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4.記憶の覚醒

 突然の記憶の覚醒? 一瞬のうちに脳内に広がった記憶・・・・・


 ちょっと――――っ!! 転落状態で覚醒って―――――っ!!

 どうすんの、これ―――っ!!

 魔法っ!! そうよ、魔法よ。こんな時に使える魔法は? 8年間この世界で暮らしてきて本を読みまくったのよ。こんな時に使える魔法は何? 水? 風? か、風だわ。

 テオドールが御者席から中へ飛び込んで来てる。私を抱いたニコレットごと抱き上げ、自分の体で私への衝撃を減らそうとしてる。この人達も死なせたくない。

 イメージするのよ。下から吹き上げる風。馬車の落下速度を少しでも緩めるの。怪我だけで済めば治癒の魔法だってあるのよ。


 風よっ!! 吹いてっ!!


 ゴウッと吹き上げる風、自由落下状態で馬車の中で宙に浮いた状態の私達に重力がかかる。重力がかかり始めたせいで、横向きになった幌馬車の幌にテオドールが押しつけられる。テオドールの腕には私をギュッと抱きしめたニコレット。

 馬車は下の川原には叩きつけられる事もなく、ゴウゴウと吹き上げる風の中を徐々に高度を下げ、横に倒れた形で接地した。

 いやっ、もうっ、心臓バックンバックンよっ。死ぬかと思った、死ぬかと思ったっ、いやいや、死んでたわね、これっ。女神様っ、恨みますよっ!!


 「な、何が起こった?

 お、お嬢様、ご無事ですかっ。」


 いち早くテオドールが動きニコレットを腕から降ろす。

 二人とも死を覚悟していたはずなのに何が起こったのか分からない状況みたい。

 外で馬が、ブルルー、ブルルーと興奮してる。馬にも怪我がなければいいんだけど。


 「テオドール、馬を鎮めて。

 ニコレット、私を離してくれないかしら。」

 「は、直ちに。」


 テオドールが馬を鎮めに外へ出る。ニコレットは私の心配をしてくれる。


 「お嬢様、お怪我はございませんか。」

 「私は大丈夫です。ニコレットはどう?」

 「私の心配をして頂けるなんて、ありがとうございます。」

 「テオドールも大丈夫ですね。馬達はどうかしら。」


 外へ出てテオドールと馬の様子を見ると、2頭ともに馬はおとなしくなって水飲んでるし、問題は無さそうね。


 「追っ手の騎馬がこの上にさしかかったら、馬を静かにさせておいて。上からここは見えないから、馬車に乗ってた人間は死んだと思って引き上げて行くんじゃないかしら。」

 「あの・・・・・ お嬢様はお嬢様なのですけど・・・・・ 人が変わったというか、朝のお嬢様と今のお嬢様が違う人に見えます。先ほどの馬車の下から吹き上げた風はお嬢様がやった事ですよね。」

 「そうですね、あんな死ぬかもしれない状況を経験したんですもの。少しくらい変わってもおかしくないでしょう。」

 「お嬢様は今まで魔法を使った事など無かったでしょう。それが何故突然魔法を?」

 「女神様に祈ったのです。」

 「ヴァランティーヌ様にですか。」

 「彼女はそんな名じゃないって言ってましたよ。」

 「お会いになったのですか。」

 「私が生まれる前の話よ。きっとテオドールもニコレットも会っているのです。でも産まれたときに全て忘れてしまうのでしょう。私はその時の記憶が甦って祈りました。その祈りが届いたみたいです。」


 みんな女神様に会っていますよ。でも忘れちゃってますよ。って事にしておけば、私だけが特別って事にはならないはずよ。

 あ、崖の上、騎馬が走ってきて・・・・・ 上で止まってる。馬車が落ちた跡がある、とか言ってるわ。え? テオドールもニコレットも聞こえない? 聞こえてるのは私だけか。


 「こっから落ちたようですね。あ~、あそこに車輪が引っかかってる。車軸折れちゃってますね~。」

 「下へ降りられるか。」

 「いやっ、無理っしょ。落ちて死にますよ。」

 「しかし、金銀の子がいたかもしれないんだぞ。」

 「それって『単なる噂で何でこんな辺境まで。』って言ってたの隊長でしょ。どうせ辺境伯の敵対貴族が流したデマじゃないっすか?」

 「そうは言っても、生死確認ぐらいはせねばならぬが。」

 「死んでます。こんなとこ落ちたら絶対死んでます。虫の息で生き残っていたとしても魔物のエサになってますよ。」

 「そうか、マレイネン公爵様には金銀の子はいなかった、と伝えるか。よしっ、引き上げだ。」


 よかった~、引き上げてくれたわ。


 「追ってきた騎士達が引き上げました。私達はどうしましょう。」

 「我々はヴァランティーヌ教国の聖都を大きく迂回しながら、ブルダリアス王国に入りガエル村を目指します。馬車で20日から30日程度の道程ですが、このゴタゴタで伸びるかもしれません。」

