44.ボヨヨンボヨヨン系
突然店に入ってきたダダーンボヨヨンボヨヨン系のムキムキ女性が店内を見回し、探していた人を見つけたとばかりにズンズンボヨヨンと私達に向かって歩いてきた。
この人は名前はきっとダダンさんよ。たとえ違う名前を名乗ったとしても、私の中ではダダンさんに決定よっ。
「ジャック、3パーティー15人が合同で討伐に出て、3人が命からがら戻ったわ。そのほかのメンバーは絶望的との事よ。」
「また功を焦ったDランクパーティーが先走ったんじゃないのか。」
「いえ、Cランクパーティーが2パーティー、Dランク1パーティーよ。ギルドもこの討伐依頼の受注をCランク以上、推奨Bランクに格上げするか検討に入ったわ。」
「格上げとかはいいが、噂通りのオオカミの魔物だったのか。」
「そうね、戻った3人の証言を元にギルドが推測したのは、オオカミの群れ30~50頭、その群れを統べる魔物化した巨大オオカミ1頭と結論を出したわ。」
なんだ、オオカミか。
このボヨヨン女性が私をギンッと睨みつけ迫ってきた。もちろんその間にいたニコがすかさず立ち塞がりこのムキムキ女性を押しとどめる。
「申し訳ありません。この子は思っていたことが口に出ていることに気づいておりません。子供の戯言とお聞き流しください。」
ええ――――――っ!! 口に出しちゃってましたか。そ、それはそれで恥ずかしいっ。
「子供の戯言にしてはひどすぎるぞ。今回の件だけじゃなく今まで何人が死んでると思ってるんだ。」
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。」
「そうだ、ヴィヴィは悪気があって言ってる訳じゃないんだ。」
サロモンさんまで私をかばってくれてる。
「たまたま、30頭ほどのオオカミの群れを殲滅してきたから出てしまった言葉なんだ。」
「嘘をつくな。誰が殲滅したって?」
「う・・・・・ 我々が・・・・ だ。」
「ホークアイと同格のパーティーがいたんならそれも頷けるが、こんな子供をかばいながらどうやってオオカミを殲滅できるんだ?」
ジャックさん厳しいご意見、賜りました。ボヨヨンお姉さんのフンッという鼻息で飛んでいきそうになるほど、私か弱い女の子なんですけど。
「俺たちは全滅も頭をよぎった。だがこの二人の少女のおかげで、無傷で切り抜けられたんだ。この少女達は最強の魔法使いだ。」
「ん? 少女達って、こいつは男の子だろ。」
ニット帽とサングラスの私を指さして無遠慮に指摘してきた。
「何言ってんですかっ、ダダン姐さん。私は女の子ですよっ!!」
「え? 私は名乗ったか? ああ、ジャックに聞いたのか。」
「いや、俺は言ってないぞ。」
「おいっ、なぜ私の名を知っている。」
「え~、すごく強そうな見た感じで『ダダンさん』というイメージが膨らんじゃって、ついつい呼んじゃったんですよね。」
「そ、そうか、強そうか。ま、まあ、その通りなんだが・・・・・ ウフフ」
あ、ダダン姐さん、けっこうチョロいかも。
「うん、ダダン姐さんの呼び方もいいな。で、おまえは女の子なのか。名は何という?」
「ヴィヴィよ。Dランクパーティー『風鈴火山』のリーダーをしてるわ。」
「なに? リーダー?
おまえ達はこんな子供をリーダーに据えて、パーティーとして機能しているのか?」
ダダン姐さんがテオやニコに目を向け問いかける。
「我々が君たちのパーティーに口出しするつもりもないし、君が『風鈴火山』の方針に口を出す権利もないだろう。」
「そ、そうだな。すまない、立ち入ったことを聞いてしまった。
ヴィヴィ、今は町の外は危険だ。依頼を請けるなら町中の仕事にしておくんだぞ。」
ダダン姐さんが酔っ払いのジャックさんを捕まえて引っ張っていった。ハンターギルドへ出頭だって言ってたけど、もう夜なのにまだお仕事ですか。がんばってください、ジャックさん。
静かになった大テーブルで食事をしながら、さっきの二人についてサロモンさんが話してくれた。
「前にこの町に来たときに合同で魔物を討伐に行ったことがあるんだ。パーティーランクはBランクに格上げ寸前だって言ってたから、もうBランクパーティーになってるんじゃないかな。ジャックが剣士でダダンは戦斧、もう一人槍士のアルバン、その3人で『魂の絆』を名乗っている。」
「ちょ、それ、見かけによらず詩的なパーティー名じゃないですか。」
「本人達はそのネーミングを後悔してるらしいからな、あまりそこを指摘するんじゃないぞ。あ、ついでに言っとくがさっきのダダンの顔、よっぽどヴィヴィのことが気に入ったみたいだぞ。」
「なっ、何言ってるんですかっ!! 何を根拠にっ。」
