37.ガッポガッポのウハウハよっ
厨房ではおじさん3人が顔をつきあわせていた。
「ベルトラン、この状態では買い取りができないのか。」
「生シイタケを持ち運べば腐ってしまいます。まずは乾燥をさせないと、」
厨房の外まで聞こえてきてるわ。この人達、内緒話はできないタイプなのかしら。
「乾燥のしかたはお教え致します。」
「おお、ヴィヴィ、魔法はもう諦めたか。」
「その件については後で、私とフェリシーちゃんを交えて3人でお話をさせて下さい。お時間は頂けますか。」
「ああ、構わんぞ。今はこのシイタケだ。この村での産業として成り立つのだろうか。」
「産業とするのなら自然に生えたシイタケだけでは無理でしょうね。原木によるシイタケ栽培をお勧めします。原木はクヌギとかがお勧めですよ。」
「ちょっと待てっ。いきなりの情報に追いつけないぞ。
おい、今の話を書き取れ。」
男爵が慌てて料理人に指示してる。そんなに難しい話はしてないと思うんだけど。料理人さんが黒い・・・ 炭かな? それと木の板を持って戻ってきた。
「まずはシイタケ栽培だったな。それとクヌギ? とはなんだ。」
「簡単に言えばカブトムシが好む木です。」
「ほう、それならたくさん生えているぞ。」
「たくさんあるからといって伐りすぎないようにして下さいね。クヌギに限らず広葉樹なら使えると思いますが、その木をフロランタン様の腰ぐらいまでの長さに切って下さい。その木を立てかけるように設置するんですが、林の中、日があまり当たらない湿気ているところに設置して下さい。本来穴を開けて種となる菌を打ち込まなければいけないのですが、廻りがシイタケが自然に生えているところならそのシイタケが菌を飛ばしてくれるので放置しておいてもシイタケは生えてきます。後は試行錯誤でたくさん採れる方法を探してみて下さい。」
「そ、それだけか。」
「そうですよ。そういうのは失敗を繰り返した先に成功があるんですよ。成功のためには努力あるのみですっ。」
「そうか、じゃあこの生シイタケはどのように加工すればいいのだ。」
「天日干しで四日から五日ぐらいですかね~。」
「それではおまえ達の出発に間にあわんではないか。」
私が乾燥させてもいいんだけど・・・ チラリとフェリシーちゃんを見る。水魔法を覚えたのよ。フェリシーちゃんに【水分移動】を覚えてもらいましょう。
「フロランタン様、フェリシーちゃんと他の部屋へ移動して頂いてもよろしいですか。」
「フェリシーもか、何か重要な話か。」
「はい、極めて重要でございます。人払いもお願いします。」
「そうか、着いてこい。」
着いていくのはいいんだけど、シイタケ満載の籠を持ってかなきゃ。背負おうと思ったら、重い・・・ 身体強化魔法よっ。
ひょいと背中に背負い男爵の背を追う。
「ヴィヴィさん、私も行きましょうか。」
ベルトランさんに声を掛けられたけど、この話はベルトランさんには聞かせたくない。
「男爵とフェリシーちゃんと3人だけで話したいの。ベルトランさんは遠慮していただきたいわ。」
入れ、と振り返ったフロランタン男爵、私が籠を背負ってきたのを驚いていた。
「なぜ背負ってきたんだ。重かっただろう。」
「今からのお話に必要だと思いましたので。」
案内された部屋は、執務室・・・ っぽい? 応接じゃないのね。
ソファーテーブルがあったからその上に籠をドンと置く。この籠けっこう重かったけどソファーテーブルは・・・? 大丈夫そうね。
執務室を見まわせば机の上に乱雑に置かれた帳面や書物、と・・・ あったあった、お目当てのコップが置いてあった。水差しはいらないからコップだけを持ってきてソファーテーブルの上に置く。
すでに男爵様とフェリシーちゃんが向かい合ってソファーに座ってた。フェリシーちゃんの横に腰を下ろしフェリシーちゃんを促す。
「フェリシーちゃん、このコップに水を満たして。」
「待て、魔法を覚えたとでも言うのではないだろうな。」
「フロランタン様、今はこれから起こることを黙ってご覧下さい。
フェリシーちゃん、お願い。」
「はい、ヴィヴィ先生。
水の精霊様、このコップを満たすほどの水をお出し下さい。」
空中に現れた水がチャプンとコップの中に落ちる。
「・・・・・・・・・・・っ!!」
あ、黙って見ててって言ったから言葉になってないのかしら。
「もうお話しになっていただいて構いませんよ。」
「どういうことだっ。ムーレヴリエの家系に魔法使いはいなかった。なぜ・・・」
「魔法使いに家系は関係ありません。才能です。フェリシーちゃんには才能があったということですね。」
「それなら、私やジェロームにも、」
「ありませんっ!!」
誰でもできるだろうけど、あんた達には教えないわよ。男尊女卑のムーレヴリエ男爵家の中で、せっかく優位に立てたフェリシーちゃんの立場が、また虐げられる側になっちゃうじゃない。
「そ、即答するほどなのか。」
「はい、フェリシーちゃんには感じるものがありましたけど、フロランタン様ジェローム様には全く何もありません。」
