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42.当てにせずに? 当てにしてます

 シイタケ栽培用の苗床も作ってあげたし・・・・・ 菌は? ちゃんと傘が開いたシイタケの菌をこすりつけてきたわ。穴を開けてコマを打ち込むだなんてやったこともないから却下よ。

 あとはここの村民たちが、試行錯誤しながらシイタケ栽培を発展させていけばいいのよ。最後まで手取り足取り面倒を見てあげる必要は私にはないわね。何かを育てるのが得意な人がやればいいのであって、何も育てたことのないうろ覚えの知識だけで私が最後の収穫まで面倒なんか見れるわけないわ。


 そんな感じで日が傾ぎ暗くなり始めた森を後にして、家路に向け歩く一行。

 森を抜け開けたところに出れば、まだ明るくて夕飯の刻限にはまだ早そうだった。でも、おなかが減ったわ。ずいぶんと働いたような気がするし。


 「今日は鍛錬の後の山仕事だ。さすがに腹が減ったぞ。帰ったらすぐ夕食だな。」

 「フロランタン様、私もおなかが減ってはいますけど、ベルトランさんが帰ってくるまでは我慢しますよ。」

 「ベルトランを待ってもしょうがないだろう。私は空腹だ。そしてヴィヴィ先生も空腹だ。空腹に勝る調味料はないぞ。」

 「でも、ちょっと待つぐらいなら、」


 ググ~~・・・・・ 

 ちょっと―――っ  おなかが鳴っちゃったじゃない。おなかがすいてるときにご飯の話なんてするから、これって条件反射よね。


 「ヴィヴィ先生のおなかの方が正直だな。」

 「レディにそんな指摘をしなくてもっ。そういうときは聞こえなかったふりをするものですっ。」

 「お、そうか。うん、確かにレディだな。すまなかった。」


 なに? レディとして認識されてなかったの・・・・・  ま、まあ、ジェロームより小さいし子供扱いなのもしょうがないわ。



 男爵邸の食堂で目の前に食事を並べられて口の中が唾液でいっぱい・・・  口の端からこぼれ落ちそうなほど。そんな私をお構いなしに豪快に口に食事を押し込んでいくフロランタン様とジェロームの親子。


 「腹がへってるのに我慢するのは、健康に悪いぞ。育ち盛りなんだから我慢なんかするんじゃない、たくさん食べろ。」


 うぐ、そ、そうよ、私は育ち盛りなのよ。たくさん食べて大きくならなきゃいけないのよ。私が我慢しているおかげでフェリシーちゃんまで遠慮しちゃってるし、フェリシーちゃんだって育ち盛りなんだから、たくさん食べなきゃいけないのに。


 グ~~

 「いただきますっ!!」


 またおなかが鳴っちゃったわ。大きな声でいただきますって言ったから、おなかの音は聞こえてないわよね。まあ、いただきますって言っちゃったんだから、もう我慢せずにいただきましょう。

 うん、そうよ、フロランタン様の言うとおり、空腹に勝る調味料はないって本当だわ。最高に美味しい食事をいただいたわ。



 おなかいっぱいで食後のお茶をいただいてたら、ようやくベルトランさんが帰ってきた。護衛の人たちがぞろぞろと一緒に入ってくるのは遠慮したみたい。テオだけがベルトランさんと一緒に食堂に入ってきた。


 「フロランタン様、ただいま戻りました。」

 「ご苦労であったな、ベルトラン。我々はもう食事を済ませたところだ。ベルトラン達も食事をするのなら他の者達もここへ呼んでやってくれ。」

 「これはまた、お早い夕食ですな。何かおなかがすくようなことでもされてきましたか。」

 「それはもう、ヴィヴィ先生のおかげでな、ずいぶんと働いてきたぞ。」


 皆を呼びに行ったテオが戻ってくる。ぞろぞろと入ってくる連中は護衛のハンター達だけじゃなく御者達も。

 とたんに人口密度が上がったわっ!!

