で討伐したとでも言うのか。あれはBランクでも一人では危険な相手だぞ。」

 「あら、そうだったの。じゃあ、テオはBランクかそれ以上の実力者って事ね。」


 まだ何か言いたそうだったけど、ギルドマスターのサロモンさんへの問いかけにダダン姐さんが口を噤んだ。


 「『ホークアイ』はその場にいたのか?」

 「え? 俺たちはゴブリンどもを狩っていたから、その場は見てないですね。」

 「そうか・・・ もう一つ聞いておきたいことがあるんだが、大竜巻でゴブリンの集落が壊滅状態になったらしいが、本当なのか。」

 「たっ、たつまきっ? あ・・・ あぁ、竜巻ですかっ? う・・・ そんなのもあったっすね。」


 サロモンさんもそんなうわずった声で返答しちゃだめでしょう。しかも目が泳ぎまくりよ。

 そんなサロモンさんから質問の矛先が私に代わった。


 「ヴィヴィ、そんなにタイミングよく大竜巻が発生するものなのか?」

 「報告書にそう書いてあったんでしょ。だったら突然発生したのよ。」

 「それも俄には信じられんが、まあ詮索はしないことにしよう。ではこの3パーティーと一緒に俺も討伐に出る。」

 「百歩譲って『風鈴火山』を討伐のメンバーに入れたとしても、モーリス、おまえは無理だろう。」


 あら、ダダン姐さんが私達を認めてくれたみたい。だけど、ギルドマスターが無理っていうのは? 仕事が忙しいでしょうし討伐なんか行ってる暇はないって事かな。


 「俺のケガのことを言ってるなら、いらぬ心配だ。左手が使えなくても片手剣で戦うスタイルに変えたからな。なんなら、ギルドマスターなんぞやめて『魂の絆』に戻ろうかと思ってるところだ。」

 「ええーっ。ダダン姐さんと一緒のパーティーだったんですかっ。」

 「ああ、ケガをして左手が剣を握れなくなってな、ハンター稼業を引退したんだが、いざというときのために剣の鍛錬はしていたんだ。」


 ジャックさんの厳しい意見が。


 「今回は子供達の護衛のために参加は認めるが、パーティー復帰は認めないぞ。モーリスの家族の泣き顔は二度と見たくないからな。」

 「ああ、そうだな。冗談として受け取ってくれ。」

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