「まあ、ないものはしょうがない。今までも魔法など無くともやってこれたのだ。これから先も変わらないということだな。それで、フェリシーの水魔法はどの程度使えるのだ。」
「外に置いてあった木桶に一杯程度の水を出せる程度だと思います。」
「なんだ、その程度か。期待する程の事ではないな。」
「木桶一杯の水を馬鹿にはできません。その水の有る無しで生死を分ける事もあります。」
「水の大切さはよく分かっておる。」
ここからよ。フェリシーちゃんを守るためにもフロランタン男爵にはしっかりと口止めをしておかないと。
「フェリシーちゃんは魔法を使えるようになったんですが、そのことを吹聴して回らないようにお願いしたいんです。」
「なぜだ、せっかくの魔法だぞ。皆に自慢してもよかろう。」
「私とソフィはムーレヴリエ子爵様から、王都のハンターギルドへ向かえと言われて旅に出ました。」
「ほう、ラザール殿と知り合いだったか。」
「はい、ラザール様の私兵の中に教国の密偵が紛れていたらしいのです。その密偵が私達の情報を持って教国に向かったようです。」
「なんだとっ、それは・・・ ヴィヴィ達が狙われているかもしれぬというのか。うむ、教国には表に出てこない組織があると、ラザール殿から伺ったことがある。まさか、フェリシーが狙われるとでも?」
「ええっ、私が・・・ 狙われるってどうなっちゃうんですか。」
「大丈夫だ、私がついている。それに能力の優れた子供を攫うと聞いたが、木桶一杯の水を出せる程度の魔法では狙われることもなかろう。」
「いえ、もし噂が立てばその噂はとんでもなく大げさな話になって届くこともあります。最初から噂も立たないようにした方が良いかと。」
「それでもな、貴族家で魔法が使えるのなら王都の貴族学園に行かせねばいけないのだぞ。ジェロームは長男だから行かせるつもりだったが・・・ フェリシーもか~。金がかかる。」
が、学校があるのっ。私も行きたい・・・・・ けど、貴族限定じゃ無理よね。今の私は平民のハンターだし。
「お父様、学園行きたいです。」
そうよ、フェリシーちゃんは行かせてあげたい。でもよその家のおサイフ事情に口出しできないわよね。
そうだっ、シイタケがあるじゃない。このマルテ村をシイタケの大産地にして、干しシイタケでガッポガッポのウハウハよっ!!
背負い籠からシイタケを取りだしてソファーテーブルの上に並べる。
「何をしようとしている?」
「今から見せる魔法をフェリシーちゃんに覚えて欲しいんです。フェリシーちゃん、よく見ててね。」
空にしたコップを横に置いて、生シイタケに片手をかざしもう片方の手はコップの上にかざす。生シイタケに含まれる水分を全てコップに移動のイメージ、【水分移動】を発動、チャプンとコップに半分ぐらいの水が貯まり、シイタケはカラカラに干からびていた。
「ほう、魔法で乾燥ができるのか。」
「基本は天日干しです。でも時間が無くて急ぐときは魔法で乾燥もできます。
で、フェリシーちゃん、できそう?」
「難しそうです。できるでしょうか。」
「しっかりとしたイメージができれば難しくはないわ。この生シイタケ、これに含まれてる水分だけを別の場所に移動をするイメージ。何も無いところから水を呼び出すよりも簡単だと思ってやってみて。」
「なんだか、簡単そうな気がしてきました。やってみます。
水の精霊様、このシイタケの水分をこちらのコップにお移し下さい。」
シイタケ一本分の水分だから、数滴の水がコップの中にポチャポチャっと落ちた。
凄い、一回で成功なんて、フェリシーちゃんは魔法のイメージがしっかりできてる。これならナンチャラマンバリアの魔法も、うまい具合に説明してイメージできるようになれば、絶対に習得できるはずよ。
「凄いぞ、フェリシー。これは充分にマルテ村の産業として確立できるではないか。」
「だからといって、シイタケ乾燥をフェリシーちゃんに背負わせないようにお願いしますっ。基本はっ、天日乾燥ですからねっ!!」
「お、おう、そうだな。承知しておる。フェリシーはちょっと手伝い程度だな。」
「はい、お父様。お手伝いをいっぱいしたいです。」
「フェリシーちゃん、お手伝いはいいけど、あまり無理しないでね。」
ということで、フェリシーちゃんに無理させないように、籠に残ってる生シイタケは私が乾燥させちゃいましょう。
テーブルに並べては乾燥させ、テーブルに並べては乾燥させ、を繰り返していたら、
「あの、ヴィヴィ先生。私もしたいです。」
キュ~ン、ときちゃいますっ!!
「そ、そうよね。お手伝いしたいわよね。一緒にやりましょ。私が並べてあげる。フェリシーちゃん、やってみて。」
フェリシーちゃんと二人で仲良く作業ができたのがとっても楽しくて、咲姫ちゃんの思い出が蘇って・・・ 咲姫ちゃんとフェリシーちゃんが似てるって訳じゃないけど、咲姫ちゃんと一緒にお母さんのお手伝いをしたのが思い出されて、幸せな気分が味わえたわ。ありがとう、フェリシーちゃん。