 「私達はこの平民の格好でこの長い旅を続けるんですが、私達のこの堅苦しい会話はないと思います。家族と喋るような話し方ってできないかしら。」

 「お嬢様にそんな事は、」

 「お嬢様もそのような言葉使いですが」

 「お嬢様もやめてちょうだい。私は簡単に変わるわ。これから家名を名乗らずにヴィヴィアンだけにするわ。呼ぶときはヴィヴィって呼んで。あなた達のことはテオ、ニコ、って呼ぶわ。それでいいかしら。」

 「はい、それで、」

 「違うでしょ、テオ。『おう、まかしとけ』ぐらい言えないの。」

 「ぐ、お、おぅ・・・・・ 徐々に変えていきます。」

 「うん、頑張ってね。

 で、馬車から必要な荷物を運び出しましょう。」


 食料と水の容器は無事だった。他に着替えとか、テントも乗ってた。必要だからと言って全部は持って行けない。厳選した荷物を馬の背に積み歩き出す。


 「ヴ・・・・・ ヴィヴィ、う、馬に乗りなさい。」


 すごくぎこちないけど、まあこれも徐々に慣れるでしょう。でも人里に出るまでになれてくれるかな。


 「ちょっと待って。」


 倒れている馬車を振り返り、風の魔法を放つ。ぐるぐると回り始めた風が局所的な竜巻となって馬車を巻き上げる。風の魔法を止めれば高く舞い上がった馬車がきりもみ状態で落ちてきて川原に激突し大破する。破片は半分ぐらいが川に落ち流れていく。


 「これでさっきの騎士達が思い直して調べに来ても、助かったとは思わないでしょう。」

 「お嬢様、」

 「ヴィヴィです。ニコ」

 「あ、はい。ヴィヴィ、今のは呪文の詠唱がありませんっ。何故あれほどの強力な魔法が発動するのですかっ。」


 あっ、ニコレットは呪文を唱えて暖炉に火をつけてたわね。テオドールが魔法を使った所は見た事無いな。テオドールは魔法を使えないのかな。


 「魔法の発動は思いの強さよ。皆が呪文を唱えるのは、これから引き起こす事象を強く思い描くための手段よ。私の思いが強くて呪文が必要なかったという事ね。」

 「魔法とはそんな簡単なものではなかったはずです。私はどんなに努力しても、薪に火を付けるとか飲み水を用意するぐらいしかできません。だから私は騎士になったのです。」

 「え? 騎士? 侍女じゃなかったの?」

 「テオドール様も私も辺境伯領の騎士です。お嬢様の護衛と教育係と身の回りのお世話を兼ねています。」

 「ヴィヴィです。」

 「ご、ごめんなさい、ヴィヴィ。」


 そうか、この二人は騎士だったんだ。腰に剣を装備してるのを初めて見たけど、妙にしっくりはまってるって感じだし、魔物が出ても倒せるって言ってたっけ。


 「二人とも知らない間に剣を装備してるんだけど、私にも身を守れるような武器はあるかしら。」

 「ヴィヴィはまだ子供です。刃物を持たせるのは危険です。」

 「待て、ニコ。いざというときのためにも刃物の扱いは覚えておいた方がいい。

 グラシアン様からお嬢様にと預かっている短剣がある。これを装備して下さい。」


 テオが荷物をごそごそと探って取りだしたのは、柄の部分に獅子をあしらった刃渡り20センチぐらいの片刃の短剣だった。


 「ヴィヴィ、その獅子はライオネット家の紋章です。人里まで出ましたらその短剣はしまって下さい。」


 そうだよね、身元をひけらかして歩くようなもんだわ。

 腰に吊して、シュバッと剣を抜いてみる。右に左に剣を振ると、ヒュンヒュンと空気を切り裂く音がする。

 子供にはちょうどいいぐらいの長さね。でもグリップが太すぎだわ。扱いにくいったらありゃしない。ま、子供向けにつくった剣じゃないからしょうがないわね。

 パチンと鞘に収めて二人に目をやると、目を丸くして私を見てた。


 「どうしたの。」

 「あ、いえ、ヴィヴィのような小さな子が、それほど素早く短剣を振れるのに驚きました。重くないですか。」


 え? ま、まさか、力の覚醒って・・・・・  魔法を操る力だけじゃない? 肉体的な力も普通じゃないの? このまま筋肉ムキムキになったり・・・・・ 

 お・・・・・ お嫁に行けない・・・・・

 しょぼんとした私を気遣ってか、それ以上の追求はなかった。


 川から離れないように林を進んでいる。時折スライムが出たりするんだけど、スライムって何なのよっ。あれって子供が遊んでるネチョネチョしたおもちゃじゃなかったのっ。それが意思を持って襲ってくるとか、考えられないっ。

