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35.よろしくお願いします

 庭で二人を立たせ、私と向かい合う。


 「礼で始まります。よろしくお願いします。」


 腰を折り礼をして挨拶をする。それを見たフェリシーちゃんも私の真似をして、


 「よろしくお願いします。」

 「え? あ、そうか、よろしくお願いします。」


 遅れてジェロームも挨拶。これで彼も挨拶のタイミングがわかったかしら。

 フェリシーちゃんには待っててもらって、まずはジェロームからなんだけど、持ってきてもらった丈夫な服、柔道着ほどの丈夫さはなかったけど、しばらくはこれで大丈夫でしょ。人間の胴回りぐらいの木の幹に服を縛りつけて、背負い投げの打ち込み練習よ。


 お手本にその服を相手に背負い投げの形を披露する。それをジェロームにやらせて悪いところを指摘して直させればいいかな。

 投げる寸前の形を覚えさせる。あ、ジェロームは左利きだったっけ。引き手が右で釣り手が左ね。

 ぐるっと回って相手を背負う形。袖を右手が引っ張る・・・ 顔の向きは引き手の先へ向けなさい。釣り手は手首を開かない、絞り込んで。腰が高い、膝を曲げて腰を落とす。投げ飛ばすつもりで重心を前に、ってお尻が後ろへ出ちゃダメでしょう、へっぴり腰はダメよ。


 「いい? その投げる形をしっかり覚えて。自然体からその形まで一瞬でやるのよ。速ければ速いほどいいわ。それを100回続けて。」

 「そんなもの簡単だ。あっという間に終わらせてやる。」


 え~、できるかしら。足腰立たなくなるんじゃない?

 打ち込み稽古を始めたジェロームのその形はいいんだけど、形だけだわ。


 「形だけじゃダメよ。その木を本当に投げ飛ばすつもりで力を入れないと、稽古にならないわ。気を抜いてやるぐらいならやらなくてもいいわよ。」

 「そ、そうか、  これならどうだっ!!」


 今度は本当に投げ飛ばせるつもりの力を込めて打ち込みを始めた。


 「そう、その打ち込みを続けてね。」


 ジェロームにはそれをやらせておいて、フェリシーちゃんよ。


 「さあ、フェリシーちゃんにはどんな魔法がいいかしら。光の魔法はどう?」

 「ええっ、まさかヴィヴィ先生はヴァランティーヌ様の加護をお持ちなの?」


 え? 光の精霊とかじゃなくて? ヴァランティーヌ様の加護? そう教えられてるの?

 そうか、ソフィが教国に狙われるのはそれなのね。ヴァランティーヌ様の加護を得たと思われてソフィを欲しがってるんだわ。

 じゃあ、光の魔法だと言ってナンチャラマンバリアを教えたらフェリシーちゃんまで狙われちゃうじゃない。でも、光のバリアを教えたい。フェリシーちゃん自身を護るためにも。


 「ちょっ、ちょっと待って。ヴァランティーヌ様の加護なんてないわ。だから光の魔法ではなくて、光の魔法っぽいものなの。これを光の魔法だとは誰にも言わないと約束して。」

 「光の魔法じゃないんですね。おけがした人を治せると思ったんですけど。」


 光の魔法イコール治癒魔法なの? それなら、治癒魔法さえ教えなければ光の魔法だとは認識されないのかしら。


 「私が教えようとしてるのは結界魔法よ。」


 いつものように【ナンチャラマンバリア】を発動させれば、キンと音が鳴って私達二人をドーム状の光が囲う。光はすぐに消え、バリアを張る前と変わらない風景が広がる。


 「本当です。光の魔法です・・・・・  」


 おそるおそる光の消えた場所へ手を伸ばし歩み寄るフェリシーちゃん。手がバリアを触り私達の廻りが囲われている事を確認する。


 「見えない壁です。」

 「その見えない壁が今私達を護ってくれる壁なのよ。この魔法を覚えたら、フェリシーちゃんだけでなく、フェリシーちゃんが護りたいと思った人も壁の中で護られるわ。」

 「誰かを護れる魔法・・・・・ 使ってみたいけど、私には魔法の適性が無いって言われました。ヴィヴィ先生に教われば、もしかしたら魔法を使えるかもって思ったんだけど。」

 「大丈夫、適正なんて関係無いのよ。フェリシーちゃんの強い思いがあればきっと使えるわ。」


 ソフィに教えたときと同じように、大気中にある『マナ』として教えるよりも、精霊の力が満ちあふれている、と説明するのがフェリシーちゃんも受け入れやすいんじゃないかしら。属性は関係無いんだけど、魔法を使うための属性のイメージも強く印象づけられてるから、風の魔法は風の精霊にお願い、みたいな感じ?