「ダダン姐さんなんて呼ばれて、あのデレッとした顔、あんな顔しそうもない女だぞ。しかも最後の優しげな言葉、うん、ヴィヴィは絶対ダダンに好かれてるよ。」
「ちょっとっ、そんなんでダダン姐さん抱きしめられたら私潰れちゃいますよっ!!」
さっきのジャックさんの話を聞いて、ホークアイの面々もハンターギルドで情報収集をしなきゃ、と思ったようで酒場にいたにもかかわらずお酒類は我慢したみたい。テオとニコは私と一緒の時はお酒を飲んでるのを見たことないな。お酒飲まないのかな。
食事が終わってのんびりすることもなくサロモンさんの案内でギルドに向かえば、酒場からはすぐ近くだった。あの酒場がハンターで繁盛するのもわかるわ。
ギルドの扉を抜ければ、夜にもかかわらず人が集まり喧騒に満ちていた。
とりあえずこの人混みを抜けて受付まで行って情報を仕入れなきゃね。
「ちょっと受付まで行ってくるからみんなはここで待ってて。」
「え? ちょっと待って、ヴィヴィ」
ソフィが何か言ってたけど、聞こえないふりで大人達の足の間をすり抜けて受付カウンターに向かって進む。あ、ダダン姐さんの声が聞こえてくる。
「おい、この討伐はCランクパーティー以上に限定しろっ。Dランクを連れて行けば死にに行くようなものだぞ。」
「しかしだな、オオカミが30~50頭、しかもその頭数は推測だ。予想を超えるほどの群れだった場合、どうするつもりだ。この町に残っているCランク以上のハンターは50人を切っているんだぞ。」
ダダン姐さんの声がする足下までたどり着いたわ。どうしよう、誰も私の存在に気がつきそうもない。
そうだわっ、ダダン姐さんをよじ登ればいいのよ。これだけがっちりした体格なんだからよじ登っても気づきもしないんじゃない?
足下から腰に向かってピョーンと飛びつき背中をよじ登る。
「な、なんだ?」
「あ、ダダン姐さん、気づきました?」
「ヴィヴィ!! なぜここにっ。」
「ダダン、なんだその子供は。」
「あ、いや・・・・・ え~~っと・・・ うん、そうだ、 私の妹みたいなものだ。」
周りのハンター達がざわつく。
「ダダンの妹? 嘘だろ。」
「娘じゃないのか。」
「おまえ達っ!! この娘を怖がらせたりしたら、この私が容赦しないよっ!!」
ざわついたその場がいきなり静かになった。ダダン姐さん、よっぽど怖がられているみたい。
その静かになった場で口を開いたのは、ダダン姐さんと対峙していたおじさん。多分この人ギルドマスターよね。
「妹でも娘でもいいが、なんでこの場に子連れなんだ。」
「そうだぞ、ヴィヴィ、子供がこんなところに来ちゃだめじゃないか。」
ダダン姐さん優しげな言葉。でもっ、次の私の言葉できっとダダン姐さんは怒り始めると思うけど。
「私はDランクパーティー『風鈴火山』のヴィヴィよ。この討伐依頼は少数精鋭で、我が『風鈴火山』ダダン姐さんの『魂の絆』それと『ホークアイ』3パーティーが引き受けるわっ!!」
「待てっ、ヴィヴィを連れていくわけがないだろう。いくら魔法使いだからといって、危険すぎる。私は魔法使いを護りながらの戦いなどしたことがない。」
「私が護られなければいけない存在だと思わないで。意外と強いんですよ。もしかしたらダダン姐さんよりも強かったりして。」
突然のダダン姐さんの雰囲気の変化。空気自体が冷え込んだみたいな感覚に陥る。周りのハンター達も不穏な空気を察して後退る。
ダダン姐さんの頭にしがみついていた私は、扱いはそーっと引き剥がされ床に置かれたんだけど、このダダン姐さんの圧がすごい。これって怒ってるの。私の方が強いって発言にお怒りなの? や~ね~、ちょっとした冗談なのに、が通じそうもないわね。
ダダン姐さんが周りのハンター達に下がれと指示すれば、私達の周りに丸く場所が空いていく。
その円形に空いた場所にテオとニコが人混みをかき分け飛び出てきた。
「待て、ダダン、落ち着け我々は君たちに敵対するつもりじゃない。」
慌てているテオとニコを一瞥したダダン姐さん、冷ややかに言い放つ。
「ふん、私も敵対などはしないさ。ただ、ヴィヴィが討伐に出るだなんてほざいてるんだ。私はそれを全力で阻止しようと思ってるだけさ。」
ニコが割り込んできた。
「それなら私はダダンさんを応援しますっ!! ヴィヴィの鼻っ柱をへし折って。」
ニコ、その言い方ってひどいんじゃないの。へし折られるほど私の鼻は高くないわよっ!!
「リーダーだと言っていたが信頼はされてないんだな。」
「違いますよっ。私を危ないところに出したくないというだけのお父さんお母さん目線なだけですっ!!」
「そうなのか? それじゃあ私もお母さん目線で言ってやる。私はいっさい手を出さない。この私に膝をつかせてみろ。そうしたらヴィヴィの勝ちだ。討伐に連れて行ってやろう。」