 まあ、すぐにテオが退治してくれるんだけどね。ニコは私と馬を護衛してくれてる。


 馬では進みにくい林の中をテオとニコが歩きで進んでいるんだから、さすがに人里まで出る事はできなかった。しかも谷間だから日が暮れるのが早い。

 少しばかり開けた場所を探してテントを張る。

 ニコが火をおこし食事の用意をしてくれている間に、防御結界を張ってみる事にした。魔法の本での防御結界って、自分の前に盾のように張って攻撃を防ぐものだったけど、これって私のイメージでどんな形でもできるって事よね。夜の間安心して眠れるように廻り全部を囲うようなイメージね。半球状のドームにしましょう。

 大きさは馬達も囲えるように大きめに、廻りの・・・・・ もうマナでいいわ、マナに働きかける感じでドーム型の防御結界のイメージ。


 キン、と音がしたような気がする。ドーム状に光が広がりすぐに消えた。

 う~ん、できたのかな~。力を使い続けているって感じがないし、光が消えた後のドーム状に何かがあるという感覚も無いから分からないわね。もしできているとしたらこのあたりだと思うんだけど。

 手を前に伸ばしながらそろそろと前進してみる。さすがに何も警戒せずに歩いて行けないわね。結界に顔から突っ込んで痛い目を見たくないわ。

 あ、あったあった。手がしっかりと防御結界にあたった。

 さすがに暗くなった林の中を歩く私の後ろをテオが追ってきた。


 「ヴィヴィ、今の光はなんですか。離れると危険です。」

 「止まって、防御結界を張ったからそのまま進むとぶつかるわよ。」

 「防御結界って、戦闘中に魔法使いが使用する魔法でしょう。何故そんなところへ結界を?」


 ガンッ 顔面強打で後ろにひっくり返るテオ。顔からもろにいっちゃったわね。ドーム状だから、私より遙かに背の高いテオが手前でぶつかるのがわかってたから、止まるように注意したのに。

 テオの手をどけたら、鼻血が出てた。鼻は折れてないみたいだけど、試しに治癒魔法を掛けてみましょう。緊急で治癒を掛けなきゃいけないときもあるかもしれないし、その時のための練習ね。

 テオの顔の前に手をかざしマナにイメージを送る。テオの鼻のまわりが光に包まれる。


 「これは、まさか、治癒魔法ですか。」

 「ええ、試しにやってみました。どう? 痛みは引いてる?」

 「すごく温かくて痛みも引いていきます。」


 よかった、初めての治癒魔法は成功ね。


 ニコの所へ戻れば、鼻血は止まっているものの鼻の廻りが血だらけのテオを見て驚いてた。


 「一体何をしてたんですか。」

 「い、いや、何でもない。いやいや、何でも無くは無いか。ヴィヴィの防御結界にぶつかった。多分あれは物理防御結界だと思う。」

 「物理防御結界? ヴィヴィ、何をしてるのですか。」

 「止まるように注意したのよ。」

 「そういうことではありません。一体どんな結界を張ったのですか。」

 「ゆっくり休めるように廻りを結界で囲ったの。」

 「結界? それはもう消えてしまっているのですよね。」

 「え、消しちゃったらゆっくり休めないでしょ。」

 「その魔法はすぐに解除して下さいっ。ヴィヴィの体に負担がかかりすぎますっ。」

 「私の魔法は負担はかからないから大丈夫。後でそのイメージのしかたを教えてあげるわ。」


 ニコは渋々ながらも引き下がってくれた。

 さてご飯にしましょう。

 まあ期待はしてなかったけど、干し肉を入れて茹でただけの塩味スープに堅パンを浸して口に突っ込む。

 美味しくない。しょうがない、こんな状況だしね。食べるものがあるだけでもありがたいと思わなきゃ。


 食後はニコと結界の確認、といってテオから離れた(くさ)(むら)で用足し。もちろん結界の確認もしておかなきゃ。ニコが結界にぶつかって鼻血ブーは見たくないわ。

 後は寝るだけね。テオには結界を張る前から内部に魔物がいたかもしれないから、結界内を調べてから休むように伝えた。

 私が住んでいた部屋を出て怒濤の二日間が過ぎ去った。さすがに疲れたわ・・・・・

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