 私の隣にはソフィが座って食事を始めた。


 「ねえ、ソフィ、魔物や獣には襲われなかった?」

 「大丈夫だったわ。マルテ村の近辺の森って、あまり危険な獣って出ないらしいのよ。ここに来るときにオオカミの群れに襲われたけど、ホークアイのみんなも、ありえないって言ってたし。」

 「危険がなかったのならよかったわ。」

 「そんなことより、いりこが売れすぎたってベルトランさん言ってたわ。」


 そんな話がベルトランさんにも聞こえたようで、


 「そうなんですよ。ヴィヴィさん。次の町で売るつもりのいりこが心許ない状態でして、仕入れるためにルクエールへ戻ることも考えている次第です。」

 「そんな無駄なことをしなくても、これから先に漁師町へ寄るようなことがあればそこで仕入れるようにすればいいんじゃないですか。」

 「そんなことをしたら、ヴィヴィさんがまた最初から製法を教えなきゃいけませんよ。」

 「そのくらいのことは問題はありませんよ。逆にいろいろな場所でいりこが商品として出回って、食事がもっと美味しくなっていくかもしれないと思ったら、そっちの方が楽しみですよ。」


 そんなことをしゃべってたら、フロランタン様が話しに割り込んできた。


 「ちょっと待て。干しシイタケの製法も広めるつもりじゃないだろうな。」

 「干しシイタケなんて製法も何も、天日干しするだけでしょう。」

 「うぐ、ま、まあ、そうなんだが・・・・・  し、しかし、せめて我がマルテ村で干しシイタケが産業として確立できるまでシイタケ栽培の方法は広めないでほしい。」


 まあ、そうよね。干しシイタケをたくさん売ってもらって利益を上げられなきゃ、フェリシーちゃんの貴族学園進学もままならないってことだしね。


 「そうですね、シイタケの栽培法は他では教えないようにします。でもそれは期限をつけましょう。フェリシーちゃんの貴族学園進学までです。それまでにフロランタン様もこの村での大きな産業となるように頑張ってください。」


 フェリシーちゃんの進学までには5年ぐらいかしら。そのくらいあれば充分にシイタケ栽培も軌道に乗せられるんじゃない?


 「干しシイタケの納入は是非とも我がブランシュ商会にお願いしますよ。ルクエール支店に搬入していただければ、ブランシュ商会が王都へ運びます。ルクエール支店宛てに手紙を書いておきます。搬入の時には是非ともその手紙をお持ちください。」

 「うむ、そうだな。商会主直筆の手紙があれば商談もスムーズにいくというものだな。ベルトラン、よろしく頼むぞ。」

 「いえいえ、よろしくお願いしたいのはわたくし共でございます。これからも末永いお付き合いをお願いします。」


 フロランタン様とベルトランさんの・・・ 商談になるのかしら? こんな簡単にあっさりと決めちゃってよかったのかなぁ。

 まあ、私の利益に関わることではないしね。


 その後はフロランタン様からの、私への報酬だと言って金貨3枚、30万ゴルビーをもらった。


 「え? 金貨1枚の約束じゃなかったんですか。」

 「技を教えてもらうのにその約束をしたが、フェリシーの魔法の件、シイタケ栽培の件、そのことだけでもその金額に追いつかないほどの恩を受けておる。もっと払いたいのだが、貧乏男爵領ゆえ今はそれが精一杯だ。シイタケ栽培が軌道に乗れば必ずや恩をお返ししよう。それまで待ってくれるだろうか。」

 「そうですね。当てにしないで待ってますよ。」

 「何を言っておる。そういうときには当てにして待ってますと言わなければ私が当てにならない人間みたいではないか。」

 「そうでした。申し訳ありません。当てにしてます。よろしくお願いします。」


 あまり気にしすぎないようにという意味もあっての言葉だったけど、フロランタン様の指摘の通り、『当てにせずに』なんてとっても失礼だわ。これからは失礼な事を言わないように言葉は選ばなきゃね。

 シイタケ栽培の大成功を当てにして、フェリシーちゃんが貴族学園に入るために王都に行くことも当てにして、その上でちょっとだけお小遣いをもらえるかもって当てにしていましょう。


 昼間の木こり仕事の疲れが出ているみたい。まぶたが重くてこのまま寝入ってしまいそうだわ。時間の早かった夕食もありがたかった。

 このまま意識を・・・ 手放しても・・・・・

 誰かに・・・・・   ささえられたような・・・・・・・

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