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34.ズキュ――――ン・・・  ですっ!!

 ようやく邸に招き入れられて、落ち着いてお話が・・・ って、落ち着きませんよっ。なんで私がベルトランさんと一緒に男爵と対峙してるんですかっ。『ホークアイ』や御者さん達は今日泊まる男爵家の離れでくつろいでいるっていうのにっ。

 フロランタン男爵の横にはジェロームが座ってるし。ギラギラした敵意はなくなったみたいだけど、きっとソフィに治癒してもらったおかげだわ、きっとそうよ。


 「もうお互いに自己紹介はいらんな。で、ベルトラン、今日は新しい商品があると申しておったが、その商談の前に私はヴィヴィと交渉をしたい。」

 「え? ヴィヴィさんと?」

 「フロランタン様、私はベルトランさんの護衛です。何も商品は持っておりません。」

 「私が欲しいのは先程の技だ。あの美しい技を会得したい。」


 え~~、一朝一夕に覚えられるもんじゃないんですけど。それを教えるだけのためにここに縛りつけられるのもごめんだし。


 「無理です。そんな簡単に身につく物ではありません。」

 「それは分かっておる。ベルトラン達がこの村に滞在する間でいい、教えてもらえぬか。」

 「そういうことならヴィヴィさん、私達は三日間この村と隣村で行商をさせて頂きます。その間フロランタン様とご一緒すればお教えできるでしょう。」

 「そんな簡単に言いますけど、入門編しか教えられませんよ。」

 「それで充分だ。剣術でもそうだが、初歩の技術の限りない反復練習、それが最も身につく技術だ。その初歩だけでも教えて欲しい。タダとは言わんぞ。三日間で金貨1枚10万ゴルビーでどうだ。」

 「やりますっ。」


 報酬もらえるんだったら一も二もなく引き受けちゃいますよ。それを先に言ってくれなきゃね~。え? すぐやります? 今からやります?

 私がもう立ち上がって、さあさあ外へ出ましょう、とうながしたら、


 「ヴィヴィさん、待って下さい。まだ今回の商品のいりことコンブの説明をしてません。」


 あら、そうだったわね。でもこんなところで説明しても伝わるのかしら。厨房へ連れてって味比べがいいと思うんだけど。


 「じゃあ、厨房で味比べやります?」

 「やってくれますか。」

 「厨房とは、食事に関しての商品か。」

 「さようでございます。フロランタン様もきっと驚かれることでしょう。」




 厨房では料理人が下ごしらえを始めていた。まだ夕食には時間は早いけど私達の分の食事が増えちゃったりして大変なのかも。まだかまどには火が入ってない状態だから、ちょっと使わせてもらっても大丈夫かな。


 かまどに火を入れ、鍋でいりことコンブの合わせ出汁塩スープとタダの塩スープを作って皆に振る舞う。料理人さんが下ごしらえの手を止めて食い入るように見てたけど、味見をして一番の食いつきが料理人さんね。


 「これは素晴らしいっ。これほどの味が出せるなんて・・・ 」


 この料理人さんなら料理にシイタケも使ってるかもしれないわね。いりことコンブを持ってくるついでに干しシイタケも持ってきていたから、それを料理人さんに見せる。


 「シイタケを食材で使ったりしますか。」

 「ああ、使ってるよ・・・  なんだこれは。シイタケ? 乾燥させてあるのか。こんなことしたら日持ちはするが美味しくないだろう。」

 「いえ、そんな事はありませんよ。こちらの水袋に干しシイタケを入れて水で戻してあります。こちらのスープも味見してみますか。」


 そのスープに男爵も料理人さんも大絶賛っ。男爵が私に掴みかからんばかりに迫ってきた。


 「これはどのようにして作るのだっ。」

 「作るも何も、天日干しをするだけですよ。それに関してこの村での産業として干しシイタケ製造をやってみませんか。たくさん作って頂ければベルトランさんが買ってくれますよ。」