 ただ問題は、光の魔法はヴァランティーヌ様の加護、って結びついちゃいそうなのよね。なんとか、光の精霊の力ですよ、みたいな話を受け入れてくれればいいんだけど。


 「この世界には精霊の力が満ちあふれているの。その中には光の精霊の力もあるわ。光の精霊の力にフェリシーちゃんの強いイメージを送って。フェリシーちゃんを護る壁、あるいはフェリシーちゃんの大事な人を護る壁。」

 「わかりました。やってみます。」


 両手をぎゅっと握りしめ、ムムムムッと眉間に皺を寄せて瞑想を始めたフェリシーちゃん。


 フェリシーちゃんをその場に残し、ジェロームは?

 案の定、足腰が疲労でガクガク状態。それでも打ち込み稽古を続けているんだけど、足に力が入らないおかげで姿勢が全くダメだわ。お尻を後ろに付きだして、お見事ななへっぴり腰ね。このままじゃ『ベストへっぴり腰』受賞できそうよ。


 「はい、そこまで。何回やったの。」

 「まだ、・・・ ゼーゼー  55回だっ。」


 ゼヒューゼヒューと呼吸を荒げ、やめるそぶりを見せない。


 「その状態で打ち込み稽古を続けてもなんの意味も無いわ。投げの型が崩れてしまって、悪い癖がつきそうよ。」

 「じゃ、ゼーゼー  じゃあ、ゼーゼー    どうすりゃいいんだ。」

 「打ち込み稽古はおしまい。後はその足腰の筋力トレーニングね。走り込みでもいいんだけど、今の状態ならスクワットが効きそうね。」

 「なんだ、ゼーゼー それ、ゼーゼー」

 「まず、休憩で呼吸を整えなさい。その後でやりかたを教えてあげるわ。」


 ジェロームがその場にどんと腰を落とし、ゼーゼーいいながらも徐々に呼吸が落ち着いてくる。


 そんな時、フロランタン男爵とベルトランさんが帰ってきた。料理人さんはかごを背負って後ろに着いてきてるけど先に厨房へ向かって歩いていった。


 「ジェローム、こんなところで何をしておる。」

 「ち、ゼーゼー 父上。」

 「今、休憩中です。呼吸を整えているところなので、私がお答えします。ご子息は私の技を会得するための稽古をしていました。」

 「ほう! そうなのか。私にも教えてくれるのだろうな・・・ ん? フェリシーはあそこで何をしている。」


 胸の前で両手を組んで一心不乱に何かを唱えているフェリシーちゃん。これはイメージのマナに対する働きかけがうまくいってない?

 もしかして光の精霊のイメージがしにくいのかも。地水火風の精霊のイメージが強すぎるんじゃないかしら。もっと身近で・・・ 安全なのは水ね。水の魔法から始めればよかったのよ。


 フェリシーちゃんに歩み寄りながらフロランタン男爵に説明をする。


 「魔法を使ってみたい、と言われましたので、魔法発動のイメージを教えているところです。」

 「無駄なことを、私の家系に魔法使いはおらん。それは妻の家系も同じだ。魔法を使える者など産まれない。」

 「だからといってフェリシーちゃんが努力しない理由にはなりませんよ。

 フェリシーちゃん、ちょっと休憩しようか。」

 「は、はい、ヴィヴィ先生。あ、お父様。」

 「フェリシー、無駄な努力を重ねても結果は得られぬぞ。」


 父親の言葉で泣きそうな顔になってしまうフェリシーちゃん。なんてひどいことを言うの、この父親はっ。ジェロームもフェリシーちゃんに対する態度がひどかったし、この家の男共はこんな奴らばっかなのっ!!


 「フロランタン様っ。努力は無駄ではありませんっ。私が教えている技を、私が会得するためにどれほど努力したか分かりますか。」


 そうよ、柔道は一朝一夕で会得できるような技じゃないのよっ。小さい頃から近所の道場でずっと稽古してきたんだから・・・・・  でも、魔法は・・・ 一瞬で使えるようになったわね。努力の欠片もしてないけど。


 「その技の練習と魔法では、努力の内容が全く変わるのではないか。魔法は努力以前に才能だ。魔法の才能のない家系には最初から無理なのだ。」

 「あなた方が才能がないからって、フェリシーちゃんまで才能がないって決めつけないで下さいっ。」

 「う、それでもだな、我が家系には・・・・・」


 私の剣幕に押されたのか、言葉の最後がゴニョゴニョ言ってよく分からなかったけど、ここまでフェリシーちゃんに否定的な人達はもう放置よ。

 フェリシーちゃんを振り返れば両目に涙をためて訴えかける。


 「ヴィヴィ先生、やっぱり私は無理なのでしょうか。」

 「いいえ、男共の話は無視しましょう。フェリシーちゃんはできるわ。私を信じて頑張りましょう。」

 「はいっ、ヴィヴィ先生。」

 「頑張るのはいいんだが、シイタケをたくさん採ってきたんだ。これをどうすればいいのだ。」

 「そんなもの後回しですっ。私の最優先事項はフェリシーちゃんの魔法ですっ。じゃましないで下さいっ。」

 「そ、そうか、すまん。」


 背を向け邸に向かうフロランタン男爵、心配そうな視線を私に向けながらベルトランさんが後に続く。

 ベルトランさんのその視線は、私の男爵様に対する態度を心配してるのかしら。

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