 「なにっ、ベルトラン、本当かっ!!」

 「もちろん買い取らせて頂きますよ。」

 「よし、村の者達を使って探させよう。」

 「お待ちください、フロランタン様。私もまいります。」


 バタバタと出て行っちゃったけど、あれ? ベルトランさんどころか料理人さんまで。今から採取したって私達が村を離れるまでに乾燥は間に合わないんだけど。

 でも、この村での干しシイタケ製造の話はできたし、いりことコンブ出汁の美味しさも伝えられたわね。

 じゃあ、私は用済みね。後は宿泊所でゆっくりするわ。


 「おい、待て。おまえの技を教える約束はどうなった。」


 唯一厨房に残っていたジェロームに呼び止められるんだけど、教える相手がどっか行っちゃったんですけど。


 「教えを請うたフロランタン様がいなくなったんですけど、私も退出してよろしいでしょうか。」

 「父上がいなくても、おまえは僕に教える義務があるっ。」


 何コイツ、イラッとくるわね。まず礼儀を覚えさせるべきね。礼に始まり礼に終わる、礼節に重きを置く武道だということを叩き込まなきゃいけないわね。


 「あなたは、おまえ呼ばわりする相手に親切丁寧に教えてあげようと思いますか。」

 「ぐ、じゃあ、なんて呼べばいいんだ。」

 「物事を教わる場合、教えてくれる人を先生と呼びます。私のことはヴィヴィ先生と呼びましょう。」

 「な、なにを・・・・・ ヴィ・・・ ヴィ先生、早く教えてくれ。」


 ダメねコイツは、教えを請うということがどれだけ重要なことなのかを、まったく理解しようともしていないわ。


 「あなたが教わりたいと言っているのは、『礼に始まり礼に終わる』と言われるぐらい礼儀を大切にする武道です。『よろしくお願いします。』『ありがとございます。』これが言えないあなたは武道を教わる資格がありませんっ!!」


 きびすを返して厨房を後に?・・・  扉から覗いている少女とばっちり目が合った。

 か、かわいい・・・・・ 私の妹の咲姫ちゃんよりもちょっと大きいのかな。いえ、違うわ。私が小さいからこの女の子が大きく見えるんだわ。多分5歳くらいの可愛らしい女の子が扉を開けて私を覗いていた。


 「何をしに来たっ、フェリシー。」


 え、っとジェロームを振り返る。まさか妹なの? まじまじと顔を観察して見れば確かに似てるわね。性格まで似ていたら高飛車に何かを命令してきたりするのかしら。


 「ご、ごめんなさい。」

 「何をしに来た、と言ってるんだっ。」

 「お、お父様が『何か美味しい物が』って言って走って行ったから、ここにあるのかなって、」

 「そんな物は無いっ。部屋へ戻ってろっ。」


 なんなの、コイツ。妹を可愛がろうという優しさは微塵もないというの。

 フェリシーちゃんの元へ駆けより、膝をつけば目線が揃う。目に涙が溜まり始めたフェリシーちゃんの手を取って優しく話しかける。


 「フェリシーちゃんが美味しく感じるか分からないけどスープを作ってみたの。飲んでみる?」


 パァっと明るい顔になって、縦に首がブンブンとふられる。


 「おい、そいつを甘やかすんじゃないっ。」


 ビクッとしたフェリシーちゃんが私の後ろに隠れる。この子は私に庇護を求めてる。大丈夫よ。お姉ちゃんが護ってあげるわ。

 フェリシーちゃんを捕まえようと伸ばした手が私の手に払われ、慌てて距離をとる。また投げられるのを警戒したみたいだけど、こんなとこで大立ち回りはやらないわよ。背中にかばったフェリシーちゃんがケガしちゃうじゃない。


 「こんなにかわいい女の子なのよ。もっと甘やかしてもいいと思うわ。」


 なんか不満そうな顔をしてるけど、私はフェリシーちゃんを甘やかすと決めたの。手を取って歩く。

 そうそう、スープよね。シイタケ出汁の塩ス-プに乾燥ワカメをちょっと落とす。温め直して、はいどうぞ。


 「熱いから気をつけてね。フーフーするのよ。」


 スープをすすってにっこり笑う。て、天使よっ。天使の笑顔だわ。


 「美味しいです。」

 「よかったわ、美味しいって言ってもらえて。この味を料理人さんに教えておいたから、きっとお食事が美味しくなるわ。」


 スープを飲み終わるのをイライラしながら待ってたジェローム。


 「おい、もういいだろう。いつになったら、」

 「教えませんよっ。」

 「なにっ。」

 「教わりたいのなら『ヴィヴィ先生、よろしくお願いします。』です。礼儀を身に付けてください。」

 「う、ぐぐ・・・」

 「すごいです、おねえさんは先生なのですか。私も教わりたいです。ヴィヴィ先生、よろしくお願いします。」


 にっこり笑ってペコリと頭を下げたフェリシーちゃん・・・・・

 ズキュ――――ン・・・  ですっ!!

 か、可愛すぎよっ。咲姫ちゃんを思い出すっ。咲姫ちゃんのかわりにはならないけど咲姫ちゃんみたいに可愛がってあげたいっ!!


 「フェリシーちゃんには何でも教えてあげるわ。何を教わりたいの。」

 「ここには魔法を使える人がいません。魔法を使ってみたいです。」

 「お、お、おまかせあれ~。家の中じゃあぶないわ。お庭に行きましょ。」


 フェリシーちゃんと手を繋いで歩き出せば、後ろからジェロームが叫ぶ。


 「待てっ・・・・・  いや、待って下さい。ヴィヴィ先生、よろしくお願いしますっ!!」

 「その言い方に不満はあるけど、約束です。教えましょう。」

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